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アオさんが一方的に何か言ってきた後、わたしは突然何も見えず、何も聞こえなくなる。
宇宙空間に放り投げられたように、上下左右も分からない。温度も感じない。何なのこれ。
真っ暗な空間がやっと終わったと思ったら、今度は薄暗い街へ放り出される。
久しぶりな気がする重力に抵抗して大地を踏みしめると、ここがお馴染みの場所だと気がつく。
「メアリ? なんでここにいんの? 欧州エリアに行ったんでしょ?」
驚いた顔のミユの背後に、何輪もの火薬の華が夜景に咲いていた。ということはここは東洋エリアだ。時差があるから、こっちは花火を見るのに丁度いい時間なんだ。
辺りが暗くちょっと寒い理由は分かったが、どうしてわたしがここにいるかは分からない。
「えーっと、わたしもどうしてこうなったのかは分かんないけど、そのっ、ミユ、ごめんね!」
「なにが?」
深々と頭を下げてからちらりとミユの方を見ると、ぽかんとした顔がそこにあった。
「なにって、わたしミユに色々心配かけちゃった」
「いーよ、もう。こうやって花火が間に合ったんだしさ。それより、メアリはなんか違法なことやってないよね?」
「違法ってなに?」
「瞬間移動とかさ。ばれたらまずいらしいよ」
「あー。多分、大丈夫、かな」
これはアオさんが運営スタッフの権限でやってくれたんだろう。ちょいとサービスが良すぎると思うけど。
「よし、メアリ。見晴らしのいいところへ行って、花火を見よう。折角用意したんだからさ」
ミユはわたしの腕を掴んでぐいぐいと進んでいく。時間を惜しむように、上を向いた人の群れをかき分けて歩みを進める。
秋の花火は、これはこれで綺麗だ。ゲリラ的に発生した花火大会なので、何も準備できていないけれど、それは仕方がないことだと思う。
『メアリさん、通報の件も、今回の花火も全ての処理はこちらで責任持ってしておきます。メアリさん達が何か罰を受けるようなことはないでしょう。そして、これは最後のサービスです』
アオさんの声が聞こえたと思ったら、わたしとミユの服が一瞬真っ黒になって、全く別なものに置き換わる。ミユとつないだ手の真下で、お互いの長い袖がぶつかり合う。
これは夏の浴衣だ。しかもミユの髪型が変わっている。わたしの頭も結っているような違和感があるから、浴衣に合わせた髪型になっているのかな。
「えっ、なにこれ? メアリ知ってる?」
すごく可愛い綺麗な浴衣姿に驚いていると、不思議と体温が高くなっているように感じる。これは秋の夜に薄着しても寒くならないように取り計らってくれたのかもしれない。
「これはね、現実に最後まで残ってくれているスタッフさんが、気を利かせてくれたんだよ」
「……なにそれ、勝手なことを……」
「この花火だってさ、本当は無駄になっちゃうところを打ち上げてくれているんだよ」
「ふうん……」
ミユは一瞬歯を噛みしめた後、全身の力を一旦抜いて頬を染め上げる。
「メアリ、今度……お礼言っておいて……よ」
「……うん!」
青黒い空に一際目立つ大輪が咲き、それに遅れて大音量がやってくる。目がちょっとちかちかして、耳も鼓膜に圧迫感が発生してきんきんする。
「ほら、花火はすごいでしょ」
「うん。すごいね」
町はずれの丘にある神社から、二人空を見上げる。花火が打ち上がるごとに、夜空が綺麗に染め上がる。
「誕生日おめでとうメアリ。間に合ってよかった」
「ありがとう。ミユ、ずっと友達でいてね」
賢い人からすれば、あの花火だって結局はコンピュータで計算されたただの情報なのだと言うのかもしれない。
だけど、この重なった手の暖かさは、絶対に本物のはずなんだ。
わたしはそう信じている。




