神の全身(ゴッド・ボディ)
「お久しぶりです……と、言っても幼かった貴女は覚えて無いでしょうが」
無表情な少女は笑みを向けてくるナギサに多少の疑問を抱きながら久しぶりの再会に懐かしさを感じて、話していた。数年前、ナギサはようやく歩けるようになった頃、その頃はナギサは赤子だった。赤子のナギサの相手をしていただけの無表情な少女は自身の存在を覚えてる訳も無いと思いながらも、気づいたら口に出していた。
「覚えているよ。記憶としてではなくて、知識としてだけど」
「……成る程、神の頭脳ですね」
「うん」
「流石はこの世界の全てを自身の知識とする事が出来ると言うのは本当らしいですね」
会話を続けている二人を先に行った京は見つめていた。
「いつまで、そこにいるつもりだ?」
会話を続け、動く気配の無い二人に京は語りかける。
「……直ぐに行くよ」
ナギサのその言葉を聞いて、京は再び歩き始める。
そんな京の後を追いかける様にしてナギサは無表情な少女の服の袖を引っ張りながら走り出す。
リビングに着いた京は直ぐ様、ソファに腰かける。
そんな京は目映い光を感じる。天井に取り付けてある電気から感じられる物では無く、目の前がとても目映い。
そんな光を感じた京はゆっくりと目を開ける。
京の目の前には、ソファに腰かける発光した人形の何かが座っていた。
「お疲れ様です」
「……」
発光を続ける何か全く予想も出来ないそれはなんの前触れも無く、京に話しかける。京は得体の知れないそれが余りにも明るい声で話しかけたことに戸惑ってしまって、返答が出来ずにいた。
京からの返答が無いことに発光を続ける人形の何かは首を傾げる。
発光を続ける人形の何かが行動をする度に目の前の得体の知れないものがなんなのか謎は深まるばかりだ。
「……どうかしましたか?」
発光を続ける人形の何かは返事が帰ってこない事を疑問に思い、京に確認を取る様に告げる。
発光を続ける人形の何かの表情は読み取る事は出来ず、京は一番気になっていることを聞いてみた。
「誰だ?お前」
「……名前は忘れました。死んだときに」
「……はぁ?」
発光を続ける得体の知れないその人形の何かから返ってきた言葉に、京は更に頭を抱える事になる。人としても怪しい発光を続けるものは自身の名前を忘れ、更に死んだと言った。
京が最初に頭を過ったのは京の能力、地獄戻りみたいな、死んだ時に発動する能力、異能なのではと考えていた。
発光しているのは体の蘇生をしており、治っていけば、元の体に戻るのではと考えていた京だが、名前を忘れたと言うその言葉が気になっていた。
「京、どうかした?」
遅れてやって来たナギサの声により、京は振り返る。
そこにはナギサと無表情な少女が居た。
「……こいつ、なんなんだ?」
「……神の全身だよ」
「……あぁ、写真に写っていたのがこいつか」
写真には発光するあまり、姿を良く捕らえる事が出来なかったが、ナギサのその言葉に京は目の前に居る発光を続けるものを神の全身だと理解する。
「……これが神の人体シリーズの全てを入れ込む事で神が完成すると言われる神の全身」
無表情な少女は目の前に居る発光するものを見て、自身の持つ知識を呟く。
「こいつが神の人体シリーズの全てを納められるとは思えないが」
京は今まで話していた発光を続けるものを未だに信じられずに居た。
「しかし、この発光のしたを見る限り……これが神の全身かと」
「でも、こんなのが」
京のその言葉にナギサは京に近づく。
「間違いないよ。正真正銘の神の全身だよ」
発光を続ける神の全身は寂しく呟く。
「……これとか、こいつとか、酷いよ」
神の全身のその嘆きを聞き漏らす事無く、京は聞いていた。
「それじゃ、なんて呼べば良い?」
「……そう言えば、名前……忘れたんだった」
神の全身からのその言葉に思わず京はため息を溢す。
京は神の全身とは会話にならない事を痛感しながら、ナギサに訪ねる。
「……それでこいつを連れてきた奴等はどこに行った?」
京は神の全身を連れてきたメンバーから話を聞こうと居場所をナギサに訪ねる。
「……神奈川支部防衛局だよ」
「何でこいつはここに居て、あいつらが防衛局にいる?」
「……詳しくは聞いて無いよ。神の全身何があったの?」
「……嫌、こいつに聞く?」
発光を続ける人形のものは直ぐ様答える。
「あれは、肌が凍える冬の事だ」
「……今は春だ」
現在、春にも関わらず、冬と告げる神の全身に京は思わずツッコミを入れる。
「……春そうか。今は春か。い~や。記憶失っているから忘れていたよ」
「お前説明出来るのか?」
「任せてくれ。あれは茹だる様な暑いー」
「だ・か・ら、今は春だ」
「……そうだったな。今は春だ!忘れていたよ」
「季節すら理解出来ないお前が説明出来るのか?」
「任せてくれ。季節と名前と今まで記憶は無いが、今日あった出来事は覚えている」
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京が無表情な女と戦闘していたその頃、長崎支部へと向かったチーム[リベンジャー]のメンバーは神の全身を探す為、動いていた。
長崎支部にやって来たチーム[リベンジャー]のメンバーは二手に別れていた。
中鏡愛花と長谷川翼の二人は長崎支部の外つまり、無能力者達だけが住む場所を中心に探す事にした。
愛花は肩まで伸びた茶髪の少女で北海道支部中等部二年生だったが、チーム[リベンジャー]として活動するため、中退していた。北海道支部は日本でも魔法を扱うものが多く、優秀な人材も多い。愛花も魔法でも珍しい魔法固定砲台と呼ばれる破壊力がある魔法を使う事が出来る。魔法固定砲台は魔法陣に圧縮した魔力を一点に集め放つ一連の動作の事をゆう。これが出来るのは世界でも数が少ない。何よりも精度が難しく、魔力が高く無いと扱えない。
そんな愛花の隣に居る銀髪の長谷川は電光石火の能力だ。
電光石火は極限まで身体能力を底上げさせる能力で主に高速で移動して、相手の背後に周り奇襲するといった戦闘方法で戦う。攻撃方法は体術で目に止まらない早さで殴る、蹴る等して攻撃する。
普通に殴るよりも高速で振るわれた拳は防ぐ事も難しく、その威力は生身の人間なら一撃で倒せる程の威力となる。
「何でいつもあんたと組のよ」
愛花は毎回一緒になる長谷川に嫌味をぶつける。
「そんな事言われても困るよ」
「困ってるようには見えないけど」
愛花は長谷川の顔を睨みながら覗き込む。
「うるさい」
「そんなにうるさくした覚えは無いけど……」
長谷川のその台詞に愛花は答える事無く、ただ長谷川を睨み続けていた。
長谷川はそんな愛花をこれ以上怒らせないように、することを決め、ため息を溢す。そんな二人の耳に子供達の笑い声が届いた。
「何か、やってるの?」
愛花は楽しげに笑う子供達の方向を確認する。
そこには、発光を続け、光輝く人形のものに小石を投げ続ける子供達の姿があった。
「……あれ……何?」
発光を続ける人形のものを正しく理解する事が出来なかった愛花は隣に居る長谷川に何故なものの招待を訪ねる。
「……もしかしたら、長崎支部では節分に鬼では無く、光輝く人に向かって小石を投げているんじゃ」
「……本気で言ってる?」
「……だよね。だとしたら、僕達が探している神の全身なのかも」
二人が会話を続ける中、光輝く人形のものと、それに石を投げようとする子供達は通り過ぎていく。
「とりあえず、追うわよ」
「う、うん。分かった」
二人は慌てて、後を追い掛ける為子供達のスピードに合わせて移動する。
「……神の全身はかなり足が遅いみたいね」
「うん。子供達と全く同じスピードだ。もしかしたら、子供達と遊んでいるだけなのかもしれない」
「……なんの為に?」
「さぁ?」
「……それにしても、得体の知れない神の全身相手に追いかけて、石を投げようとするなんて……子供って色々凄いわね」
「……何も恐れないなんて、見習いたいものだけどね」
走りながらも、子供達が投げた小石は神の全身に投げつけられていた。
「……気付いたかい?」
「何に?」
「神の全身に石が直撃した後に石が消滅していることにだよ」
長谷川のその言葉を確かめる様に愛花は神の全身を見つめる。長谷川の言う通りに神の全身に当たった小石は消滅していた。しかし、愛花は長谷川に言われるまで気が付かなかった。
「何で気がついたの?」
「……石が地面に落ちなかったからだよ」
「ふ~ん。良く見てるのね」
二人は子供達の声が大きくなっているのを感じ、前方に居る神の全身を見つめる。
「……止めてくれないか、子供達」
「止めないよ」
「食らえ」
「死ね」
「化け物め」
走り続ける神の全身は子供達に言い聞かせようとするものの、子供達は止めるどころか更に攻撃を仕掛けていく。
「……神の全身の声……めっちゃイケメン」
「……そう?」
「イケボよ」
「……何、そのイケボって?」
「イケメンボイスの事を」
「女の人ってイケメンが付けば何でも良い風潮だよね」
「イケメンは正義よ」
「……イケメンではない僕の立場が」
長谷川が酷く落ち込んで居る中、神の全身は長崎支部の門に向かって走り続けていた。
長崎支部の外に居るものは手続きをしないと長崎支部の中に入る事が出来ない。日本全国の能力者育成機械の本部や支部の壁は魔法、能力、異能の攻撃を受けない様に魔法の鎖が埋め込まれている。
神の全身が発光を続けるのは能力によるものだろう。
そんな神の全身が長崎支部の壁に触れた瞬間、能力が無効になる。
「どうする?」
長谷川のその台詞に愛花は何の迷いも無く、答える。
「神の全身がどんな能力にしろ。あの壁は破壊出来ない。よじ登るなら別だけど」
愛花の言う通り、各支部や本部は壁で無能力者との境界線を引いており、入る方法は手続きや壁を登るか、転移魔法等がある。各支部によっては入る方法も異なる。
神の全身は止まる気配も無く、走り続ける。
愛花と長谷川は壁に衝突して、足が止まるだろうと疑う事は無かった。
しかし、神の全身は長崎支部の壁を消滅して長崎支部内へと侵入していく。