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第38話 『生還』

 行けども行けども堂々巡り。ロザリー達とはぐれてしまったティセとサクラコは、あらゆる試行錯誤を繰り返し、地下の暗闇からの脱出を試みていた。


「あー、ムカムカする! おしりぺんぺんまでされて、どうしてアタシ達がこんな事しなきゃいけないワケ? あのギルド長、帰ったら見てなさい……その髭もチリチリに燃やしてやるんだから!」

「物騒な事言わないで下さいよ……。あっ、とうとう五週目です。次はどんな手で行きましょう」


 全く進展のない状況に、鍛え抜かれた忍びであるサクラコにも疲労の色が見え始めた。さらには隣で悪鬼羅刹(あっきらせつ)の形相をした火炎魔神といっしょと来ては、心休まる暇もない。


「どんな手? 上等じゃない! このクソ屋敷、片っ端から燃やしてやるわよ!!」

「お、落ち着いて下さいっ。まだ何か手はあるはずです、なにとぞ!」


 そんなドタバタの最中、突然辺りが照らし出された。一面真っ白な光に包まれ、暗闇に慣れた目にも痛い。


「眩しっ! もう、次から次になんなのよぉ」

「ティセさん、見て下さい! 二階への階段です!」


 サクラコはすばやく瞳孔を絞り偵察する。どういう訳か知らないが、どうやら一階のホールに戻ってきたようだ。とりあえず、二人はいつ終わるとも知れない閉塞(へいそく)空間からの解放を喜んだ。


「ティセさんが脅すから、館の主が怖じ気づいたのかもしれませんね」

「ふっふっふ、さすがはアタシね。ほらサクラコ、感謝しなさい」

「よっ、神様、仏様、お天道様! 太陽神アマテラスの生まれ変わり!」

「ほほほ、くるしゅうない、くるしゅうない」


 二人がはしゃぎ回るのもつかの間、続けて耳をつんざくような悲鳴が飛び込む。


「ひゃあ!」

「……パメラの声じゃない? 今の」


 確かに上階から、彼女の声でロザリーと叫ぶ声が聞こえた気がする。


「なにか、あったんでしょうか……あったんでしょうね、きっと」

「あいつら、生意気に先に行くからよ! ほら、行くわよ。アタシ前見えないんだから」

「は、はい」


 いまだ目を開けられずにいる及び腰のティセを引き連れ、階段へと向かうサクラコ。


(この忍者屋敷のような仕掛けは、部隊を分断するためのものだった。そして執拗な足止め。これは私達の実力をある程度把握しているという事。敵は少数……だといいんですが)


 状況は圧倒的不利。それでもなんとか活路を見いだすべく、サクラコは相対する敵を分析する。


(この暗闇なら致命的な罠を張ることだって容易なはず……。それをしないのは何故? 魂を抜き取られるという噂が本当だとすると、もしかしたら、ロザリーさん達は……)


「ティセさん、急ぎましょう! とても嫌な予感がします。それと、おかしなにおいも……これは、ロザリーさんの言っていた”あんでっど”のにおいなのかもしれません!」

「う、うん。だから走ってんじゃん。急に変な事言わないでよ」


 息を切らしてやっとのこと中二階の踊り場にまでたどり着き、大きく一息ついたティセであったが、突如襲われる謎の息苦しさに悶絶(もんぜつ)した。


「うぷっ! おえええ!!」


 サクラコが嗅ぎ分けた通り、上階には異様な臭気が立ちこめていた。その不快な空気を胸一杯に吸い込んだのである。


「大丈夫ですか!? っう、やはりこれは……腐乱した肉の臭い……」

「おお失礼、お館様にお(とが)めをうけて、うがいしたばかりなのですが……そんなに臭いますか、はあ~……」


 ゆったりとした歩調で大がかりなカーブ式の階段を降りてきたのは、なにやら執事風の出で立ちをした何かであった。その肉はただれ、いたるところから膿のような物がしみ出している。こちらを見据えるくぼんだ眼窩(がんか)の奥には、鈍色(にびいろ)に光る目玉が覗いていた。


「ただいまお館様は取り込み中でございまして、わたくしめがあなた方のお相手をするよう(おお)せつかっております。ですがご安心下さい、お客様を一時たりとも退屈させぬ事が、執事たる私の務めでございますゆえ」


 “それ”が話し始めると辺りの臭気はぐんぐんと勢いを増し、息を止めていてもおかまいなし。もはや目や鼻の粘膜、毛穴からでさえ進入する物理的なものへと昇華し始めた。これでは超人的な肺活量のサクラコはともかく、すでに息を切らしたティセはひとたまりもない。


「い、息が……目が……」

「ティセさん、しっかり!」

「サクラコ、アンタの息を……よこしなさい」

「へっ?」


 ティセはサクラコの肺に残っている空気を、強引にその唇から吸い出した。熱く、貪るように吸い付く唇。ティセとの初めての行為に戸惑うサクラコだったが、低酸素状態の酩酊(めいてい)というだけでは説明できない心地よさを覚える。


「っはっ……ティセさん……?」

「わ……我が手中にて……万物は、全て灰燼(かいじん)に還る……。理を超える力、今ここに顕現させん……」


 もはやブツブツと何かをつぶやくだけのティセ。まさかと思い、サクラコはすかさずその後ろへと隠れる。


「……しかし最近お館様は私と口も聞いてくださらない。幼い頃はあんなに愛らしく素直でしたのに……。それはもう、私の名を何度も呼んで、何をするにもお供させていただいたあの頃が走馬燈のようにこの腐った脳に過ぎり続けるのです……。あ、申し遅れました、私この館の主、コレット゠ルビー様をご幼少の(みぎり)よりお世話させていただいております……」


 全てを言い切る前に、いや、全てを言わすものかとティセは掌から炎を放った。それはかつてマレフィカの暴走を起こした時に匹敵するほどの爆炎で、通常の魔法の限界であるレベル10を超える、魔導師にしか放つ事のできないレベル11の大魔法クラスのものであった。


「な、何をなさいますお客様っ! ここは火気厳禁ですぞっ!」

「うるさい! 赤燈の炎よ、虚空すらも焼き尽くせ! ファイアクラスタ、マジックナンバーイレブン! ファイア・エクステンション!!」

「まっ、まってっ、せめて最後まで名乗らせてっ……!」


 猛り狂う炎に飲まれた悪臭の元は、哀れにも爆散した。

 高速詠唱には高い集中力が必要なため、ティセは一呼吸にて普段はやらない通常詠唱を行ってのけたのだ。


「ひい……」

「はあっ、はあ……汚物は消毒よ……」


 しかし炎は勢い余り、パメラ達のいるであろう上階へと突き抜けていった。実は、彼から発するメタンが炎へと力を与えた事によるものであったが、本人に知る(よし)はない。


「あっ、やば……ちょっと本気出しすぎたかも……」

「な、何てことするんですかあ! 上にはロザリーさん達だっているんですよ!」


 慌ててティセの後ろへと隠れていたサクラコが怒鳴り立てる。


「だってさ、あれは死ぬべきでしょ、絶対。それに、パメラがいるならきっと大丈夫よ」

「…………」


 しばしの沈黙が流れる。サクラコは押し黙ることで肯定の意を示した。


「それから、さっきの事はノーカンよ。詠唱に必要だったから、しただけなんだから」

「えっ? あっ、接吻の、事ですか?」

「せっぷんとか言うな。これはキスじゃなくて、空気を吸っただけ。そう、イヅモ風に言うと、気吸(きす)うね」

「はあ……そんな言葉はありませんが、そう言う事にしておきます」


 この心拍数の上昇も、きっと酸欠に陥ったから。サクラコは先程の感情をそっとしまい、そういう事にしておいた。


「さあ、気を取り直して、あいつらを助けに行くわよっ!」

「は、はいっ!」




************




「――ですから、あなた方に宿るカオスを依り代に、わたくしは真なる冥王に君臨することが出来るのです! わたくしの一部となる喜びを、どうしてあなたは受け入れないの!」

「勝手な事ばかり言わないで! ロザリーを、ロザリーを返して!!」


 氷のように冷たく、糸が切れたように虚空を見つめるロザリーを抱きかかえ、パメラは少女コレットと対峙していた。


「こ、これだからお馬鹿さんというのは……! 何千、何万の言葉を紡いでもその真意を()み取ろうとせず己の言い分だけをまき散らす、貪婪(どんらん)極まりない愚劣な生き物……!」

「だから、ロザリーを返してよ……」


『王よ、ここは一歩引いてはどうでしょう。この娘の他にまだ二つほどカオスは残っている。まさか、あなたすら手を出せない魂がこの世に存在するなど、思いもしなかった事ですが』


 ゲイズの言葉にコレットは大きくため息をつく。確かに彼の言うとおり、パメラに対して魂狩りの力は通用するとは思えなかった。自分さえも超える何かを秘めた、畏怖(いふ)すべき存在だと直感で理解したのである。

 さらには、彼女の中に感じる得体の知れないもう一つのカオス。このように強大で果てしない二つのフォトンを放つ幻像(スペクトル)は、彼女といえど見たことも聞いた事もない。


「……まあいいでしょう。ですが、あなたの存在はわたくしのプライドを大きく傷つけました。この心の隙間、あなたのお仲間に埋めていただきますわ。後悔させてあげましょうね、たっぷりとね」


 コレットは、うふ、うふふ、と気味の悪い笑みを漏らし、パメラの脇をすり抜けていく。


(この子どんな顔して泣くのかしら。惨めなほどいいわ)


 後はこの娘をどうやっていじめ抜くか。退屈を極めた彼女は新しいおもちゃを前にして、舌なめずりをする。地下の拷問器具、中でもお気に入りの三角木馬などは、おぼこ娘にもうってつけの薬となるだろう。


「ではね、おバカさん」

「……行っていい、って言った?」


 後ろから冷たく放たれた言葉と共に、コレットは急に襟首(えりくび)を掴まれる。むせかえり振り向いたコレットは愕然とした。


「ねえ、怒るよ」


 それは、さっきまでの吹けば飛びそうな娘の顔ではない。


「ひ……」


 コレットは半霊体の死人(しびと)である。そう、一度、死んでいるのだ。

 人間ではなくなり、死者の国へ初めて降り立った時、初めて死神というものを見た。そのどれもが人間の恐怖心を存分に(あお)る造形をしており、少しばかり失禁した事を思い出す。


 そんな冥界の掟も弱肉強食。死神の格は、手に入れた魂の総量で決まる。彼女はこの十年ほど、彼らにその座を奪われぬ為にただ魂を刈り続け、力を示してきた。

 そして、今ではそのどれもが自分にかしづく存在となった。わたくしは冥府の王。増長などではなく、全て事実。ちっぽけな人間の生殺与奪(せいさつよだつ)など、思いのまま。そう、わたくしこそがこの世のことわり


 そんなプライドが音を立てて崩れ去った。

 娘の顔は血の気がうせ、無そのものであった。そこには怒りも、哀れみも、さげすみも、何も無い。あるのは、純然たる力のみ。


(え、え!? こ、このわたくしが……すくんで)


 パメラは発光する両手を交差させると、周囲の光を収縮させ、一斉に放った。光の刃(クラウ・ソラス)と化したそれは、至近距離のコレットを容赦なく切り裂く。


「あ、あああ! この服、気に入っていますのに!」

『そんな場合じゃない! おかしいよ。あの娘……まさかカオスの暴走!?』


「セント・ガーディアナの名において……」


 光の天球(フィアトルクス)がコレットを包み込むと、とたんに激しい脱力感が襲った。これに(こた)えたのは魔法生物であるゲイズの方だ。煙を吐きながら、見るからにしぼみ始める。


『これは、たまりません』

「ゲイズっ!!」


 コレットも対抗して、暗闇の膜を周囲に展開する。


暗黒の手(ドゥンケルハイト)! わたくし達を守りなさい!」


 彼女を取り巻く闇から生み出された手は主人を包み込むように守ろうとするも、強烈な光の浸食により跡形もなく瓦解した。


『……すみません、ここまでのようです。立派な冥王になったあなたを……、一目見たかった』


 圧倒的な光の氾濫に耐えきれず、とうとう目玉の化け物ゲイズはしぼんだ風船のように見る影もなく事切れた。


「げいず」


 わたくしが死んだ日、退屈な人間を捨て、死神へと生まれ変わった日。それはやって来た。ひとりぼっちになったわたくしの、初めてのともだち。


『――あなたこそ我らが王となるべきお方。私の事は、見つめる者(ゲイズ)とでもお呼び下さい』


 いつも一緒だったのに。


「……いつもいっしょだったのにぃ!」


 コレットの深紅の目に炎が灯った。いや、文字通りその瞳に炎が映し出されたのだ。

 ふと異変に気づいたパメラが振り返ると、爆炎はすぐそこまでうねりを上げて押し寄せてきていた。


――聖女様っ、目を覚まして! このままじゃロザリーが!

「……っ!」


 心の声に我に返ったパメラはとっさに戦術護霊(パトローナス)を張り巡らせ、ロザリーの亡骸を抱きしめる。


「ティセ……なの? なん……で」


 次第に勢いを失う炎の中、少女の笑い声がこだまする。見ればその可愛らしいドレスも燃え、端正な顔の半分は焼け焦げていた。


「うふふふ、うはははは、こ、こうなっては恥もなにもあったものではなくてよ! 全てを消す、消せばいいのよ!」


 ロザリーの身を守るため魔力を使い果たしたパメラを、闇から突如として現れた白刃が襲いかかる。死神の鎌ブルータス。彼女の愛用する美しい鎌が、空中で舞い踊った。


「命の消えゆく瞬間は美しいもの……。さあ踊りなさい。死神と共に、死の舞踏(ダンス・マカブル)を!」


 変幻自在に動き回る鎌にパメラは為す術もない。さらにその刃は深い闇を纏い、今度はパメラを守る光の膜すらをも浸食する。勢いづいたコレットは、いたぶるようにパメラの白い肌を血に染めていった。


「いひひひひっ! それ、それぇ!」

「う、ううっ」

「首を、く、くびを貰いますわ……そして次は、目玉、めだまがいい。そうよ、ゲイズの仇……かたきをっ!!」


 パメラはロザリーをかばいながら彼女の猛攻を必死に耐えるも、熱を帯びた刃はついにその首筋をとらえた。


「つっ!」

「さあ、終り(ダス・エンデ)よ! あなたも()()ぎの僕にしてあげる!」


 勢いに乗り、コレットはそのまま一気に首を刈り取る。が、彼女はやけに堅い首の感触に疑問を抱いた。やがて全てを灰に変えた炎が収まり、視界が開けた彼女が見たものは、パメラの首をすんでの所で守る長剣。


「あ……ああ……」

――ロザリー……!


 それは、魂を奪ったはずの女剣士の、生命力に満ちあふれた姿。そして、それを涙を流し全幅(ぜんぷく)の信頼を寄せ見つめる少女。


「な、なぜ……」


 その時、コレットは言い知れぬ孤独を感じた。


 今となっては懐かしくもある執事の悪臭も感じ取る事ができない。死んだのだ。いや、闇の住人は二度死ねない。消滅したのだ。あの、いつも優しく見つめてくれたゲイズの瞳も、すでにない。


 わたくしは全てを失ったのに。

 わたくしは……。


「……どうも信じられないけど、私、死んでいたようね。パメラ……こんなに傷だらけになって。一人にしてしまって……ごめんね……」

「ううん、ロザリーが無事なら、わたしは平気。よかった、よかったよ……」

「どうやら今まで、私は魂となって彼女の持っていたぬいぐるみの中にいたみたい。目玉の彼、ゲイズが教えてくれたわ」


 ロザリーはそのまま鎌を振り払い、コレットに向けて改めて剣を構えた。


「ゲイズが消える瞬間、私を外に出してくれたの。コレット、だったわね。この意味が、あなたに分かる?」


 コレットはすでに虚ろな表情で、うわごとのようになにかを(つぶや)いている。


「ゲイズ……どうして……」

「あなたもひどいケガ……もう、終わったのよ。あなたと戦う必要はないの」

「……うえから、上からモノを言うなぁ!!」


 タガが外れた。常に上品に振る舞うことで王であろうとした少女の自我は、すでに崩壊寸前まで追い詰められていた。


 再び骸骨のカオスが飛び退いた彼女の背に現れる。館全体が主人の怒気に震え、無数の悪霊がその下に集い始めた。


「お前達も味わえ、全てが消えて無くなる恐怖を……永遠の孤独を!!」

「分からない子ね……」


 コレットのおそらく最大の技であろうそれは、館の天井を削り取るほど巨大化し、光すら届かぬ奈落インフェルナーリッシュへの口を大きく開け、ロザリーを見据えている。


 勝負は一瞬で決まる。ロザリーはメイから預かった聖水を剣に振りかけ、父から教わった退魔剣の型に入った。その背には、共にゲイズから解き放たれたカオス、黄金の騎士ミラの姿が浮かび上がる。


「ロザリーさんっ」

「ロザリー……!」


 幻像(スペクトル)を背に対峙する二人。その場面に、サクラコとティセも追いついては、ただただ絶句した。


「あれは……だめ。ロザリー、だめだよ……」


 戦ったからこそ分かる。コレットはただの魔女ではないと。だが、パメラにはそれを防ぐだけの魔力が残されていない。もはやロザリーへと危険を知らせる事しかできないのだ。

 死、そのものが形作ったであろう力。まともに受ければおそらく皆……。しかし、ロザリーから流れる感情は、それとは反対に生の暖かさを持っていた。


「……あなたの叫びが聞こえる。そうね、辛かったのね。でも、もう大丈夫よ」

「死ねえっ……! みんな死んでしまえぇっ!!」

「いいえ、殺させはしない。そして、あなたの悲しみは、私が絶つ……!!」


 コレットの心の機微を感じ取ったロザリーは、それに先んじてありったけの力を込め剣を横に一閃、そしてその勢いを殺さず頭上から一気に振り下ろした。

 退魔剣、サザンクロス。父から教わったロザリー最大の奥義である。


 コレットの放った悪霊の渦はロザリー達の命を飲み込もうとするも、それらは十字に裂け、絶叫と共に肌をかすめていく。しかし、少しでも悪霊に触れた箇所は細胞が壊死(ネクローシス)を起こし、ロザリーは次第に力を失っていく。


「くうっ……」

「ロザリー!」


 そこに、身の危険も省みずパメラが寄り添った。そして再生の力により、瞬く間に壊死した細胞を蘇らせる。


「サクラコっ!」

「はいっ!」


 ティセはそれに援護するように、飛び散ってなお襲いかかる悪霊をその炎で仕留めた。サクラコは目にもつかぬ速さでコレットの裏を取り、その細い首筋にザクロから譲り受けた刃を当てる。


「ふふ、ふふふ……みじめな、ものね……」


 一人なら、あるいは……。死とは対極の、生きようとする力が見せた団結。

 もはや奈落も閉じ、薄れゆく悪霊の裂け目から見えたのは、すでに戦意を失った少女の力なく笑う姿であった。


―次回予告―

 語られる過去に、常世から幽世へと差し伸べられた手。

 全ての憎しみは慈しみで塗り替えられる。

 だが温度のない少女にとって、それはあまりにも暖かく……。


 第39話「パメラとコレット」

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