過去の記憶
これは、現在よりも約二十年前の出来事だ。
その日はいつもの地面も、木とも違った。その日は辺り一面が雪景色となっていた。そのいつもとは違う景色にまだ幼かった少女は思うがまま走り回っていた。
「凄い、これが雪って言うんだよね?」
少女のその言葉に呆れた様に銀髪の髪をした女性は答える。
「……神の知識の神能力を与えた貴女なら、見ることも無く、理解出来たでしょ?」
「……知っていたけど、実際に見るのは違うよ」
「……そう。ただの知識ではなく、体験させるのも良いのかもね」
少女の言葉を受け、その女性は手帳を取り出すと、少女の言葉を書き留める。
「何を書いているの?」
「思いやりをついた貴女からヒントを貰ったからね」
「……私では、神の人体シリーズの頭脳を担当出来ないのですか?」
「私としてはそれでも良いと思うけど、更に上の神能力者を用意して欲しいと依頼されたからね」
「……神の知識の上の能力ですか?」
「ええ、造るのは難しいけどね」
「しかし、ディジー様の異能があれば、可能なのでは?」
「私の今の状態で造れるのは貴女が最高よ。それ以上を造るとなると、かなりの時間を費やす事になりそうよ」
「……そうですか。ですが、いずれ出来ると思いますよ」
「そうね。冷えるから、中へ入りましょうか」
「うん」
ディジーのその言葉によって、二人は研究所の中へと入っていく。
「……暫く、私は山梨に居ないからね」
「何処かに行かれるのですか?」
「チーム[ゼロ]からの招集受けてね。暫く、帰ってこられないわ」
「分かりました」
「……研究所は神楽に任せるから」
「……はい」
ディジーは少女にそう言い残すと、研究所を後にする。
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ディジーが研究所から出掛けてから、約十年以上が経過した研究所では神楽を中心として動き出していた。
そんな、神楽の助手を担当していたのが、成長した神の知識の能力者である少女だった。
「一週間後に戻ってくるそうよ」
「そうですか」
「あら、あっさりとしているのね」
「……約十年間の間で此方の仕事も増えましたから。ディジー様が戻られたら、更に増えるのでしょ」
「……それは、確実にね」
「神楽さんも神の人体シリーズによって造られたんですか?」
「……私は別よ。私はただ、山梨の研究所を守るだけに造られた存在よ。それ以外の使命も、目的も無いわ」
「……それでは、ここが無くなった場合はどうするのですか?」
「貴女の神の知識で知った知識かしら?」
「……まだ、分からないと、答えておきます」
少女のその口振りから、神楽は少女は何等かの未来を見た事を感じ取る。
「神楽様。報告いたします」
慌ただしく、神楽の研究室に入ってきたその女性の顔は真っ青であり、そんな表情を見たこともあって、神楽と少女は研究室に訪ねる際の暗黙の了解とされているノックをすることをしなかった女性へ咎めること無く、女性の話を聞くことにした。
「……なにかしら?」
「はい。木山家の人間が来ておりまして」
「それが問題でも?」
「神楽様に合わせて欲しいとの事でしたので」
「拒否するわ」
「……しかし、ディジー様との約束を果たしに来たと言っておりました」
「ディジー様の?」
「はい!」
他の人間ならば、会う必要も無いが、ディジーとの約束した相手と言う事も合って、神楽は迷っていた。ディジーに確認をするのか、そのまま会うのか考えていた。そんな神楽は一つの疑問を晴らす為、確認を取る。
「木山家と言っていたけど、誰なの?」
「木山可憐です」
「木山可憐?」
「はい。本人です。護衛も無しで」
暫く考え込んだ神楽はディジーに相談する事なく、決断する。
「分かったわ。ここまで、連れてきて」
「了解しました」
神楽のその言葉を受け、慌ただしく、女性は走り出す。
「……貴女も出ていって!」
「分かりました」
神楽に言われるがまま、研究室を後にした少女は廊下で木山可憐の姿を目にする。しかし、目にしただけで、それ以上の事は何もしなかった。
数時間後、木山可憐が立ち去った研究室には木山可憐と入れ替わる様にして、少女が居た。
「何の話をしたのか聞いても?」
「いずれ、分かる事だし、構わないわ。ディジー様の異能によって、木山可憐のDNAを利用して、造るみたいよ」
「……次は一体どんな人間をお造りになるんだか」
「原初の神シリーズの炎よ」
「……炎?」
「ええ、管理する神はその適任者を木山廉としていたけど、木山可憐のDNAの提供によって木山廉への干渉を止めるそうよ」
「……母として、息子を守りたいって所かしら?」
「そうね」
「それで、どんな人間を造るの?」
「レヴァンティンの適合する人間よ」
「……それって、木山可憐のDNAを利用する必要があるのかしら?」
「彼女が産んだ男が炎神の魔武器の異能力者なんだから、必要と言えるわね」
「……そう。どんな人間が造り上げられるか、楽しみね」
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木山可憐が山梨支部の外にある研究所にディジーが戻って来た事によって、その研究所はいつも以上に慌ただしくなっていた。
「お久しぶりですね。ディジー様!」
「……暫く、見ない内に大きくなったわね」
少女は久しぶりに目にしたディジーの姿に戸惑いつつ、軽く挨拶を済ます。
しかし、そのディジーの姿に聞かない事も出来たが、少女は聞くことにした。
「……十年前と何も変わっていないですね」
「まぁ、私の異能もあってね。変化しないの」
「いつからですか?」
「……それについては答えられないわ」
「何故ですか?」
「……それを答える事はこの世界の始まりを全て話す様なものだからよ」
「どうゆう事ですか?」
「残念だけど、話せないわ。それに、どうやっても、貴女が知れる事柄では無いからね」
「そうですか。それで、レヴァンティンの適合者は造るのですか?」
「ええ、もう出来ているけどね」
「いつも以上に早いですね」
「……急いだもの。この子とは私と生涯を共にして貰うつもりだからね」
「この子?」
少女は首を傾げながら、ディジーの背後で床に座り込む金髪の子供の姿が目に移り込んだ。
「……造った個体にしては、成長が速くありませんか?」
「……幼少期は飛ばし、知識を与えたわ」
「しかし、赤子から初めないと、問題が生じてきましたが」
「今回は私の全てを注ぎ込んだ事によって、その問題はクリアしたわ」
「力の入れ方が違いますね。私の時と比べても」
「……そうね。それについても答えたほうが良いかしら?」
「いえ、必要ありません」
少女は逃げる様にして、その場から立ち去る。
そんな少女を見た、金髪の子供は立ち上がると、ディジー元へ駆け寄ると、白衣を手繰り寄せる。
「どうかした?」
「……あれで良いんだよね?」
「ええ、もう彼女の上位個体を造る手筈は整っているからね。リン、貴女の異能の調整役をやって貰うわ」
「……初めて、やるんだよ。どうやって、倒せば良いかな?」
「任せるわ。最悪、殺しても構わない」
「殺さないよ。いたぶるかも知れないけど……良いんだよね?」
「ええ、好きにしなさい」
「やった!それじゃ、行ってくるよ」
リンは一度微笑むと、少女の後を追いかける。
「外に行きましょうか」
リンが出て早々、その声はリンの元へ届いた。
リンはその声の方向へと顔を向け、誰から発せられたものなのか確認する。
その顔を見て、少し戸惑って居たリンに声をかけた少女は微笑みながら話を続ける。
「外でやりたいのでしょ?」
少女の突然のその提案はリンが言うとしていた台詞のままで気味の悪さを感じながらも、手っ取り早く済むと思ったリンは少女の提案の大人しく従う。
「外ってここで良いの?」
リンは研究所を出て直ぐの場所で止まった少女に問いかける。
「問題無いわ。誰も来ないのだから」
「……もしかして、私が裏切られた感じ?」
「それは違うわね。私は神の知識によって得た知識の中、最善の答えを選びここまで来たの」
「そっか。それじゃ、私と戦えば、どうなるかの知識はあるの?」
「……どうでしょうね?」
「まぁ、良いわ。私には勝てないのだから」
「強気ね」
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「心配してくれるの?」
「少しはね。初めての戦闘だもの。少しは遊べるよね?」
「少しはね」
少女はそう告げると同時に背から白い翼を生やす。
「……白い翼は天使属性の能力、異能なのかな?」
「神の知識の能力者よ」
「聞いたことの無い能力だね。面白そう、私も本気で行くよー」
リンは背から炎の翼を生やし、手に燃え盛る炎剣を握る。
「……コレが私の異能、勝利の聖神剣!」
少女はリンの剣と翼を見て戸惑う。何故なら、少女の持つ知識には無いレヴァンティンを手にしているからだ。少女の考えてしては、本来のレヴァンティンでの対応策を用意していたが、それは意味を成さないものへとなってしまった。そんな少女の考えなど、知る訳も無いリンは徐々に少女へと近づいていく。
「……私の勝利の聖神剣も天使属性なんだよ」
「天使属性?」
リンの口から告げられたその台詞に思わず、聞き返してしまう少女の知識にはレヴァンティンは魔属性だった。だからこそ、それと対をなす天使属性のレヴァンティンに戸惑ってしまう。それにリンの言う事は本当なら、本来のレヴァンティンとは全く別物であり、真逆なものとなっている事になる。
「……そうだよ。明神明菜って言う女の人の力も私は持っているからね」
「……木山可憐以外の女性も加えられているなんて」
「私は貴女と違って、優秀に造られているから」
「言ってくれるわね。それじゃ、私よりを優れている所を見せて、貰おうかしら」
少女は背に生えている白い翼をはためかせ、白い羽を大量に飛ばす。
大量に舞う白い羽はリンの元へと向かっていく。
この白い羽は神の知識のよるもので、その白い羽に触れたものの、情報を全て、得るだけでなく、その情報を書き換える事が出来る。その事から、白い羽とリンが接触した時点で少女の勝利が確定すると言っても過言では無い。リンの体と白い羽が接触した瞬間に、少女はリンの情報書き換え、起きている状況から、寝ている状況へと書き換えようとしていた。




