地下の世界
神奈川支部防衛局局長である安藤和真は神奈川支部の地下へと訪れていた。
世界中で犯罪者達はその罪に応じた年数地下での暮らしが強いられる。 どの罪人も魔法の鎖で縛られ、魔法、能力、異能のエネルギーや生命エネルギーを吸収させ、国のエネルギー全てを賄っている。
世界中ではこのエネルギー開発のみであり、昔あったエネルギー開発方法は利用されていない。
「大和大助。地下の暮らしはどうだ?」
「はぁはぁ。見ての通りだ!」
「……三年も休み無く、エネルギーを吸われ続け、痩せたな」
「笑いに来たか?」
「救いに来たと言うのが正しいな」
「救いだと?」
「そうだ。暗殺部隊の部隊長が戦死してなぁ。代わりを探しているんだ。……どうだ?」
「意味が分からん」
「簡単な話だ。このまま十年ここでエネルギーを吸われるか、ここから出て暗殺部隊の部隊長になるか選べ」
「……」
「そこまで、悩むか。では神奈川支部防衛局特殊対策班、神奈川支部防衛局護衛部隊を倒すことが出来たなら、暗殺部隊に所属する必要は無い!」
「……それは約束されるのだろうな?」
「期限は一日だ。それまでは我々も神奈川支部からお前が出ない様に動く」
「一日で良いのか?」
「構わない」
「……面白い。良いだろう、特殊対策班も護衛部隊も滅ぼすぞ」
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大和大助との話し合いの元決まった事を特殊対策班に所属しているナギサに伝えていた。
「突然で悪いが、今からこの男を捕らえて貰いたい」
和真は大和大助が映る写真を手渡す。黒い髪に無精髭のその男を見て、ナギサは直ぐにその男が大和大助だと理解する。
和真がナギサ一人に話を持ちかけたのは、誰よりも早く話の内容を理解して、残りのメンバー達に分かりやすく説明させる為であった。
しかし、端から見たら大人が子供に物騒な話をしている様に見えてしまう。
ナギサは見た目は金髪、碧眼に小学生位の体格の少女であるが、神の頭脳の能力者である。
神の頭脳は考えただけで物事の全ての答えを把握する事の出来る少女である事から、和真はナギサに話す事を決めた。
「……地下から逃走したの?」
ナギサは現在地下でエネルギーを吸収され続けている筈の大和の捕獲を告げされた事からそう考えた。
「俺が逃がした。少し考えれば、簡単に分かるだろう。お前なら」
「暗殺部隊に入れる為に思いきった事をしたね」
「……特殊対策班と護衛部隊で捕らえて貰う」
「……大和大助の死神の鎌は強力だよ。死人もでるレベルに」
「それは理解している。それでもやってもらう」
「……」
「君なら、死人も出さず捕らえる方法を見つけられる筈だ。十時からスタートだ。一時間で捕らえる個とが出来なければ、大和大助は自由の身となる。健闘を祈るよ」
和真はそれだけを告げると、そこから立ち去っていく。
ナギサは特殊対策班が拠点とし、生活している屋敷へと戻ると、直ぐに特殊対策班と護衛部隊を集めた。
「皆、任務だよ」
ナギサは和真から受けた任務内容を皆に伝える。
「……特殊対策班は便利屋みたいな扱いだな」
黒髪の少年はソファに腰掛けながら、告げた。
「京。駄目だよ。ここで活躍しておかなければ」
「分かっている。ガキしか居ない特殊対策班は任務で失敗すれば、追加で大人が入って来るだろう。俺は今のガキしか居ないこのメンツが気に入っている。下らん。大人達に踏み荒らされるのは気にくわない」
「そうだね。子供だけで任されるのは実績のある者だけだからね。ここで、成果を得ないと」
特殊対策班の皆は京とナギサのそのやり取りを受け、気合いが入っていたが、護衛部隊はそうでもなかった。
「護衛部隊はここに居る者だけなのかい?」
神奈川支部防衛局護衛部隊の中でナギサの護衛のみを任されている者達だけがそこに居た。だからこそ、ナギサの護衛を務めている阿修羅は尋ねた。
「他の護衛部隊にも話したんだけど、断られたんだ」
「……そうですか。でも、対象の人物は一人だけここに居るメンバー達だけやれるのでは?」
「出来ると思うけど、大和大助相手となると触れるのも難しい」
「……相手がどんな相手でも、任務内容は変わらない。ナギサを守ることは……それで良いのだろう?渡辺京」
阿修羅のその言葉に京はソファから立ち上がる。
「それでいい。チーム[ジャンク]はここでナギサの護衛を任せる。チーム[リベンジャー]のみで大和大助って奴を捕らえる。それで良いか?」
京はナギサに問いかける。ナギサの頭脳があれば、チーム[リベンジャー]でどこまでやれるのか、直ぐに分かる事だ。
ナギサがこのままチーム[リベンジャー]のみで捕らえるのか捕らえられないのか、それによって、京の行動は変化する。
「……大丈夫。ここも攻められると思うけど、大丈夫皆なら」
「お前がそう言うなら、俺はそれに従う!」
「大丈夫。勝てるよ」
チーム[リベンジャー]はナギサとナギアの二人の護衛をチーム[ジャンク]に任せると、十時に解放される大和の捕獲をするため、外で待機していた。
「……ここで捕らえる事が出来ると思うか?」
京の隣に立つ萱沼大地は感じていた疑問を問いかける。
「……どうだろうな。相手の力量は何も分からない。ここでは出来る事をやるだけだ」
「……そうだな。相手が地面に触れている以上、俺の地面方位からは逃れる事は出来ない」
その瞬間、大地は違和感を感じる。
大地の能力、地面方位は地面の操作に加え、地面に接触している相手の位置、方向感覚の操作と地面を伝って相手の力量を大まかに把握する事が出来る。
そんな大地が感じた違和感は今まで感じていなかった存在を地面方位で感じ取ったからだ。
「どうした?」
大地のその動揺に気づいた京は直ぐに確認を取る。
「地下で一人の人間の戦闘力が大幅に強くなった」
「十時からだったな。そいつが大和大助の可能性がある。警戒しておけ」
「あぁ」
「大和大助を捕らえる方法としては、魔法を使える女二人で大和大助の行動を止め、長谷川に魔法の鎖を使い大和大助の体に巻き付けろ」
京のその言葉に長谷川は直ぐに反論する。
「魔法の鎖を持ったら、俺の電光石化も無力化されるじゃあ無いですか。そんな状態で近づけませんよ」
「魔法の鎖は縛られた時に最も効果を発動させる。持っているだけなら、何の問題も無い。手に持つときに、巻き付けるなよ」
「はい。すみません魔法の鎖の事はよく分からなくて」
そんな時だった、大地の荒げた声が響くのは
「来るぞ。一人」
「時間も十時だな」
京はスマホで十時になったいる事で地下から出てくる者を大和大助と断定して、行動を開始する。
「頼む」
京のその一言で萱沼美咲と中鏡愛花の二人は出てくる人間と取り押さえられる様に扉の右側に愛花、左側に美咲が配置して、出てきた瞬間に行動出来る様な体勢である。
「準備は良いな」
「はい。扉の正面のその位置なら、僕の電光石火で一秒もかからずに、移動出来ます」
「そうか。問題はどれだけのスピードで魔法の鎖を縛る事が出来るかだな」
「確かに電光石火は僕の全ての速度を飛躍させますが、今まで縛る様な動作をした事がありませんから、どうなるか」
「思い詰めるな。簡単に考えていけ。失敗しても、お前の責任になる事は無い」
「はい。僕の全力でなれるだけの事をします」
チーム[リベンジャー]の全員が万全の体勢のまま、地下と地上を繋ぐ、扉が開かれる。
黒髪に無精髭のその男性はまさしく写真に写っていた男そのものであった。
「愛花」
「美咲」
お互いに声を掛け合い、タイミングを合わせ魔法陣を大和を向け、放つ。
魔法陣に挟まれた大和は身動きを封じられ動けないその状況に、電光石火で超高速で移動する長谷川が接近する。
この時、長谷川は気づく。魔法陣に挟まる直前に大和が右手に黒いオーラを放出させ、その黒いオーラは鎌の様な形状になっていることを。
オーラが武器の様な形状に変化した場合は一部の例外を除いて、体内に宿した神器であると言える。
大和の場合も体内に宿した神器であった。
大和の速度は外に出た時点で発動しているものであり、チーム[リベンジャー]の存在によって、出したものではない。だからこそ、魔法陣に気づくよりも早く、体内に宿した神器を出現させる事が出来た。
禍々しく、黒いオーラが絶えずに放出を続けるその鎌はまさしく死神の鎌であった。
大和が死神の鎌を手にしたその瞬間、大和は地面をすり抜けていき、魔法陣も大和に当たる直前で大和の体をすり抜け、魔法陣同士が衝突する。
長谷川が大和の元にたどり着き、地面にすり抜ける大和を引きずり出そうと手を伸ばすも、大和の体をすり抜けて触れる事は叶わなかった。
「すり抜けるなんて」
長谷川が驚愕しているその時、地面から死神の鎌のみが出現し、長谷川の両足を切り付ける。
しかし、死神の鎌は長谷川の足をすり抜けており、切断や血などは無く、目視で見た限り外傷は見られなかった。
しかし、長谷川は地面に倒れ込む。
「あぁぁぁぁぁ。はぁはぁ」
長谷川のその状況を見て美咲は直ぐに転移魔法で長谷川を京の元へと移動させる。
「どうなってるの?」
地面をすり抜けて、長谷川に攻撃をしたものの、すり抜けた攻撃で長谷川にダメージを与えた大和に動揺する美咲だったが、愛花は冷静に対処する。
「美咲も転移魔法で移動して、大和大助はこの地面に居ることは間違い無いわ。私の魔法固定砲台で、地面ごと貫く」
「うん」
愛花に言われた通り、美咲は転移魔法で移動し、その直後、愛花は地面に向け、魔法陣を向けると魔力を中心に蓄積し始める。
魔法固定砲台は魔法陣に魔力を蓄積させ、放出させる事を示唆したものである。しかし、簡単そうに見える魔法固定砲台だが、誰もが使える訳ではない。魔法陣の強度と圧縮させ、蓄積させた魔力を維持させる程の強度も重要な事となる。魔法陣自体を過剰に強度を増すと、魔力を無駄に消費する事になり、蓄積させる魔力の量もその分消費してしまう。
魔法陣と蓄積させる魔力の量が等しい程、完璧な魔法固定砲台と言える。




