無影虚無(シャドウ・オーバー)
美咲は魔法陣を出現させる。
八重は両手を勢い良く、地面に叩きつける。
それと同時に地面から大量な影が溢れ出す。
「なんで、影がこんなに」
「……それは私の無影虚無によるものだからよ。無影虚無は影を無限に生み出し、全てを影に呑み込ませる事が出来る能力」
八重は地面から溢れる影に両手を入れ込むと、影を握り締めると黒い槍を両手に携えていた。
「……黒影の槍の能力では、黒い槍が一本だけの筈。なのに、なんで二本も?」
「……確かに、黒影の槍は私の影でのみ造り出せる能力よ。無影虚無は私の影なんだから黒影の槍は問題無く、造れるわ」
八重は手にしていた黒い槍を美咲が出現させた魔法陣の側に投げる。
地面に突き刺さった黒い槍は影へと戻ると、その影は地面から伸びると、魔法陣を包み込むと地面とへ戻っていく。
「……これで、分かったでしょ?どんなに魔法陣を出しても、私の無影虚無に呑まれるだけなのよ」
「……私は勝つ!」
「……勝ちたいって言い直したら?だって……そうでしょ?」
「勝つ!」
「……そう。言いたいのなら、勝手にしなさい。でも、勝てないわよ。わたしには!」
地面から大量に溢れる影は津波の様に、美咲の元へと迫っていく。
津波の様に大量な影が美咲の元へと向かうその最中、下に出来た影を利用して、無数の影を美咲の元へと伸ばしていく。
津波の様な迫る影のしたに出来た影は美咲の体を縛り、動きを封じる。
動きを封じられた美咲は迫り来る津波の様な影から逃げる事が出来ずに、呑まれてしまう。
津波の様な影は美咲を呑み込むと、地面へと戻る。
「終わりね。……どうせなら」
八重は地面から影を浮かび上がらせ、美咲を影から取り出す。
すると、八重は自身の影を黒い槍へと変化させ、それを右手に持つ。
右手に持った黒い槍を八重は美咲の胸へと突き刺していく。
しかし、体に刺さる事なく、美咲の体内に入っていく。
「……この影は貴女の中に残り続ける。この恐怖を胸に抱き続けなさい」
八重は美咲の体に入れ終わると、玲愛の元へと歩き出す。
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美咲と八重が戦いを繰り広げているその最中、玲愛と大地の戦いも始まっていた。
しかし、その戦いは一方的なものだった。
大地の地面方位によって、地面を隆起させるものの、玲愛の神の義手に全てが手へ変化させる事によって無効化されると共に、その地面で出来た手によって攻撃を受ける事になる大地は劣勢に立たされていた。
大地は地面方位の能力によって、地面操作ではなく、玲愛の方向感覚を奪う事にした。
大地は直ぐ様、玲奈の右側の地面を隆起させる。
玲愛は右側に隆起した地面を対処しようと右側を向こうとしたものの、玲愛は何故か左側を向いてしまう。
玲愛は戸惑いながら、背から光輝く手を出現させ、右側の地面を無力化させる事に成功させた。
「……地面操作以外にも何かあるみたいね」
「どうだろうな」
「そう。どっちでも良いけどね」
玲愛は回りの地面を手へと変化させる。
変化させた地面の手を大地へと飛ばしていく。大地は目の前地面を隆起させ、防御体勢を整える。
しかし、大地の眼前に隆起していた地面は玲愛の神の義手によって手へと変化させられる。
大地の眼前の変化した地面の手は大地の体を鷲掴みにして、大地の身動きを封じる。身動きが取れない大地は迫り来る地面の手を避ける事が出来ず、その身に受けてしまう。攻撃を受けた大地は地面に倒れ込むと、玲愛から視線を反らさない様にしっかりと玲愛の体をその目で捉える。
「……この程度で、私に勝つつもり?」
「勝つに決まっているだろ」
「……そう」
玲愛は大地の周辺の地面を手へと変化させる。
大地の体を余裕で覆える程の大きさの手が真下にある状況で、大地は警戒を強める。いつでも、握り潰す事が可能な筈だが、玲愛はそれをする様子が無い。大地は地面方位は発動させ、足元の手と化した地面を操作しようと試みる。
地面でよって造られた手はゆっくりと元の地面に戻っていくものの、玲愛によって、地面によって造られた手へと変化していく。
「……無駄。私の能力は生物意外を手に変える力、貴方が地面を操作しても、私はそれに割り込む事が出来る。貴方が何をしても無駄」
「……」
己の力では、玲愛には勝てないと悟った大地は地面から起き上がる事もしなかった。
そんな大地を見て、玲愛は地面で造られた手をゆっくりと動かし、大地を握りつぶしていく。
「……玲愛。そっちは終わった?」
「……ええ、今終わった所よ」
「そっちは?」
「こっちも終わったわ」
「そう。それじゃ行きましょうか」
「ええ」
大地と美咲を倒し終えた玲愛と八重は目的である神の全身の元を目指し、移動を開始する。
そんな二人が移動を開始してから数十分後、白い翼を生やした男と、その男に抱き抱えられている子供が倒れる大地の元へと降り立つ。
「……生きてるんだろうな?」
地面に降り立った京は倒れ込む大地に投げ返る。
「……死んだな」
動かない大地を見て、京は確信した。
そんな、京の言葉を確認する様に大地の首元に手を伸ばす。
「大丈夫。生きているよ」
「……そうか。まぁ、こいつはしぶとそうだからなぁ。で、こいつの妹は?」
「えっと」
ナギサは少し離れた位置に居た美咲の姿を捉える。
「……京。あそこ」
ナギサは美咲が倒れる方向へ指を指す。
「生きてるのか?」
京は地面に倒れる美咲を見て疑問をぶつける。
しかし、美咲は全く動く様子が無い。そんな美咲の元へナギサは駆け寄る。
ナギサは美咲の首元へ手を伸ばす。
「……生きてるよ……」
「どうした?」
「……ちょっと、待っててね」
ナギサは自身の頭上から光輝く脳を出現させる。
「ナギサ?」
「……ちょっと、待っててよ。直ぐに終わるから」
ナギサは光輝く脳から光輝く糸の様なものを伸ばし、美咲の頭へ接触させる。
その瞬間、ナギサは理解した。
「……影を体内に入れられている」
「影が?」
「うん。能力によって」
「……ナギサの神の頭脳でなんとかならないのか?」
「私が出来るのは、脳に関する事だけ。それ以外は出来ない」
「……その影を取り除く方法は?」
「……能力者を倒すか。美咲自身でなんとかするか」
「自身でどうにか出来るのか?」
「難しいけどね。精神深くまで入り込んでいる。これを取り除くには、美咲自身が精神力で影を取り除くしか無い」
「出来るのか?」
「……厳しいと思う」
「そうか。それで、今俺に出来ることは?」
「今は安全な場所に移動させる事ぐらいしか……」
「そうか。分かった」
京は美咲を抱き抱え、歩き出す。そんな京について行くナギサは大地の姿を捉える。
「あっ!」
「どうした?」
「えっと……」
「ああ、こいつか」
「どうする?」
「一人しか運べないぞ。俺は」
「私も無理だよ」
「だろうな。行くか」
「うん。人もあまり来ない場所から大丈夫だと思うよ」
「そうなのか?だったらー」
「それは駄目。美咲は連れていかないと」
「そうか。それじゃ行くか」
「うん!」
二人は美咲を連れ、大地を置き去りにして歩き出す。
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「この病院で大丈夫なのか?」
「うん。ここは能力者育成機関神奈川支部防衛局が管理している病院だからね」
「ここに預けるとして、これからはどうする?」
「防衛局に行こう。チーム[ハンド]の目的は神の全身みたいだしね」
「……行くか。手遅れだと思うが」
「……う、うん」
二人は次の目的を決めた二人は神奈川支部防衛局を目指し、移動を始める。
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神奈川支部防衛局内にチーム[ハンド]が侵入していた。
そんなチーム[ハンド]の勢いは留まる事なく、それを止める為にわざわざ、神奈川支部防衛局局長の安藤和真まで動く程であった。
「……局長どう致しますか?」
「これ以上の侵入は許さん!ここで食い止める!」
「はっ!副局長として、尽力を尽くします」
「ああ、任せる。俺は別で動く」
「了解しました」
神奈川支部防衛局副局長の赤髪の少女である佐山奏多は侵入していたチーム[ハンド]を撃退するべく歩き出す。
行動を開始してから、直ぐに佐山は目的としていた者と出会う。
「北見浴衣ですね?」
「そうだよ。貴女は……木山……じゃあ無くて、佐山奏多だよね?」
「……その通りです。それから、木山の名は出さないで頂きたい」
「……貴女からしたら、嫌な過去?」
「お前達がそうしたのだろう?」
「……否定は出来ないね。本当の事だから」
「……これも運命。貴女はここで、私が倒す」
「神奈川支部防衛局副局長相手なら私も楽しめそうだよ」
「甘く見ないで貰おう。私は二年前とは違う!」
「私も同じ。二年前とは違うよ!」
「……どちらの二年が上か試しますか?」
「良いよ。私は負けないから」
浴衣は懐から黒魔銃を取り出すと黒魔銃に魔力を送り込んでいく。
そんな黒魔銃を浴衣は佐山へ向ける。
「……黒魔銃は北海道支部の当麻家が守っていた魔武器の筈だけど……奪ったみたいね」
「そうだよ。それ以外にも奪ってるよ」
「そう。神奈川支部以外の出来事は気にしていないから。私は」
「冷たいんだね」
「どう思われても構わない。現在の私の目的はチーム[ハンド]の全滅だけです」
「……私達チーム[ハンド]の目的は神の全身の存在の確認。これだけは譲れない」
「そう。投降するつもりは無いみたいですね」
「うん!」
「では、私もそれなりの覚悟をしましょう」
佐山は背中から炎を放出させ、その炎を翼へと形を形成していく。
「やっぱり炎系の異能みたいね。木山家は代々炎系統の異能をつかうからね。そう思っていたよ」
「関係無いことです。私には」
「……そっか。それじゃ、始めよ」
浴衣は黒魔銃の引き金を引く。それと同時に黒魔銃の銃口からは圧縮された魔力が放出される。佐山は避ける事なく、右手を前に突き出す。
佐山が突きだした右手からは一瞬して大量の炎が放出される。
その炎によって、浴衣が放った一撃は無力化されるだけでなく、その炎は浴衣へと迫っていく。
「……少し、本気で行こうかな」
迫り来る炎を目の当たりにした浴衣は気を引き締める。
 




