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魔女裁判後の日常  作者: 一桃 亜季
103/121

魔女裁判後の日常103「休戦」

 偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

シリーズの6作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

        ※


 なんでこんな部屋割りなんだよ。

 気詰まりじゃないか。


 ラーディア一族の近衛兵副隊長ギロダイという大男と、彼とは対照的に小さい、同じく近衛兵参謀リュウセイが一緒だなんて気不味すぎる。


 我が主人ラーディオヌ一族のアセスが、彼らの仲間の殲滅を企てた件を知っているナンスにとって、大怪我をして未だ不自由な身体でいるギロダイを目の前に、何を話していいのかわからない。イドゥス大陸で女官に化けてリンフィーナと過ごした日々も最悪だったが、この一晩も身の置き所がなさそうだ。


 そう思って自分の寝台近くで視線をあちこちに漂わせ、サナレスがくだした部屋割りに頭の中で不服を並べ立てていると、リュウセイに一瞥された。


「さすがは隊長、見事なお考えだ」

 自分の不満の心の声が聞こえたのか、リュウセイに冷や水を浴びせられたような気がし

「なんで……

 あんた達にとっても最悪なんじゃないのか、俺と一緒でと視線を逸らせる。


「なぁ副長、隊長が与えてくれたこの最高の復讐の機会、何をしようかねぇ?」

 リュウセイの瞳は金色で、日頃は大きいのに細められると睨まれているように感じる。彼を見て初めて持った印象は気まぐれな山猫。油断すると引っかかれそうなほどで、視線だけで感情を伝えてくる。


「ふん……。少しは体力も回復してきたし、血祭りにして海に投げ込むかねぇ」

 不穏なことを言われて一歩後ずさったが、二人は目配せしながらこちらを見て悪い顔をしている。


 この部屋割り、冗談抜きで今晩命奪われるかも、と思うとナンスはいつでも入り口のドアへ逃げ込めるように、感覚を研ぎ澄ませた。

 サナレス殿下ーー。

 この二人が自分を殺戮することを考えなかったのか。

 いや、殺戮することを予測してこの部屋割りにしたのか。

 ナンスは血の気の引く思いで緊張していた。


 すると、ラーディアの近衛兵二人は虚をついたタイミングで大笑いし始めた。

「小姓、おまえビビりすぎだ」

「これがラーディオヌの使者とはな」

 二人で腹が捩れるほど笑っている。


「あんたら……」

 俺を殺そうと思ってるんだろ?


 確認する前に、二人から笑いながら否定された。

「大将が殺さないものを、我らが殺すはずがない」

 重傷を負わせた巨体のギロダイという副長が断言した。

「我が同胞を無益に殺され、異論がないかと言えばそうではない。ーーけれど我らが進む道は、隊長サナレスの意向。そんなことこの近衛兵、いやーーならず組に入隊した時から、全員一致で決まってるだよ」


 ギロダイの強い言葉に、リュウセイは付け加える。

「私たち、命をかけて。ーーいや、こんなこと言うと少し違う。なくなるはずだった命を捧げての、ならず組なんだ」

 だから副長でも、いつでも死にやがれ、とギロダイの怪我した脇腹にリュウセイが殴りかかる勢いだ。


「隊長が作った掟にある。いつ死んでもいいと思え。けれど死ぬ時は自身ではなく、人の気持ちを慮れ。そして何か出来るうちは死ぬな」

 ギロダイは、いつ死んでもいいと思えと言うのは自身の覚悟だから、初期段階だと言った。けれど本当に死のうと具体的に考えた時、自分の死にたい気持ちよりも、自分が居なくなった後の世を身勝手に考えるなと教えられたという。


 ギロダイはかつて繁栄を誇った負け知らずの人の王だった。

 戦場でサナレスの愛馬を殺し、いつかサナレスという神の怒りに触れるだろうと思っていたのに、彼がしてきたことは最大の嫌がらせだった。


 他国から追い詰められたばかりか、国の民に裏切られ、人の国の王としての命を諦めた時だった。つまり最大に弱りきった追い詰められたその時に、サナレスが降臨した。

『死ぬのは勝手だ。しかしおまえが居なくなった後、おまえが築き上げた国ーー、民里を、ここで見捨てるか!?』

「サナレス殿下から、そう言われたんだよ」


 ナンスはギロダイの過去を知らないが、なぜギロダイが今そんな話をしてくるのかわからなかった。

「そしてあの人は、人々に神として自分の命を献上しろと言ってきた」

「それって大将はずっとギロダイを見てたってことだね」

「ああ。あんなに爽やかな顔して、ずっと自分を覚えていて、ここぞというときに彼なりの考えで愛馬の仇をとってきやがった」

 悔しそうではあるが、ギロダイに表情は晴れやかだ。


「愛馬を殺された腹いせに、自分に臣下になれと言ってきたんだろ? 隊長ってあれで結構執念深い人だからな」

 リュウセイが喉を鳴らして笑う。

「んー執念深いっていうのか……、あれは、全部忘れてないってことなんだろ。結果的には命拾われて救われたわけだし」

 だからさ、と胸元や肩に厚く巻かれた包帯姿で、ギロダイは言った。


「隊長ーーサナレスって人は、あんたの主人のラーディオヌ一族の総帥が俺達ならず組にやったこと、きっと忘れないだろ。その時激情に駆られることはなくても、いつかたぶん人が忘れた頃になんかやってくれる人なんだよ」

 そう言ってギロダイは舌打ちした。

「ーーてことで、あんたが今気にしてギクシャクする必要はないんじゃない?」


「ああ。笑える部屋割りだな」

 ギロダイとリュウセイから伝えられたのは感情や立場を保留するということだった。


魔女裁判後の日常:2021年2月12日

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