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僕以外の人類はVR空間に移住した  作者: 佩ロッシュ
VR空間3
42/48

《【アオ】/ログイン処理を開始させました。もう間もなく自分は気を失うと思います。そうなる寸前まで、思ったことを伝えておこうと思います。気温が想定より高いです。もう少しはこの体も、設備も持ちこたえてくれるのでしょう》



 真冬のせいで悴んだ手で、アオさんからのメッセージを撫でる。舞う雪が透過ウィンドウの邪魔をして、ちゃんと読むことができない。いや、違うのか。少し潤んだ瞳が、文字の輪郭を暈して捉えているのだ。



「メアリ、どうしたの? 感動しちゃった?」



 一番の親友が、目をこするわたしの腕にしがみついてくる。



「えっと、まあ、そうなのかな」



 雪で作られた巨大な像を見上げる。有名なマスコットや、文化遺産を模したものまで、様々な氷の芸術品がところ狭しと並んでいる。


 これらを集めて、会場をセッティングしたのはミユの会社だ。



「ちゃんと楽しんでね。メアリのお祝いのために結構無茶したんだから。ああ、これ内緒ね。横領とかで捕まる」



 笑いながらミユは、わたしの手袋に彼女の手を重ねる。寒すぎる空間に、この暖かさはありがたい。

 だけどここまで寒くする必要はあるのだろうか。

 いくら冬を演出するためといっても、どうとでも融通が利く世界なのだから、もう少し過ごしやすい気候に変えてくれてもいいと思う。



「もう冬は二十回以上経験していると思うけど、まだ慣れないね」

「ちょっと寒かった? この会場は特別温度を低くしてもらっているから、寒いのは仕方ないよ」



 平気そうなミユが、震えるわたしに抱きついてくる。ダウンコートのもふもふが重なる感触が、わたしをとっても安心させてくれるのだ。



「あれ、でもなんでこんなに寒くする必要があるの?」



 イベントの主催者が望むなら、参加者はそれに応じるしかないが、ちょっと意地悪じゃないかな。



「いやいや。普通の設定だと雪像が溶けちゃうでしょ。私の会社は本物に拘るからね。溶けるかどうかもちゃんと物理演算してあるの。だから雪国くらいの温度にして、ライトアップの光の強さもちゃんと考えてやっているんだ」



 雪でできたお城が、光に照らされてほんの少し溶ける。

 その水分がライトを反射しぴかぴか輝く。とっても綺麗で心が奪われそうになりそうだ。

 現実のあの幻想的な景色を見たのも、もう二十年以上前か。あのとき見た世界は確かに、これと同じくらい美しかったと思う。



「現実と同じくらい寒くすることで、この見た目を再現するってこと? すごい拘ってるね」

「あはは。現実の寒さはこんなもんじゃないよ。ああ、メアリは知らないんだっけ。えーっと、例えると、こんな薄着だとすぐ凍っちゃうくらい寒い」



 VR空間の雪国エリアにも行ったこともないわたしには、にわかには信じられなかった。そんなのもう、生物が生きていられる場所じゃない。

 いや、だから人類はVR空間に移住してきたわけだけども。でも、まだそんな世界で闘っている人がいる。

 こんな寒いことすら楽しませてくれる世界を、わたしに与えてくれた人。滅茶苦茶時間がかかっちゃったけど、やっとわたしは一歩前進できる。



「こんなに、寒いのに、人一杯いるね」

「そりゃあ、本物志向のうちのイベントは毎回大盛況だしねー。って、メアリ、そんなに寒い? 運営スタッフに言って、ここだけ温度変えてもらう?」



 がたがたしてるわたしを見かねてか、ミユは個人ウィンドウを表示させ、運営にコールしようとする。



「いやいいよ。それだと折角の雪だるまが溶けちゃうんでしょ」

「いやいやメアリが主役のイベントなんだし。私はそのつもりで企画したんだよ」

「えー、大げさだなあ」

「まあいいから。運営スタッフに連絡して、私の周りだけでも温度を変えてもらうよ。あ、運営スタッフって私の隣にもいたわ」



 ミユはにやにやしながら、わたしの手をぎゅっと掴んでくる。



「まだどこにも所属してないけどね」

「でもやっとメアリのやりたかったことが始まるんだね。合格おめでとう、メアリ」



 わたし達を囲む様々な氷のオブジェは、きらきら輝いて眩しいくらい。こんな光景、アオさんにも早く見せてあげたい。



「ありがとう。ミユのおかげだよ」



 それにアオさんのおかげ。何もできないわたしに、可能性を、未来を、夢を教えてくれた。

 これから何ができるのかはまだ分からないけれど、これからはわたしの番だ。


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