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魔女裁判後の日常  作者: 一桃 亜季
105/121

魔女裁判後の日常105「用意するもの」


 偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

シリーズの6作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

        ※


「やばっ、これほんとに掘れる!? めっちゃ土硬いし。呪術でなんとかならんやろか?」

「あなたが呪術使ったら、文字通り焦土と化すでしょう。燃えたら検体取れないじゃないですか!? わかってますよね!?」


 黄的の墓場は宮殿から離れて小高い丘の上に並んでいた。十字架の下に土葬で埋められているものは棺桶。リンフィーナは気乗りしないまま、サナレスの指示のもと、土壌にシャベルを突き立てている。


「乾いていると掘りにくいから、土を湿らすぐらいなら呪術でなんとかできるけどな」

 だが人力でもできることだし呪術など不要だろうと、サナレスは笑いながら掘り進んでいる。


「リンフィーナ、おまえの出番はもう少し先だから、ゆっくりしていたらいい」

 いや。死体切って保管するよりも、土掘る方が気が楽です。

 重労働ではないけれど、その役割を自分に振り当てるのはやめてと、リンフィーナは薄ら笑いを浮かべて作業を続ける。


「どの部分の検体がいるのか、わからんのやけど」

「鱗になった皮膚を含め、頸動脈のあたり。丸ごと一本手を切り取って持っていくと確実だな」

 それ、採取して瓶詰めにするの私ですよね。

 リンフィーナの心の声はため息に流れ出る。


「ホルムアルデヒトを昨夜作っておいた。配合10%のホルマリンに漬けて持ち帰ろう」

 いつの間に作ったのか。

 重いのに大小様々な瓶を持ってきているはずだ。


 汗水かいて、地面を半分以上掘り起こしながら、アキはリンフィーナにボソッと言った。

「この人の妹って……、ていうかこの人と付き合うの、辛ぁあらへん?」


 シャベル持って、半人半魚になった亡くなった王の墓を掘り起こして。

 辛くないと言ったら、物理的にしんどいし、精神的にも気持ち悪くて受け付けないけれど、リンフィーナは苦笑する。


「アキは、親しい人が暮らす人の床を舐められる人?」

 アキはきょとんとした顔で自分を見返す。

「うちは神社やったから、常に舐められるくらい綺麗にしろって修行させられてたけど……、意味はわからん」

 

 それは違う。一緒にいられるかどうかは、掃除云々の話ではなくて、遺伝子を受け入れるかどうかなんだ。


「ねぇ知ってる? 掃除しても掃除しても、人の住まうところに出るチリやホコリって、大体はそこに住む人の皮膚が剥がれ落ちたものなんだって。それを舐められるかってことが、その人を好きかどうか……、本能的にその人を認められるかどうからしいんだけど……、そういうのわかる?」


 分からない、とアキに言われた。

 そうだろうな、とリンフィーナは笑う。


「でもさ、チリやホコリ、ーー死体にに面影を見るのがサナレスだから、私はそれを一緒に見ていたいし、好きな人が暮らす床には口付けしたいと思う」

 兄に毒されていて、可笑しい思考かもしれない。

 好きな人の皮膚の積み重ねがチリやホコリなら、掃除なんてせずにそこに暮らせる変態な自分がいるので、笑えてきた。


「死体掘るのって、その人の過去や考えに触れる行為なんだよね、たぶん……」

 気味が悪いのは変わらないけれど、その場にいると泣きそうなくらい神聖なことに思えてきた。


「リンフィーナ、少し休め」

 サナレスがそう言って自分の肩をポンと押し、自分は掘り起こした柔らかな土の上に尻餅をついた。

 でも腰の後ろに両手をついて、もう一度立ち上がる。


「死体からその人の生き様がわかって、その人が関わってきたものがわかるなら、最後までやる」

 カツーー。

 明らかに土とは違うものに掘り当たって、三人は息を呑んだ。


「アキ、手を貸せ」

 サナレスは土壌に滑り降り、手で棺を探り当てる。つられた様にアキのテンションも上がったのか、二人は素手で土を払い始めて棺の全貌を露わにした。

 男二人で上下に分かれ、しっかりと密閉された埋まっている棺の蓋を開けた。


「思っていたより人の形を成しているな」

「いや、思ってたよりグロテスクやわ」

 二人が棺を開けた時点で、リンフィーナは異臭の凄さに鼻を摘んだ。そして二人から気づかれないようにその場からダッシュした。


 きつい、やばい。

 ご遺体だけでもそうなのに、異形に変貌した腐乱した肉塊は、ほんと人が見るものじゃない。サナレスもアキも、よく平気でいるものだと真っ青になった。


「リンフィーナ、やっと出番だが……」

「女の子にそれはできやんと思うし、あんた切断までやってよ」

 サナレスとアキが、背を向ける自分が岩肌にキラキラした朝ごはんを吐き出していると、そんな会話をし始めている。


「待って」

 リンフィーナは二の腕で自分の口元を拭って仁王立ちになった。

 力仕事が満足にできないのであれば、せめてホルマリン漬けを作るくらいは自分がやるのだと、吐き気を堪えながらご遺体に近づく。

 何の漬物でも漬けてやるんだから。


 震えながら瓶の蓋を開けると、サナレスが一瞬でご遺体の必要部分を切り取って瓶詰めにして、「はい、終わり」と言ってきた。


 中身が見えない様に、瓶詰めは布が巻かれている。

 目隠しされた過保護さに眉根を寄せると、サナレスは解剖は手伝ってもらうから心配するな、と微笑んだ。

魔女裁判後の日常:2021年2月14日

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