魔女裁判後の日常117「再会2」
偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
シリーズの6作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
※
ヨースケは自分の前で、大陸を二分するような存在の二人が再会したことを確認した。
どういう理由なのか落ち窪んだ瞳で、物乞いのような格好をしたアセスと、先を急いでいるサナレスが互いを認識して、見つめ合っている。
この世界の歴史的瞬間に居合わせたようで、自分が景色の一部になったように動けなかった。
アセスを見て、即座に馬から降りたサナレスの行動を見過ごすことはできないのに、ただ二人の再会を見届けることしかできないでいる。発作的にアセスをその腕に引き寄せようとして躊躇し、そのまま行き場がなくなって戸惑ったように、ヨースケは自分の手を頭に回した。
「アセス……」
臣下をその場から下がらせながら、サナレスは一歩アセスに近づいてきた。
なぜか自分はその場を取りなすように、二人の間に立ってしまっており、ヨースケはただアセスの肩に手を置いて、彼の感情の行方を探ろうとしていた。
「サナレス殿下、無事のご帰還心よりお祝い申し上げます」
触れればキレそうな空気感の中、アセスが姿勢を正して貴族らしく振る舞った。
けれど異臭さえ漂うほどの汚れた衣服を身に纏い、あの艶やかな黒髪を短く切ってしまって、その毛先すら乱れた様子のアセスは、立ち振る舞いと眼光だけが貴族なのだ。
「アセスおまえ……」
サナレスの方の動揺が伝わってくる。
「何が……!?」
貧民街と貴族街が入り混じるキド・ラインの道路の中央に突然飛び出したアセスは、薄汚れた顔をその腕で拭って、気怠げに首を左に傾け、サナレスと眼を合わせていた。
何か起こってからでは遅いとアセスの肩に僅かな足止めで手を伸ばす自分にもほんの少しだけ視線をやって、やはりアセスはサナレスをじっと見ている。
この状況で、アセスはふと微笑んだので、ヨースケはゾッとしてアセスの肩に伸ばした手を引っ込めたほどだ。異世界転生した自分は、やはりこの世界には不要だと拒絶されたようで、壁を感じる。
「社会勉強の途中、サナレスの生存を知って思わず馳せ参じた次第です」
アセスはこのような身形でいるのは、ヨースケの進言あってこそと微笑んだ。
舞台から降路されたり、引っ張り上げられたり、貴族というのは本当に勝手なものだ。
おまえ、いったいしばらくの間何をしていたのか!?
問い詰めたい思いは息巻いたが、違う次元の緊迫感がのしかかり、ヨースケは静観する。
アセスがサナレスを真っ直ぐに見つめる。
その時間が、張り詰めた空気が、刺さるように痛いのだ。
どちらから口を開くのかと、その場の重苦しい空気に誰もが眉根を寄せてしまう。
最初にサナレスがアセスに言った。
「おまえのおかげだ」
本来ならそこで打ち解けて欲しいところだが、アセスは不遜な態度のままだ。
「労わなくても構わない。ここからが真剣勝負なのだから」
見つめる視線はまっすぐで、一歩も引き下がらないほど真摯だった。
「ああ。おまえに借りを作ってしまったな」
「迷惑な話です。自覚するのが遅すぎるのでは?」
自覚していてなおのことなら、より質が悪いのだとアセスは顎を上げてサナレスに間向かっている。
「彼女を置いていってもらいらいのですが」
「もう、それは望むところではない」
サナレスはアセスに強い口調で申し渡し、馬車の方に近寄っていった。
「決めるのはおまえではない、ーーそして私でもない」
馬車の扉を開けたサナレスの誘導で、中から見事な銀髪の娘が顔をのぞかす。
彼女を見て、息のかかる距離にいたアセスが息を呑んだのを知った。
魔女裁判後の日常:2021年2月は27日