等活地獄(とうかつじごく)
お互いに攻撃を無力化させる事が出来る時点で、この勝負はつかない。その事実がはっきりと分かったこの状況で、2人の攻撃は止まっていた。
「どうする?お互いに攻撃がヒットしないなら、勝負はつかないままだよ」
男のその言葉に京は背中に生やしていた白い翼を消す。
この白い翼は六道輪廻の天界道の力の象徴であり、その全てであった。
「何のつもりだ?」
天界道の力があるからこそ、京は男の攻撃を無力化させる事が出来ていた。その力を使わない事は今までの攻撃を無力化させる事は出来ないまま戦う事を意味していた。
「……これで、問題無く戦えるだろ?」
「……相当、負けず嫌いみたいだね」
「関係ねぇよ。俺は負けねぇよ」
「それを負けず嫌いと言うんだよ」
天界道の力を使わない時点で京の攻撃手段は人間道のみとなる。しかし、人間道は地獄属性以外を無力化させ、多少の攻撃力もある黒いオーラを放出させる事が出来る。だが、人間道では男の神の阿修羅に簡単に無力化されていた。
人間道で戦うと言う事は京の攻撃を全て、無力化され、男の攻撃は全て京の元へと届く事を意味していた。
「……後悔する事になるよ」
「しねぇよ。さっさと来いよ」
「大した自信だ。(六道輪廻の人間道、天界道しか使っていない。他にまだある事は分かっている。しかし、それがあるなら、もっと早くやれた筈だ。それをしないって事は、何も無い!)」
男は背中から光輝く手を二本生やす。
「遠慮無く行かせて貰うよ!」
男は生やした光耀く手を二本伸ばす。伸びる距離は二メートルまでのその手は京には届かなかった。だからこそ、伸ばした光耀く手の平から新たに光耀く手を伸ばし、京の元へとその手を伸ばす。
京は両手から放出させていた黒いオーラを迫り来る光耀く手へと向け、放出させる。
「無駄だよ。それ!」
黒いオーラに接触した光耀く手は黒いオーラを完全に消し去る。
「ちっ」
「君も分かっていた事だろう?」
「分かってる。それでも、この力でお前を倒すと決めている」
「それでは、勝てないよ。絶対にね」
「やってみねぇとわかんねぇだろ?」
「……嫌、分かっている筈だよ。今までの事を思い出してみてよ」
「知っているさ。でも、お前は知らない」
「……何を?」
「地獄の力を」
「君の人間道は黒いオーラを操り、地獄属性以外の力を無力化させつつ、攻撃力もあるオーラを自在にコントロールする力。違う?」
「半分正解だ!」
「半分?それは可笑しいね。今までの君の戦闘を見たら、そうだと思えたんだけどね」
「……お前が見たのも、体験したのも地獄道の一部でしかない」
「まるで、他の力があるみたいな口振りだね」
「だから、そう言っているんだよ!」
両手から放出されていた黒いオーラは全身へと広がり、それは京の背後に移るとその黒いオーラは床から天井に達するまでになっていた。
「何をするつもりだ?」
「地獄の門を開くだけだ」
「……それが地獄の門だと?」
「俺が簡易で造った物だがなぁ」
京の背後の黒いオーラは真っ二つに開かれると、その向こう側は暗闇に支配されていた。そこからそれらは姿を表す。
黒いオーラで形成された人形のそれは黒いオーラで造られた武器で武装した無数のそれは男の元へとゆっくりと歩き始める。
男は神の阿修羅を発動させ、背中から光耀く六本の腕を生やす。神の阿修羅は最大六本まで造り出す事ができ、その光耀く手は最大二メートルまで伸ばす事が出来る。しかし、その長さは繋ぐ事によって、その繋ぎ止めた光耀く手の数によって長さを変化させる事も可能だ。しかし、男はそれをしない。かなり距離のある事状況で男がそれをしないのは、無数の黒いオーラで造られた人形に対応するために背中から六本の光耀く手を出現させている。
ゆっくりと歩き続ける無数の黒いオーラで造られたそれが男の光耀く手が届く距離になった時、男は動き出す。
背中から生やした光耀く手を迫り来る黒いオーラで造られた人形のそれに触れさせる。光耀く手が触れた瞬間、黒いオーラで造られた人形のそれは一瞬で消え去る。
(……黒いオーラで造られているからなのか?簡単に消せるな。でも、数だけは注意しないとな)
男は的確に黒いオーラで造られた人形のそれを対処していく。
京は右手から溢れる黒いオーラを地面に叩きつける。
「奈落落とし!」
床全体を黒いオーラに包ませる。これによって、黒いオーラに吸い寄せられる様に男の足は取られる。まるで、沼の様に。その間も黒いオーラで造られた人形のそれは男の元へとゆっくりと歩き続けていた。
「……君の黒いオーラは無効にする事は出来る。それはもう君も理解出来ている事だろ?」
男は光耀く手の一本を黒いオーラに包まれた床へと伸ばし、触れさせる。
すると、黒いオーラに包まれた床にそれ以上男が吸い寄せられる事は無かったが、膝部分まで呑まれていた。身動きが取れないその状況でも男が焦る事は無かった。ただ冷静に男は的確に対処していく。
(……神の阿修羅の一本は床にずっと触れさせなければ、再び呑まれてしまう。それにしても、この奈落落としと言う技、光耀く手に触れているにも関わらず、無力化出来ない。出来るのは進行を止めるだけ、黒いオーラは無力化出来ない。彼にはまだ何か他の手があるかも知れない。警戒は続けないとな)
京は右手に纏わせていた黒いオーラを男に向け放つ。
黒いオーラで造られた人形のそれは男を取り囲んでおり、京が今放った黒いオーラを対処する事は難しい状況である。
(……彼の攻撃は防げないな。でも、攻撃力は大した事は無い。ここはこの攻撃は受けよう)
男は逃げる事を諦め、京の放った黒いオーラを正面から受ける。
男は京の一撃を受けた事によって、埋まっていた体は黒いオーラで埋め尽くされた床から離れ、壁まで吹き飛ばされる。
「……何で?」
壁まで吹き飛ばされた男は自身の考えとは異なる状況に戸惑いながら、黒いオーラに埋め尽くされた床へと倒れ込む。
「今までの黒いオーラと同じだと思ったか?」
「……何で威力が上がっている?」
「……地獄の門を開けただろう?これは第一の門である等活地獄を開けた影響の一つだ。等活地獄は俺のこの黒いオーラの威力を上昇させる事と、この門から俺の黒いオーラで造られた人形で武装した奴等を出現させる事が出来る。ただ、黒いオーラで造られた人形を造るだけだと思ったか?」
「やっぱり、詰めが甘いな。いつもそうだ」
呟く様に告げた男は全身から黒いオーラを放出させる。
「……確かお前は異能力者だったな。この黒いオーラ……覚醒だな」
「そう。この戦いでは使う予定は無かったよ。君の実力なら、必要無いと考えていたからね。この戦いで、君がダメージを与えられたのは、光耀く手が六本のだったからだ」
「……まるで、これから数を増やすみたいな口振りだな」
「そう。聞こえなかったのか?神の阿修羅は覚醒するとその内の一つは神の千手観音へと覚醒を果たすのさ」
男は今までの六本の光耀く手は数え切れない数へと増えていく。
(サウザンドと言うからには、千位あるのか?しかも、異能は幾つも覚醒へと進化することが出来る。今現在の覚醒も一つに違い無い。何より問題はこの数だな)
京が増えた光耀く手の対処を考えていたその時、扉は開かれる。
「京!」
「……ナギサ」
「ここで何をしている?」
「迎えに来たんだよ」
「……必要もねぇ事をしやがって」
「必要だよ。チーム[ジャンク]はチーム[リベンジャー]の傘下に加わって貰うから」
ナギサのその発言を受け、京は戸惑い続けていた。
そんな中、扉からナギサ以外にもう一つの少女が現れる。
「……リーダー。私の告げた様にチーム[ジャンク]はチーム[リベンジャー]と一緒に居たほうが良いわ」
「……そうか。良いよ。この戦いでは覚醒を使うつもりは無かったし、使わせた時点でこの勝負の勝者は彼に譲るよ」
ーーーーーーーーーーーーーー
「いまいちまだ、納得出来ないが」
神奈川支部防衛局内にあるチーム[リベンジャー]の屋敷に戻っていた大地はその状況に思わず愚痴を溢す。
「……駄目だよ。チーム[ジャンク]はこれからここで一緒にやっていくんだから」
チーム[リベンジャー]のその不満を感じ取ったナギサは皆を説得する為に前へと出る。
「……不安や不満があるのは理解出来る。しかし、ここに居る者は皆、少なからず管理する神に狙われ、復讐の機会を待ち望んでいる者がいると聞いていた。なら、ここは皆で協力するべきだ」
チーム[ジャンク]のリーダーはいち早くチーム[リベンジャー]の警戒を失くす為、訴えかける。
「私もそう思うよ」
チーム[ジャンク]のリーダーに同調するナギサを見て、京も納得する。
「分かった。それで、良い」
チーム[リベンジャー]のリーダーである京のその一言によって、チーム[リベンジャー]のその反乱の声は収まりを見せる。
「皆、ディジーに造られたなら、名前はあるの?」
「……チーム[ジャンク]で名前があるのは、神楽だけだ」
「じゃあ、私がつけても良い?」
「……構わないが」
「それじゃ、リーダーで貴方は阿修羅!」
「そのままだな」
「じゃあ、次は貴方」
ナギサは神の擬態の能力者へと目を向ける。
「……神の擬態である貴方は宇佐美匠」
「何でも良いよ。それでも」
「じゃあ、次は貴女」
ナギサは神の知識の能力者である少女へと目を向ける。
「貴女はナギ」
「そう来ると思いましたよ。ナギサ」
「チーム[ジャンク]の主要メンバーは以上かな?」
「はい。ディジーに造られた存在はまだまだ居ますが、彼らは山梨支部からの移動に時間がかかりますから」
「そっか。じゃあ、貴女にも名前をつけないとね」
ナギサは猛毒蝶羽の能力者である少女へと目を向ける。
「私もですか?」
「うん。貴女はアゲハ」
「……ありがとうございます。素敵な名を」
「これから、皆で仲良くやっていこうね」
ナギサのその言葉通りに皆が直ぐに仲良く出来る事は無かった。




