表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女裁判後の日常  作者: 一桃 亜季
102/121

魔女裁判後の日常102「ゲシュタルト崩壊」

 偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

シリーズの6作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

 

        ※


 身体が歪み異形の物に変形していくものは、普通この異世界だと呪いと考える。それなのにサナレスはウィルスの一種として考えていると言い、異世界から来た仲間の名前、リトウ・モリ(森利刀)の名を口にした。


 しかも検体が必要だと言っていたから、この世界に生を受けた王族だというのに科学に見識があるらしい。

 自分たちのいた世界では、ウイルス変異や菌によって、末梢神経がやられて身体が変形する病気もあった。また食品については遺伝子組み換えなど頻繁に行われていたから、倫理観を無視すれば、生物と生物の遺伝子組み換えも理論上可能になっていた。


 アキ・カシキは高野山の火柱神社の跡取り息子で、将来は陰陽師も兼ねる住職になるはずだった。だから、科学についての知見は低く、この世界の人間と同じく呪いの観点から、半人半魚のことを考えてしまう。


 ーーだが確かに森くんなら、きっと科学の観点からこの一件を見るだろう。

 以前、世に恐れられる魔道士のことを、森は薬物中毒患者と言った。高位の呪術を使ううちに、あらゆる薬に精通しすぎて、完全にラリっちゃった人達のことだね、とも断言していた。


 あくまで森は不可思議な現象を目にすることはなく、だから彼の思考回路上は、全てが科学で結論づけられるというロジックになっている。

 サナレスも同様なのかーー!?

 こんな王族があっていいんだろうか、と考えあぐねる。


 イドゥス大陸の総帥は、つまり神官として自分が支えてきた神は、サナレスを次代にと命を差し出して血の契約を行った。

 上下関係など露ほども気にしないアキではあったが、現状で自分の主人はサナレスということになっている。認めるかどうかは今後次第ではあるのだが。


 彼を手助けしようとついてきたのも、世話になったリーインリーズ伯爵の甥にあたることと、自分の宿敵である芝流火が彼らに同行したがったからだ。


「こいつも、何を考えているのかわらへん……」

 宿敵の自分の横で、子供のような形で、子供のように無邪気に眠りこけているのだ。

 どうして同室なんだか、と思わずにはいられない。自分が寝首をかくとは思っていないのか。


 また、もう一人この部屋を使う寡黙な貴族がいる。

 いったいどうゆうーー。

「部屋割りなんだ……」

 もう一人の同室者の独り言が自分に一致して、アキは神話に出てくる彫刻のような表情のない美しい男を見た。


「あんたもそう思う?」

 あぐらをかいて彼に聞くと、首肯する形で同意を得た。

 三部屋を借りたサナレスが決めた部屋割りは、ナンスとラーディアの近衛兵二人、サナレスとリンフィーナ、ウィンジンと芝と自分という奇天烈なものだ。


 こういった場合。

「二部屋に仇同士を入れるか普通……」

「貴族は貴族、臣下は臣下にしないのか……」

 同時にため息混じりに打ち明けたことは、相反する意見だった。


「あんた、サナレスやリンフィーナの部屋がよかったの?」

「それはそうだ」

 この人鈍感だな、とアキは思う。どう考えても間に割って入れない空気があるあの二人の部屋に、よく入ろうなんて思うものだ。やはり貴族の価値観はわからない。


「おまえも私とでは気詰まりだろう」

 いや、あんたじゃなく芝といることが、思わず殺意を覚えて大変なのだが。


「じゃあ、ラーディアの近衛兵二人と、そいつらを陥れたラーディオヌ一族の総帥の側近が一緒っていうのはどう思ってるの?」

「何か問題があるのか? 主人の考えが行き違うことは間々あることだ」

 アキは頭を抱え込んだ。

 こいつは生粋のお貴族様だ。


 イドゥス大陸で貴族は、勿論民から貴族として畏怖される対象ではあったが、その中に入ってしまえば、どうして自由奔放な階級制度だ。女性上位なこともあり、世襲や階級よりも付き合いという名の意見交換を大切にし、時に腕力、時に話し合いで気持ちよく問題ごとを解決していく貴族だった。


 一方、貴族発祥の地とされるアルス大陸はそうではなく、未だに身分による階級制度が根強く、女性軽視もある一族だと、森と和木から聞かされていた。

 でもなんだこの、化石のような考え方?

 サナレスやリンフィーナから感じることはなかった、貴族としての当然の振る舞い。奢るわけではなく、生まれた時からそれが当然だと信じきっているラン・シールドの総帥と同じ空気を吸って、アキはゲシュタルト崩壊しそうになる自分の頭を抱え込んだ。


魔女裁判後の日常:2021年2月10日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ