魔女裁判後の日常106「差別」
偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
シリーズの6作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
※
「こっちはさほど時間もかからなかったな。ーーあリンフィーナ、ウジ虫は弱るから土ごと瓶に入れて、蓋はするな」
せめてご遺体に沸いたウジ虫だけを、箸で摘んで瓶に入れていると、サナレスに指示された。
「そいつも大事な生きた検体だから、殺さないようにな」
そう言われて、箸で優しく摘み上げる。
右手首から手のひら、頸の鱗、目玉、それらに沸いたらしいウジ虫を丁寧に瓶詰めして、木箱に収納していると、アキが横に来て気の毒そうに見落としてきた。
「あんたの兄ちゃん、わりとエグいこと平気なんだな。貴族なのに……」
貴族っていっても、サナレスが貴族らしいのはおそらく見た目くらいのものだろう。
リンフィーナは苦笑する。
「兄が尊敬している人、リトウ先生のことは話に聞いたことがあるの。サナレスは今、リトウ先生にこの検体届けることしか考えてないんだと思う」
「リトウ先生か……。森君なぁ、これ見たら多分、卒倒しそうなんやけど……」
「そうなの? きっと兄様みたいな人だと想像しているんだけど」
意外に思って首を傾げると、アキは「ちゃう、ちゃう」と右手を振った。
「あんたは森君に会ってないん?」
「ラーディア一族の王立の学校には、女人は基本的に出入り禁止なの。出入りできるのは王族か上級貴族だけ。私は王族だけれど、ラーディアでは厭われる銀髪だったから入学しなかった。上級貴族だって、女子で入学するのはよほどその家に理解がある貴族だけだから、ほとんど女の学生はいないのよ」
説明するとアキは手を腕に当てて「へぇ」とうなづいた。
「案外差別のある一族なんだな、ラーディア一族って」
そう言われてリンフィーナはどきりとする。
サナレスといるから、ーー兄が王族らしくはない性質だから、サナレスと関わっている人は全て、ラーディア一族に蔓延る悪しき差別を忘れてしまっている。
けれどサナレスがラーディア一族を離れたあの、おぞましい時間を自分は知っている。
アセスとの婚約を破棄されて、護り手を全て失った時に、自分はラーディア一族の義兄弟に自由どころか、先の未来すら奪われそうになった。
力尽くで凌辱されそうになったことを思い出して身震いする。
「ねぇアキ、キコアイン一族はそんな差別がない一族だよね」
「そやで、だからわいは、イドゥス大陸っていうかキコアイン一族のことを気に入ってるんや」
イドゥス大陸キコアインの氏族はセドリーズの実家で、サナレスの血統でもある。
「同じ時代に繁栄した神々なのに、どうしてこうも違うのかな?」
聞き込みに向かうために歩き出したサナレスの後ろで、リンフィーナは素朴な質問をアキにする。
「階級差別、んで男女差別? わいらがいた世界でも、そんな差別、化石みたいに古い世代じゃ完全に無くなっとらんかった。だいたいは、金持ってる年寄りが威張り散らしてたしなぁ……」
アキは何かを思い出して少し考えている。
「階級差別ってさ、結局権力ってやつで。権力ってやっぱ地位とか金に直結する。ーーんで、男女差別ってのはさ……、セクハラやったらごめんなんやけど、入れる側か入れられる側かみたいなとこなんちゃうんかな? 男らしさ、女らしさの固定的な性別役割分担の偏見から起こるこ場合も多いし……」
どっちも未経験なリンフィーナは押し黙った。
じっと考え込んでいると、サナレスがアキの首根っこを捕まえて、自分から遠ざけた。
「いらんことを言わなくていい」
アキの尻を蹴り飛ばして、自分とアキの会話を中断したサナレスは眉間に手をやって仏頂面になっている。
「サナレス! 男女差別の原因って!? なんかいいとこだったのに……」
「もういい……。おまえの性教育を怠ったのは私の不得の致すところだから……」
リンフィーナが追求すると、サナレスが苦虫を噛み潰したような顔で中断してきた。
魔女裁判後の日常:20201年2月15日