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魔女裁判後の日常  作者: 一桃 亜季
116/121

魔女裁判後の日常116「再会」

 偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

シリーズの6作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

        ※


 ラーディオヌ一族総帥アセス・アルス・ラーディオヌが失踪して、半月が過ぎようとしていた。しばらく不在にすると聞いていた館の臣下達も、さすがに不安に思うところが大きく、このところ自分が訪ねても、反対にアセスの行き先を問うてくるようになっている。


 知っているならば、わざわざ定期的にラーディオヌ邸に来たりはしないというのに。

 自分の情報網を使っても、アセスの足取りを追えなかった。第三エリアの謎を気にしていたので、ラーディオヌ一族貴族の別荘地を訪ねたり、こうしてアセスのラーディオヌ邸を訪ねたりしているが、彼の消息は不明だ。


 そうしているうちに、今日思わぬ情報がヨースケの耳に飛び込んできた。

 他国で死亡したと伝えられていたサナレス・アルス・ラーディアの帰還である。ラーディア一族のみならず、ラーディオヌ一族を含めたアルス大陸全土が、サナレスが生還したことをトップニュースとして取り上げた。


 神であるサナレスの崇拝者などは、サナレスの死去が伝わって後を追ったものすらいるくらいの有名人だ。生きていたことに歓喜する者が後を立たず、熱狂的に彼が通る道すがらを取り巻くように人集りができる。

 それはラーディアとラーディオヌを繋ぐ道ベミシローロのみならず、ラーディオヌから東に進み、タロまで続くキド・ラインまで、熱気が増して行くのが瞬く間だった。


 アセスがあれほど再会を待ち望んだ相手が、キド・ラインを超えてタロに近づいてくるというのに、肝心のアセスが消息不明だ。情報を知らせたくて朝一番からラーディオヌ邸を訪ねたが、やはりそこにアセスの姿はなく、落胆して自らが住まう貧民街に戻ってきていた。


 キド・ラインは他国から白磁の塔にまっすぐに伸びた、貴族御用達の道を言う。サナレスの一行はキド・ラインの一部を通過し、ベミシロードを通ってラーディア一族に向かうのだと報じられた。


 それはそうだよな。

 ラーディオヌ一族の総帥の元を訪ねるより先に、ラーディア一族総帥ジウスに謁見するのが筋というもので、ここを通り過ぎればアセスは待ち望んだ相手に当分は会えないことになるのだと、ヨースケの気が早っていた。


 最後に別れたのは自分の居住区の貧民街だった。

 サナレスが通るキド・ラインのラーディオヌ一族への入り口は、貧民街を通過する。こんなところにアセスがいるわけはないとは思うが、生業に戻ってきたヨースケは街並みにアセスの姿を探してしまった。


「貴族が通るのか……」

「ラーディオヌの貴族らしい……」

 無気力ないち労働力にしか過ぎない、貧民街の民たちがぞろぞろと頭数を揃えていく。

 他族の貴族を見ても恩恵などありはしないと言うのに、民はラーディオヌ一族ではなく、別一族の貴族に希望を見出そうとするのだ。


 何故だかヨースケもサナレスのことは気になって、遠巻きにでも彼の姿を見ようと、人集りの中に紛れていた。

 死んだと噂されたサナレスを取り巻くのは、王族とは思えないほどの少数の人間だった。馬車二台と、馬6頭ほどのこじんまりとした集団だ。


 王族がこれほど質素な様子で動くのは珍しい、そしてだからこそサナレスなのだろうと、ヨースケは実感していた。お祭り騒ぎの華やいだ感じが一切しない一行は、キド・ラインを、ーーそしてそこに集まった民衆をものともせずに先を急ぐ。


 ヨースケも声をかけるつもりはなく、通り過ぎる一行の後ろ姿を見送ろうとしている時だった。

 一人の乞食が馬車の前に飛び出した。


 粗末な、貧民街でも人が目を背けるような身なりで貴族の一行の前に飛び出したその者は、頭から肩、そして足元まで大きく揺めきながら立ちはだかる。


 馬鹿ーー馬車に跳ねられて殺されるぞ。

 もしくは貴族の足を止めたとして、殺されるかも知れない。


 脳裏をよぎった心配が、ヨースケの足を一歩前に出し、その刹那、ヨースケは自らの目を疑った。

「アセスーー!?」


 先頭を馬で駆ける貴族の一行の中にはサナレスが居た。

 本来王族の一人であるサナレスは、先頭にいるべき身分ではなかったのだけれど、彼らしく漆黒の馬で道中を急いでいるようだった。


「サナレス!」

 ヨースケはアセスの存在を確認して、更に走り寄って、彼らが事故を起こさないようにその名を叫んだ。

 貧しい身形になったアセスを庇うために飛び出したヨースケは、サナレスの前にアセス同様に飛び出す格好で、間に入った。


 早足に駆けていこうとしている漆黒の立派な馬が、サナレスに手綱を引かれて、アセスとヨースケの上で前足を頭上高くにバタつかせている。

 一触即発で弾け飛ばされそうになったアセスとヨースケは、サナレスの咄嗟の判断で事なきを得た。

 急な足止めを食らったサナレスの騎乗する漆黒の馬が、鼻息荒く蹄で地面を蹴って首を振る。


 馬を落ち着かせながら、サナレスは自分たち二人を見下ろしてきた。

「ヨースケか!?」

 最初に自分に気が付いたサナレスは、その横にいる薄汚い格好のアセスを見て絶句した。


 表情を無くすほど驚いた様子で、サナレスはじっと自分が庇ったラーディオヌの総帥の方に視線をやり、彼の存在に気づくと馬上から飛び降りた。

「アセス!!」 


 

魔女裁判後の日常:2021年2月26日

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