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魔女裁判後の日常  作者: 一桃 亜季
109/121

魔女裁判後の日常109「覚悟」

 偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

シリーズの6作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

         ※


 王妃に謁見する前に、リンフィーナは間も無く産月を迎える女官とともに、従業員が使用する部屋にいて、彼女の気持ちを聞こうとしていた。

 貴族でも女性軽視のラーディア一族では、兄という後ろ盾がなければいつ彼女と同じような目に遭わないとも限らず、女性の辛さは身に染みてわかる。


 ここからは男子禁制と言ったサナレスの意図が読み取れて、リンフィーナは兄の先読みの力に感服してしまう。

 セワラ着兄にされたことをサナレスに伝えていないのに、自分の女子力に賭けたあたりの千里眼が見事で、リンフィーナは兄の思惑通り目の前の女性に親身になっていた。


「王様は、本当に良い王でした」

 女人の言葉は、きっと過去形で始まってはいても真実だったのだと思う。

「王妃様を大切にし、皇子様を愛されて、ーー何よりこの国をとても慈しむ王でした」

「でも変わってしまった?」

 リンフィーナは女が体験したことを追体験する覚悟があり、質問を重ねる。


 光の差し込まないじめじめとした女官が暮らすそこで、粗末な椅子に腰を下ろして、女の手を握っている。

「ええ。最初は王妃様が苦笑いするくらいの性欲だったんです」

「そう……」

 人の三代欲求は、食欲、睡眠欲、性欲だというけれど、まだ三つ目を体験しないリンフィーナは知ったか振りで、相槌を打つ。


「でも、王妃が王の子供を妊娠しているという兆しがあると知ると、王は手当たり次第、私たち女官を……、襲い始めたのです」

 血走った眼は生殖本能に取り憑かれ、王妃が居ようといまいと関係なく、王は寝所に手近な女を連れ込んで無理矢理犯したという。


「ーー私もその一人です」

 無理矢理というのは、力づくでということを言っているのだと知って、リンフィーナは逸る心を落ち着かせようと努めていた。

 本心では何故そんな不条理な状態、蹴り飛ばしてやらなかったのかと怒りが天誅に達していたが、ぐっと堪える。身分や階級がある社会では弱者は往々にして抵抗できないことを知っている。


「それで、あなたはどうして、お子を産んで良いのかどうか悩まれているのですか?」

 王が女官に手をつけたならば、大抵女官は側室になる。けれど事はそれほど簡単ではないのだと、彼女の震えから察することができた。


「王妃様が王の子を殺せと言ったからです。王のことを刺し殺したことも、宮殿に出入りした者であれば知っています。王妃様が王との子を産んだとき、その御子をこの国の皇子とは認めなかった、ーーそれだけではなく処分したと聞いて……。私はこの子を産むことすら恐ろしくなったのです」

 鼻を啜り上げながら涙を流す女に、リンフィーナは同情する。


「王妃が産んだ皇子は、変わり果てた王のように異形だったのを見てしまいました。私の腹の中にいる子も、あのような姿なら……、私は」

 今にも自分の体を食い破られるかもしれない。

 女の恐怖がリンフィーナに流れ込んだ。


 その畏怖の念には、腹に宿す子への愛情なんて微塵も感じられない。

「産月は?」

「近いのです」

 確認しながらリンフィーナは、一呼吸置いて提案する。


「では腹を切って。産む必要はない。産む前に取り出す方がいい」

 とんでもないことを口にしたという自覚はあった。


 サナレスに対しては、現状把握以上の検体を手に入れることができる。それを度外視してもこのままの精神状態の女を放置するよりは良いと、違う角度から考えて二つの利点を見出している。


 けれど女の腹から赤子を取り出して、母子共に無事に済ませるという環境を整えられるのか?

 多くの医師がいて設備が整ったラーディア一族であれば、それは可能なことかもしれない。けれど人の国で、ーーこの状況で可能なことではないと思えた。


「お願いします!」

 考えを逡巡させ、口にしたことを取り消そうか迷っていると、女がリンフィーナの手に縋り付いてきた。


「神様、お願いします!」

 必死で頼み込んできた女は、唯一の光を見たとばかりに瞳を潤ませている。

「危険なのは知っています。ーーけれどもう毎日が地獄で……。夜も眠れず、いつ死のうかと考えてしまうのです。私は王妃様のように不安を抱えながら御子を産めるほど、気丈ではございません」

 頬を伝う涙を手で拭いながら、女は床に膝をつく。


 この際だから、聞きたいことは聞いておきたいという思いで、リンフィーナは女に問いかける。

「あなた、名前は? それからこの館はどうして、ありとあらゆるところが水浸しなのか教えて欲しい」


 王妃にも話を聞きたいし、ここで手術ができるかどうかも兄に相談しないといけない。

 リンフィーナは口の端を引き結んで、確認事項を頭の中で整理した。

魔女裁判後の日常:2021年2月18日

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