神にすがる者達
「……誰と言われても、名前が無いんだ。でもここはこの教会の全てを管理する者と言っておくよ」
青年のこの教会での立場を理解した京はその青年に尋ねる事にした。
「そう。で、案内してくれる訳?」
「その為に来たからね」
「……じゃあ、案内して貰おうか」
京、大地は案内をしてくれると言う青年の後をついていき、大広間にたどり着いた。
「こんな所に連れてきて、何をするつもりだ?」
大広間を見渡すと京は疑問を懐く。何も説明も必要としないその部屋の案内に何の意味があるのか、京には理解出来なかった。
「確認をね」
「確認?」
「ええ、この教会の信徒になる覚悟はありますか?」
「ねぇよ」
「冷やかしなら、出ていって貰いましょうか?」
「……嫌、ここまで来たら潰させて貰う!」
「困りましたね」
「チーム[ジャンク]の拠点なんだろう?」
「確かにそうですけど、それが貴方の目的と関係があるのですか?」
「ナギサの言う通りなら、ここは潰させて貰う」
(……ナギサ、ディジーによって造られた同士。それに神の知識の言う通りなら……)
「良いでしょう。では、やりましょう。ただし、一つ条件があります」
「なんだ?」
「貴方が勝ったら、チーム[ジャンク]の全員を貴方達の仲間に加えて貰えませんか?」
「お前が勝ったら、だろ?普通」
「そうなんだけど、勝てたらついていく意味が無いだろう?」
「何が目的だ?」
「同士が欲しい。管理する神を敵に回すと人数は何人居ても足りませんから」
「……チーム[リベンジャー]としても、人数は欲しいと思っていたからなぁ」
「では、始めましょうか。お互いに二人居るようですから」
「てめぇは一人だろうが」
「そうみえるかな?」
青年が羽織っていたマントを脱ぎ捨てると、次第にそのマントは人の姿へと変化していく。
「……お前は目付きの鋭い男と戦いたいんだろ?」
「あぁ」
「それじゃ、俺は図体のデカイ男だな」
「任せる!」
マントだったその男は大地の目の前に立ち尽くす。
「話は聞こえていただろ?」
「……あぁ、チーム[リベンジャー]を大きくしていく。その為にも勝たせて貰うぞ」
「……そう言う暑苦しいの嫌いじゃねぇよ。部屋変えよっか」
マントだった男の提案に大地は大人しく従い、隣の部屋へと移動していく。
「……良いのかい?」
「何がだ?」
「仲間を簡単に、連れていかれて」
「……それがなんだ?」
「……そう言う人間なのかな?」
「そうだ。あいつがどうなろうが、構わない。」
「本当に?」
「あぁ」
「彼はチーム[リベンジャー]を大きくするためにと、言って命のやり取りをしようとしていたのに、君と来たら……」
「文句があるのか?」
「あるから、口を出しているんだよ。君は何の為にチームに所属しているんだい?」
「ナギサを守るためだ!」
「ナギサってさっきの男の子かな?」
「そう見えたか?」
「嘘、嘘。分かっているよ。俺達と同じくチーム[プロダクション]のリーダーのディジーに造られた女の子だって事はね。その子……今誰が守っているんだい?」
「……」
「君一人では、限度がある。だからこそ、チームに所属しているのだろ?君が距離を取っては、誰も君には協力してくれなくなるよ。そうなっては、ナギサを管理する神からは守れないよ」
「……だからこそ、俺はチーム[リベンジャー]のリーダーなんだよ。どんな手を使ってもあいつを守ると決めてんだよ」
「なるほど、チーム[リベンジャー]はその為にあるんだね?でもね。それは君の考えだろ?さっきまで居た体格の良い男の子も守りたいものがあるんじゃ無いかな?」
その言葉を受け、京は大地が妹を守るためにチーム[リベンジャー]に入った事を思い出していた。
「……」
「チームメイトを労る事は出来そうかな?」
「……守りたいのはナギサだ。それに協力して貰うからには、労りでも、慰めも、助けもしてやるよ」
ーーーーーーーーーー
別の部屋へと移動した大地と変身能力のある男は対峙していた。
「……俺の能力は戦闘向きじゃあ無いから、ここで二人の戦いを待とうか?」
「ふざけているのか?」
「……本気だよ。だって、俺と君のこの戦闘はあまり意味をなさない。だってそうだろ?重要なのは、君の所の大将と俺の所の大将との戦いの結果だ。そこにここでの戦闘の結果はなんの役にも立たない」
「だとしても、ここに連れてきた以上、二人の邪魔はされたくないのだろう?」
「……その為に連れてきたんだからね」
「俺と戦わないと、俺はあいつの援護に回るぞ!」
「そうか。やるしか無いって事だよね」
「俺はそのつもりだ!」
「やってあげる。その前に一つ教えておくよ。俺の能力は神の擬態。俺の触れた物体や俺自身を別の物に変化させる能力だ!」
「……何故、そんな事を言う?」
「ハンデを失くす為だよ」
「ハンデ?」
「あぁ、チーム[ジャンク]には神の知識が居てな。チーム[リベンジャー]の情報を聞いていたからなぁ。君の能力である地面方位について聞いたから」
「それを黙っておく事も出来ただろ?」
「それも出来たけど、どうして良いのか分からないのさ。初めて、実戦でやるのだからな」
前のめりに、その鋭い眼差しは、大地を後退りさせるには十分な程であった。特に何もされていないこの状況で自身が後退りをしたその事実に戸惑いを隠せなかった。
戦闘に慣れている訳でもない大地だが、圧倒的な敗北を味わった事の無い大地は戦闘において、恐怖を感じた事はなく、常に勝利を目指し、戦う事が出来ていた。
しかし、現在は目の前に居る男に睨まれただけで、後退りをし、体中が恐怖に支配されていた。今まで感じた事の無いその恐怖に大地の思考は停止していた。
「どうしたの?」
一度後退りをした大地が動かなくなかった事から、純粋な心配をした男は大地に語りかける。
それだけだが、大地の体は言うことを効かなかった。
「……何でもない」
大地に出来たのは、強がり位だった。
大地のその体の不調に気づく事が出来ないその男はその部屋にあった木製の椅子に手を置く。
その瞬間、木製の椅子は木刀へと変化する。通常と同じ、大きさとなった木刀となり、余った木材は男の足元に転がっていた。
「先ずは、この木刀で相手しようかな」
男は木刀を大地に向けると、笑顔で語りかける。それが大地にとって、気味が悪く、体を硬直させる事になる。
「どうしたの?来ないの?」
大地からの返事が無い事に戸惑いながらも、男は決意する。
「……それじゃ、俺から行こうかな」
男は走り込み、大地との距離を縮める。
その間も大地は動く事が出来ずに居た。動こうとはしているのだが、体が動く事はなかった。それは男が木刀で大地の右頬を殴り付ける時まで続いていた。
「……本当に大丈夫?全く動かないけど」
「……大丈夫だ!」
勢い良く、立ち上がった大地は右頬に残る痛みを噛み締めながら、覚悟を決める。これから、目の前に居る男以上の男と戦う事になる事を、そして。妹を守るためにはこのままではいけない事を
「……ここからは本気で行かせて貰う」
さっきまでとは違う目付きの大地を見た男はとっさに大地との距離を取る。
(俺の一撃を受けた時から、様子が変わった。一撃を食らって、やる気になったのかな?)
大地は床に右足を強く踏みつけ、男の左右の床を隆起させる。
「逃げられないぞ!」
(……これが彼の能力地面方位。俺の左右を防いだだけで、前後は何もしないのか?左右を防いだ事で俺を前後に誘っているのか?どっちにしても、彼の能力と俺の能力の相性は悪いよ)
男は左右に隆起した地面に両手を伸ばし、触れる。
これによって、男の能力である神の擬態が発動する。隆起した地面の形は変化し、石像へとなっていた。
大地は再び、床に右足を強く踏みつける。
「無駄だ。俺の左右にあるこの石は神の擬態の支配下だ。この時点でこの支配下を奪い返せない時点で、君の能力では俺の能力の支配を奪うことは出来ない」
男のその言葉を聞いた大地の額には冷や汗が流れていた。
それは大地が頭よりも体が先に理解していたことを意味していた。
地面方位は大地が踏みしめている地面や床等を自由に操作する能力である。それ以外も大地が踏みしめている地面や床と接触している者の方向感覚を操作することが出来る。
しかし、地面方位で床を貫き、地面を操作しても、男の神の擬態で形を変化されると操作権を奪われる。この事実がある限り、大地が地面を操作しても無力化される事は目に見えている。
「それだけでは、諦めがつかない」
「……勝負って諦めるか、諦めないか、じゃねぇよ。勝てるか、負けるかだよ。君は俺に勝てるのか?負けるのか?どっちだ?」
「俺が勝つ!」
「出来るかな?」
男のその挑発を受け、大地は床に右足を強く踏みつける。
それと同時に、男の前方の床を貫き抜け、地面が隆起すると男に襲いかかる。
「だから無駄だってば」
男はしゃがみ、床に両手を置くと、神の擬態を発動させる。
それによって、床は変形し、男の両手は地面に触れることになる。
男の両手が地面に触れると、地面が変化し、隆起する。
大地が隆起させた地面と男が隆起させた地面が接触すると、その瞬間大地が隆起させた地面は停止する。
「見ての通り、俺の神の擬態は俺が変化させた物に接触しても、操作権を得る事になるんだよ。神の擬態は生物には効かないからね。君には俺の操作権を与える事は出来ないよ。君は体一つで俺に向かってくる覚悟はあるかな?」
男のその言葉を受け、大地に残された選択肢は接近戦しかないと、理解する。大地は男に恐怖していた時とは違い、勝利出来るのなら迷う事なく行動する。
大地は男の元へと向かい走り出す。
(なんの警戒もなく、向かってくるか。でも、分かっているのかな?君の能力は俺の能力で無力化出来るが、君は俺の能力を無力化出来ない。このアドバンテージがある限り、俺には勝てないよ)
男は触れ続けている地面を神の擬態を発動させ、大地が隆起させた地面と自身が隆起させた地面を地面で出来た剣に変化させる。




