創造主の意のままに(クリエイト・メイカー)
「私の能力は造り直し。触れた物を原型を別の原型へと変化させる能力。通常は黒魔銃でエネルギーとして放って、当たった場所の原型を変える戦闘スタイルだったんだけど……たまには変えないとね」
「……それでその能力は解除出来なかったりするのか?」
「出来るよ。黒魔銃で能力をエネルギーとして放って無力化出来るなら、私の能力も無力化出来るよ。まぁ、一度変化させたその沼地にはもう能力は干渉してないから、能力の無力化は出来ないと思うけど」
浴衣の話から京は現在の沼地を地面に戻す事は今の京では出来ないと悟ると諦めがついた。
「そうか。まぁ、足が動かさなくても戦えそうだな」
京は全身から溢れる黒いオーラを再び右手に集中させる。
人間道は地獄属性以外の全てを無力化させる事が出来るが攻撃力が極めて低く。その為、相手の攻撃を無効化させる事位でしか使えない力とも言えるが、圧縮させる事で攻撃力を得る事が出来る。それでも攻撃力が低いが今の京にはこれ以外の攻撃方法は無い。
京は圧縮を終えた右手の黒いオーラを浴衣へ向けて、放つ。
浴衣は触れた物の変形を変化させる造り直しでは京の放った圧縮された黒いオーラを止める事が出来ないと思い、能力を使用を止め、魔法陣の防御を思いつくものの、京の黒いオーラには対抗出来ない事を理解出来たその瞬間浴衣はある決意を固める。
そんな浴衣は背後に居る琴音に笑顔を向ける。
「ごめんね。琴音ちゃんにあんな事言っておいて、私は」
琴音は浴衣のその台詞は勿論、全身から溢れるその黒いオーラを見て、悟る。
「待ちなさい。浴衣!貴女の覚醒は私の能力向上とは違い。チーム[ハンド]での禁止とは違うのよ。貴女の覚醒は……管理する神のあの計画の時だけの時に使用が許された事なのよ」
「……ごめんね。私は管理する神の命令や指示よりも玲愛ちゃんの約束の為に戦うと誓ったの」
「……そう」
止めても無駄と感じた琴音はそれ以上の事は何を言わなかった。
琴音は知っていた。二年前に浴衣が死にかけた事があり、その時にチーム[ハンド]のリーダーである荒川玲愛は能力者として覚醒を遂げた。そんな頃、浴衣と玲愛の仲は姉妹の様な関係となっており、同じチーム[ハンド]でも二人の間には入る事が出来ない程に。
そんな二人には何かがあると感じていた琴音は詮索は一度もした事もなかったものの、何かがあると確信していた。
それを知っているからこそ、琴音は見守る事にした。
そんな琴音に申し訳無さそうに、全身に溢れる黒いオーラを両手に集めていく。そんな浴衣両手に集まった黒いオーラを勢い良く掴み取る。すると、黒いオーラは雷の様な形へと変化していく。
浴衣は黒い雷の様に変化した黒いオーラを京の放った竜巻状の黒いオーラへとぶつける。竜巻状の黒いオーラに触れた浴衣の雷にも似た黒いオーラに接触した瞬間竜巻状の黒いオーラをねじ曲げ、消滅させた。
京の竜巻状の黒いオーラを消滅させた浴衣は両手に固く握られたその小さな拳から溢れ出る黒いオーラを制御している感じは全く無く、黒い雷は浴衣の意思とは関係無く、辺りに接触していく。
浴衣の両手から溢れる黒い雷に接触したものは形が固定する事無く、歪みが生じる。それ以外にも黒い雷の周辺の空間すら歪んでいた。
「……おいおい。物の原型を変化させる能力の覚醒が俺の能力を無効化させた上に、空間まで歪ませるのかよ」
京は浴衣の黒いオーラが雷の様になったそれを見て、元々の能力からの変わりように戸惑いながらも、背後に居る者達に危害が及んでいないか確認する。
背後に居る者達には浴衣の黒い雷は届いて居ない事から、京の視線は別の人間へと向けられる。
「大丈夫か?」
「……大丈夫じゃありません。目の前の地面が歪んでます」
「それだけ叫ぶ事が出来るなら大丈夫だな」
「大丈夫じゃ無い。今すぐ助けて下さい」
「……取り敢えず、この黒いオーラ……嫌、黒い雷をなんとかしないとな」
「ちょっと、見棄てるつもりですか?」
「……しかし、俺の無効化させる能力を上回る黒い雷にどう対抗したものか」
地面に埋もれ続ける長谷川を後回しに、京は浴衣の黒い雷をどうやって対処するか頭を悩ませていた。
地面に埋もれている長谷川は項垂れながら、地面に頭をつけていた。
「ナギサ。能力の時と比べ全く別物になったあの異能は一体なんなんだ?」
浴衣の対処法を考えたものの、思い浮かばず京はナギサに助けを求める。
「……異能力者の覚醒は思いによって幾つもの進化を遂げるものだけど、能力者の覚醒は使用者の怒りや悲しみ等のマイナスの感情によって全く別なものになるケースがあるの。基本はベースが全く同じ筈だよ」
「……ベースは同じ?別物にしか見えないが」
「確かにそう見えるけど、似た部分が多いよ。元々の能力である造り直しは手に触れた物の原型を別の物へと変化させる能力だったでしょ?」
「あぁ、そうだが……この黒い雷に触れた瞬間、俺の能力が無効化されたぞ」
「うん。それは黒い雷が触れた瞬間に京の能力自体を全く別物に変化させたんだと思う」
「つまり、あいつの黒い雷みたいなものに触れた瞬間、俺の能力はあいつが思い描く能力へと変化させられるって事で良いのか?」
「うん。どこまであの覚醒をものにしているのかは分からないけど、触れたら最後だと思って」
「……なんにも触れていない所の空間が歪んでいるが……黒い雷みたいなものが体に当たったらどうなる?」
「……彼女が思うがままになると思う」
「……取り敢えず、触れなければ良いんだな?」
「うん!」
ナギサのその答えを聞いて、京は浴衣の黒い雷への警戒を強める。
「何をしても無駄!私の創造主の思うがままには全てを変化させていく。例えば、この歪んでいる空間は今空気に干渉しているんだけど……この意味分かる?」
「……さぁ?」
「空気には何が含まれているかは分かるでしょ?」
「それぐらいは分かる。酸素とかだろ?」
「それじゃ、酸素を毒素に変化させたらどうなのかは……言うまでも無いよね?」
京は慌てて、体中から黒いオーラを放出させ、周辺に黒いオーラの膜を造り出す。
「……お前の能力……嫌、異能によって変化させたなら、それを無効化位は出来る。お前の異能は触れた瞬間に発動するものだ。触れなければ問題は無い」
「そうだね。でも、触れた瞬間全てが私の思い通りになる。そんな事はその場しのぎにしかならない」
浴衣は京の周辺を覆われる黒いオーラに両手から伸びる雷の様な黒いオーラを伸ばしていく。
浴衣の雷の様な黒いオーラが京の黒いオーラに触れた瞬間、京の黒いオーラを跡形もなく消え去る。
地獄属性以外の全てを無効化させる事が出来る京の黒いオーラだが、浴衣の造り直しの覚醒後である創造主の思うがままにの異能によって能力自体が書き換えられ、浴衣の雷の様な黒いオーラを無効化出来ずにいた。防御する事も出来ない京は自身の元へと真っ直ぐ伸びてくる浴衣の雷の様な黒いオーラを避ける事も出来ない。何故なら、避ければ後ろに居るナギサ、ナギア、愛花、無表情な少女達が攻撃対象となってしまうからだ。
避けられないその状況に京は浴衣の両手から伸びる雷の様な黒いオーラを避ける事をせずにその攻撃を体で受ける。
浴衣の両手から伸びる雷の様な黒いオーラを体で受けた京は体が歪むと一瞬にしてバラバラに切断されていく。
そんな光景を目の前で見た愛花とナギサは思わず、反射的に悲鳴を上げる。
「……私のこのオーラに触れた瞬間、全てを私が造り直すも破壊するも自由自在。私の創造主の思うがままにで造り直せないものも破壊出来ないものもこの世に存在しない」
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京は死んだ事によって地獄帰りが発動する。
地獄帰りは京の死が確定してその瞬間に発動する。死んだらその瞬間から一分~五分前に戻る事が出来る能力である。それによって京は死ぬ前に戻る事に成功する。
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「そうだね。でも、触れた瞬間全てが私の思い通りになる。そんな事はその場しのぎにしかならない」
京は浴衣のその聞いた事のあるその言葉によって地獄帰りが正しく発動した事を把握する。
京は周辺を覆っていた黒いオーラを一瞬にして消していく
。
地獄帰りの能力向上である六道輪廻が保て無くなった訳では無い。
浴衣の創造主の思うがままにに対抗しようにも触れた瞬間に全てを書き換える異能に現在の京では対処する事が出来ない。その事実を理解する事が出来た京は六道輪廻の能力を解除する方法を選ぶ。
それは今の京が出来る最善な選択とも言える。
六道輪廻は京が死ねば死ぬ程にその力を増していく能力で地獄帰りの能力があるからこそ、成立する能力である。地獄帰りは死ぬと地獄を経由して生き返る事によって六道のどれかの力を強化していく。現在の京は人間道が極めて強いのだが、それ以外は全く扱えないレベルである。人間道の力だけでは浴衣に勝てないなら、何度も死んでも新たな力を得る道を京は選択した。
「どうゆうつもり?」
突然防御の役割をしていた黒いオーラを消した事に浴衣は戸惑う。
「何でも無い。早く来い」
「なに言ってるの?今貴方達の周辺の酸素は毒素となっているのよ。私がなにもしなくても終われる」
「……そうだったな。忘れてた」
京は慌てて、背後に居る女達の周辺と長谷川の周辺に黒いオーラを覆わせる。
しかし、京自身の周りには一切黒いオーラを纏わせておらず、防御体勢も取らない京に浴衣は首を傾げていた。
「死にたいの?」
「あぁ、殺してくれ!」
「ふざけないで!」
「ふざけてない。殺してくれないと俺が困る」
「……はぁ?」
京のその発言を理解出来ずに浴衣はただ戸惑っていた。
今まで仲間を助ける為に力を振るってきた京が突然仲間を助け様と動く事は変わらないが、自身の命を守る行動を全く取らなくなった為、浴衣は戸惑っていた。
「……だったら、殺してあげる」
浴衣は考える事を止め、両手から伸びる雷の様な黒いオーラを京へと伸ばしていく。




