表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/214

第58話 『アトラスティア勉強会』

 成り行きのまま無愛想なおじさんと一緒に過ごす、異世界に来て初めての夜。

 街外れの静かな森の中、マコト達はブラッドの起こした火に当たりながら一日の疲れを癒やしていた。並列型に組まれた薪は、寒冷地でも勢いよく燃えている。


「ふう……」

「少しは落ち着きましたか? マコト」

「うん。今日起きた事、色々と整理してた」


 様々な事があった一日だったが、持ち前の前向き思考ですっかり立ち直ったマコト。彼女はこれまでの考えをまとめるため、一つの疑問を口にした。


「えっと、私達がいるこの時代って、宗教の力が強いんだよね? でも、それは平和のためにある教えじゃないみたい。お父さんが魔王を倒した後、何が起きてこうなったのか、まだいまいちよく分からないんだよね」

「世界が救われたからといって必ずしも平和になる訳ではないというのが、人間達の面白い所ですね。あなたにも分かりやすく例えるなら、王様ゲームが終わって、次は椅子取りゲームが始まっただけの事ですよ」

「そうやって茶化すのは嫌い。真面目に、教えてほしいの」

「ご、ごめんなさい……」


 弱ったアンジェは該当する部分が書いてあるメモを取り出し、異世界の客人にも分かりやすく説明してあげる事にした。


「えっと……これですね、アトラスティア史、新暦編。えっと、これを語るには少しばかり時間がかかりますが、よろしいでしょうか?」

「うん、ありがとう。がんばって勉強する」


 アンジェの広げて見せたメモには、びっしりとこの地上で起きた出来事が順を追って書き連ねられていた。どうやらこの世界では近年歴史的な事件が続いているらしく、そこには戦争といった文字が頻出していた。それだけで、この世界の状況がなんとなく窺えるものである。


「つまり今というのは、これだけの事が現在進行形で起こっている激動の時代です。本当に厄介な時期に来ましたね。あのおじさんがいて良かったです」

「そうだね。無事にイヅモまで辿り着けるのかな……私達」

「そのためにも、まずは理解です。では、アトラスティア勉強会といきましょう」


 元の世界とは違い、何もすることのない夜長。マコトの提案で、この世界について理解を深めるための勉強会が開かれる事となった。勉強好きのマコトは、早速魔王の時代から現在においての出来事をまとめてみせた。


「ふんふん、じゃあわかりやすく年表っぽくしてみよう。魔王が倒されて、大きく歴史が動いたのが今から20年前ね」




~試験に出る! アトラスティア年表~


 二十年前(新暦00年)、魔王を討伐した救世主が帰還し、女神サイファーがこの世界を調律。地上において魔の力が薄くなり、魔法など異能の力が制限される。それと同時にマレフィカと呼ばれる者達が誕生。


 十五年前(新暦05年)、神聖ガーディアナ教国で聖女が誕生。ガーディアナ神徒の数が世界人口の約半数となり、フェルミニア王国に代わってガーディアナ教国が大陸の首長国となる。


 十四年前(新暦06年)、海の向こうの大陸、ネオエデンとエルガイアの国交が断絶する。これは彼らの持つ、空を行く技術をガーディアナが禁止した結果。世界における二大大国である両国は、今後もにらみ合いを続けていく事となる。


 十三年前(新暦07年)、数々の報告により、マレフィカという存在が明るみに出る。ただ、その頃はただの忌み子として扱われていた。ガーディアナは先んじてマレフィカに対し、世を乱す者だとして審問を開始する。


 十二年前(新暦08年)、クーロン国において妖仙の反乱が起こる。これによりしばらく国家機能が低下し、大陸はガーディアナ一強状態に陥る。


 十年前(新暦10年)、ローランド王国が世界中で弾圧されるマレフィカを広く保護する。


 九年前(新暦11年)、破滅の魔女アリアによるマレフィカ最初の事件が起きる。それによりフェルミニア王都の約半分が消失。国力が低下したフェルミニアはガーディアナに吸収され、神聖フェルミニアとなる。同時に魔女(マレフィカ)狩りが開始される。

 さらに同時期、フェルミニアから独立する形でロンデニオン国が生まれる。


 六年前(新暦14年)、ガーディアナ教国とローランド王国の間で、ローランド戦役が勃発(ぼっぱつ)。悪魔の使い、マレフィカを受け入れる異端との烙印を押され、約一年の戦いの後、ローランド王国は滅亡した。


 三年前(新暦17年)、ガーディアナと戦争中にあった帝政アルベスタンの皇帝が死去。次期皇帝は権限を剥奪(はくだつ)され臨時の王として即位、ガーディアナとの間に休戦協定が結ばれる。


 二年前(新暦18年)、イヅモ国が鎖国を宣言。これはオロチの加護によって国家統一を果たした天現(てんげん)家による政策。


 一年前(新暦19年)、魔法国家アルテミスがガーディアナの侵略に屈し、属国となる。


 一月前(新暦20年)、アバドン戦争が勃発。多くの戦闘部族が乱立するアバドン国とガーディアナの争いは未だ続いている。

 それと同時期、聖女聖誕祭にて聖女誘拐事件が発生する。


 そして現在、本格的にエルガイア大陸の支配に乗り出したガーディアナは各地に司徒を送り込み、大陸はかつてない抗争状態に(おちい)っている。


~アトラスティア年表 おわり~




「とりあえずこんな感じかな。うーん……こうやって見ると、やっぱりガーディアナって国が全ての戦争に関わっているように見えるね」

「ああ。聖女が消え、奴らもなりふり構わなくなったようだ。だがそのおかげで、逆に本拠地であるガーディアナは手薄になった。明日は第二の聖女の式典もあるからな。周辺の戦力もさらに割かれる、ここを脱出するにはうってつけだろう」


 急に散策から帰ってきたブラッドが話しかける。新しく薪がくべられ、三人は勢いを増した炎を囲んだ。


「そういえばブラッドさんって、どこの人なんですか?」

「ああ、俺はローランドにいた。年表でも見ただろ。その戦争で生き残った、ただの負け犬さ」

「そんな事……」


 戦争を経験した事のないマコトには、返す言葉も見つからない。それなりにこの世界の情勢を理解したマコトは、暖かい火を見つめながらどこか感傷的な気分になっていた。


「この世界では今も戦争ばかり起きてるんだね。救世主って、こういう時何をすればいいんだろう」

「不干渉です。魔と戦い、魔王を倒すのが救世主の役目。マコトが気を病む必要はありませんよ」


 あまりに冷たいアンジェの物言いに、マコトは少しむっとした顔をする。


「まあ、天使の言う事も最もだ。リョウのいた頃は、ほとんどの人類が手を取り合っていたからな。敵はほぼ魔王のみ。どこにも悩む必要はなかった訳だが、今は魔がいるわけではなくとも戦争だらけ。救世主なんてお呼びじゃない時代だ。ならばなぜ、お前は今ここに来た? 俺に隠している、何か重大な理由があるんじゃないのか?」

「それは……」


 マコトは言いよどんだ。自分の中にこそ、その魔王がいるなどとは言えなかったのだ。相手は魔王退治に命を張ったという男。本当の事を言えば、今ここで殺されてしまうかもしれない。 


「魔はいないんじゃなくて、これから現われるんです。イヅモ国に現在、かすかですが魔界との繋がりが生まれています。それには他の天使がすでに向かっていますが、やがて事が大きくなれば救世主の力も必要になるでしょう」

「なに? そうか……、イヅモ国に……」


 ブラッドは思う所があるのか、そこで会話は途切れた。

 アンジェのフォローにより難を逃れたが、これからも魔王の事は秘密にしておくようにと、アンジェは強い目力でそう訴えかけていた。マコトはそれにしっかりと頷き、話題を変えるために別の疑問をぶつけた。


「あの、マレフィカっていうのはどういう人達なのかな。なんだか、戦争の原因みたいに書かれているけど」


 魔女(マレフィカ)。なぜだかマコトにはそれが人ごとだとは思えなかった。まるで自分と同じ、望まない力を持って生まれただけの少女達に思えたのだ。


「うーん、原因というより、戦争の道具にされている人達と言った方がいいかも知れませんね。その力を巡って大人達が勝手に戦争しているだけですから」

「つまり、二十歳までの、恐ろしい力を持っているだけの女の子って考えればいいのかな」

「その通りだ。だが、皆が皆、恐ろしい魔女という訳ではない」


 ブラッドは少し間を開けて、神妙な顔で語り出す。


「実を言うと、俺の娘もマレフィカだ。しかし、異能の力はほとんど備わってはいない。俺に似ず正義感が強い奴でな、少し無茶をしたらしく行方が分からなくなった。つまり、そういう訳で俺は娘を捜しにここまで来たってとこだな。結局は見つける事ができなかったが、今頃中立国であるロンデにでも逃げ込んでいるんだろう」

「行方不明……そうだったんですね。そんな大変な時に巻き込んでしまって、ごめんなさい……」

「言っただろう、あいつはマレフィカだと。それ以前に俺の子だ。心配はしていない」


 娘を語るブラッドはいつになく優しい瞳をしていた。マコトはどこかそんなブラッドに父の姿を重ねる。


「それで、マレフィカについてだったな。マレフィカはその誕生の由来から魔の落とし子とされているが、全然違う。真実は、神を宿した子供と言う方が正しいだろう。魔王がかつて冥界から奪い、死ぬ間際にこの世に解き放った神の魂(カオス)。これがどういう訳かそいつら一人一人に宿っているという話だ。つまり魔王はそれらを制御し、自分の力にするつもりだったが失敗した。当然だろう。魔王自体、その上位のカオスの一つに過ぎないのだからな」

「魔王が……」

「最後に語っていた口ぶりから、奴はその力を使い何かに復讐するつもりだったらしいが、俺も詳しくは知らん。放たれた無数のカオスは母体を求めてこの世界を漂い、それぞれが選んだ素質を持つ胎児へと宿った。娘を含め、マレフィカが今どれだけの数がいるかは不明だ。なんせ、カオスは星の数ほどあるというからな」


 魔王の最後を知る彼ですら、それ以上の情報は知らないらしい。そんなブラッドの話を聞いてか、何かを思い出したようにアンジェが割って入った。


「そう言えばアンジェには、天界が保有していたカオスが宿っていると聞いた事があります。でも今は力を封じられているみたいで何も使えません。これは、カオスの持つ力を下手に暴走させないためだと女神様は言っていました」

「天使のマレフィカか? 何気にとんでもない奴だな……お前」

「じゃあ、やっぱり私もマレフィカなのかな?」

「マコトは……その……」


 アンジェは珍しく複雑な顔をしている。何かを隠そうとしている様子はブラッドにも伝わった。


「なるほどな。魔王のカオスはリョウがその身に封印した。つまりその子供であるお前に魔王が宿り、あわよくば復活しようとしているのだろう。だからお前はここへ来たんじゃないのか?」

「うっ……」


 あまりに鋭い指摘に、アンジェはついその目を反らす。


「隠す必要はない。魔王との決戦の際、俺は命を捨て魔王を道連れにしようとした。後は俺ごとリョウが止めを刺す。それで全ては終わるはずだったんだ。しかし、あいつはそうしなかった。つまり、恥ずかしながら俺はお前の親父に助けられたって事だ。お前が何者であっても、俺はお前の味方のつもりだ」


 その言葉からは悔恨(かいこん)の思いがにじみ出る。父が封印という選択を選んだのは、何よりブラッドの命を救うためでもあったのだ。


「ブラッドさん……そうだったんですか。アンジェ、もう言ってもいい?」

「もうそれ、ほとんど言ってるのと同じです……」


 それもそうだと、マコトは打ち明ける決心をする。ブラッドはそれを受け入れてくれるはずだと信じて。


「ブラッドさんの言うとおり、魔王は、私の中にいるんです。私は、事故にあって向こうの世界で魔王になりかけました。そんな時、女神様がチャンスをくれたんです。そして、私はここに来た。いつか必ずお父さんぐらい強くなって、私の中の魔王を倒すために」

「そうか……お前も魔王のカオスを持つマレフィカという訳か。そして、あの戦いはまだ終わっていなかったと……」


 遠い目をするブラッド。かつての凄惨な戦いを思い返しているのだろうか。


「安心しろ。話を聞いた以上、見捨てはしない。それが俺の落とし前でもある」

「ふあぁ、殺されるんじゃないかと思いました」

「私は信じてたよ。お父さんの友達だもん。悪い人なわけないよ」

「悪い人かどうかはさておき、まあ、頼ってくれていい。よく話してくれたな、マコト」

「ブラッドさん……」


 マコトはブラッドに、父のような暖かさを感じた。すると途端に気持ちが軽くなったのか、ぐーっ、とお腹の音が鳴った。


「ふっ、緊張感というものが欠けるな、お前は」

「あはは……。じゃあ、そろそろごはんにしよっか。何かいいのないかな。あ、咲と四葉がたくさん入れてくれてる!」


 マコトは持参したバッグの中を漁る。そこには、すぐに食べられるコンビニのパンがいくつか入っていた。いつも咲や四葉と共に食べた人気の焼きそばパンや、チョココロネなどが見える。どうやら道場に向かう途中に二人が買ってきてくれていたようだ。マコトは中からお気に入りのもっちりチーズパンを取り出し、口いっぱいに頬張った。


「いただきます……うーん、おいしい!」


 マコトは何度もそれを噛みしめる。こちらへは来たばかりであるというのに、とても懐かしい味に思えた。そして自分を育んできた人達の作ったやさしい味を、異世界に来て改めてその舌で感じた。この味ともしばらくお別れだと思うと、少しせつない。


「ほら、みんなも遠慮せずに食べて」

「何です、これ? パンのようですが、まさかチョコが中に……?」


 マコトに勧められ、アンジェは遠慮する事もなくチョココロネを選んだ。


「うーん、味がしませんね。まるで、見えないバリアに守られているようです」


 パリパリという音と共に、アンジェは包装をかじっている。開け方がわからないのだろう。


「ほら、ここを破るの」

「ほう。……ふえー! これ、しっとりしていてとてもおいひいでふ! はぐっ、はぐっ、ウッ!」

「急いで食べると喉に詰まるよ、お水飲んで!」


 当たり前だが、初めて食べたような百点満点のリアクションである。水筒の水を飲み干した彼女は、口元にチョコをつけながら大袈裟に喜んだ。


「こんなに美味しいものが食べられるなんて、しあわせですー!」

「美味しいでしょコロネ、アンジェはお尻から食べるんだね」

「う、お尻とか言うと変なもの想像するじゃないですか……。ですがマコト、これはいけません。甘いものは人を堕落させるので、これからは没収します。いいですね」


 勝手な理屈を持ち出し、アンジェはバッグにある甘い物を全て自分のポーチへと押し込んだ。四葉が甘党なため、これでもかと買い込んでいたらしい。


「ちょっと、もう……、あ、ブラッドさんもどうぞ。後は焼きそばパンくらいしかありませんが」

「おお、そっちの食い物か。どれどれ」


 ブラッドはそれを一口かじると、少し首をかしげる。口に合わなかったのだろうか。


「うーむ……どうも物足りんが、まあ腹はふくれるだろう。少し、余計なものが混じっているがな」

「余計って、添加物のことかな。やっぱり慣れてないと分かるんですね」

「ああ、薬のようなにおいがするな。しかし、食べれん事もない。不味ければ酒で流し込めばいいだけだ」


 そう言うとブラッドは懐から酒の入った小さなボトルを取り出し、チャプチャプと振って見せた。しかし中でも一番味の濃い物のはずだが、もしかすると味覚音痴なのだろうか。マコトは口いっぱいに頬張るブラッドをじっと見つめる。なんだか、子供みたいな食べ方で見ていると安心した。


「なんだ、欲しいのか?」

「あっ、いえっ。ちょっと食べ方が面白くて」

「悪いかよ……ん、ほれ、お前も食べてみろ」

「えっ、いいですよそんな」


 ブラッドは最後の一口をマコトへと差し出した。断っても無理矢理押し込んでくるので根負けして口に入れる。間接キッスなんて言葉がよぎるが、これは口に入れる物なのでノーカンだと判定された。唇は無傷だ。


「うん、うん、おいしいですよ?」

「いや、まずいとは言ってない。俺は昔、味覚をほとんど失ってな、栄養さえ取れればそれでいい」

「そんな……」

「これでも料理好きな娘のおかげでずいぶんと取り戻せたんだが、特段美味いもの以外はやはりいまいち分からん」


 味覚がないだなんて、想像しただけでも少し悲しい。さらに、美味しい料理を作ってくれていた娘までもいなくなってしまったのなら、今の彼には潤いなど無いに等しいはずだ。


「じゃあ、私も娘さんみたいに、料理覚えます! 一緒に治していきましょう」

「……まあ、期待しておこう」


 ブラッドは微笑んだ。マコトは特に料理が出来る訳ではないが、美味しいという感情を一緒に共有したいと思ったのだ。それと同時に、不器用に生きるこの男に何かしてあげたいという感情が湧き上がる。恋という文字が頭に浮かんだが、マコトはそれを必死に否定した。


「なんだか二人、良い雰囲気ですね……」

「えっ、なにが!?」


 二人のやりとりの最中、アンジェはアップルパイまで食べ尽くしていた。お腹をさすりながら、ぐえっ、と下品なゲップを放つ。


「では、今日は疲れたので寝ましょう。おじさん、アンジェが魅力的だからって変な事はしないでくださいね」

「女神に誓って、せんと言える」

「それは安心です。すやぁ」

「ちょっと、良い雰囲気って何!?」


 怒り出すマコトには取り合わず、アンジェは早速ぐっすりと寝てしまった。


「もう……食後のガム、食べます?」

「ガム? ああ、チクルの事か。一つもらおう」

乳繰(ちちく)る? ブラッドさんまで何を言ってるんですか。チューインガムをあげるだけです」

「だからチクルだろう。なんだ? チュー良い? 噛む?」

「付き合ってもないのにチューなんてしません! 噛んだりもしません!!」

「……お前は何を言っている?」


 やはり異世界人、会話もどこか噛み合わない。しん、と静まりかえる暗い森の中、このままブラッドと二人でいるのも気まずいため、マコトも眠ることにした。落ち葉と(こけ)で作ったベッドに横たわり、彼女は今日の出来事を振り返ってみる。


(ほんと、色んな事があったなあ……)


 いつもの日常から、突然それは訪れた。


 友人の死、それをきっかけに魔王となる自分。しかし、女神サイファーの力で全てが元通りとなり、自分の中の魔王と戦う道を選ぶ。そして父を始めとする元救世主達との修行で力を手に入れ、友人達と別れアトラスティアへ。見習い天使アンジェと共に情勢が不安定なガーディアナへ降り立ち、早速命を狙われた所を父の旧友であるブラッドに助けられる。


 これが、ただの一日の出来事。今まで蒙昧(もうまい)に過ごしてきた日々の方が、どこか現実感を伴わないのは充実感の差なのだろうか。


「お父さん……私、頑張るから。絶対に、救世主になるから。見ててね……」


 やっと、自分にしかできない事を見つけた。そして、全力で打ち込める何かを。いつも父の様になりたいと思っていた少女は、ようやく今その一歩を踏み出す。


 こうしてひっそりと、救世主伝説の新たな幕が開いた。結末は誰にも分からない。全ては、一人の少女の選択で始まり、終わるだろう。

 女神はそれをただ、見守り続ける。この残酷な世界に届くかも分からぬ、救いの祈りと共に――。


―次回予告―

 時は戻り、魔女達の晩餐。

 マコトから語られた物語には続きがあった。

 ロザリーは一人、少女の口から“偽り”の真実を聞く。


 第59話「ロザリーとソフィア」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ