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夢見人リンク

騎士を夢見る夢見人の最期 ~洗礼で得た『夢見』スキルを使いこなせない俺は王女様との約束を果たせるのか~

作者: さいぼ

「よし!今日のノルマ終わりっと」


そう言って俺は倒した魔物の魔石を集める。

え?何を倒したのかって?


最弱のスライムとビッグマウスだよ!ちくしょう!


俺の名はオネイロス。

同じ時期に冒険者になった連中はもう随分と先に行っている。

俺だけがFランクから昇格することなく取り残されてしまった。


何故か。


何故か俺は何をどれだけやってもスキルを習得できなかったからだ。


一年通えば誰でも『剣術・初級』を習得できると言われる剣術道場にも二年通ったが成果なし。

師範も「型はちゃんと出来ている」と言うのに。

そして、初級でもスキルをもつ相手には手も足も出ない。

それほど、スキルは重要視されるし、その差は如実に表れる。


俺のスキルは人が生まれた時に必ず持っている『ステータス』と洗礼で得た『夢見』だけ。


ちなみに洗礼は後天的に得ることのないスキルを得られるので、冒険者ではほぼ必須、というかまずやっていない者はいない。

そうでなくても半数は洗礼を受けるのが一般的だ。



この『夢見』は『ステータス』で見ると「現実で願った夢を見ることができる」と表示されているけど、未だに使い方がわかっていない。


何度やってもなにかが起こったことがないんだ。

試しすぎて一日5回は何かを願いながら発動して、夢を見るスキルだからと、寝る前にも発動してから寝るのが完全に習慣になっているくらいだけど、この10年何一つ変化はない。



そして初期ランクから昇格する為には戦闘スキルの習得が必須だ。

それが俺には満たせない。



今俺が今日のノルマを終えたのはダンジョンの一階。

このダンジョンでFランクが唯一入ることを許された階層だ。

というか、魔物が弱過ぎるので、地下に下りる階段前にギルドの出張所があるくらいだ。


本来はここの魔物の駆除はその出張ギルドの当番職員の仕事だったんだけど、わざわざ俺の為だけに「掃除クエスト」として報酬まで出してくれている。


そして、俺が雑魚狩りをやっているのは、レベルアップとそれに伴う基本スキルの獲得の為。

レベル5で『応急処置』

レベル10で『鑑定』

レベル15で『気配察知』

レベル20で『気配遮断』

をそれぞれ覚え、基本スキルを全て覚えるレベル20で一人前と言われ、ランクはだいたいDだ。


成人となる15歳のときに親から離れて冒険者になって、ひたすら最弱モンスターを狩って5年、もうすぐ、ようやくレベル5になる。


普通はダンジョン以外でクエストをこなして昇格していくんだけど、まともなスキルのない俺にはそれは無理だった。

そんな俺に専用クエストを用意してくれたギルドには感謝しかない。

おかげで生活もできているわけだし。



そして俺が未だに諦め悪く冒険者を続けているのは俺の唯一のスキル、『夢見』を得た洗礼の儀を受けたときのことが理由だ。


この国、ノクス王国では10歳になった者は誰でもいつでも教会で洗礼の儀を受けることができる。

いつでも、とは言っても行われているのは50日に一度。

400日で一年だから年に8回行われている計算だ。

25日から始まって、そこから50日置きに「洗礼の日」はやってくる。


俺は375日生まれだけど、事前の受付の時点で10歳でないとダメなので次の年まで待たなくてはならなかった。

もう一日早く生まれてればその日に受付して次の日洗礼が受けられたのに!


でも、それがあったからこその出会いがあった。


俺は当然次の「洗礼の日」に受けることにして、10歳の誕生日の翌日にはもう受付を済ませていた。


両親が冒険者だったから待ちきれなかった。

早く両親に追いつきたい、それしか頭になかった。


だから気付かなかった。


周りの誰も次の年最初の「洗礼の日」に参加しないことに。



その「洗礼の日」当日、教会は受付をしたときとは全く違う空気に包まれていた。


10人くらいの王国騎士が入り口に立ち、その前には俺が一生乗ることは無さそうな豪華な馬車。


無知な子供だった俺はそれが何を意味するのかもわからず、教会に入ろうとした。


「おい、今日はお前のような者が入って良い日ではない!家に帰るんだ!」


礼拝に来た子供だと思われたと思った俺は、


「僕は今日洗礼を受けるんだ!」


と、言い返した。


すると、今度は騎士の矛先が入り口で馬車から降りてくるであろう人を待っていた司祭に向く。


今だからわかるが、洗礼には事前の受付が必要なことは周知の事実。

だから、俺が洗礼の受けに来たということは受付をしたからだとわかったのだろう。


「おい、どういうことだ?今日誰が来られるのかわかっていただろう?!」


「そ、それが、この子はその、あのお方の前日に受付をしておりまして・・・」


馬車に乗る人物を俺に知られないように説明していた。

どうやら俺は来ないと思われていた。


後で知ったのだが、「あのお方」が今回の「洗礼の日」を選んだのは突然のことで、教会の方も受付の前日には知りようがなかったらしい。


それを知っていた騎士達は司祭の答えに頭を抱えた後、俺をどうするかで話し合いを始め、結果馬車の中の人物に伺いを立てることにしたようだ。


「構いませんわ。そもそもわたくしと一緒に洗礼を受けてはいけないなどという決まりもありませんもの」


目を奪われる、とはこういうことを言う、と知った。

同じ10歳とは思えないほど大人びた話し方をする少女。

ウェーブ掛かった長い金色の髪を靡かせて馬車から降りるその姿に俺は釘付けとなった。


「貴方が洗礼を受けるという方ですのね。一緒に参りましょう」


俺の手を引き入ろうとする少女。


そして、それを止めようとして一喝される騎士。


俺はそんな少女をカッコいいと思って見ていた。


「貴方、お名前は? ああ、失礼。わたくしはこの国の王女、ミネルヴァですわ」


「お、王女さま!?ぼ、ぼ、ぼ、僕はオネイロスでしゅ」


ここで初めて少女が王女であることを知った俺は激しく動揺してまともに名乗ることもできなかった。

王族が偉いということは知っていても、どういう受け答えをしていいのかなど知らない。

というより、話す機会なんてないと思っていた。


「ふふっ、そんなに緊張なさらないでください。今日は一緒に洗礼を受ける仲間なのですから」


「な、仲間!?は、ひゃい!」


そんなことを言われても無理なものは無理だ。

――と、口には出さないがもじもじと下を向く。


「えいっ!」


バシッと頭に手刀を受けた。

前を向いていなかったから当たるまで気付かなかった。


「な、なにするんだよ!」


「ようやく普通に喋ってくれましたわね」


「あっ・・・」


「いいのです。その方が楽でしょう?」


「僕、怒られない?」


「怒る人は付いてきてないからいいんです!」


悪戯っぽく笑いながらそう言う王女様にまた見惚れる。


洗礼の間には受ける者と司祭以外は入ることはできない。

今回は更に礼拝堂にすら入れないよう騎士が教会の入り口に待機している。


元々その予定だったようで、洗礼の間まで付いてくる騎士もいない。

俺がいたことでおそらく団長であろう騎士が付いて来ようと申し出たが、王女様に拒否されていた。


「僕、まさか王女さまに会えるなんて思ってもいなかったよ」


「あら、奇遇ね。わたくしもよ。貴方に会えると思っていませんでしたわ」


「ぷっ」


「「あはははは」」


王女様の冗談に思わず吹き出してしまった。


「ははっ、王女さまは僕のことなんて知らないだろー」


「ええ、でも、出会えて良かったと思いますわ。年の近い方と笑い合うなんて初めてですもの」


「ええっ!じゃあ、王女さまって、友達とかいないの?」


王女様の言葉に思わず聞いてしまった。


「そうですわ。いつも騎士の方が近くにいるんですもの。城には子供もいるのですが、誰も近寄りませんわ」


「なら、僕が初めての友達だね」


王女様を俯かせてしまったのを挽回しようと自分でもビックリするくらいすんなり言葉が出てきた。

そして、そのまま右手を差し出す。


「でも、会えるのはこれっきりなのでしょう?」


右手を出しかけた王女様は寂しそうにその手を引っ込める。


「なら、僕は騎士になるよ!冒険者になって腕を磨いて必ず!そうすればいつも近くに居れるんでしょ?」


子供ながらに安直だったな、とは思う。

でも、これが今でも俺の目標なんだ。


「あまり待てませんわよ?早く来てくださいましね」


そう言って彼女は僕の右手を取った。


「うん。僕――ううん、俺が君を守れるようになる!」


「期待していますわ。オネイロス」



そして、洗礼の儀によって、俺は『夢見』を、ミネルヴァ様は『炯眼けいがん』を得た。


「それじゃ、いつかまた会う日まで!」


「ええ、オネイロス。でも、わたくしの専属騎士になるのなら、そこの騎士団長に勝てるくらいの力は見せないといけませんわよ?」


やはり団長だったらしい騎士を指しながら告げる。


「が、頑張るよ!必ず強くなる!」


一瞬たじろぎつつもしっかりと答え、ミネルヴァ様と別れた。



それ以来、彼女とは会っていない。

あれからもう10年だ。

もう俺のことなんて忘れているかもしれない。

俺だってこんなことになるなんて思わなかった。



そして、数日後。


「とうっ!」


ビッグラットに剣を振り下ろす。

グシャッという音と共にビッグラットが息絶える。

もう何年も繰り返してきた行為。

そして、死体が消えて魔石が残る。


数を集めてやっとゴミ焼却の燃料程度にしか使えない魔石をもう何年も集めてきた。

それをギルド出張所に提出するのが今の仕事だ。


「はい、受け取りました。お疲れ様です。これで昇格試験の規定になりましたが・・・」


職員が言葉を濁す。

クエスト10回達成毎に昇格試験を受けることができるのだが、俺には必須の戦闘スキルがない。

長い付き合いなので職員もわかっているが、確認は義務だ。


「ええ、まだ・・・」


俺も何度となく返した答えを口にする。

こればっかりは慣れない。

悔しさが出てしまう。


だけど、もうすぐレベルが上がって基本スキルを習得できるはず。

そうすれば、俺がスキルを覚えられないのは俺の努力が足りないせいだとまた頑張れる。



そして、その最後の希望は無残にも砕かれることになる。


「よし、上がった!『応急処置』!」


何も起きない。


「『応急処置』!『応急処置』!ちくしょう!『応急処置』ぃ!!」


繰り返そうが叫ぼうが何も起こらない。


「そんな――『ステータス』」


そこに『応急処置』の文字はなかった――。



俺はキレた。



クエストも放置して酒場に駆け込み、安いエールを何杯も呷る。

いつも習慣にしている『夢見』すら今日は忘れている。


気が付けば夜。

酒場も賑わい始めていた。


「なんだこいつ、いつから飲んでんだ?」


木のジョッキを片手にテーブルに突っ伏していると、格闘家のブリングが給仕に声を掛けているのが聞こえた。

ブリングはだいぶ年上で面倒見もよく、俺も気にかけてもらっていた。


「おいおい、そんなに飲んでたら明日に響くぞ?」


「うるさいな、もうどうだっていいんだよ!」


酔った勢いもあってぶち撒けてしまった。

でも、実際そうなんだ。


「お前の夢はどうした?騎士になるんだろ?」


相変わらず優しい男だ。

だけど、今の俺にはそれは傷を抉る言葉でしかない。


「ちくしょう!『格闘術』スキルを持ってるからって上から見やがって!俺だって『夢見』でそれくらい習得してやる!」


そう言いながら『夢見』を発動させる。



――しかし、当然のように何も起こらない。


「お前は酔ってるんだ。騒ぐと周りに迷惑だ。ここは奢ってやるから今日はもう帰って寝ろ」


ブリングは周囲に構わず怒鳴り散らす俺にこみ上げる怒りを抑えながら諭してくる。


――が、今の俺にはそれが伝わらなかった。


「うるせぇ!俺をバカにしやがって!」


俺は立ち上がり、ふらつく足でブリングに殴りかかる。


ブリングは「仕方ない」と溜息を吐き、俺の腹に拳を打ち込んだ。


「――ちくしょう」


俺はそう呟くと意識を失った。




「なんだここは?」


気が付くと、俺は何も無い空間にいた。

酔いも完全に覚めている。


「ん?何かいる」


目の前に黒い人の形をした影のような何かがいることに気が付いた。


「なんだ?」


襲われるのかと身構えると、影は突然格闘の素振りのような動きを始めた。


俺を狙っているわけではなく、ひたすらその場で動いている。


「た、倒したほうがいいのか?」


そうは思うが、今の俺はなんの武器も持っていない。

仕方なく、そろりと影の後ろに周り、殴りかかってみる。


「うわっ、ととと」


俺の拳は影をすり抜けてしまう。

そして、影の前に出たことで影の素振りの拳が迫る。


「やばっ――」


思わず腕で顔を覆うが、影の拳もすり抜けたようで、ダメージはない。


「これは・・・夢?――まさか!」


冷静に覚えていることを思い出す。


「そうだ、カッとなって『夢見』で格闘スキルを・・・って」


「つまり基本の型からってか?」


それから影の動きを模倣することから始めた。

数日分、数ヶ月分と動き続けても全く疲れない。

そして、動きを掴んだと思ったとき――


シュッ!


「うおっ」


自分の動きなのに声が出た。

あからさまにキレが増した。


「よ、よし、『ステータス』!」


恐る恐る、しかし期待も込めてステータスを表示する。




『格闘術・初級』



「き、きたーー!!」


初のスキル習得に思わず両拳を突き上げる。


その瞬間、俺の意識は再び途切れた。




「あれ、俺んちだ」


目が覚めると、見慣れた天井がそこにあった。


「お、やっと起きたかよ。もう昼だぞ」


ブリングだ。

どうやら一年近く修行したのは夢の中だけの話らしい。


「あ、ああ。昨日はすまない」


色々と思い出し、ブリングに運ばれたのだと察して謝る。


「気にすんな!誰だって現状が嫌になることはある。また頑張れよ"最弱狩りの夢見人"!」


ブリングはそう言って笑う。

"最弱狩りの夢見人"はいつのまにか定着してしまった二つ名だ。

そして「起きたなら帰るぜ」とさっさと帰ってしまった。


「あれは夢だけなのか・・・?『ステータス』」


夢だけど、夢じゃなかった!

ちゃんと『格闘術・初級』の文字がある!


「ははっ、つまり、一日一回だったってことか。ははははっ」


気が狂いそうだった。

この10年、俺は無駄なことをしていたと気付いてしまったからだ。


それを誤魔化そうとしばらく笑い続けた。



「クエスト・・・途中だったな」


気を取り直していつものノルマをこなすことにした。

昇格試験の規定に乗るにはまた10回クエストをこなさないといけない。


いつもの作業じみたクエストも格闘術を使ってやるのは爽快だった。


「ははっ、スキル持ちはこんな気分で戦ってたのか」


だけど途中からはただの憂さ晴らしになっていた。

そして、狩れば狩るほど虚しくなった。


一日一回。

こんな単純なことさえ気付いていれば――!



そして夜。


「とにかく本当にそうなのか確認だ。今日は剣術を覚えてやる!『夢見』っ!」


『夢見』を発動し眠りにつく。



「やっぱり・・・」


昨夜と同じ空間。


予想通り一日一回の発動が条件だったと突き付けられる。


「こうなったらとことんやってやる!」


俺も影も今夜は剣を持っている。


また模倣するところから始める。

剣術自体は習っていたので初級の習得には時間はかからなかった。


「昨日はこれで終わったよな?なんか条件とかあるのか?」


そんなことを呟いた瞬間――


影が突然俺に向かって斬りかかってきた!


キィン!


剣で受ける。


「うおっ!当たるのかよ」


一応最初に試したのだが、剣も昨夜のようにすり抜けていた。

それが急に当たるようになった。


「なるほど、ここからは実戦形式ってことか」


すぐに理解して影と対峙する。




何年――経っただろうか――


『剣術』スキルも中級、上級と成長し、遂に上位スキルの『剣鬼』に辿り着いた。


そして――


「はっ!」


影を斬り裂く。


手応えはあるが、すぐに元通りになる。

また動き出すまでに少し時間があるのでその合間にスキルを確認する。


これまでずっと繰り返してきたが、この会心の一撃が通るのがスキル成長の証だ。



『剣王』


剣術最上位スキルだ。


「これを覚えても影が残ってるってことはまだ上を狙えるのか?」


その予想を肯定するように影が再び動き出す。


「やっぱり!動きが更に速くなってやがる!」



――更に数年。


「よしっ!」


遂に会心の一撃が入る。


「消えた!?」


修了とでも言うかのように影が消滅した。


「『ステータス』!」


目覚める前に確認したい。


『剣聖』


エクストラスキルと呼ばれる最上位スキルより更に上のスキルだ。


そしてもう一つスキルを得ていた。


『限界突破』


これは一般的なレベル上限である50を超える為に必要なスキルだ。

だが、これはBランクの討伐クエストをクリアすることで得られると言われていた。


当然というか、条件を満たしても得られない者もいて、習得できた者は特別視される。


「もしかして、最上位スキルを持って自分と同等以上の相手を倒すのが条件だったのか?」


なんとなくそう思った。

そしてそれは確信にも近い感覚だった。

元々の条件を満たしても得られない者はそれまでも飛び抜けた力を持っていたと聞いている。

おそらくその者はBランクの魔物より強くなってしまっていたのだろう。


「なんていうか、世の中色々間違ってるんだな」


何年も無心で剣を振り続けた結果辿り着いた答えだった。


「なら俺が世界に真実を伝えれば俺の評価も上がるんじゃないか?」


そんなことを考え出していると、意識が遠くなっていく。


俺は気付いていなかった。

今まで以上に孤独な時間を過ごしたせいで自分の思考が独りよがりなものになっていたことに。





「やっぱり一晩しか経ってないんだな」


翌日いつものクエストを受けたが、職員もいつも通りの対応だった。

俺が途中で投げ出したのは一昨日のことで間違いないようだ。


「あと騎士に必要といったら弓と盾だよな」


この日も『夢見』を発動して眠る。

まずは『弓術』だ。


型に始まり、止まった的、それから様々な地形・環境の中で様々な生物の形でその動きをする影を射る。

人の姿で魔法や矢を射ってくることもあった。


そこでも十数年の修行を経て『弓聖』を得た。



翌日『盾術』を試していると、上級に成長したときに満足感を得てしまい、そこで夢が覚めた。


どうやら俺のやる気に連動しているようだ。

そう、俺は立て続けにエクストラスキルを得たことで自分の力に溺れてしまっていた。

当然俺はそのことに気付いてなどいなかった。




「あのさ、攻撃スキルを覚えたんだ!昇格試験、受けられないかな?」


強さとしてはもう十二分にあると感じた俺は我慢出来ずにギルド職員に聞いてみた。

今日は女性職員のテチュさんが当番だった。

俺の専用クエストをギルドに進言してくれた人だ。

だから、彼女ならば、という期待もあった。


「え?おめでとうございます!何を覚えたんですか?」


「『格闘術・初級』です。これで条件は満たしてるよね?」


いきなり『剣聖』だ『弓聖』だと言っても信じて貰えないだろうと思って一番低級のスキルを告げた。


「ようやくスタートラインですね!でも、ごめんなさい!前回受けなかったのはもう報告しちゃってるの!」


喜んではくれたみたいだけど、やっぱり規定は変えられないようだ。


「じゃあさ、とっておきの情報があるんだけど、それと引き換えに、とかってダメかな?」


『限界突破』の情報を対価にできないかと提案する。


「え・・・っと、どんな情報でしょう?内容によってはギルドマスターに確認してみることもできますが」


「『限界突破』の習得条件なんだけど」


「ふふっ、ダメですよ。既存の情報では対価になりません」


笑って諭してくるテチュさん。

ああ、新情報って言わなかったからか。


「いや、今まで知られていた条件は間違っていたんだ。俺が知った条件をギルドマスターに伝えて欲しい」


俺がそう言うと、テチュさんの表情が強張る。


「オネイロスさん、『限界突破』の習得条件は検証済みなんです。いい加減にしてください!」



まさか聞いても貰えないとは・・・。

最下位ランクじゃ発言権すらないってか。


せっかく強くなったのにランクも上げて貰えないなんて。




まてよ。


別に冒険者のランクなんて上げなくてもいいじゃないか。


ミネルヴァ様は騎士団長を倒せる強さを見せろって言っていた。


なら、もう直接行けばいいはずだ。


そうと決まれば善は急げ。

そうすることが善だと錯覚した俺はクエストも受けず王城へと向かった。



「俺は騎士になりに来たんだ!通してくれ!」


手順もくそもない。

そんな俺を門番が通すわけがなかった。


「騎士の募集は今行っていない!帰れ!」


掌底で俺を突き出そうとするので受け流す。


「貴様!」


激昂した門番が槍を向けてくる。

とはいえ俺も騎士になりに来ただけでやり合うつもりはない。


俺と門番は睨み合いになる。


そこへ――



「何を騒いでる!」


巡回中の騎士が割って入ってくる。


騎士は門番に状況を確認し、こちらを向く。


「騎士になりたいらしいが、お前は冒険者か?」


「そうだ」


「ランクは?」


「Fだけど、そんなの関係ない。俺は騎士になるんだ」


舐められるとわかっているからハッキリと意思を示す。


「なるほど?腕には自信があるようだが、お前は騎士というものを何もわかっていない」


「なんだって?!」


俺はその意味がわからず声を荒げる。


「大方、昇格規定のクエストをこなすのが面倒でここに来たのだろう?」


「――――!」


図星を突かれた俺は反論できなかった。


「その程度の自制もできない者に騎士が務まるか!」


「そんなの、やってみなくちゃわからないだろ!」


騎士の一喝に精一杯の強がりを吐く。


「ならばわからせてやる。付いてこい!」



その騎士の後を付いていくと、騎士団の訓練場に着く。


「団長!立ち合いをお願いします!」


「待て待て。まずは話を聞こう」


興奮気味の騎士を宥め、団長が事情を把握していく。

10年経って見た目は多少変わっているが、彼女はあの時の団長だ。


「ほう。お前は何故騎士を目指す?」


騎士の事情説明を聞き終えた団長が聞いてくる。


「王女様、ミネルヴァ様と約束したんだ!」



「あら、わたくしがどうかしましたか?」


大人になったミネルヴァ様がそこにいた。

あの時の可愛らしさは美しさへと昇華されていた。


「危険です、ミネルヴァ様!お離れください!」


団長が慌てて声を掛ける。


「その方はわたくしと何か約束したのでしょう?」


「ミネルヴァ様!俺、オネイロスだ!約束を果たしに来たんだ!」


思わず叫んだ。


「貴方のような野蛮な方と約束などした覚えはありませんが?」


そんな!俺を忘れてしまったのか!?

10年という時間は約束を消し去ってしまったのか・・・


そう思うと、自分のスキルの使い方に気付けなかった自分に腹が立ってきた。


そしてその矛先はミネルヴァ様にも向かってしまう。


「お前のスキルなら!その眼ならわかるだろう!?」


ミネルヴァ様のスキル『炯眼』は全ての真実を見抜く。

だが、これは明らかな暴言、不敬行為だ。


「貴様!ミネルヴァ殿下になんという言葉を!団長、この者の処刑許可を!」


俺を連れてきた騎士が剣を抜きながら叫ぶ。


「許可する」


団長は目を閉じ、冷静に答えた。

いや、内心はどうかわからない。


とにかく、剣を抜かれたからには応戦するしかない。


俺も剣を構え、振り下ろされた騎士の剣を弾き返す。

そして空いた胴に剣の横腹で殴りつけた。


甲冑があるとはいえ、『剣聖』の一撃を受けたその騎士はそのまま後ろに倒れ、悶絶する。


「あっ・・・」


そして俺は自分のやってしまったことに気付き、ガックリと膝をつく。



「そこまでだ」


背後から団長の剣が俺の首筋に当てがわれる。


「何か言い残すことはあるか?」


冷徹に言い放つ団長。


「ミネルヴァ様は俺のこと本当に――?」


抵抗する気力が失せた俺はそれだけが知りたかった。



「・・・これだけ待たせたんですから、もっとマシな男になっていてほしかったですわ」


そっぽを向いてミネルヴァ様は心底残念そうに言った。


「フン。騎士の情けだ。今のは聞かなかったことにしてやる。言い残すなら何か言え」


ミネルヴァ様はやはり覚えてくれていた。

俺はそんなミネルヴァ様を失望させてしまった・・・。

それもこれも――。


「スキルなんてない世界で出会いたかったなぁ」


俺はこれまで願望にそうしてきた癖で無意識に『夢見』を発動し、泣きながらそう言った。


そして、それは最期の言葉になると共に最期の『夢見』となった。


「さようなら。"最弱狩りの夢見人"オネイロス」

お読みいただきありがとうございます。


前回投稿した「農民の僕が王女様の騎士になるまで (ry」(https://ncode.syosetu.com/n6974gj/)に繋がるエピソード0的な話です。

元々これ単体の予定でしたが、上記の話が浮かんで先に書き上がるという。


前回の短編を読んだ方はこれを読んでからまた読むと違った読み味になる・・・はず。


※タイトル変更しました。


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