「Aランク能力者」
ミスで冒頭部分が短編として投稿されています。先に短編の転生破棄をご覧ください。
「目標について、判明している点を全て挙げてほしい。」
新しい手足の感覚を確かめながら、ミザリーに問う。
「今わかっていることは、男、年齢はおよそ15から20、身体的特徴に欠ける、ね。まぁ、いつも通りよ。」
…そう、転生者のほとんどは外見的、身体的特徴に欠ける、つまり「ほぼ一般人」なのだ、これがまた面倒で、目視では解らないことの方が多い。砂の運河から砂金を探す。そんなの俺には出来っこない。だから…
「安心しなさい?今回は10分で見つけてみせるわ。もう生活域も特定してるんだから。」
俺達の仲間にも「転生者」はいる。その多くが能力者で、その多くが記憶を「洗浄」され、良いように扱われている。ミザリーが良い例だ。ただの「人探し」という能力。単純だが、利用でき、そして反逆されても大してダメージのない、平凡な能力者は、ごく稀に「消費」する名目のもと、「保護」される。
「…目標の能力については、何も判明していないのか?」
いちばん大切なことだ。相手の能力が「何」なのか理解せずに戦うことは半ば自殺行為に過ぎない。
「…これもいつも通りよ。魔法を使うの。主に、炎の魔法を得意としているようね。何度かボヤ騒ぎを起こしているのが確認できるわ。」
能力者の異能力でいちばん数が多いのが「魔法」だ。科学で説明できない方法で、火を、雷を、水を、風を、時に物理法則までも操る。こういった能力は強さのムラが激しい上に扱いにくいため、基本的には「処理」される。…今回も、例外ではない。
「ランクCの魔法使いね…いつも通りの、生贄 兼 斥候 かい?まったく、割に合わない仕事よな。」
「文句言わないで…っと、見つけたわ。アイツよ。」
ミザリーが指と視線を向けた先に、…転生者?らしき少年?が一人、コンビニから買い物袋を下げて出てきた。本当に外見的特徴に乏しきその少年?は、自宅へ帰ろうとしている様だった。
「追いかけましょう。今は車もあるし、いざとなったらすぐ逃げられるわ。行くわよ!」
…それから数分後、少年?の自宅と思われる(あの見た目の割に)豪華な一軒家にたどり着いた。生まれ変わったと言えど、大半の転生者は尾行など意識もしない。よほど今の人生が楽しいと見える。ただ悲しいことに、少年?の「二週目」は今日でハッピーエンドを迎えるわけだが。
「すいません、開けてください。」
素直にドアを蹴破っても良いが、罠を仕掛けているかも知れないし、何より警察でも呼ばれたら面倒だ。俺達は公的な機関ではあるが、その存在そのものは非合法的であるからだ。
「…どなたですか?」
まるで狼を知らない子羊のような声で、こちらをのぞく。
「突然お邪魔してすいません。ただ、あなた様にお話がございまして…」(敬語はやはり苦手だ)
「はい?…お話、ですか?」
後ろにミザリーと、ミザリーが駆る車だけがあることを確認し、
「あなた、この世界の人間では、ございませんね?」
はっ、としたような顔をして、自分が何を問われているのに理解するまでの数秒の間に、左手の義手を少年?の首に押し付け、伝える。
「悪いが、ここで終わってもらう。」
一瞬、少年?の両手が光る。しかし何も起きない。少年?は困惑しているようだった。
「この程度の科学で済むなら、俺じゃなくても良かったな。」
赤子の手を捻る、というよりはドアノブを引き抜くような感覚で少年の首を ねじる 。少年は苦悶に満ちたその顔で、こちらに敵意を向ける。だが、もう遅い。
割りばしを割るような音(要するに朝飯前ってこと)とともに、少年の体はぶらん、と力なく垂れ下がる。これで俺の仕事は終わり。あとは、本部の奴らが適当に揉み消すなり、証拠の抹消なりしてくれるだろう。…ミザリーの車に少年の死体を乗せ、帰路に着く。すると、ミザリーは俺が運転席に乗るなり、
「仕事が一段落して安心してるとこ悪いけど、また仕事よ、今度は…ランクB“以上“推定ランクはA、よ。」
少年の死体を乗せたまま、新たな目標へと車を走らせる。
「ランクA、か。」
能力者のランクは、大きく分けて五つ。上から順に、特A、A、B、C。 これらは単純な強さだけでなく、規模や規格に準ずる。例えば、あの少年は…(しまった、ろくに能力を確認しないで殺してしまった)ランクC、つまり、「災害」レベルだ。 と言っても、大概の魔法系能力者のランクはCで、強さだけで言えば武装した一般人に毛が生えた程度のものがほとんどだ。これがB以上になると、世界の滅亡に直結するようになる…らしい。 つまり、特Aランクの能力者は、巨大隕石の衝突とか、不治の感染症の蔓延とかと同じ位の影響力があることになる。…そして、最後のランク、S。
これは、単純に観測不可、測定不可の能力が当てはまる。例えば、人の精神を操り、記憶を完全に書き換えたり、また、空間や時間を飛び越えたりする、マジものの「超能力」ってわけだ。
これだけは、直接的な強さに関係のないランクになっている。
俺達に保護されている能力者の9割以上が、このSランクに当たる。ようは「戦闘力が皆無だが、便利」な能力者だ。ミザリーもこれに当たる。
「何こっちみて笑ってるのよ、真面目に仕事しなさい!」
「はいはい、…で、目標について、わかっていることはことは?」
「姿を消す、能力者だとも、分身を創る能力者とも言われているわ。」
「視覚に作用するタイプの能力者か。だが、その程度でなぜAなんだ?」
「言わなくてもわかるでしょ、強いの!今、執行部隊の奴らが死ぬ気で足止めしてるけど、多分持たないわ。」
執行部隊とは、本部直属の精鋭たちの事である。
「…そんなのを、俺達に殺れって言うのか?まったく、本部のバカどもを一発ぶん殴ってやりたいところだ。」
「生き残ったら、好きなだけ殴れば良いじゃない。勝算がないなら、そもそも命令されてないでしょ?あなたなら勝てる、理由があるのよ。」
…俺に勝てる、理由か。
「ほら、もうそろそろ着くわよ。アイツ、こんな大通りの真ん中で暴れるなんて!」
…良いだろう。精々生き残ってやるさ。「いつも通り」。な。
目標地点についたとき、まず目に入るのはその異様さだった。
丸焦げになったらアスファルトの道路、死体、死体、死体。
上空には「奴」が「産まれた」らしき歪み。すぐに消える小さな世界の歪み。これ以上歪みを広げまいと、「奴」を見…
えない。 確かにいるはずだが、居ない。一呼吸置き、もう一度注意深く観察しようとした、その時_
一閃。白光の筋。熱。振り向いた時、すでに奴は攻撃の所作を取っていた。「速い…!」頭が理解するより速く。義手と義足で受け止め、流す。そして、返す…「?!」当たらない、というよりは、当たった感触が無い。俺の蹴りは奴の体をすり抜け、俺の拳は奴の顔面を捉えることはない。確かに、そこにいるはずなのに。
「**********ッッッ!!」
明らかに人のそれではない叫びをあげ、奴が激しい光とともにその姿を現した。