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僕以外の人類はVR空間に移住した  作者: 佩ロッシュ
VR空間3
40/48

《【アオ】/一文字ずつ表示させると、悪戯に思われてしまうかもしれませんので、ある程度の文字量が転送できるまでお見せしない設定にしました。大分時間がかかってしまうかもしれませんが、他に方法が思いつかないのです》



 あれからメッセージが初めて届いたのは、VR空間で三年経過してからだった。

大体三年。

 あんまりきっちり数えていると、嫌な女だと思われるかもしれないので、もう開き直ってゆっくり待つことにしようと思っていた。


 それでも遅すぎるので、何度か話しかけようとしたけれど、ただ今ログイン中ですというエラーが返ってくるだけで通話も何もできなかった。


 それはそれでちゃんとログインを試みてくれているということだから、わたしとしては嬉しいのだけれど。あのアオさんは仕事のために死にますって言い出しそうだったから、VR空間に来てくれる気持ちになってくれて、本当によかった。


 後は待つだけ、と言いたいところだけれど、アオさんの言っていたことを思い出すと、色々と難しい課題があるみたい。特異点を超えたら間に合わないとか、どうとか。

 そういった問題をこちら側でなんとかできるものなら、なんとかしておきたいと、そう思って三年経った。可能なら、それを仕事にしたい。


 そう思い続けているのだけれども、まだわたしは無職のままなのだった。



「メアリ、また勉強してるの? えらいねー」

「わたしは諦めないからね。年齢制限とかないみたいだし。というかわたしはずっと十六のままだし」

「成長しない設定にしてるんだ。まあ、私もだけど。それにしては、なんか雰囲気変わってない?」

「え」



 この前、暇そうにしていたエステショップのお姉さんの口車に乗せられて、仕方なく! そう、仕方なくまたあれをやったのだ。別にいいでしょ、これくらい。



「まあ、いいや。でも頭の方は全然成長しないみたいねー」



 ミユはわたしの参考書をひょいと奪い取り、自分のウィンドウにコピーして見つめた。



「ミユ、分かるの?」

「いや、全然。なに、この計算式、長すぎでしょ。でもメアリはこういうの興味あったんだ。だから、あいつと」

「いやー、うん、はい」

「本当は、私とイベンターやって欲しかったんだけどなー。今度独立して会社作ろうと思って」

「えー、すごい! おめでとう、社長になっちゃうんだ」

「ありがと。だけどまずは人集めからで大変だけどね。でも夢だから」



 そうだ、夢。この本物に見える嘘ばかりの世界で、やっとわたしは本物の夢を見つけたんだ。

 わたしが目指している職業は、なかなか人員募集がされない上、採用試験がとっても難しい。とっても重要なお仕事だから、優秀な人しかなれないのは当然だ。

 今までろくに勉強してこなかったわたしが志していいものではないのかもしれないけれど、それでもわたしはなるって決めたんだ。

 参考書データに目を通すと、まだ頭がくらくらしそうだ。まずはこいつをやっつけられるようにならないと。

 カフェのテラスで勉強していると、時折桜の花びらがひらひら舞って手元に落ちてくる。

 こんなに可愛らしい訪問客がいると、頭の疲れが吹き飛んでしまう。

 東洋エリアの春は、とても過ごしやすく暖かい。

 だけどこんな環境を築きあげたのは、様々な人々の努力と犠牲の賜物だということに、勉強を進めるほど知ってしまう。

 だからそんな人達の一助となりたいと願うことは偽善でもなんでもなく、きっと素直な願望なのだ。

 それほどに、この世界は完璧で、あの太陽は今日も眩しい。


《【アオ】/メアリさんがこのメッセージを読んでいるときには、どれくらいの時間が経っているのでしょうか。そんなことを考えてしまうと、何も纏まらず言いたいことも言えなくなります。まずは近況報告でもしますか。加速は最終段階に到達し順調です。もう知っているかもしれませんが、これでVR空間の永遠は保証されました。厳密にはいつか終わりが来ますが、人間にとっては余りにも長い人生になるのでしょうね》



 夏用の服を買いに商業区を歩いていると、アオさんからのメッセージが届いたことに気がついた。

 嬉しさと懐かしさと、それに怖さみたいなものが同時に込み上げてきて、ショッピングの足も止まってしまう。

 VR空間の加速が滞りなく完了し、特異点を超えたというニュースを聞いたのは何年前のことだろう。

 あれから、現実とVR空間の乖離はますます酷くなる一方だ。

 わたしにとってはこの初夏が何度目なのか分からなくなるくらい時間が経ったが、アオさんにとっては一瞬なんだ。

 本当のわたしがいる安置所に来てくれて、まだそこに留まっている。


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