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アザレアを君に贈ろう 終

作者: 柊 仁

この作品を手に取っていただきありがとうございます。柊 仁です。この作品は「アザレアを君に贈ろう」「アザレアを君に贈ろう 続」「アザレアを君に贈ろう 翔」の続編です。

この作品が最終回なので順に読んでいただけると嬉しいです。

評価やレビューをしていただけると幸いです。

友達



達也と知り合い一緒に遊びに行った翌日、颯太郎はいつもより早く家を出た。


早く学校に行きたい。そんな気がした。


夏になるとこの町は色を変える。

春は桃色、夏は緑色、秋は紅色、冬は白色と、自然が豊かなこの町ならではの景色が見られる。


車庫から自転車を取り出しペダルを漕ぐとすぅーっと軽く自転車が進んだ。


きっと神様が僕のことを後押ししてくれてるんだ。


こんなに学校に行きたくなったのは生まれて初めてなのかもしれない。


"友達''と呼べる存在が一人二人いるだけで見える景色がこんなにも変わってくるのか。


中学の頃に見ていた景色とは比べ物にならない、今の僕だからこそ見える景色。


自転車をいつもの駐輪場に止め、そこから徒歩で学校に向かった。


周りには僕と同じ制服を着た生徒が楽しそうに話しながら何人かで歩いている。


「確か入学した頃もこんな感じだったなぁ」


でも今は違う。

僕には話せる人が出来たんだ。

一緒にパン屋に行こうって約束した人もいる。

僕は変わった。

少なくともそう思っていた。_________


校門をくぐり上履きを履いて1-5の教室に向かった。


今日は達也に僕の知らない事をもっと教えて貰いたいな。


ドアを開け、自分の席に荷物を置いた。

後ろの席に達也はいなかった。


まだ来てないのかな…


10分経っても達也は来ず、そのまま朝のショートホームルームが始まった。


すると高崎先生が皆の前で思いもよらない事を口にした。


「急な話だが、大沢は転校する事になった。親の仕事の都合で九州の高校に行くそうだ。

いきなりの事だが伝えておく」


その瞬間、颯太郎の頭の中で時が止まったような気がした。


昨日初めて知り合ったばっかなのに?


あまりにもいきなりすぎて颯太郎は何も考える事が出来なかった。


午前の授業はずっと放心状態で先生の話なんて何一つ聞いていなかった。


昼休みを知らせるチャイムが鳴ると、気がつくと颯太郎は屋上に向かっていた。


唯一本心を晒け出せる場所。

渚と出逢った場所。

颯太郎は、渚に会えば落ち着けるかも知れない。と心のどこかで思っていた。


屋上に繋がるドアを開けると、そこには誰もいなかった。


急に孤独になった感じがしてその場に立ち尽くすしか無かった。


「いくらなんでも酷いよ達也。

まだ知らない事がいっぱいあるのに。

もっと色んな所に一緒に行きたかったのに。

こんなの…酷いよ…また一人ぼっちだよ…」


達也との思い出が颯太郎の中に蘇ってきた。


たった一日、一日だけでも一緒にいれたことが本当に嬉しかった。

颯太郎にとって初めての事ばかりで、沢山の事を達也は教えてくれた。


そんな達也が、もういないなんて…


その日は誰とも話す事なく、家路に着いた。



達也がいなくなってから一週間が過ぎた。


後から聞いた噂だと、達也が転校した理由は、親の転勤なんかじゃ無く、周りからのいじめだったらしい。


周りのクラスメイトがその事を話しているのを聞いた僕はそれが信じられなかった。


あんなに気さくに話しかけてくれてお弁当まで僕と一緒に食べてくれたのに。


彼がいじめられていたなんてその時の颯太郎にはとても考えられないだろう。


いてもたってもいられなくなった颯太郎は高崎先生から達也の家の電話番号を聞き、昼休みに屋上で電話をかけた。


プルルルルルル


出てくれるだろうか…


すると携帯電話の向こうから女性の声がした。


「はい」


「あ、もしもし。僕、達也君の友達の橋場颯太郎と言います。その、転校するって聞いて…」


「そう。あなたが颯太郎君ね。うちの達也と友達になってくれてありがとね。

あの子、あの日家に帰って来て本当に楽しそうにあなたのこと話してたのよ。初めて友達が出来たって」


その事を聞いてびっくりした。

達也も、僕と同じだったんだ…


「今、達也と変わるわね」


「はい。ありがとうございます」


「もしもし。颯太郎か?」


声の質が変わった。達也だ。


「うん。そうだよ。達也ごめんね。僕何も知らなくて…」


「こちらこそごめん。何も言わずに転校して颯太郎に辛い思いをさせちゃったな…」


携帯電話の向こうで達也が泣いている。

あの達也が…


「俺な。もう知ってると思うけどいじめられてたんだ。クラスメイトから。俺も入学した頃は人見知りで颯太郎みたいに話すことが苦手で周りが見られなかった。そうしたらだんだん周りも自分を避け初めて"大沢は何も喋らないキモい奴って言われるようになったんだ」


「そうすると、勇気出して話そうと思っても話しづらくなっちまった。"本当の自分"が分からなくなってこれからどうすればいいかなんて悩んでたら前の席にお前がいたんだ。俺と同じような奴がいるんだってびっくりしたよ。どうにかして話しかけようと思ってたけどなかなかタイミングが見つからなかった。

でも古典の授業でようやく話しかけるチャンスが来て勇気を出して話しかけたんだ。

こいつには"本当の自分"として話しかけよう。

きっと分かってくれる。ってな」


彼の言葉を聞いて涙が溢れかえってきた。


僕は元々達也の事を明るく誰にでも話しかけられる人と思っていた。

けど違った。

達也だって色々悩んで、悩んだ末に僕を見つけて勇気を出して話しかけてくれたんだ。


「達也にそんな事があったなんて僕知らなかった。達也。僕と友達になってくれてありがとう。僕も達也の前では''自分"らしく話すことができた。本心を言えた。颯太郎がいたから頑張ろうって思えたんだ。たった一日だったけど僕はあの思い出を一生忘れない」


「俺もだ。颯太郎は永遠に友達だ!」


僕たちは気づけば泣きながら話していた。

電話だから顔は見えないけれどきっと達也なら泣きながら笑っているだろう。達也はそういう奴だ。それが達也なんだ。


達也に別れを告げ電話を切ると、時計の針はもう5時間目が始まる5分前を指していた。


「そういえばお昼まだ食べてない!」

でもまぁいっか…


颯太郎にはそれがどうでもよかった。

達也に気持ちを伝えられた事、達也の本心を聞けたことでもう十分だった。


「達也がいなくなっても僕は僕だ。これからの学校生活、達也の為にも頑張るぞ!」


よくよく考えてみれば、僕がここまで来れたのも、あの日渚に出逢えたからかな。

渚が僕をここまで後押ししてくれた。

渚がいなかったら達也とも話せてなかったと思う。


「本当に僕は人に何かして貰ってばっかだなぁ」


自分から何かしなければ。颯太郎はそう思った。


それから颯太郎はクラスメイトに積極的に話しかけるようになった。

颯太郎と同じように話す事が苦手で一人でいるような生徒とも打ち解け、互いに悩みを話す程にもなった。


颯太郎の日常は少しずつ変わっていったのだ。



アザレア



季節が変わり、颯太郎は二年生になった。

道沿いに桜が咲いていて、その真ん中を自転車で走るのはとても気持ちが良かった。


「渚と図書館で初めて出逢ったのもこの時期だったっけ」


颯太郎は図書館に向かっていた。

今日は休日だったので家にいても仕方ないと思い自転車を走らせてきたのだ。


それに、図書館にはどことなく渚がいるような気がしたから。


自転車を止めて自動ドアから中に入ると、あの日座っていた席に向かった。


相変わらず図書館内は空いていて、勉強をしてる人も少なかった。


これじゃあ誰もいないか。


そう思った時、あの日僕が座っていた席に美少女が一人、本を読んで座っていた。


「渚…」


受験勉強に一生懸命励んでいたあの時と光景が全く一緒だった。

違うのは僕が後から来た。というだけだ。


窓の外にはあの日と同じ名前も知らない花がいくつも咲いていた。

ピンク、白、赤、紫。

どれも美しくて、彼女の後ろ姿に似合っていた。

まるで一つの絵画を観ているようだった。


颯太郎は見惚れる他なかった。


この時颯太郎はある事に気がついた。


僕は渚に恋をしていたのかもしれない。

あの日出逢った時からずっと。

クラスでどうしたらいいか悩んでいた時も心の片隅にはいつも渚がいた。

渚がいたからここまで来れた。


思いを伝えるなら今しかない。

あの日出逢ったここじゃなきゃ駄目なんだ。


「…渚」


勇気を出して彼女の背中に話しかけた。


彼女は振り向いて、僕に気がつき


「颯太郎君。なんでここに…」


「渚に話したい事があるんだ」


「話したい事…?」


「中学の頃に渚と出逢って高校になって運命的に再開して、僕の人生は大きく変わった。

渚がいなかったら僕はクラスメイトから避けられたまんまだったし、"友達"と呼べる存在もいなかった。

渚がいたから今の僕がいる。いつの間にか僕は、渚のことを好きになっていたんだ」


「え?」


「いや、もしかしたら気づかなかっただけで本当は出逢った頃から好きだったのかもしれない。渚、僕と"友達"以上になってくれませんか?」


渚は数秒黙り込んだ後、口を開いた。


「あの花、綺麗ね」


そういうと、窓の向こうの花を指さした。


「ピンク、白、赤、紫…あなたはどの色が好き?」


「え?…どれも綺麗だけど、強いて言えば白かな」


いきなり好きな花の色を聞かれ、颯太郎は困惑していた。


「……合格」


「え?」


「合格よ。」


渚が何を言っているのか全然分からなかった。

すると渚が話し出した。


「この花の名前はね、アザレアって言うの。

花言葉はいくつかあるんだけど、この白色のアザレアの花言葉は、"貴方に愛されて幸せです"よ」



「私は颯太郎君に愛されて幸せよ」

彼女は優しく微笑んだ。



その言葉を聞いた瞬間、颯太郎の顔は真っ赤になった。まるで赤色のアザレアの様に。


これはOKとみなして良いのだろうか…

聞くのは辞めておこう…



〜〜〜〜〜〜



その日を境に颯太郎は渚と一緒に登校するようになった。

クラスも奇跡的に一緒だった為、お弁当もクラスで食べるようになった。


颯太郎や渚に対するいじめももうすっかり無くなり、二人ともクラスに溶け込んでいる。


一人でいる生徒を見かければ一緒にお弁当食べようと誘ってクラスからはぶかれる生徒がいない様にしている。


新しく学級委員となった渚は仕事をしっかりとこなして、今やクラスの頼れる存在となっている。


颯太郎は教室の窓の外に見える桜を見ながら思った。


諦めなければいつか変われる。

変われなくてもそれを分かってくれる人がいる。

この世界も、悪くないな…と。






「アザレアを君に贈ろう 終」を読んでいただき誠にありがとうございます。

この作品にてこの物語は完結となります。

この作品を多くの方に読んでもらい、いじめに立ち向かう方が増えればいいなと思います。

自分もその中の一人です。

仲間がいることを忘れずにこれからの生活を楽しく過ごしてくれることを願うばかりです。

柊 仁

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