ヒーローでは無くアホ
京の能力は地獄戻りで死んだら、その瞬間から一分~五分前に戻る事が出来る能力であり、長谷川を助けられるとは言えない。
更に地獄戻りの能力向上後の能力である六道輪廻でも無理と言える。
六道輪廻は地獄戻りによって死んだら、死んだだけ、地獄を経由して六道輪廻の能力の力が上がっていく能力でもある。そんな京の六道輪廻は人間道の力だけが突出しており、地獄属性以外の力を無力化して払いのける事が出来る。今の京では人間道の力しか使えない為、地面に埋もれている長谷川を助けるには至らないだろう。
京は背後で倒れるナギアと愛花に目を向ける。
ナギアは目を覚ます様子は無く、愛花には意識があり、京と目が合う。
「……色々、やることがあってな」
「色々?ヒーロー気取りも良いけど、気取るなら、しっかりと仲間を救って見せなさいよ」
「ヒーローになんかなれねぇよ。ヒーローだったら、仲間が傷つく前に何とかするだろう?俺はただ仲間を助ける事も出来ずに、このアホ面晒しに来たアホだ。文句あるか?」
「……そう。そんなアホに負けてあげる程、私は甘くは無いわ」
これから戦闘になるため、京は背後に居るナギサと無表情な少女に指示を出す。
「ナギサと……えっと、お前、ナギアは……えっと倒れている女を俺の後ろに連れてこい」
「うん。任せて」
京の指示を受け、ナギサは自信満々に行動へと移す。
無表情な少女は軽く会釈だけすると、ナギサの後へと続く。
「……無駄な事ね。貴方の近くに仲間を集め、守るつもり?だったら、地面に居るその子はどうするの?」
「……」
無言が続く京のその言葉が出るのを長谷川は聞き耳を立て、今や遅しと待ち続けていた。
「……取り敢えず、放置だ」
「えっ?ちょっと、この状態で放置ですか?」
「そうだ」
「……地面から出してくれるとか」
「スコップが有ればやってやる」
「そんなもの持ち歩いてません」
「そうか。それは残念だ。有ればなぁ」
「そんな」
地面から出られない状態がまだ続くと分かると長谷川の力は抜け、ぐったりと地面に体を接触させる。
「それで良いの?」
長谷川を放置させ続けると宣言した京のその一言に琴音は再確認を取る様に京に告げる。
そんな京は何の迷いも無く、答える。
「放置だと言ったら、放置だ」
「攻撃当たるわよ」
「男なら、それぐらい我慢出来るだろ」
京のその発言にぐったりと倒れ込んでいた長谷川は勢い良く体を起こす。しかし、手足が地面に埋もれている為、中途半端にした体を起こす事しか出来ずにいた。そんな中途半端に起き上がった長谷川は京と琴音の会話に割り込む。
「男でも我慢出来る攻撃と出来ない攻撃があります。その辺は見極めてくれますよね」
「……あぁ、大体見れば分かるだろ」
「それじゃ、危ない攻撃の時は助けて下さいね」
「必死だな」
「当たり前でしょ。避ける事も出来ないんですよこっちは」
「……地面から出られないのか?」
「出られたら、とっくに出てますよ」
「まぁ、出来るだけ、早く終わらせるから待ってろ」
「……はい。待ってます」
長谷川は力を使い果たしたかのように再び地面にぐったりと倒れ込む。
そんな長谷川を目にした京は目の前に居る琴音を真っ直ぐ見つめる。
「……さっさと終らせる。来いよ」
「見え透いた挑発ね。貴方の黒いオーラは浴衣の魔力を込めた一撃を無力化させる事に成功した。まぁ、それだけよね。攻撃性は皆無、無力化だけしか出来ないんじゃないの?」
「……どうだろうな」
「攻撃力のある黒いオーラなら、とっくに攻撃を仕掛けても良いのでしょ。……しないのには訳があると思うのだけど……その自信満々な態度から魔法だけで無く、能力、異能の全てを無力化させる事が出来るんでしょ?」
「どうだろうな」
「……私がどんな力を持っているのか分からない筈なのに攻撃を誘ってる。つまり、貴方にとって相手の力なんて関係無い全てを無力化出来るのだから。だからこそ、それが弱点とも言える。攻撃力を持たない貴方は私達に力を使わせ、体力が尽きるのを待つ事しか出来ない。違う?」
「どうだろうな」
「まぁ、直ぐに分かる事だけどね」
琴音は右手に纏わせていた青色の電気道に停車してあった車数台に向けて、放出させる。
数台の車には傷一つ付くこと無く、青色の電気で覆われていた。
京の琴音のその一連の動作に疑問を抱きながらも、特に行動に移す訳でも無く、ただ琴音から目を放さない様に琴音をずっと凝視していた。
琴音は青色の電気を纏わせた数台の車を右手に纏わせていた青色の電気へと引き寄せる。
琴音の右手から伸びた青色の電気に繋がられた数台の車は琴音の頭上に浮遊を続けていた。
(どうゆう原理だ?金属を引き寄せたのか?だったら、電気を浴びせる必要は無い。磁力系統だな。魔法では無いことは確かだ。能力か異能だな)
京は琴音の青色の電気を見て、曖昧だがなんとなく把握する。
そんな京は琴音の力がどんなにものであろうがここから逃げる事はしない。
六道輪廻の力の一つである人間道によって地獄属性以外なら全てを無力化する事が出来る。そんな力があるからこそ、逃げる必要もない。それよりも京の背後にナギサ達が居る為、逃げようにも逃げられない。
そんな京に向けて、琴音は頭上に浮遊させていた無数の車を放つ。
(……さっきはあいつの右手に纏っていた青色の電気に引き寄せられ、動いていたが車がなんで今度は俺に向かって飛んでくる?)
考えた所で飛んで来る車を有効に止める方法などは思い付く事は出来なかった京は全身から溢れ出る黒いオーラを右手に集め、その黒いオーラを竜巻状に螺旋の渦を飛んで来る車へとぶつける。
車は黒い竜巻に触れた瞬間、車に覆われていた青色の電気が消えたその瞬間、車は地面へと落ちていく。
(……やっぱり、青色の電気がなければものを浮かす事も出来ないみたいだな)
京は青色の電気が無くなった瞬間、浮いている事が出来なくなった車を見て青色の電気がなければものを浮かす事が出来ないと把握した。
しかし、ものを浮かすだけなら、念動力みたいに浮かし操作だけするなら、京が悩む事はなかった。琴音が車を浮かせるのも、動かすのにも青色の電気が深く関わっている事だけは分かっていた。
今の京には取り敢えず、琴音が出した青色の電気を全て無力化すれば、琴音の攻撃を全て防げると確信を持つ。
「後ろ……の、建物」
愛花のその拙く、しっかりとしたその口調を一言も漏らす事無く、聞き取った京は愛花の言う背後の建物を目にする。
京の視界に入った建物にはさっきの車同様に青色の電気が纏われていた。
「……何で建物まで、電気を纏わせてんだ?」
「それはあの女の能力は電子磁石青色の電気に触れた物に磁力を与える能力。磁力を与える以外も電撃としての攻撃しようとすれば出来るみたい」
愛花からの助言を受け、琴音の能力を把握することが出来た京は背後に居る愛花の顔をしっかりと見つめ、礼を言う。
「そうか。助かった。ありがとう」
想像もしていなかった京からの礼を受けた愛花は返答に困りながらも、頬を赤く染め、頼もしいその後ろ姿を目に焼き付ける。
「琴音ちゃん。手を貸す?」
「必要無いわ。私の能力は無効化されたけど、車には何のダメージも無いわ。車みたいに重ければ、能力を解除された場合、地面に落ちてしまうけど、軽い物なら余力で当てる事が出来るわ」
「でも、あの黒い竜巻はかなりの風を起こしてるよ。軽ければ、飛ばされちゃうよ」
「……それは……そうね。貴女の言う通りだわ。だったら、私に残されたのは、接近戦位かしら。それとも、能力向上……」
「駄目だよ。今回の作戦は玲愛ちゃん達を神奈川支部の防衛局に届けるのが目的だよ。相手に情報を与えては駄目だって言われてる筈だよ」
「……分かったわ。もう玲愛達は着いている所じゃあない?そろそろ、引いても良いかもね」
「連絡が来ない以上駄目だよ。ここからは私がやるよ」
「任せても良いの?」
「うん。任せて」
浴衣は黒魔銃に大量の魔力を溜め込みながら、京の目の前に立ち塞がる。
京を琴音が後ろに下がったものの、後ろの建物に黒いオーラを放出させ、青色の電気が纏っていた建物全体に黒いオーラを包み込むと、建物に纏っていた青色の電気を無効化させる事に成功させる。
「もう後ろの女の能力では俺達へと物を飛ばす事は出来んぞ」
「必要無いよ。もう琴音ちゃんは戦わないから、私が全部終らせる」
「……そうか。出来ると良いな」
「うん。出来るから貴方は貴方の心配をすれば」
「……する必要があるならな」
「だったら、必要だよ。管理する神の日本支部を任されているチーム[ゼロ]の傘下チーム[ハンド]の副リーダーを甘く見ないで」
「管理する神だの、チーム[ゼロ]だの、チーム[ハンド]だのどうでも良い。チーム[リベンジャー]に挑んだ時点でお前らは俺の敵だ」
「それじゃ、本気で行くよ」
浴衣は黒魔銃に溜められた魔力以外に、能力のエネルギーを入れ始める。
浴衣は黒魔銃の引き金を引き、魔力と能力のエネルギーが入り乱れた一撃が京に向かって放たれる。
京は右手に覆われていた黒いオーラを竜巻状にすると、浴衣に放たれたその一撃を凪ぎ払う。
黒魔銃で出来る最高の攻撃を簡単に無力化させた京に対して、黒魔銃での攻撃は全く効果が無いと思った浴衣は出現させた魔法陣の中へと入れ込む。
「……もう銃は良いのか?」
「私のメインウエポン黒魔銃だけど、それ以外にも戦う術はあるわ」
「どんな?」
「こんな能力」
浴衣はしゃがみ込み、地面に手をつく。
すると、京は視界は揺らぐ、京は直ぐに足元を確認する。
そこにはさっきまでの地面と違って沼地へと変化しており、次第に京の足は沼地へとはまっていく。
京は慌てて、右手に纏わせていた黒いオーラを全身へと纏わせていく。
「……無力化出来ない?」
京は浴衣の能力によって沼地に変えられたなら、その能力を無力化させればこの沼地を元の地面へと戻す事が出来ると考えていたが、それが出来ない事に京は戸惑う。
 




