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魔女裁判後の日常  作者: 一桃 亜季
113/121

魔女裁判後の日常113「過去は」

 偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

シリーズの6作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

        ※


「なんで手伝うなんて言ったんだろ……」

「私もなんでそんなこと言い出したんだろ……」

 自分の背中にリンフィーナの背中が合わさって、二人で腰を抜かしてペタンと床に座り込み、顔を見合わす。


「ありがとう、ごめん」

「いや、大丈夫だ。あんたこそ平気?」

 ナンスの問いにリンフィーナが首肯したので、二人は安心したように笑った。


「正直いうと、しばらくは夢見悪そう」

「だよね。私も当分は魚とか食べれそうにないかも……」

 声を出して、自分たちはため息混じりに言って、笑い転げる。

「あんたの兄さん、やっぱり変だよ」

「あぁ、そういう人も多いんだけどね。愚直になって兄に従ったら、大抵のことは解決するから」

 経験値が違うのだから、兄が大丈夫と言えばそれは大丈夫なのだ、とリンフィーナは言った。サナレスから1%不安に思っていると見透かされているリンフィーナは、呪術というものが成功して、なぜか得意げだ。

 次の彼女の不安は1%以下になっているのだろう。


「リンフィーナ、ナンス。お前達いつまでそこでへたり込んでいるんだ? 撤収しよう」

 望まない赤子という検体を得て、サナレスは二人に指示してきた。

 体の所々に鱗らしき皮膚がある赤子をサナレスは抱き上げていて、子供がサナレスを親のように慕っている。


「こら、爪立てるな」

 サナレスは異形でも全く動じること無く赤子をあやして、笑っていた。

「兄様、あれでなかなか子育てには精通してるから、ひと安心だね」

 リンフィーナはよろよろと立ち上がった。


 手術というものは成功し、母子共に命は救われた。

 妊婦の腹をすばやく切り取り、腹の中に手を突っ込んで赤子を取り出した時には怖気が走り、とても視線を向けていることはできなかった。


 神の手とは、ああいう所業のことなのかもしれないと、ナンスは思って、サナレスとサナレスの部下だという医者のリューセイが成したことを思い出した。


「ラーディア一族は、医術の発展がすごい」

 痛みを取るーー、つまり眠らせる呪術、それに腹を切り裂いても多くの血液が流れないようにする妖術、それに切った部分を縫い合わせて、腐らせない薬。

「そんな文化、ラーディオヌ一族にはなかった……」

 ナンスの言葉に、リンフィーナはまた声に出して楽しそうに笑った。


「兄様がね」

 そう言って兄自慢をするリンフィーナは本当に幸せそうで、ナンスは眩しいものを見るように彼女を見た。

「リンフィーナ……」

 君はアセス様をちゃんと選んでくれているんだよね?

 聞きたい言葉はすんでのところで飲み込んだ。


「何?」

 貴族でもない自分に対して、親しみを向ける少女は、出会ったその時から純粋で、そして破天荒で、川に浮かぶ木の葉のようにどこへ向かうのかわからない危うさがあった。

 ーー貴方は、ここにきて誰を選ぶのかわからないね。

 また吐き出したい言葉を飲み込んだナンスは、リンフィーナに向かって苦笑した。


「ーーアセス様を死んでしまったのだと思ったんですね? ちゃんと生きていらっしゃいます」

 リンフィーナは少し黙り、目を見張ってうなづいた。

「うん、よかった」

 どこか弱々しく言われたので、ナンスは更に確認するようにリンフィーナに言った。

「俺ーー、いや私は、アセス様がリンフィーナ様を側にと望まれたからここに居ます。アセス様は、リンフィーナ貴方を側に置きたいと望まれているのです」

「ナンス!」


 少し強い口調で、リンフィーナは自分の名前を呼んだ。

「覚えているかな? 私が最後にアセスと会う機会を作ってくれたのは、ナンスだったよね? 私達、あの日別れたの。厳密にいうと、ーー私、振られたの」

「それはアセス様の本心ではないのかと……」

 ナンスが取りなす様にいう言葉をとって、リンフィーナは首を振った。


「私はアセスのこと、死ぬまでずっと恋い焦がれると思う」

 だったら、とナンスは視線を上げるけれど、リンフィーナはもう一度首を振った。

「でも、伴侶になるのって相手が好きなだけじゃ成らないんだよ。それ、私はよくわかってるの。好きとか嫌いとか、そんなのは一生のうちでとても刹那的。でもそれを確たるものにするのは、夫婦になるってことだと思うのだけれど、ーーそれは人それぞれおかれている時と立場、タイミングが大切なんだよね」


 私とアセスは、一度その瞬間を見送った。

 リンフィーナは、泣きそうな顔で自分に言った。

「一度見送った人と、縁を繋ぐのは難しい」


魔女裁判後の日常:2021年2月23日

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