黒影の槍(シャドウ・ランス)
「そう。これで貴女の黒影の槍の能力で影に入られても、私は捕捉できる」
「……出来ても、対処は出来るのかしら?」
「……知りたかったら、来たらどう?」
美咲のその余裕な態度からなにか企みがあるとゆう考えが頭を過った八重は警戒を強める。
「……来ないなら、私から」
美咲は魔法陣を造り出すと、それを八重へ向けて、飛ばしていく。
飛んで来る魔法陣を軽々と避けると八重は美咲の元へと走り出す。
美咲に近づくに連れ、八重は手に握られた黒い槍に力を入れていく。
黒い槍を振れば、美咲に当たる距離まで接近した八重は黒い槍を美咲に振りかざす。
美咲は避ける事なく、魔法陣の防御で防ぐ。
槍の威力が無い事を悟ると美咲は堂々と、前に出る。
魔法陣を己の拳に付加させると、美咲は目の前にいる八重に殴りかかる。
避ける事が出来ないと把握した八重は黒影の槍の効果によって、地面へと入り込む。
それによって、八重は美咲の攻撃を回避する事に成功した。
地面の中へと回避した八重は槍の形の影となっていた。そんな影の上には美咲の造った魔法の球体が浮遊していた。
それによって、美咲は八重が影に居ても八重の居場所を正しく把握する事が出来る。
「何処に行っても、無駄」
美咲は魔法陣を付加させた拳で、八重の居る影を殴り付ける。すると、拳に浮かんでいた魔法陣は地面へと移動すると、地面は一瞬にして、大破する。
「……地面を破壊しても、影には影響無しみたいね」
大破した地面の瓦礫の上を槍の形をした影は美咲から離れていく。
しかし、美咲はその影を追うことはしない。何故なら、八重の居場所は魔法の球体で確認出来るからだ。わざわざ、美咲が追いかける必用も無い。
しかし、美咲には一つの疑問によって不安が込み上げていた。
それは、八重の行動だ。
魔法の球体に追尾している事は理解している八重がそれを理解した上で距離を取る事になんならの意味があるのだろうが、美咲には分からない事だった。一つ言えるのは、美咲の攻撃を回避するだけなら、一度影に身を潜め、その後影から出てくれば良い。
しかし、八重は逃走を選んだ。美咲との実力差は圧倒的なまでの差があるのに、八重は逃走を選び、なにかをしようとしている。しかし、美咲には八重が何を企んでいるのかは全く、検討がつかないまま時間だけが経過していた。
そんな美咲の元へ影が伸びてくる。美咲は八重の移動を疑ったが、魔法の球体が無いことでその可能性を直ぐに、消し去る。
伸びていた影は美咲の背後の建物の影と接触を果たすと徐々に影は建物の影に移動を終えていた。
(……影だけを移動させた……一体なんの為に?)
八重の行動にますます、疑問を抱く美咲は背後の建物の影を凝視する。
しかし、建物の影は一切動く事なくそこにあり続けた。
建物の影を凝視する美咲の背後の一度逃走した八重は走り込む。
美咲は足音に気かつき、建物の影から足音がする方向へと視線を向けると、八重が目の前まで接近していた。
美咲は咄嗟に目の前に魔法陣を展開させる。
目の前に魔法陣が展開された事によって、八重は攻撃を中断する。
そんな八重は魔法陣の目の前で不適な笑みを浮かべる。
そんな八重は笑みを見て、美咲は咄嗟に背後の建物の影になにかあると、思い振り返り、確認しようとしたその瞬間、建物の影から黒い槍が飛び出してくる。回避出来ないと思った美咲は咄嗟に自身の背中に魔法陣を浮かび上がらせる。
そんなに美咲の背に黒い槍はぶつかる。しかし、黒い槍は美咲の背を貫く事は出来ずに弾かれてしまう。
「……体に魔法陣の付加と浮かび上がらせる事が出来るとは思わなかったわ。体内の魔力操作が完璧な証拠ね」
「……貴女の能力は影を利用しなければ、ならない時点で攻撃方向が簡単に推測出来る」
「……確かに私の能力は影の攻撃、拘束等や影の中に入れ込む位しか無いけど……私が貴女に負ける理由にはなっていないわ」
「……勝てる理由はあるの?」
「ある。影に潜めば、私は最強!影の中に居る私には誰も干渉出来ない」
「……でも、光属性の攻撃なら、ダメージを与えられる」
「そうね。正しく私の位置を把握出来ればね」
「出来る。忘れたの?」
美咲は八重の頭上に浮遊しているそれに視線を向ける。
その美咲の視線に導かれる様に八重の視線は美咲と同じ方向へと向けられる。八重は自身の頭上に浮遊している魔法の球体の存在を思い出す。
「……忘れていたわ。でも、魔法の球体ごときではどうする事も出来ないわ」
八重は自身の影を一瞬にして、伸ばし、魔法の球体を呑み込ませると、その影は魔法の球体と一緒に地面へと戻っていく。
「……自動回避をする魔法の球体を……」
攻撃を感知すると回避行動を開始する魔法の球体を影に呑み込んだ事に美咲は戸惑いを隠せずにいた。
「……貴女は私の黒影の槍の事は良く知っているみたいだけど、それだけで私の実力を把握したと思うなんて、甘いわ」
「まさか、能力向上。もしくは覚醒……」
「能力向上よ」
「……確か、能力向上は元々の能力と能力向上後の能力の二つを同時に使用出来るって聞いたけど、本当みたいね」
「黒影の槍の事は知っているみたいだけど、能力向上後の事は知らないでしょ?」
「確かに、でも影に関するて事なら分かる」
「それだけじゃ、対処なんて出来ないわよ」
「でも、影に触れなければ、それで良い」
「……そうね。影に触れなければ、良いわ。出来るならね」
八重は自身の影を黒い槍へと変化させる。
「……その槍は黒影の槍によって造られたもの」
「正解!」
殺意に満ち溢れたその表情のまま、八重は黒い槍を美咲に向けて、投げつける。
美咲は黒い槍に己の体と影が当たらない様に回避する。
回避に成功した美咲だったが、背後の建物へと黒い槍は突き刺さる。建物に突き刺さった黒い槍は影に戻り、建物の影へと入り込む。
建物の影は揺らめきだすと、地上に浮かび上がり、美咲へと向かって放たれる。美咲は咄嗟に魔法陣を出現させ、防御でやり過ごそうとするが、影は枝分かれを初め、魔法陣に当たる事なく、美咲の背後へと回り、美咲の体を貫く為、伸びてくる。
美咲は枝分かれした影を防げないと判断した美咲は転移魔法を使用して、回避した。
「……転移魔法で逃げた……どうかしら?任務を放棄するなら、もっと早く出来た筈……回避だけかしら?」
八重の疑問は直ぐに解消される。
八重の後方の宙に魔法陣が出現すると、転移魔法によって、美咲はそこから出てくる。宙にある魔法陣から出てきた美咲は地面に着地すると、目の前に居る八重の背中を見つめる。
そんな美咲の存在を背に感じた八重はゆっくりと振り返り、美咲の存在を目にして、思わず笑みを溢す。
「逃げれるチャンスを捨ててまで、私の後ろを取ったからにはなにかあるのかしら?」
「私はただ、光属性の魔法で攻撃を仕掛けるだけ」
「……それで私に勝てるのかしら?」
「やってみれば、分かる!」
「そう。では、やってみましょう」
八重は自身の影を黒い槍に変化させると、それを手にする。
「……黒影の槍の力を教えてあげる」
八重は手にしている黒い槍を地面に突き刺すと、その黒い槍を影に変換させ、槍の形へと変化させた影を美咲の元へと動かす。
槍の形をした影が徐々に近づいてくる中、美咲は魔法陣を目の前に出現させると、光属性の魔法を付加させると、一気にその光属性の魔力を魔法陣から放出させる。魔法陣から溢れるその光によって、八重の影は美咲によって造られた魔法陣から溢れる光によって、無力化されていた。
「……黒影の槍では無力化されるわね」
「まだ、私の狙いはここ!」
光を止め、槍の形をしている影を確認すると、美咲は赤い魔法陣を造り出すとその魔法陣を槍の形した影へと接触させる。
「……これで、この影は動かせない!」
「……本当みたいね。全く動かせない。でも、その赤い魔法陣を破壊出来れば、動かせるでしょ?」
「そんなはさせない」
美咲は赤い魔法陣の前に立つ。
「守るつもり?」
「守れれば、私の勝ち!」
「……守れてないわよ」
「えっ?」
美咲は八重の言葉を確認するように、背後の赤い魔法陣を確認する。
しかし、赤い魔法陣は影に呑まれる様に沈んでいく。
「なんで、黒影の槍の能力は固定化に成功していたのに」
「……能力向上の能力でね」
「でも、影全体は無力化されていたのに」
「それは貴女の固定観念よ。何事も疑うものよ」
「……」
美咲は赤い魔法陣が呑まれていくその光景をただ見つめていた。
「……でも、影に関するみたいね」
「ええ、黒影の槍は能力向上すると無影虚無になるのよ」
「……無影虚無……聞いた事も無い」
「……奥の手はそう簡単には見せないものよ。と、言っても私は簡単に見せているけどね。それでも、情報が露見しなかったのは全て消してきたから、今までもこれからも」
「……」
「貴女もここで消すって意味なんだけど……それは理解出来ているのかしら?」
「……理解したわ。でも、私は消されない。貴女に勝って生き残る」
「やってみると良いわ。出来るならね」
「やってみせる。やらなければ、生き残れないのだから」
「震えながら言われてもね」
八重のその発言で美咲はようやく自身が震えている事に気がつく。
それを理解したと同時に美咲の体の震えは自身では止められない程のものになっていた。
震えは美咲の戦意は徐々に喪失していく。
「……戦場に立っても実力の差を知った時、己の死を悟った時人は知るのよ。敗北と、死の恐怖を」
八重のその言葉に美咲は反論も出来ず、震える体を両手で抱き締めながら、膝から崩れ落ちた。
「……私の攻撃で倒れるのでは無く、己自ら倒れるなんて、拍子抜けね」
嘲笑う八重に美咲は震える体をなんとか押さえようとしていた。
「貴女ぐらいの戦闘力を持つ人間なんてこの世にゴミの様に存在している。そんなゴミが生き残るには、他のゴミとは違った個性を活かさないとね。……と、言っても今の貴女からはそれが出来るとは思えないわね」




