三枚の写真
四月六日(深夜)
その男は階段から突き落とされ、血まみれの状態だった。
「……話が違う……じゃあ……無いか」
血まみれのその男は階段の上に居る男を見上げながら告げる。
「話?」
「神に会わせて……くれると」
「……会えるだろう?この世に神は居ねぇんだ。あの世なら会えるかもよ」
血まみれのその男は悟った。騙されたと
「……こんな……死にかたなんて……神は……」
血まみれの男が動かなくなった事を確認すると突き落とした男は階段から離れる。その直後、目映い光が辺り一面に広がる。
「……何だ。この光は」
その場から離れようとしていた男だったが、その光の元へと走り出す。
男は目を疑った。血まみれの男の姿は無く、発光を続ける目映い光を放つその人間に男はただ戸惑う事しか出来ずにいた。
発光を続ける人の形をしたものはゆっくりと階段を登っていく。
男は発光を続けるものを興味と恐怖で見続ける。
男が見とれている内に発光を続けるものは男の目の前に立ち塞がる。
発光を続けるものは男が居るにも関わらず、歩き出す。
このままではぶつかると判断した男は道を譲る。
男は何が起きたのか確認する様に発光を続けるものを見つめ、決断する。
これは一人で判断出来る訳が無いと、判断した男はポケットからスマホを取り出す。
「……デュラーク様」
「……始末は終わったのか?」
「嫌……どう説明したら良いのか」
「……管理する神に敵対する者は排除だ」
「あいつは神に会いたいと言ってるだけで……」
「情でも移ったのか?」
「嫌、情何て無いです。殺しましたよ、一度は」
「……一度?」
「はい」
「生き返ったと?」
「……生き返ったっと言って良いのか分かりませんが……発光を続ける化け物になって歩いてます」
「……発光?……写真を取り、離脱しろ」
「はい」
男はデュラークの指示通り、通話を終えたスマホで発光を続けるものを撮影した。
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同時刻、神奈川支部防衛局特殊対策班に配属されたチーム[リベンジャー]の全員は神奈川支部防衛局局長の安藤和真が用意した屋敷のリビングで魔法、能力、異能について学んでいた。
「じゃあ、説明するね」
金髪碧眼の子供は得意気にホワイトボードの前で自信満々で語り出す。
「魔法は大きく分けて2つ。白魔術と黒魔術の2つ。能力者の中にも魔法を扱えるものが居るんだけど能力があるせいで、次への進化が出来ないの」
金髪碧眼の子供は脚立に上り、ホワイトボードに文字を書き込んでいく。
「魔法だけを扱うもののみが進化出来るんだけど……白魔術は白呪術に、黒魔術は黒呪術に進化出来るの」
魔法の進化について語っていた金髪碧眼の子供は椅子に不満そうに座っている男のその態度を見て、不満そうな男に近づく。
「京だけだよ。ちゃんと聞いて無いのは」
「……聞く必要も無い。一度お前から聞いてるからな」
「……もう一度聞いて」
「……ナギサこんな事よりもやることがあるだろう?」
「必要な事だよ」
「……分かった。続けろ」
京のその言葉に満足したナギサは元気良く走り出す。
そんなナギサを見て京は子供でありながら神の頭脳の神能力者で、世界一の知識、情報を持つナギサの元気なその姿を守る為の力をここ神奈川支部でつける事を改めて決める。
京が静かに覚悟を固めていたその頃、ナギサはホワイトボードの前に再び立つ。
「次は能力者の説明だよ。能力は進化すると能力向上をするの。この能力向上は進化前の能力と進化後の能力の2つを使う事が出来るの。そして、能力者は稀に覚悟をするの。能力者の覚醒は異能力として目覚めるんだよ。ただし、能力者の覚悟は一度能力を異能に切り替えると直ぐには能力に戻す事が出来ないの。つまり、能力と異能力の切り替えを上手く出来ないと戦闘では死に繋がる事もあるから」
子供であるナギサの口から放たれるその声は可愛らしく、話の内容と噛み合っていないことに聞いているチーム[リベンジャー]の全員は戸惑いながら聞いていた。京を除いては。
「最後は異能力についてね。異能力の進化は覚醒と言って幾つもの進化できるのが特徴だよ。因みに能力からの覚醒では一つだけだからね。今日はもう遅いから、おしまい」
ナギサのその一言によって集められていたチーム[リベンジャー]の全員は用意されてた自身の部屋へと向かう。
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四月七日
寝起きの京は話声がする方向へと吸い寄せられる様に足を進める。
京はリビングにチーム[リベンジャー]の全員が揃っている事に気がつく。
「何をしている?」
京は確認を取るようにナギサに質問した。
ナギサは三枚の写真を京に見せつける。
「何だ、これ?」
困惑する京にナギサは写真の一枚を手渡す。
「……なんだこのCG……合成か?」
京は光輝き、発光する人の形をしたそれを京は正しく理解出来ずに首を傾げる。
そんな京を見て、ナギサは真剣な眼差しで答える。
「これは昨日、長崎支部で撮られた写真で……神奈川支部はこれを神の全身の能力として判断したんだよ」
「神の全身?お前の神の頭脳と言い、何なんだ?」
「……神の人体シリーズだよ」
「神の人体シリーズ?」
「……極稀に神の人体の一部が宿った神能力、神異能力が誕生するだけど……」
ナギサの深刻なその表情を見て、京は不機嫌そうに告げる。
「良い……もう話さなくて」
「えっ?」
「……お前は能力を使わなくて良い。言いたくない事は話さなくて良い」
「京」
ナギサはそんな京の姿を見て頬を染める。
研究所では能力を絶え間なく使用しており、人間扱いされなかったナギサにとっては京のその不器用なその優しさはナギサにとっては心地が良いものだった。
ナギサは京の横顔を無言のまま見つめていた。会話が途切れた事に京はナギサに確認を取る。
「……どうした?」
「えっ?」
ナギサは我に帰り、残っていた写真の内、一枚を手渡す。
「……二枚目の写真は……誰だ?この女」
見覚えの無い少女の写真を京は無造作に机の上に置く。
「……私と似た存在だよ」
「お前と……造られたって事か?」
「……うん」
「……人造人間でも、クローンでも無い人間を造って、そんなに簡単に出来るものか?」
「簡単じゃないよ。世界でもたった一人だけ……ディジーだけ」
「ディジー?」
「管理する神傘下のチーム[プロダクション]のリーダーだよ」
「世界でも一人しか居ない奴が管理する神に加担するとはな」
「ディジーの異能力は私でも分からない。DNAを必要とするって事以外は分からない」
「……お前もそれで造られたんだよな」
「うん。誰のDNAを使用したかは分からないけど……」
「神の頭脳はこの世界の全てを把握出来るんだろ?」
「最初は出来たと思うけど」
「最初?」
「うん。赤ちゃんの時。管理する神は産まれた時から私の脳にある情報を抜き取っていたから、情報操作されていると思う」
「……それであいつらの情報はお前には残さなかったのか」
「うん。機密情報だけだと思うけど」
「……その情報はどこにあるんだ?」
「……ナギアの内、一体に」
京はナギサの神の頭脳の情報を元に造られた人造人間ナギアを探す事を考えたが直ぐに諦める。
オリジナルであるナギサの情報は莫大で、人造人間ナギアは数万体存在しており、管理する神傘下の世界中にあるチームによって守られている。
世界中を敵に回してまでナギサの失った記憶を取り戻す等、今の京では出来ない事は直ぐには理解出来る。
そんな京はチーム[リベンジャー]に所属しているナギアを見つめる。
数万体居るナギアの内、ここに居るナギアがオリジナルであるナギサの奪われた記憶を持っているとは思わない。しかし、万が一とゆう事もあるかも知れない。
「ナギサ……その記憶ここに居るナギアが持っているって可能性は?」
「無いよ。拐われる様な場所に配属何てされないし……配属されるなら、管理する神の中枢だと思う」
「そうか」
世界で最も優れた知能を持つナギサがそう言うならそうなんだろうと素直に納得して京は頷く。そんな京にナギサは手元に残っていた写真を手渡す。
「男……誰だ?」
またしても、見覚えの無い人間の写真を京は机に無造作に投げた。
「これも女の人と同じ」
「こいつもディジーって奴に造られた存在か?」
「うん」
「……それでこの三枚の写真は何なんだ?」
「任務だよ。京がリーダーなんだから指示してね」
「……何の情報もねぇのに指示なんて……」
戸惑う京にナギサは机に置いてあった資料を手渡す。
これを受け取ってしまったら、言い訳も出来ずにチーム[リベンジャー]に指示をしなければならない。断ろうともしたが、ナギサを見て京は素直に受けとる。何もかも見透かした様なその眼と、世界一の頭脳を持つナギサに言いくるめる事は出来ず、京が何を言ってもナギサによって論破されることは火を見るよりも明らかだ。そんな無駄な事をしても時間の無駄だと思った京は受け取った資料に目を通す。
京は資料が書かれた紙で顔を隠しながら、ナギサを見つめる。
ナギサに頼めば、的確で確実な指示をしてくれるだろう。しかし、京はナギサには普通の子供として過ごして欲しいと願っている。そして、ナギサの身の安全を確保する為に行動するとも決めている。
考え事をしていた京は我に帰り、資料を確認しようとしたその時、顔を資料で隠して、ナギサを覗いていた京とナギサの目が合う。
「協力しようか?」
弾けんばかりの笑顔でナギサは京に告げる。
そんなナギサを見て、全てを見透かされた様な気がした。
「必要無い。これはリーダーである俺がやる」
京は三枚の写真と資料からチーム[リベンジャー]に指示をする。
「これからの任務を伝える。俺は、この二枚の女と男の元へ行く。ナギサとナギア以外のメンバー全員でこの発光する人間の元へ向かってくれ」
指示を終えた京はこれで良いのだろうかと言う疑問を感じ、自然と京の目線はナギサに向けられていた。
そんな京にナギサは笑顔で答える。
京はそんなナギサを見て、安心する。
よっぽどひどい指示だったら笑顔等見せないだろうと思い京は任務の為、動き出す。