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僕以外の人類はVR空間に移住した  作者: 佩ロッシュ
VR空間3
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 待つことには慣れつつあるけれど、もしかして何も前進してはいないのではないかと不安になる。

 いや、逆に考えよう。時間はまだたっぷりあるということ。わたしが試験に未だ合格できないこともまだまだ取り返しが効くはず。

 少しきつめの日光がアスファルトから反射して、わたしの瞳を焦がそうとする。

 目を逸らそうと空を見上げると、ビルの巨大ディスプレイに表示された人物が視界に入った。なにかの番組を流しているみたいで、自然とわたしの意識もそちらに奪われてしまう。



『それでは今日のゲストは、あの高名なエンジニア、そして世界を救った英雄のザイトさんです。ザイトさん、よろしくお願いします』

『……ん、よろしく』



 司会役の女の人と並んで、雪男のような見た目の人が腕を組んで無愛想な顔でいた。

 あの人のことはよく知っている。

 この世界の人なら誰でもそうだろう。アオさんと最後にお話しした後、VR空間の加速が最終段階に計画通り達したとみんなが大騒ぎした。

 そのとき、よく一緒に話題に上がったのがこの人だ。どうやらこの人のお蔭でわたし達は生きていられるらしい。その偉業は、とっても感謝すべきことだと思う。だけど、ちょっと気に入らない点もある。



『ザイトさんはVR空間の開発を行うために、最後まで現実に残った人間としても有名ですよね』



 あの司会役のお姉さんが言う通り、ザイトって人が本物の地球にいた最後の人類なのらしい。少なくとも公式発表ではそうなっている。


 わたし以外の人は、それが事実だと思い込もうとしているのだ。



『だからよぉ、違うって言ってんだろ。何度も言わすな』

『違う、と言いますと?』

『俺の代わりに残っているやつがいる。そいつが最後まで戦っているんだ。俺を持ち上げた方が色々都合がいいのは分かるけどよぉ、違ぇだろ。ああ、これ生放送か。悪いな、口止めされてたけど言っちまった』

『あの、ええと……それでは、まず、現実で一番大変だったことをお聞きしましょうか』



 司会の人が眉をひそめながら無理やり笑顔を作り出し、進行を強行する。

 ちょっとすかっとした。偉い人たちは誰かを見殺しにこの世界を成立させているなんて認めたくないんだ。そのことに皆は気づいているのに、知らないふりをしていることがどこか少し気持ち悪かった。

 そのことに対する反論が、一番の当事者であるザイトって人の口から飛び出たのは心強いものがある。



『大変だったことぉ? そりゃ、寒いけどよぉ、そんなもん我慢すりゃいいだけだろ。そんなもんより、もっと大変なものが今起きているぜ』

『それは、なんでしょうか?』

『現実に残してきたやつの処遇だろぉ。そいつがログインできるようにするためには、どうすればいいか、今頭を悩ましているんだなぁ』

『あの、ザイトさん、その話は……』



 司会の女性が話を遮ろうとするも、火に油を注ぐことになる。



『ああ? いいだろうが! 台本ないっていうから出演してやってんだぞ。俺がVR空間にログインしてから、まるで英雄のように迎え入れられた。俺は小物だからよぉ、それで喜んじまったんだなぁ。滅茶苦茶出世させられても、色々な権力をもらっても、俺は逆に心苦しくなっていくだけだった。やっと気づいたんだ。アオをこっちにつれてこねえと、この世界は完成しねぇ』



 あの人の名前が出てきて、それがわたし以外の口から出てきて、わたしの心は揺さぶられた。涙腺が緩んで、ぽたぽたと水分を垂らしていく。

 わたしの目指していた道は、間違っていなかったんだ。

 どんなに困難でもやってやろうといきこんでいても、流石に自分一人で進める道ではないことくらい分かっている。やっと、心強い味方を見つけた気がした。



『ザイトさん、本当に別の話題をお願いします』

『知らねえよ! 俺はなあ、チームを作ることにした! 俺の馬鹿げたプロジェクトは誰も力を貸してくんねぇ。それでどうしてもやりたいのなら、ゼロから立ち上げろって言われたからな、ここに宣伝させてもらいにきたってわけだ』



 あの人も、アオさんのために何かしようとしていたんだ。



『最後に言わせてくれぇ! 俺に協力してくれる奇特な野郎は、俺んとこへ来い! おい、放せよ! いいか、絶対だぞ!』



 制止する係官に連れ出されながらもザイトっていう人は、カメラを見据えて吠えていた。あの英雄視されている人物ですら、公にしてはいけないことがある。そんなこと絶対おかしいよ。わたしはそんな世界を認めたくない。

 勉強疲れしていたわたしの拳が、強く締め直される。

 こんなところで立ち止まっていてはいけない。

 何度試験に落ちたって、何度でも立ち上がってやる。アオさんだって無理だと言っていることをやろうとしているんだから。

 わたしは絶対に運営スタッフになる。

 そして、あのザイトさんと一緒に、この世界に足りないものを埋めるんだ。


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