魔女裁判後の日常101「近距離」
偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
シリーズの6作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
※
「どうしていつも兄様は、本当に考えていることを隠すの?」
「隠しているつもりはないよ」
それは違う、とリンフィーナは思う。
「本当に通常運転なら、歓迎された夕食の席でお酒を飲んだでしょう? ーー飲んだふりをしながら、一滴も口にしなかったように見えた」
「まぁ安心しきっていい状況でもないからな」
リンフィーナとサナレスはラーディア一族王族の兄妹として、同室で休むことを許された。
サナれすが何かを隠していると思う根拠は他にもあった。
「昨日襲われた時も、ポセイオンとこの国の関連性を私達に言わずに、港で聞き込みしてたでしょう?」
ベランダにつながる窓辺の木枠に腰を下ろして、サナレスは海の方を眺めていた。
リンフィーナはそんな兄の胸に背中を預けるように同じように窓枠に腰掛けて、兄の金色の髪を引っ張る。
「それに関してはさっき暴露しただろう?」
「そうだね」
考えの一部だけね。
リンフィーナは兄の胸の中で彼の顔を見上げながら苦笑する。
「いっつも思う。サナレス兄様の考えてることは複雑で、よくわからない。でも何か隠してるのはわかる」
長年妹としてそばに居たのに、自分に見せてきた彼の顔は兄としての顔ばかりで、肝心なことはいつもヴェールに包まれたままだ。
このもどかしさだけは、ずっと子供扱いされているからだと思っていたのに、半分は正解だが半分は不正解だ。
遠くを見ているサナレスとは、いつも対等になることが叶わなかった。
いつまでも守られる存在である自分だけかと思っていたら、こうなって観察するサナレスという人は、ほとんどの人に本心を見せない人だ。
「ねぇサナレス」
二人でいる時は、あえて異性であることを意識させるために、あえて兄様とは言わないようにしてみる。
「晩餐会に出るために、借り物だけど少しおしゃれしたの気がついた?」
そう聞くとやっと、サナレスは少し驚いたように自分の方に目を向けた。
「もう寝るから、着替えてるし」
長旅でお疲れになったでしょうと、湯浴み後に皇女らしい服を提供されたけれど、晩餐会から今に至るまで、サナレスの意識は上の空だった。
染めてしまった黒髪に赤いドレスを選び、兄の瞳に少し大人っぽく映るように演出したけれど、兄は自分の努力に今の今まで気づいていなかったらしい。
「ごめん」
兄は素直に謝って笑った。
「そういうの、気がつかない男はダメだよな」
「うん、がっかり」
そう言って睨んでやると、サナレスは大爆笑した。
「おまえ、結構大変なことになってるのに余裕だな」
わたしの気を惹こうとしてたの?
笑いながらも嬉しそうに見えるサナレスは、後ろから自分の体を抱えるように手を回した。
「昨夜膝蹴りしておいて?」
涙目になりながら、こちらを見て笑っている。
「その気になられても、困るだろ」
「困らないよ!」
強い口調で言って唇を尖らせると、サナレスは驚嘆した顔で自分を見ていた。
「兄様、アセスとは別れたんだよ。ーーずっと兄様が好きって言ってるのに、なんでこっち見てくれないの? やっぱり亡霊のこと忘れられないの!?」
どんな女?
どんな、素敵な女なのよ。
「おまえのヤキモチは面白いくらい、素直だな」
軽く笑われて相手にされない。
そして真顔になった時にサナレスに見つめられた。
「で、何を焦っているの? リンフィーナ ーーもうすぐアセスに会うことになるから?」
またしても心の中を見透かされていることに気がついて、リンフィーナは耳まで真っ赤になった。
兄が隠していることを聞き出そうとして、逆に自分の本心を暴露された歯痒さに仏頂面になったが、言い当てられたことが恥ずかしすぎて、動揺から本来の目的を見失ってしまう。
おそらくはそれこそがサナレスの巧妙さだというのに、逸らされた話題を戻したくても、もうどうすることもできなかった。
サナレスの次の一言が、何かを掴みかけていたリンフィーナの直感を、また違う方向へ逸らす。
「アセスとちゃんと話した上で、同じことを言ってくれ」
伊達に百年以上生きていない。大人の余裕を見せられて、リンフィーナは閉口した。
「もう寝る」
魔女裁判後の日常:2021年2月10日