造り直し(リメイク)
「……それじゃ、行くよ!」
浴衣は黒魔銃を握り締めて、長谷川に向ける。
魔力を送れば送る程、威力を増すその拳銃に浴衣は少しだけの魔力を入れ込む。
拳銃を向けられた長谷川はタイミングを伺っていた。
長谷川の知識として拳銃の類いは銃口以外からの攻撃はないと確信して長谷川は浴衣が引き金を引くと同時に銃口から体を逃がせば、当たる事は無いと考え、その時を待つ。
浴衣は黒魔銃の引き金を引く。それと同時に黒魔銃の銃口から魔力が長谷川へと向かい放出される。
長谷川は放たれたその魔力を一瞬にして避ける。
「あれ?避けられちゃった」
避けられるとは思ってなかった浴衣は驚きながらも、黒魔銃に再び魔力を流し込む。
「浴衣どう見る?」
「何が?」
「あの男の動きよ」
「……魔法で身体機能を向上させたのかな?それとも能力か異能かもね」
「……そうね。だったら、また同じ事を繰り返すだけよ」
「分かってるよ。私は魔法だけじゃ無いからね」
浴衣は黒魔銃を再び長谷川に向ける。
その浴衣の行動に長谷川はもう一度、タイミングを伺い避ける準備を始める。浴衣は黒魔銃の引き金を引く。それと同時に銃口からは魔力が長谷川へと向かって放たれる。
長谷川はさっきと同じタイミングで移動を初め、黒魔銃の銃口から放たれた魔力を一瞬にして避ける事に成功した。
黒魔銃の銃口から放たれた魔力は地面へと衝突する。
長谷川は地面へと当たったその威力を見て気を引き締める。
それと同時に長谷川は疑問を抱く。最初に放たれた一撃は真っ直ぐ放たれたのに二度目に放たれた一撃は地面へと衝突した事に長谷川は浴衣が黒魔銃の角度を変えて放った事に何の意味があるのか疑問でしか無かった。
「……黒魔銃は魔力を入れる事でその魔力を増幅させ、放つ事が出来る。だけではなく、能力や異能をエネルギーへと変換させて放つ事も出来るの。この意味が分かるかな?」
「……能力をエネルギーとして放ったって事か?異能の場合魔法を使う事は出来ないから」
長谷川はナギサから聞いた知識によって浴衣の攻撃が異能では無く、能力であることを悟った。浴衣が魔法を使った時点で浴衣が使えるのは能力だけだ。能力は覚醒させる事で異能へと進化させる事が出来るがその可能性は低いと言える。
「能力をエネルギーに変換して撃った事によって、能力を付加させる事も出来るの。つまり、貴方の付近の地面は私の能力が干渉出来るってこと」
浴衣のその言葉を聞いて、長谷川は能力である電光石火を使い即座にその場から離脱する。
そんな長谷川はさっきまで居た場所を見つめて、冷や汗を流す。
その場所は地面から沼地へと変換していて、もしもその場に残っていたら足が沼に足を捕られていただろう。
それを回避出来た事に安堵出来たものの、長谷川はあの銃から放たれる一撃を避けるだけではなく、その後の浴衣の能力にも警戒しなければいけない事に長谷川は同じ場所に留まる事なく、動き回る事にした。
そんな長谷川は浴衣と琴音の回りを高速で走り回る。
「浴衣。手を貸そうか?」
「大丈夫だよ。琴音ちゃん」
「……あの男は移動系統の能力か、異能力ね」
「うん。早くて目で追えないよ。でも、なんとかするしか無いよね」
浴衣は拳銃を何度もじめんに撃ち付ける。
浴衣は自身の能力によって、辺りの地面を沼地に変換させる。
走り回っていた長谷川は足を捕られ、横転する。
「……良く、地面の変換だけで、止められると分かったわね。私は飛んでいるかもと思ったけど」
「……地面に足跡が残ってたからね。早く動く分、通常よりもはっきりとね」
「……それでどうするの?」
「……う~ん。とりあえず、拘束するよ」
浴衣は沼地と貸した箇所に銃を放つ。
沼地となっていた場所は浴衣の能力が付加された銃撃を受けた事によって普通の地面へと戻っていた。
沼地で横転した長谷川は手足が沼にはまった状態で地面へと戻った事によって、地面に食い込んだ為、立ち上がる事が出来ずに居た。
「……拘束成功ね、浴衣」
「うん。これで神奈川支部の防衛局に行けるね」
「……まだ、足掻いているみたいだけど」
「……出られないよ。出られるなら、もっと早く出てる筈でしょ?移動系統の向上だけしか出来ないなら、足を封じた時点で私達の勝ちだよ」
「そうね。それじゃ行きましょ」
二人が足を進めようとしたその時、ふらつく愛花が立ち塞がる。
「……もう無理でしょ?」
「うるさい」
「……浴衣。この少女の相手は私よ。手を出さないでね」
琴音のその言葉に浴衣は不満そうに頬を膨らませる。
そんな浴衣を見て、諦め様に琴音は告げる。
「分かったわ。好きにしなさい」
「ありがとう。琴音ちゃん」
浴衣は手にしていた黒魔銃を愛花に向ける。
「……貴女、私達と来ない?」
浴衣のその台詞に愛花は勿論だが、隣に居た琴音まで驚いていた。
「浴衣。何を言ってるの?」
「だって、魔法固定砲台だよ。即戦力になるよ」
「……そうかもね。でも、大人しく従うタイプには見えないけど」
浴衣は琴音の言葉を受け、ふらつく愛花を見つめる。
ふらつきながらも愛花のその表情は敵意を剥き出しだった。
「……あはあはは。これは、ふられちゃった」
「早く終わらせましょ」
「うん。任せて。見所あったんだけどな」
浴衣は名残惜しそうにしながらも、しっかりと銃の照準を愛花に合わせる。
拳銃を向けられても避ける事はせずに睨みを効かせ、敵を威圧させることしか出来ずに居た。
浴衣は黒魔銃の引き金を引く。
黒魔銃から放たれたその一撃を避ける事も出来なかった愛花のその体に直撃する。
浴衣の一撃に愛花は後ろの壁まで吹き飛ばされ、壁に背中が強打する。
神奈川支部が用意した者を全て倒した事によって、浴衣と琴音の警戒心や緊張感は完全に無くなっていた。
そんな二人の目の前に三人の人物が息を切らしながら、立ち塞がる。
「……神奈川支部は東京本部に襲撃しているチーム[ヴァルハラ]への対策として使えるメンバーは東京本部に行っている筈だけど……まぁ子供の手は空いているみたいね」
突然現れた三人を牽制するかの様に挑発をする琴音のその話を受け、京は挑発に乗る事も無く、冷静に言い返す。
「……はぁ~。うるせぇな。日本では東京本部の拠点にしている管理する神のチーム[ゼロ]は現在、チーム[ヴァルハラ]に協力しているって話だったが、女だけで結成されたチーム[ハンド]は激しい戦闘が行われる東京本部から離れ、ガキいびりを任されるとは……随分と信頼されているな」
京のその言葉に琴音は右手に青い電気を纏わせ、怒りのまま京に向けてその電気を放とうと動こうとしたその瞬間、琴音が放つよりも早く浴衣が手にしている黒魔銃に溜め込んだ魔力を放つ。
「ふざけるなぁ。私達[ハンド]がどれだけの事を抱えながら戦ってるのかも知らない奴がふざけた事を宣うな」
今までの無邪気な子供の浴衣とは違い怒り狂ったその浴衣の姿に仲間の琴音すら驚きを隠せずに居た。
銃口の大きさを遥かに越えた質量のその一撃は真っ直ぐ京の元へと飛んでいく。
「京!気をつけて」
京の顔を見上げながら見つめるそのナギサの心配そうな表情を目にした京は笑みを溢すと、全身から黒いオーラを大量に放出させる。
「心配するな。俺の力はお前が一番理解しているだろう?少しは信頼しろ」
「うん。信じてるよ」
「……あぁ」
京は右手に黒いオーラを集中させ、大きな竜巻状に変換させ、浴衣の放ったその一撃にぶつける。
黒いオーラの竜巻にぶつかった浴衣が放ったエネルギーは竜巻に巻き込まれ無力化される。
「浴衣の一撃を止めた?」
「……私の本気の一撃を……そんな」
冷静さにかけていたとは言え、手加減がされていないその一撃を簡単に無力化された事に攻撃浴衣は勿論、隣に居た琴音までも驚いていた。
「……黒いあの竜巻……地面に接触していたにも関わらず、地面にはダメージはあまりにも少ない。なら、攻撃力はかなり低い。あの黒いオーラは浴衣の一撃を相殺させたと言うよりも、無力化されたと見て間違い無いわね」
「うん。琴音ちゃんは手を出さないでね。私一人で倒す」
「……あの男は浴衣一人を侮辱したなら、そうするわ。あいつは私達チーム[ハンド]の全員の侮辱をしたのよ。私にもやる権利があるわ」
「……う~ん」
「そんなに一人でやりたいの?」
「……違う。琴音ちゃんの言う通りだよ。私達でやろ」
「そうね。やるからにはきっちりやらないとね」
琴音は両手に青い電気を纏わせる。
そんな琴音は浴衣の前へと立つ。
「先手は私が貰うからね」
「……分かったよ」
浴衣は諦め混じりに声を絞り出す。
そんな浴衣は京は睨み付けたその時、京の背後の子供に目を奪われる。
「あれって……」
戸惑い、驚く浴衣を見て、琴音は仕方無さそうに浴衣に話しかける。
「……あれはオリジナルよ」
「……さっきまでの人造人間のナギアじゃあ無いの?」
「……ナギアとは別格よ。あれはナギサと呼ばれていた存在よ。神の頭脳の神能力者でもあるわ」
「そんな凄いのになんで殺そうとしたの?」
「彼女の代わりは幾らでも造れるからね」
「……なんだか……」
「同情するものでは無いわ。浴衣貴女もチーム[ハンド]の副リーダーとしての自覚を持ちなさい」
「……分かってるよ。副リーダーとしてやるべき事をするよ。先ずはあの男を倒す」
「……さっきも言ったけど、先手は私よ」
「分かってるよ」
琴音は攻撃対象を京に絞り、攻撃を開始しようとしたものの、先程の京の発言に怒りを持ち続けていた琴音は、遅れてやって来た京の失態を嘲笑う。
「……ここまで来る間何してたの?地面に埋もれている男を、地面に倒れるナギアを、壁に凭れる女を見て何も思わないの?」
琴音のその発言に京は地面に埋もれている長谷川を見つめる。長谷川の背後しか見えないが、その姿は戦いの途中で動く事すら許されない様な拘束のされかたで、敵や見方にその姿を晒し続けることを余儀なくされた状態と言える長谷川に京は慰めの言葉も助ける手段も持たない。