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僕以外の人類はVR空間に移住した  作者: 佩ロッシュ
VR空間2
34/48

 分かった。あれはアオさんが先回りして動かしているんだ。

 わたしが全力疾走をし続けると信じて、それにタイミングを合わせている。このばっちり具合はそうとしか思えない。



「間に合って――――!」



 気合の掛け声と共に、閉じていく空間に滑り込む。つるつるな綺麗な床だったので、わたしは気持ちよくカーリングのストーンになる。

 連打される銃声と銃弾は、分厚い防火シャッターに遮られた。

 これだけ頼もしい壁が味方になったなら、逃げ切ったも当然だろう。わたしは立ち上がって、倉庫へと進んだ。



『アオさん、逃げ切れたよ! これから花火のとこに行くね』



 返事がすぐに来ないのは分かっている。でも言っておきたい気分だった。

 気持ちを切り替えてマップを凝視することにしよう。

 倉庫の中には幸い人がおらず、ご自由にどうぞといった感じだった。

 CA34のタグが付いている貨物を探そうとするも、遠くにある箱が、ぴかぴか青白く光って自己主張していることに気がつく。

 ああ、あれはアオさんが気を利かせてくれたのかな。


 急いで近づくと、見覚えのある箱に、触った憶えのある錠前が視界に入ってくる。これだ。昔、ミユと一緒に運んだ記憶がある。

 この箱を開ければ、爆弾と化した花火を機能停止させられるはず。

 所持品リストからミユの鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。

 ごめんね、ミユ。次は花火イベントをちゃんと成功させてね。


 鍵を回すと、カチャリと音が鳴る。

 だけど音がするだけでロックは解除されない。

 あれ、おかしいな。何度もカチャカチャ鍵を動かしても、びくともしない。ちゃんと差し込めているから、鍵を間違えているわけではないはず。

 コツがあるのかと思って何度も挑戦していると、急にアラームが鳴り響き、わたしの眼前に文字入力フォームが出現した。



「一分後に爆発します。一分後に爆発します。一分後に爆発します」

「え、なにこれ? 爆発?」



 なんか聞いていたのと違う。どうしようかと思っている時間も惜しい。

 ここで逃げたらわたしは、立派なテロリストとして追われる身になるだろう。しかもそれだけではなく、それに加担したアオさんも罪に問われるかもしれない。

 折角VR空間にやってこれても、刑務所からスタートなんて可哀想すぎるでしょ。

 この入力フォームは四文字分受け付けるスペースがある。普通に考えれば四ケタの暗証番号だ。それを設定した人物はミユのはず。


 まずはロッカーと同じく、ミユの誕生日を入れてみる。



「パスワードが異なります。四十秒後に爆発します」



 アオさんに解析を依頼する時間はない。ミユに直接聞くしかない。



『ミユ! 後で何でも言うこと聞くから! ちゃんと謝るし! だから、鍵の番号教えて!』



 すぐに通話回線を繋げて、ミユに泣きつくような音声情報を送りつける。すると即座にわたしを諭す声が返ってきた。



『……メアリ、まだ保護されてないの? 早く帰ってきなよ』

『わたしのこと心配してくれているんだよね? それは感謝してる。だけど今はパスワードを教えて欲しいの!』

『なんでそれが必要なの? 危ないことはやめてよね』

『ねえ、ミユ、お願い。わたしは大切な人達を守りたい。この気持ちは本当だし、それはミユを裏切ることにはならないよ』

『分かったから帰ってきなよ、本当にさ。今日何があると思っているの』

『これはやらなきゃいけないことなの! それが終わったら帰るよ! これは、誰も傷つかないようにするため、本当に必要なことなの! 信じて!』



 わたしは多分生まれてから一番の大声で叫んだ。こうしないと別のサーバーにいるミユに、本当の気持ちが伝わらないと思ったから。

 十分に広い倉庫の中で、わたしの絶叫がこだまする。そこへ深い溜息が割り込んできた。



『はー。本当に、メアリはそのパスワード分からないの?』

『うん。ミユの誕生日を入れても駄目だった』

『はあ、メアリって本当にばか』

『知ってる。だから教えてよ』

『今日の日付だよ』



 今日って、なんだっけ。いや、そんな。

 ミユが一生懸命用意した花火を守る鍵が、そんな番号だなんて。もしかしたらわたしは、もう少しで大事なものを全て失うところだったのかもしれない。

 そんな思いを噛みしめて、恐る恐るパスワードを入力する。



「解除キーを受け付けました。自爆機能を停止します」



 という機械音が流れた後、錠前が外れて中身が取れるようになる。

 ボーリングのボールのようなかんしゃく玉に、文字が書いてある。

 ハッピーバースデー。



『メアリさん、メアリさんが鍵を使用したら一斉に花火のコピーが自爆しようとしましたが、パスワードが共通だったため、開錠には成功しました。しかしこのままだといずれ爆発しますので、ここで消費してしまいますね。これから起こることに驚かないでください。物理演算機能は今だけ無効にしてありますので』



 アオさんの言葉とほぼ同時に、どこか遠くで爆発音がする。

 倉庫を飛び出してその方角の空を見上げると、赤、緑、オレンジ、様々な色が青いキャンパスを綺麗に染め上げようとしていた。



「わー、綺麗な花火」



 驚愕というより感嘆の息が、自然と漏れる。



『もうこうなったら、後は野となれ山となれです。証拠隠滅も兼ねて、全部使い切ってしまいましょう。メアリさんが持っている花火も、空が見える場所に置いて離れてください。こちらで打ち上げます』



 アオさんの言う通りにしてしばし待つと、本当に打ち上がって花を咲かせてしまう。空港の建物の窓から、旅行客達が身を乗り出して見ている。

 みんなびっくりしながらも楽しんでいるようだった。



『なにこれなにこれ! なんで勝手に花火打ち上がってんの? 花火大会の申請は通ったけど、勝手に始まっちゃうものなの? メアリなんか知ってる?』



ミユの画面がこちらに向いていたので、空に向けてこちらの様子も見せてあげる。



『こっちもだよ。欧州エリアはまだ昼だから、あんまり綺麗じゃないけど』



 そう考えると、サーバーが違えば、違う空になってしまうのか。わたしとミユは同じ空を見ているわけではない。そこはVR空間の珍しい欠点なのかもしれない。



『メアリが鍵持ち出したのって、これのこと?』

『まあ、そうなるのかな。なんか勝手に爆発しそうだったんだって。それをアオさんから教えてもらったから、回収しようとしたの』

『そうだったんだ。最初からそう言えばいいのに』

『言ったと思うけど。それに今はすんなり信じてくれるんだね』

『メアリの言うことは、最初から信じてるよ』

『じゃあなんでミユは通報しちゃったの?』

『あのさあ、友達が爆弾取りに行くって言ってさ、止めないやつがいると思う? メアリは私がどれだけ心配したか分からない?』



 そう言われてわたしは、はっとなる。わたしはみんなのことを考えているようで、その実あまり考えていられなかったんだ。

 わたしがミユのこと心配しているように、ミユはわたしのことを思ってくれている。そのことにわたしの心臓は苦しそうに力強く弾む。



『……ごめんね、ミユ』

『いいよ。こっちこそごめんね。それより、一緒に花火見たかったね』



 今から東洋エリアに戻っても、花火は残っているのだろうか。

 いや、そもそも予約もしないで帰りの便を用意できるものなのだろうか。

 滑走路をぶらぶら歩き、ターミナル入口へと戻ろうとする。欧州の空も綺麗だけど、今はやっぱりミユのいる東洋エリアの空が恋しい。



『メアリさん、戻りたいですよね? 時間が惜しいので勝手に動きます。花火は順次消化していますが、まだ続きますよ』


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