対峙
「どうなってるの?」
全ての魔法、能力、異能を無効化する壁を消滅させた神の全身の行動に愛花は驚きを隠せずにいた。
「……もしかしたら、長崎支部の壁には魔法の鎖が取り込まれていないのかも」
「……攻撃する」
「えっ?」
「あんたの話が本当なら、私の攻撃は無効化されない。何よりも確かめた方が早い」
「そうだね」
愛花は目の前に魔法陣を出現させ、中心に魔力を一点に集める。
目映い光が魔法陣の中心で圧縮していく。愛花は魔法陣の中心で圧縮されている魔力を壁に向かって、放出させる。
愛花の魔法固定砲台と化したその一撃は壁に衝突すると、一瞬でかき消される。
「……どうやら、長崎支部の壁は正常ね」
「うん。だとしたら、神の全身は何故、侵入出来たんだろう?」
「……魔法、能力、異能は無効化出来ても、体術による破壊は出来るでしょ」
愛花は可能性の一つを長谷川に告げる。
しかし、その可能性は確実に無い事を長谷川は目にしていた。
「それは、どうだろ?」
「何で?」
「壁が薄いなら、君の言う通りになっただろうけど……見て、神の全身が通った後を」
長谷川に言われるがまま愛花は神の全身が破壊しながら、通った後を見つめる。
それを一目見た瞬間、愛花は理解出来た。
壁は分厚く、向こう側の景色が僅かに認識出来るレベルだった。
しかも、神の全身は全力疾走で走った訳では無く、子供達の走るスピードに合わせた歩き方で壁を壊すとなると、タックルで破壊したとは思えない。つまり、神の全身は全てを無効化する壁を能力を無効化される事無く、破壊して長崎支部内に侵入した事が伺える。
「……神の全身は能力を無効化されない神能力なのかも」
「……そうだね。壁を破壊した所を見てもそうだと思うよ」
「とりあえず、長崎支部内に居る美咲に電話しないと」
ーーーーーーーーーーーーーー
長崎支部内。
愛花、長谷川が神の全身と出会う前
チーム[リベンジャー]のメンバー、萱沼大地と萱沼美咲は写真しか無い情報の中、神の全身を探していた。
長崎支部内を黒髪で筋肉質な少年、萱沼大地は見渡していた。
大地はこの任務に力を入れていた。その理由はチーム[リベンジャー]のリーダーを勤めている渡辺京の為だった。妹を助ける為とは言え、京を殺そうとした大地は京に返り討ちにあったのち、ナギサによって妹である美咲、愛花を救って貰っていた。更にナギサに関わって、管理する神との戦闘に関わり、日常に戻る事が出来なくなった大地は妹と共にチーム[リベンジャー]に入る事を決めた。一度殺そうとした相手をなんの迷いも無く受け入れてくれた京の為にも、大地はいつも以上の力を入れて、地面を強く踏みしめていた。
大地の能力、地面方位は大地が地面に触れている間、地面の操作や地面に触れているものを把握する事が出来る能力だ。
大地は地面方位によって地面に触れているものを把握していく。把握出来るのは地面に触れているものの重さや人間相手なら魔法、能力、異能の持ち主位は直ぐ様把握出来る。
「お兄ちゃん。どう?」
長時間能力を使用している兄を気遣って、青髪で青い瞳の美咲は話しかける。
「問題ない」
大地からのその一言に美咲はそれ以上、口を出すことは無かった。
美咲は北海道支部の戦闘でチーム[カオス]のリーダードレア・ドレスの幻覚によって植物状態になっていた。そんな事になったせいで兄が犯罪に手を染め、色んな人々に迷惑をかけた分、チーム[リベンジャー]の役立つ様にと、頑張ると心に決めていた。
そんな美咲のスマホが鳴り始める。
美咲はポケットからスマホを取り出し、愛花からの電話に対応する。
「愛花、どうしたの?」
「美咲、神の全身が長崎支部の中に入っていたわ」
「……それじゃ、今までは長崎支部の外に居たの?」
「そう。壁を破壊して侵入したわ」
「壁を破壊?」
美咲はそうそう破壊されない壁を破壊されたと聞いて、驚きを隠せずにその声は上ずった。
美咲のその動揺は愛花も同じだった。
「あり得ないと思うけど、神の全身は長崎支部内に入ったから。私達は後を追うから」
「分かった」
美咲はスマホのポケットに入れ、兄の大地の元へと近づく。
「お兄ちゃん。神の全身は長崎支部内に居るみたい」
「……分かっている。膨大なエネルギーの塊が真っ直ぐこっち向かってくる」
「えっ?」
「間違い無い。地面方位で感じ取った」
「……膨大なエネルギーの塊」
「今までに感じた事の無い程の大きさだ」
地面に触れている限り、大地は地面を通じて相手の力量を知る事が出来る。
そんな大地は近づいて来る膨大なエネルギーが直ぐそこまで迫っている事を感じながら、冷や汗を大量に流していた。
今までに感じた事の無いエネルギー量を持つ相手に内心、恐怖していた。
「……お兄ちゃん。あれ」
美咲は逆光によってシルエットとして認識出来る人形が走って来るのを大地に伝えた。
地面方位によって大地は確信を持った。
逆光によって姿を正しく認識出来なかったが、エネルギー量から走って来る人間が先程感じ取った相手だと。
「……美咲。俺の後ろに」
「……お兄ちゃん。私も戦う」
「無理はするなよ」
「うん」
二人は逆光によって見えなかったものを正しく認識する。
気がついた時にはかなり接近していた。そのものは常に光続け、人としては手には指が無く、顔のパーツ等が無いその人間を見て、美咲と大地は動けずに発光を続けるものが通り過ぎて我に変える。
「お兄ちゃん……今のって人だった?」
「……地面方位では人間だと認識したが」
「お兄ちゃん。このままじゃ」
美咲は通りすぎていく光輝く者に逃げられると兄である大地に呼び掛ける。
「分かってる。ここで止める」
大地は地面方位を発動させ、光輝く者の地面を縦を割る。
大地はそれで光輝く者を割れ目に挟もうと地面を割いた。
しかし、光輝く者は落ちる事も無く、宙を何事も無く走り抜けていた。
「……宙を歩いた?」
大地は目の前で起きた事に直ぐに理解は出来ずに硬直していた。
「お兄ちゃん。早く追わないと」
先に走りながら、美咲は大地に呼び掛ける。
大地は美咲に言われ、我に戻ると美咲の後を追う。
「……あの光輝く者が神の全身って事で良いみたいだな」
大地は一瞬で割いた地面を宙を浮きながら走った者を目的の神の全身である事を認識する。
しかし、大地は神の全身がどんな能力なのか理解出来ずに居た。
神の全身は急に割れた地面に対応して宙に浮いたとは思えない。何があっても走り続けていただろうと大地はそう思ってしまった。
「取り敢えず、俺の能力は効くか分からない。美咲、お前の魔法なら効くかもしれん」
「うん。やってみる」
美咲は大地の指示通り、圧縮した魔力を放つ。
その一撃は神の全身を捕らえた。
「何するんですか?危ないでしょ」
攻撃が直撃した神の全身は痛い等を告げる事をしない時点で攻撃が効いていない事を悟った美咲、大地はその神の全身の奇妙さに思わず口を揃えて謝罪する。
「ごめんなさい」
取り敢えず、二人して謝ったものの、表情を読み取る事が出来ない神の全身の次の行動が読めずにいた。
「良いんですよ。失敗は誰にでもあります。しかし、誰でもそう簡単には謝る事は出来ません。二人ともしっかりと謝ってくれたじゃ無いですか。それ以上何も望みませんよ」
奇妙なその姿からは予想も出来なかった明るい声と気さくな話し方に戸惑いながら、美咲と大地は再び走り出した神の全身をただ見つめていた。
「美咲。神の全身って何?」
「……なんなんだろうね」
途方に暮れる二人に走ってきた愛花と長谷川が合流する。
「美咲、どう?」
愛花は状況を確認する様に美咲に尋ねる。
美咲は返答に困り、兄である大地を見つめ、確認を取る。
大地も無言を貫き、美咲は言葉を絞り出す。
「……えっと、光輝く人形のものならさっき、走っていったよ」
「それだよ。神の全身は」
「やっぱり、そうなんだ」
四人は慌てて、神の全身を捕らえるべく、走って追いかける。そんな四人以外にも、長崎支部の人間も動き出していた。
「……長崎支部の人達も動き出したみたいだし、急がないと」
長谷川のその言葉を聞いて、皆のスピードは上がっていた。
「……なんだか、騒がしな」
呑気に歩き続けていた神の全身は周りのざわつきを感じ取り、一人呟く。
そんな神の全身の目の前に黒髪の男性は十枚の翼を生やし、右側の背中から黒と白の交互で生えており、左側には白と黒が交互の合計十枚の翼を羽ばたかせたその男性は立ち尽くす。
「誰ですか?」
「……安藤和真と、言っても君には分からないだろう」
「……はい。記憶もありません」
「俺と来い。失った記憶を取り戻せるかもしれんぞ」
「本当ですか?」
「……あぁ、約束する」
「分かりました」
和真は眉間にシワを寄せる。
こんなにも簡単に了承されるとは思って居なかった事もあるが、和真が予想していたよりも神の全身の声、姿が余りにも違っていた事が大きかった。
「やっと追い付いた」
愛花のその声は神の全身と和真の耳に届く。
愛花は神の全身だけでなく、和真の姿があったことに気がつく。
「チーム[リベンジャー]のメンバーか?」
「そうだ」
和真のその質問に萎縮した愛花、美咲、長谷川の変わりに大地は答える。
しかし、大地も萎縮していた。和真の背からは黒と白の翼が交互に生えており、その見た目から天使属性と悪魔属性に関連していると予想出来てしまった四人はそれだけで和真の強さを察する事が出来た。
「神の全身は君達が連れて帰ってくれ、長崎支部の破損した件で対応しなければいけないからな」
「はい」
大地は返事だけで精一杯だった。
大地のその返事を聞いて、和真は十枚の翼をはためかせて、空へと飛行していく。
張り詰めたその空気は和真が居なくなると同時に無くなっていた。
「それじゃ、神の全身を連れ帰るぞ」
大地の指示通り、美咲と愛花の転移魔法によって神奈川支部防衛局へと移動する。
移動を終えた四人は改めて神の全身を見つめる。
神の全身はキョロキョロと周りを見渡していた。