↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕以外の人類はVR空間に移住した  作者: 佩ロッシュ
VR空間3
PR
48/48

9

《【アオ】/このイブが託してくれたフィルターを使ってログイン処理を続けます。ですが、パーソナルデータの全転送に時間がかかるのは変わりません。それでも待っていてくれますか》


「勿論です。この世界が終わるまで、ずっと待っています」



 爆薬が宙で散って華を描く。

 その間隔が短くなっている。

 もう魔法の時間は終わりだ。

 この世界の人々には、それぞれの時間がある。

 わたし達二人のために、いつまでも独占していていいものではない。



《【アオ】/メアリさん、ありがとう……》



 最後に一際大きな一輪が湖の水面を覆っている。

 その後歓声が地響きのようになり、だんだんと収まりそれぞれ帰路につき始める。

 一部エリアの停電が解除されたというメッセージが、個人ウィンドウに表示された。

 この世界は日常に戻っていく。また現実と離れていく。


 だけどもう何も怖くない。

 だってアオさんはわたしのお願いを何でも聞いてくれる、とっても優秀な運営スタッフさんなんだから。

 だからわたしも、アオさんのお願いをちゃんと叶えてあげるのだ。









 ††††††††††††††††††††††††††††††††††††









 街道には人影もなく、ただ静かだった。

 皆は最後のときを、それぞれの家庭で過ごすと決めているのだろう。

 全ての店は閉まっていて、信号も機能せずバスもやってこない。

 そんな外を意味もなく出歩く人は、そうそういないと思う。


 運営チームも一月前に解散となり、わたしもやることがなくなった。

 ただ、ずっとあの人を待っている。

 春の陽気がわたしの体を照らし、春風が全身を包み込む。

 こんなに気持ちのいいプレゼントを与えてくれる、あの白い太陽もそろそろお別れだ。


 全てが計算で生まれたものだとしても、わたしにとっては十分本物だった。

 全てが無に帰すことになるけれど、そこまで残念に思うことではない。

 少なくともわたしにとっては、この世界にやってくる前の、ずっと眠っていただけの時間が戻ってくるだけだ。

 経験しているだけに、そんなに怖くはない。


 他の人々だって恐怖に怯えるわけでもなく、ただ静かに最後のときを過ごしている。

 VR空間での生活は、凡人でも悟りの境地に至るのに十分な長さだったようだ。

 遠くの景色が見えなくなり、色調が不鮮明になる。

 視力が落ちたように感じてしまう。

 恐らく供給電力が急激に弱くなり、サーバーの計算力が落ちている。

 最低限必要な演算にのみ集中し、少しでもこの世界の寿命を引き延ばそうとしているのだ。


 ゆっくりと見えなくなっていく風景を噛みしめながら、歩みを進める。

 大好きだった町もこれで終わりか。

 だけどこうやってお別れを告げることができるのだから、現実でいなくなってしまった人々よりは、とっても恵まれているとは思う。

 ついには、わたしの目には色が映らなくなり、線と白だけで世界が描写される。

 今頃は現実の融合炉も凍りだして、いよいよ地球上での全ての活動が終了する。

 わたしはそのときを、どんな気持ちで迎えるのだろう。


 でもそんなことを考えていても仕方がない。

 わたしには最後の仕事が残っている。

 運営スタッフとして、最後の移住者を迎えに行くのだ。

 ログインしたときの初期位置は決まっているため、そこへ向かう。

 随分遅くなってしまったけど、最後の瞬間まで待ってあげるのがわたし達の約束だ。


 世界が崩れる音がする。もうサーバーも限界なのだろう。

 ログイン地点で待っていても、人影はなく、だんだんと線で描写されたオブジェクトが消えていくだけだ。

 一瞬でいい。そこからの長さはもう関係ない。

 必ずこちらにやってくるという約束を、わたしの望みを叶えてもらうだけなんだ。


 全てが白になる。耳も聞こえない。

 だからこそ、すぐに捉えることができた。

 フードで隠されていない顔。

 コートの上からでは分からなかった細身の体。

 線だけで作られたあの人は惚けた顔をしている。

 わたしだってどんな顔をしているのか分からない。

 話したいことは一杯ある。

 この長すぎた人生は、どんなに圧縮したって語り切ることはできない。

 だけど、大事なことは一言で言える。


 ずっと貴方を思って、待っていた。

 あともう少し。

 全ての感覚が鈍り距離感が掴めなくなるけれど、あとほんの少しのはず。

 この出会いは、現実では刹那に満たない瞬きなのかもしれない。

 だけど、貴方の電子でできた体に飛び込むまでは、どうか待って欲しい。

 世界が凍てつく、その前に。やっと、貴方を見つけた。


<了>



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
遅れてきたサイバーパンクの傑作。あるいはVR時代の「渚にて」。ハヤカワか創元から出てれば星雲賞って声も上がったろう。
またどこかの星、どこかの世界で彼ら彼女らが幸せに過ごせますように
[一言] (´;ω;`)泣いちゃいました……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。