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第32話 『忍侠道』

 歓楽街で見つけた子犬を追って辿り着いたのは、この街の一等地。まさに一帯の上流階級達が住まう特別区域であった。

 ティセとサクラコはすれ違う上品な身なりの人々を見るにつけ、この街の実体を肌で感じ取らずにはいられない。


「王族のアタシが言うのもなんだけど、どこもかしこも貧富の差ヤバくない? アルテミスではママの作った救貧(きゅうひん)法っていうのがあって、金持ちは施しを与える事で名誉を誇示できるの。金持ちったって、みんなから集めたお金でしょ? 還元しなきゃ、ただのごうつく張りじゃん。まったく、この国はどうなってんだか」

「それだけ、民の力が弱るような政治をしているのかもしれませんね。ろんでにおんは、それぞれの市長が街の実権を握っているみたいですから」

「貧民が増えると普通は暴動が起きるもんだけど……まあ、マフィアのボスが市長やってるんじゃ、そんなもんよね」


 子犬が入っていったのは、その中でも一際大きな屋敷。光り輝く金の屋根と真っ赤な外壁がそそり立つクーロン風の建物で、壁の向こうにはもう一つの街があるのではないかという程の敷地が広がっていた。


「ここか。そのボスがいるってのは」


 絶対的な力を誇示するがごとく、龍の装飾をふんだんに使い威圧する門構えが二人を出迎える。間違いない、ここがマフィア堕龍(だりゅう)の本拠地だろう。そこには案の定、市長であるファレンを狙ってすでに何者かが侵入した形跡があった。


「見てください。門番も使用人も、全て眠らされています。このやり方はザクロさんらしくないですが、狙いは市長さんだけかもしれません。急ぎましょう!」

「それにしてもすごい数の黒胴着ね。なんだかいい気味だわ。へへーん、ベロベロバー」

「ティセさん!」


 こういう時になると二人の立場は逆転する。小言ばかりの爺を思い出し、ティセは口を尖らせた。


「まったく、ちっさいジジイがいるみたい。って、あの犬、行っちゃうわよ!」

「アン、アン!」


 屋敷の中を一直線に駆け抜ける子犬。母親のにおいが近いようだ。

 それを見失わぬよう、それまでティセに歩みを合わせていたサクラコは急に速度を上げた。


「先に行きます! ティセさんは私が残す目印を追って下さい」

「あっ、ちょっと!」


 魔法使いの体力で忍者に張り合える訳もない。稲妻のような速度で駆け出すサクラコに、再び不安がよぎるティセであった。


「はあ、はあ……あいつ、ホントに一人で大丈夫かな……」




************




 一方、未だに街中でサクラコを探し回るロザリーとパメラ。

 二人は彼女を見失った商店街にて聞き込みをするが、異国イヅモの少女を見たとの情報は未だ得られずにいた。


「ねえパメラ、やっぱりこの似顔絵が駄目なんじゃないかしら……」

「私、絵は得意だよ。いっつもみんな褒めてくれたもん!」

「けれど……」


 ロザリーが持つのは、商店にて貸してもらった画材でパメラが描いたサクラコの似顔絵。

 いびつな左右非対称の目、輪郭からはみ出した口。そもそも、これが人なのかすらも分からない。道行く人に見せても、誰もが怖がって逃げていく始末。これを見たある画家が後の世で、キュビズムの大家として大成したとかしないとかという程の絵であった。


「ふんだ、ロザリーのは子供が描いた落書きみたいな絵だったくせに」

「だって、孤児院で子供達とお絵かきしたの、もう6年くらい前になるもの……」

「あっ、そっか、ごめんなさい……。そうだ、おんぶして。歩くの疲れちゃった!」


 パメラは強引にロザリーの背中へともたれかかった。またもパメラをおんぶする形となるロザリー。どうも彼女の最近のお気に入りのようだ。


「ロザリー、ハイヤー!」

「ひひーん! ……じゃないの! そろそろ日も暮れるわ。パメラ、これなら遠くの方まで見えるでしょ、ちゃんと探すのよ」

「大丈夫、目はいいから!」

「本当? この絵みたいに歪んだ見え方してないかしら……」

「ひどーい。……あ、なんだか向こうの方、騒がしいよ。黒い服着た人達が慌てて走って行ってる」


 確かに、いつからか号令でも掛かったように街から黒胴着の姿が消えている。このような状況、ロザリーにとっては嫌でも魔女狩りを連想せずにはいられない。


「まさか、サクラコが追われて……?」

「私達も行ってみよ! ロザリー号、はっしーん」

「ひひーん……。私も自分の馬が欲しいわ……」


 バンダナを手綱にされ、ロザリーはパカパカと駆け出す。ずいぶんと目立っていたのだろう。その様子を見て、人混みの中を頭一つ抜けた男がこちらへと向かってくるのが見えた。


「あっ、ロザリー、止まって! どうどう」

「もう、今度は何? 馬使いが荒いんだから」

「おお、何かと思えばロザリーではないか。それに、聖職者のパメラだったか。ハハ、お前達、そんなおかしな恰好で何をやっている?」

「あなたは、ラインハルト様! なぜここに? それに、鎧姿でもなく普段着で……」


 現れたのは、立ち上げた黒々しい短髪にあごひげの大男。ここロンデニオンの誇る騎士団、ラウンドナイツの団長を務める、ラインハルト゠グラニス卿その人であった。


「実はな、視察も兼ねてお忍びでお前達に会いに来たのだ。親代わりになると大口を叩いた手前、どうにも気になってな。どうだ、早速問題など起こしてはおらんだろうな?」

「わ、私達、まだ何もしてません! ねえ、パメラ!」


 なぜか挙動不審なロザリーに、うんうん、と頭上から頷くパメラ。不敬に当たるため慌てて下ろそうとするも、なかなか降りてくれない。そんな二人をラインハルトは軽快に笑い飛ばした。


「ハッハッハ、俺としては少しやんちゃを期待していたのだがな。まあ実を言うと、今回はこの都市デュオロンの方にも少し用事があるのだ」

「デュオロンに? だけど、どうしてお忍びで……」

「ああ、国王に過度な介入はするなと言われていてな。我がロンデニオンは中央集権国家ではなく、地方分権、つまりこのように各都市へとある程度の自由を許している。国王はかつて祖国の腐敗を目の当たりにしているからか、権力を過度に持ちたがらんのだよ。これからは国民主権の時代だとな。まあ、お前達にも分かりやすく言うと、王は人というものを信じておられるのだ」

「それは素晴らしい事ですが、世界は未だ争いの中。民は強力な指導者を求めているのでは? 少し、時代と逆行している気がします」


 ロザリーは王族に仕えていた過去から、高潔な精神を持つ者が国をまとめ上げる事、それこそが真の理想だと信じている。だからこそ、この国はその責任を放棄しているだけではないかとも思えたのだ。


「言うな。我らは盾。やがて甦るであろう魔族に対してのみ、この力はある。今はいたずらに人類でいがみ合っている時ではないのだ。しかし、お前の言う事も分かるよ。ところでロザリー、この街をどう思う?」

「そう、ですね……。市民の声も聞きましたが、言葉を選ばずに言わせて貰うなら、私が見てきたガーディアナの支配と、どこか似ているような……」

「君もかね、パメラ」


 同じ質問に対し、パメラは少し戸惑った。どこか作為的な質問に思えたからだ。ロザリーにまた反乱の考えがあると思われては良くないため、用心して答える事にした。


「ううん、私はガーディアナとはちょっと違うと思う。ここではみんなそれぞれ、自由に笑ったり、泣いたりできる。嫌なら別の所に行けばいいし、それぞれが決められたルールに納得してるように見えるよ。一番の違いは、強制してはいないっていう所、かな」

「ほう、ずいぶん大人びた物の見方をするのだな。いや、それが真の底を知る者の言葉なのだろう。確かに、各都市の中でもここは成長も凄まじく、最も税収も多い。外面も実に礼儀正しく、落ち度らしい落ち度はない。国としては何も言う事はないが、俺個人としての勘が、いまいち気にいらんと言っている。それだけ他を出し抜くという事は、必ず何かあるという事だ」


 ラインハルトは、どこか暮らしに疲れた人々の賑わいを歯がゆそうに眺めた。


「そこでだ。俺はこれから市長であるファレンの屋敷へと向かうつもりだ。どうだ、お前達も来るか? 何事も社会勉強だぞ」

「そうしたい所なんですが、今はぐれた仲間を探していて……何か知ってるんじゃないかと、あの黒胴着達を追っている所なんです」

「そうか、だが、奴らは皆ファレンの下へ向かっているようだぞ。何せ、全員奴の部下だからな」

「ロザリー、行ってみようよ! ロザリーの感じてる事も、きっと正しいと思う。だから、ここは姫百合の騎士様の出番なんだよ!」

「もう、それを言わないで……。分かったわ、この街の真相、私も知りたいと思っていた所よ。それに、市長に頼めばサクラコの捜索願いも出してくれるかも」


 ずいぶんと楽観的なロザリーであったが、これも誘拐の線であると見たラインハルトは早速ファレン邸へ向かう歩調を強めた。


「ファレンめ、今回こそは必ずその尻尾を掴んでみせるぞ……」






 厳重な警戒がなされたファレン邸。そのさらに守りが固められた執務室にあたる部屋。

 そんな蟻一匹入れぬはずの場所にいながらにして、市長ファレンの首筋にはぬらぬらと光る刃が添えられていた。


「動くな。命が惜しくなければな」

「く、一体どこから……。ここへと唯一通じる通路には、クーロンでも屈指の用心棒を守りに置いておいたはず。ネズミ一匹入れるはずが……」

「忍びに不可能などはない。正面を固め油断したようだが、我らイヅモの忍び相手には四方八方、いついかなる時にも用心する必要がある。もっとも、あの程度の手下共ではネズミ返しにもならんがな」


 白い帽子に白いスーツを纏う理知的な風貌をした男は、震える手で丸い黒眼鏡を直す。こういった状況には慣れているはずだが、この女はどこか今までの手合いとは違った。だが、自身と同じく信念を金に置く人間ならばくみしやすいはず。その腹を探るため、ファレンは早速交渉を切り出した。


「分かりました。何が目的です? 金ならばいくらでも出しましょう」

「ふ、金など要らん。この街をもらい受けに来たのだ」


 やはり。血の臭いをさせながらも、私欲で動くわけでもない。このようなタイプは最も厄介だと、歪んだその口元から重い溜息が漏れる。

 無理難題を言っている自覚すらないのか、女はさらに得意げに続けた。


「貴様も手段を選ばずに成り上がった俗物ならば分かるだろう。世の闇にはさらに上の領域が存在すると。もし首を縦に振らぬと言うのなら、一人残らず物言わぬ骸にしてやろう。その方が圧政に苦しむ民衆も救われるのではないか?」

「そ、それは……。ここは競争という名の下に自由を許された、絶好の狩り場。いえ、シノギの場なのです。それに、全ては法の範囲内、私共は決してやましい事など……。もし我々に手を出せば、そちらこそ国王に目を付けられ裁きを受ける事になりますよ」

「本音が出たな。人の皮を被り、人の善意につけ込む寄生虫共が。弱きを(くじ)き、強きを助ける。任侠の意味をはき違え生半可な覚悟でこちらへと踏み入るのならば、禍忌ザクロがこの国もろとも相手になろう」


 研ぎ澄まされた刃が、彼の細い喉元を抉るように食い込む。

 話にならない。おそらく自分に酔った狂人の類いだと、ファレンはひとまず女の要求を飲むことにした。


「なるほど、選択肢はないようですね。堕龍(だりゅう)とは本来、故郷クーロンからも追われ、闇に堕ちた者達を意味します。どいつもこいつも元罪人の集まり。もはやこの国をおいて行く当てもなく、解体となれば多くの部下が路頭に迷う事になります。ですのでどうか、組織だけは存続する方向で……」

「……よかろう。堕龍、これより貴様等を我が紅蓮衆の下位組織とする。忠告しておくが、我が主君はイヅモを統べる(あやかし)の王、オロチ様の生まれ変わり。あの方は将来的に大陸への進出も考えておられる。ここを足がかりに、いずれ“がであな”すらも掌握するおつもりだ」

「それはそれは、我らも恐れるクーロンを牛耳る妖仙(ようせん)の祖、九尾(きゅうび)様と同等の力を持つというオロチ様のご高名は、私共の耳にも入っております。そのような方の配下となれるとは、身に余る光栄」


 この男はどのような状況でもわずかな利を嗅ぎ分けここまで来た。クーロンの九尾とイヅモのオロチは長きに渡る対立関係にある。やがて来るであろう戦争に乗じ、ここはイヅモ側について敗れたクーロンを我が手にするのも悪くはない、と、口から出た言葉とはまるで違う事を思い浮かべる。

 ザクロはその企みすらも勘づいたのか、無理難題とも言えるさらなる条件を付け加えた。


「それからもう一つ。今この街に、あるイヅモの幼子(おさなご)が訪れている。我がもう一人の主、琴吹桜子という娘だ。これはまだ若いが、将来全ての人間、いやオロチ様すらをも超える存在となるだろう。そこで堕龍の全指揮権を、いや、街の支配権をこの娘に全て与える事とする。異論はないな?」

「それはそれは……」


 急に現れた違和感。まるで溺愛する娘に贈り物をするような声色で女はそう付け加えた。やはり狂人だ。絶句するより他ない。


「きゃあっ」


 その時、前方の扉から悲鳴に似た若い女の声が上がった。駆け引きの機微に長けるファレンは一転し、その細い目をさらに細めて笑う。


「おっと、今日はやけに騒がしいですね。この場に似つかわしくない、幼子の声がしますよ」

「なっ……、この声はサクラコか!?」


 扉を開き現れた男の腕には、案の定捕まったサクラコが足掻いている姿があった。


「ファレン殿、侵入者を捕らえた。……なにっ、すでにもう一匹通していたか! この私が、なんたる不覚!」

「ふふ……形勢逆転、ですね。あなたの主とやらは、どうやら我が手の内のようです。高い金を払い雇った甲斐がありました。(チャン)、よくやりましたね。賊を通した不手際は帳消しにして差し上げましょう!」


 まるで無様な結末。さすがのザクロも苛立ち、下手をしたサクラコへとまくし立てる。


「サクラコ、何故ここへ来た! お前はすでに我が主君も同じ。闇の仕事は私に任せておけば良いものを!」

「ザクロさん……ごめんなさい。でもやっぱり、こんな事ダメです! 私のためというのなら、なおさら望んでなんかいません! ここは一旦退()いて下さい!」

「アン、アン!」


 サクラコと共にいた子犬は、そのまま部屋の死角に潜む母犬の元へ駆け寄る。

 ザクロは舌打ちした。いざという時の為に忍ばせておいた忍犬も、これではまるで用を為さない。


「そうか、お前の為にと置いていった子犬が道案内を……ふ、私もつくづく甘いな」

「おっと、その薄汚い手を離して貰いましょうか。あなたの可愛い飼い主が怪我してもいいのですか?」

「く……」


 ザクロは拘束する手を離し、言われるがままにファレンを自由にした。


「ここは法治国家。不法侵入に脅迫、さらには部下に対する暴行の数々。到底見過ごす訳にはいきません。軍へと引き渡し、裁判にかけてもらわねばなりませんねえ。ですがイヅモとの取引は惜しい。あとはこの娘を通じて、様々な交渉を有利に行わせていただきましょうか。チャン、お前はこの女の相手をしてあげなさい」

「任せて貰おう。我が名誉のためにも、代金の分は働くつもりだ」


 命令を受け、用心棒らしき研ぎ澄まされた肉体を持つ男が躍り出た。後頭部に結わえられた弁髪や、他の黒胴着とはひと味違う刺繍入りのカンフー服が彼の自信を物語る。どうやらサクラコをその腕に捕らえたままザクロと戦うつもりのようだ。


「サクラコを離せ、雑魚が」

「ククク、俺をその辺の奴と一緒にするなよ。クーロン武術の歴史は、貴様等イヅモの忍術などとは比べものにならん。この娘も赤子の手をひねるようなものであったわ」


 サクラコは身をすくめた。自分も使った手だが、ザクロは侮辱の類いを一切許容しない。思わず覗いたその顔に、みるみると青筋が走っていくのが見えた。


「勘違いするなよ。この娘は人の殺め方も知らん、義勇に生きる者。聞け! 虎の威を借り歴史ばかりを誇る愚か者が! イヅモの忍術の中でも、我が流派は血で血を洗う禁忌の秘伝。常に戦と隣り合わせのイヅモにて、生と死の狭間にて研ぎ澄まされたものだ。貴様等のように十把一絡(じっぱひとから)げに万民に伝わる武術など、たかが知れている!」


 逆に武人としての誇りを愚弄され、用心棒はサクラコを突き飛ばしてはザクロへと一直線に飛び込んだ。


「ほざくかっ、ならば正々堂々と勝負よ!」

「ザクロさんっ、この人、出来ます!」

「ああ、そのようだな……!」


 二人の乱撃は目視も不可能な程に入り乱れ、どちらが優勢かも判断は付きかねた。ひとまず身の安全は確保できたと、ファレンは虎視眈々とサクラコへと近づく。


「さあさ、あなたはこちらへ。化け物同士の戦いなど危ないですからね」

「あなたが市長さんですか? だったらこんな戦い、早く止めさせてください!」

「馬鹿な。私は命を狙われていたんですよ? これはれっきとした正当防衛です。あなたこそあの女の主人でしょう、(しつけ)がなっていないにも程がある」

「しつけ……私は、人をそんな風に扱ったりしません!」


 本当にこの純朴な娘がイヅモにおける要人なのだろうか。ファレンはやや(いぶか)しむも、反論として人を使うという事の重要性を説く。


「無能な人間は、有能な人間が使うためにある。だから私は人を使い、ここまでの街を作り上げる事が出来たのです。ですが、私のために働いて下さいと言っても動く者はいません。そのために多少、効率良く物事を運ぶ必要があります。それは何か、すでにおわかりでしょう? そう、金と、ほんの少しの恐怖です。人は誰しも死を遠ざけ、生を享受したい。そこで私達はそれを約束する。つまりは生活を人質に取る事で、人は思い通りに動かせるのです」


 彼の話す内容は、心優しいサクラコにとって受け入れがたいものであった。つい、感情的な反論が口を突く。


「それは……間違ってます! 人は一人では生きられません。それはあなたも同じはず。みんなで助け合って、日々を幸せに暮らすだけじゃだめなんですか? 私は、それ以上の事なんてないと思います!」

「果たして皆が皆、それで良いのでしょうか。それで幸せなのでしょうか。昔はこの地も食糧難が酷かったと聞きます。目の前の食料を漁るだけ漁り、人々は貧しい日々をただ暮らすだけだったとも。彼らだけでは、ここまでの発展は成しえなかった。なぜなら、その欲望に限りがあるから。大抵の人間は、身の回りが満たされるとそれでいいのです。……実にくだらない。つまりは、私は常に満足などしないのですよ。私のように底なしの欲を持つ者、これもまた人の世には必要不可欠な存在なのです。でなければ、待つものは堕落のみ。怠惰であるがゆえ、彼らは常に貧しいのです!」


 政治に身を置くだけはあり、反論を挟む隙も許さずにファレンの主張は続く。


「世の中にある価値の総量は決まっているのです。ならば全ては他を出し抜く事。ルールなど、他者を留めておく足枷に過ぎません。現にほら、法を作り上げた者などは安全な地でぬくぬくと贅沢な暮らしをしている。そんな彼らの唯一恐れる物は、無法。だからこそ私共地べたに這いつくばる者は、あらゆる瞬間にあらゆる無法を行わねば、高みにいる彼らには永遠に追いつけはしないのですよ!」


 ファレンは意固地になり、年端もいかぬ少女に思わず裏の顔をさらした。しかし、いつもならここで怖じ気づくサクラコも、今ばかりは一歩も引かなかった。


「だとしたら、奪う事は誰かにとって奪われる事なはずです。それを許している人々は、怖いから従っているわけではなく、ただ心優しいから譲り合っているんです。皆が皆あなたのような人であれば、今頃はここも争いの絶えない世界となっていたでしょう。それでもいいと言うのなら、私はザクロさんを止める事はしません。あの人も、あなたと同じ世界の人。あなたの言うように、後はより強い者が勝ち残るだけです」

「ぐ、それは……」

「ファレンさん……あなたがこうなってしまったのは、それでもそんな世界で生きなければならなかったからだと思います。私に分かります。虐げられ、力を持つという事に憧れを抱く。そんな人を、私も見てきました。でも、誰かがそれを終わらせなきゃ、いつまでもみんなが辛いだけ。だけど“辛い”っていうのには続きがあって、そこから一歩踏み出す事ができれば、“幸せ”にだってなるんですよ」

「な、何を……小娘が分かったような事を……」

「ふふ、それを、これから分かり合うんじゃないですか」


 少女の全てを見透かしたような答えに、ファレンは硬直した。そして、その心の美しさを目の当たりにし、いつしか光すらも届かなくなった細い目が大きく開かれる。そこにいたのは、紛れもなく若い頃の純粋だったはずの自分。


(馬鹿な、なぜ……私が、こんな小娘に言い負かされる……? 道義が、無いからか……? 何の役にも立たんと捨てた、道義が……)


 彼女の説く言葉は、道を踏み外す前の、故郷での惨めな少年時代に立ち返らせるような青い言葉であった。しかし、それこそが彼にとって、一番聞きたくない、根幹を揺さぶる言葉でもあった。


「豊かさって、お金とか、地位なんかだけで得られるものでしょうか。世の中には、自分の得なんて考えずに生きる人もいます。私も、そんな人に助けられて今ここにいる。だから、あなたにももし、誰かが手を差し伸べたのなら……その一歩が踏み出せる気がするんです。みんな、本当は優しくされたいんです。だから、まずはあなたに、私から……」

「娘……私を、憐れむというのか……?」

「憐れむなんて……。ただ、そうしたいんです。私も地位と引き替えに、大切なものを失う所でした。あのまま組織の命に従っていたら、私はこの場にはいないでしょう。些細な事で笑ったり、泣いたりする事も。だから、私は本当に大事な事を教えてくれた、その人に尽くす事に決めました。市長さん、自分のためではなく誰かのために生きる事って、とっても嬉しい事なんですよ」


 まるで悟ったかのように真逆の価値観を語る子供。しかし、その顔は確かに美しかった。それに引き替え、鏡に映る自らの歪んだ顔。罪に怯え、いつからか張り付いたような笑顔が自らを支配し、虚勢を振るうだけの毎日。


「私は……」


 確かに、この終わりなき焦燥感から解放されたならどれだけ良い事だろう……。一瞬、ファレンは想像してしまう。暖かな家庭の下、このように穢れ無き子を抱いた、満面の笑みを浮かべた自分の姿を。

 それは、裏社会においては弱みとなるために避けていたもの。いくら偽りの欲望を重ねても手に入らない、真の渇望。


「サクラコっ!」


 膠着(こうちゃく)した場面に、炎のような熱を持った声が響く。ティセがやっとの事で追いついたのだ。思わずザクロの口角が上がる。


「やはり来たな火娘。これも愛の成せる業か」

「ばかっ、そんなんじゃなくて、あいつは大事な仲間なの! 今は休戦中でしょ、加勢するわ!」


 すると、ザクロの攻めに途切れる事のない火炎が加わった。なぜか息の合った怒濤のコンビネーションに、さすがの用心棒も旗色を悪くする。


「ぐ……、多勢に無勢とは、貴様こそ卑怯千万! 武闘家の風上にも置けぬ奴!」

「うむ、ならば私は手を出すまい。火娘、こいつの相手は頼むぞ。私は言葉通り風上から見物するとしよう」

「なっ、ちょっと本気!?」

「ハッハッハ、恐れをなして逃げたか! ならば次は貴様だ、小童(こわっぱ)!!」


 目にも止まらぬ応酬の最中、ザクロは戦線を離脱する。残されたティセは間合いを取りつつ次々と魔法を詠唱するも、炎は男をすりぬけるように通り過ぎていくばかり。


「なんで!? 炎が効かないっ」

「これぞクーロン拳法、気功法の極意よ。さらに化勁(かけい)の原理を応用すれば、このような事もできる」


 男は練り上げた気を両腕へと移すと、それをぶんぶんと振り回しながら突撃してきた。なんと、だだっ子のような動きで全身に風を纏い、炎を全て吹き飛ばしていく。


「心頭滅却すれば火もまた涼し! 奥義、旋風気功法ォ!!」

「わー、こっち来る、何なのこいつ!」

「まずい、アラタカ、加勢してやれ!」

「アオーン!」


 男の豪腕がティセを掠めるすんでの所で、ザクロの声を受けた母犬が飛び込む。その白い巨躯は、炎を物ともせずに男をもはね飛ばした。


「なんとぉっ!」

「あっ、さっきの犬。ありがと……でもアンタ熱くないの?」

「グルル……」


 どうやらこの場にいる我が子を守るため、気が立っているようだ。その体を守る霊力は炎とすら一体化し、怒り狂うように燃えさかる。


「なるほど、アンタも使い魔みたいなもんか。だったらもう手加減無しよ!」

「チャン、何をしているのです! 屋敷に火が移るでしょう! ああ、アルベスタンの一級品が! このままでは弁償ものですよ!」

「し、しまった!」


 燃焼に特化したティセの魔法は、最高級品である異国の絨毯(じゅうたん)へと燃え移った。用心棒は四つん這いになって火を消して回るも、その無防備な尻をめがけアラタカの炎の牙が襲いかかる。


「ぎゃあ! く、尻に火がついたとはまさにこの事……まいった、降参だ! いいから火を止めろ!」

「ふふーん、分かればいいのよ」

「な……チャンが、負けただと……」


 冷静さを欠き戦力差を読み違えたのが敗因か。落胆するファレンの首に、またもザクロの刃が襲いかかる。


「おっと、屋敷の心配をしている場合か? 貴様は私を裏切った。闇に生きるものにとって、それは禁忌。もはや生かしてはおけんな」

「そ、それは……ぐっ!」


 今度は脅しではない。返事すらもままならぬ程にその刃は喉元を抉り、滴る血はやがて来る死の色を覗かせる。


「貴様のいる場所はすでに獄道(ごくどう)。死すらも生ぬるい」

「嫌だ……。し、死にたくない……私には、まだ……」


 黒眼鏡の奥のファレンの目に、慚悔(ざんかい)の涙が浮かぶ。


「ファレンさん……」


 サクラコは思い返す。非情にも刃を立てるこのザクロや、女街の支配人、そして、この人にもみんなと同じように清らかな涙がある。おそらくそれは、改心の涙。サクラコは意を決しザクロの短刀を素手で握りしめ、ファレンから引き抜いた。


「ぐっ……、ザクロさん……それ以上やるというのなら、私が相手になります」

「サクラコ……!? 離せ! こんな男のためにお前が血を流す事はない!」

「離さない。これは、この人の代わりに私が流す血の涙。罪は罪でも、この人のやってきた事は功罪でもあるはずです。私には、それが命を代償にするほどの事とは思えません。生きていれば、きっと人は変われる、そう信じているから」

「なんと……」


 その言葉に、ファレンの双眸(そうぼう)が見開かれた。いつしか見なくなって久しい、まるで産まれてきた時に見たように眩しい光がその瞳に映る。それは闇の世界へと長く沈んでいたザクロも同じであった。


「人は、変われる、と言うのか……ならば、この私も、か……?」

「そうです。ザクロさん、あなたもきっと」


 ふいにザクロの手から短刀が離される。サクラコは血濡れの短刀を自らの懐にしまい込み、ザクロの震える手を暖かな両手で包み込んだ。


「サクラコ……お前は、お前は……」

「もう、誰も苦しんだりしなくていい。そんな世界が、私は見たいんです」


 ザクロから大粒の涙が(こぼ)れる。そして、全てを理解した。この娘はもう、自分の手からも離れ、届かない所へと行ってしまった。愛を注いだその小さな芽はつぼみとなり、今ここに大きく花開いたのだ。

 そんな満開の桜を見届け、ザクロはその大きな背中をこちらへと向ける。


「事は為した。行くぞアラタカ。我らの役目も、これで終わりだ」

「クゥーン……」


 母犬は寂しげに子に別れを告げ、ザクロへと寄り添う。我が子を見守るその目は、今のザクロにどこかよく似ていた。


「ザクロさん……、行くんですか?」

「ああ、さらばだサクラコ、そしてアラタカの子よ。堕龍という地を制したお前達は、やがてかの地を支配する邪龍すらも超え、天へと昇る聖龍となるだろう。ふふ、イヅモの夜明けは、近いな」


 最後にそう告げると、ザクロは風のように消え去った。ただ、残された子犬の鳴き声だけがその場に響く。


「キューン、キューン!」

「お前も寂しいんだね。でも大丈夫、これからは私が一緒だよ」

「クゥン……」


 子犬はサクラコにそっと抱きかかえられると、何かを悟ったのかピタリと泣くのを止めた。そして傷を負った手を舐め、その血を自らへと取り込んだ。(おの)ずと、主人と決めた物に永遠の忠誠を誓う霊犬の盃事さかずきごとを行ったのである。


「ザクロさん、また、いつか……」


 おそらく長い別れとなるだろう。でも、次に会う時はきっと笑いあえるはず。サクラコはその予感を胸に、静かに微笑んだ。


「そうか……刃という武器は、心にこそ忍ばせるもの。これが真の忍侠(にんきょう)道……。この娘……、いえ、この方こそ、我ら堕龍を再び光差す地へと導いて下さる方……」


 ファレンは流れる血も(いと)わず、サクラコへと平服する。この娘とならば、一度は外れた人の道も再び歩む事ができるに違いないと。


 ファレンとサクラコ、その両方の血が交わる短刀。奇しくもそれが、彼らの何より大事にする血の掟(オメルタ)の証となったのである。


 一方、何が起きたのか未だよく分からないままのティセは、これまた困惑する用心棒チャンと共に立ちすくんでいた。


「あれ? こいつ、もしかしてマフィアの説得マジでやっちゃった……?」

「うむ、これで良かったのだ。本来武術とは、弱き者を守るためにある活人拳なり。それを改めて示したイヅモの忍道、しかと見届けた。火娘、お前の術もまた見事であったぞ」

「まったく、負けたくせに調子がいいわね。でも同感よおっさん。魔法だって、きっとそんな力なんじゃないかな」


 サクラコの想いに突き動かされ、死闘を演じた二人もまた和解の握手を交わすのであった。




************




 その後、サクラコは偶然屋敷を訪れたロザリー達と無事再会する。

 心痛の中にあったロザリーは、涙を流しながらサクラコをきつく抱きしめた。


「サクラコ、勝手にいなくなったりして心配したじゃない! あれからパメラとずいぶん探し回ったんだから!」

「ご、ごめんなさい! つい、都会の誘惑に釣られて……」

「あはは、それで自分が誘惑する方になってりゃ世話無いわ」

「ティセさん、それは言わないで下さいっ!」


 そこにはなぜかティセもいた。真相を知らないロザリーは何が起きたのかしつこく問いただすも、二人は口ごもるばかりである。


 ファレンや部下の黒胴着達は、パメラによって受けた傷を癒やされた。堕龍の悪行を公にするために来たラインハルトも、これには驚くばかりである。


「一悶着あるとは思っていたが、まさかすでに全て終わった後だとは……。しかし、やはり君を連れてきて正解だったな。その力、まさに奇跡と言うより他ない」

「えへへ。ロザリー、たくさん力使ったからお腹すいちゃった」

「ええ、よく頑張ったわ。それにしても、これをザクロ一人がやったなんて……やっぱり只者じゃないわね」

「でもザクロさん、一人も殺しはしなかったんです。以前なら、こんな事……」


 本来これは治安維持を任された騎士団の仕事。ラインハルトは全快した様子のファレンに詰問(きつもん)する。さすがの彼も伝説の騎士団長の訪問に恐れおののき、すっかり腹を決めたらしく素直に従った。


「ファレンよ。この騒ぎの原因に、何事か心当たりはあるか? 堕龍に恨みを持つ者の犯行、もしくは敵対組織との抗争か。ともすれば、我らラウンドナイツも動かねばならんが」

「いえ、これは全て私の未熟が招いた事。いつ私の命を狙う者が現れてもおかしくはない政治を敷いていたと、恥ずかしながら思い知った次第です。どうぞ、いかような裁きでも何でもお受けいたしましょう」

「待って下さい! これは私と、イヅモ国の問題でもあります。今回に関して堕龍のみなさんはただの被害者です。裁くなら、私を裁いてください!」

「お嬢……」


 またもかばい立てするサクラコを、ファレンはすでに慕うような眼差しで見つめていた。黒胴着の男達も同様、その後ろで座して並んでいる。あの泣く子も黙るクーロンマフィアが、なんともおかしな姿であった。


「待て待て、何が起きたのかくらい俺にも分かる。今回はお前の言うとおり、イヅモの暗殺者の独断による仕業だろう。国としても堕龍には以前から目を付けていたが、まさか他国の介入により事が片付くとは……。これは我らの失態でもある、その女の行方はこちらで追うとして、今回の件については特別に不問としよう」

「わあ、ありがとうございます!」


 まるで自分の事のように喜ぶサクラコ。サクラコが姿勢の良いお辞儀をすると、黒胴着達も同じように一斉に頭を下げた。


「はいはい、一件落着ー。……で通るかっての。アンタさ、この街で今まで通り好き勝手やるっていうんなら、サクラコが許してもこのアタシが容赦しないから」


 ティセも今回の件で、彼女なりにも正義とは何かを学んだようだ。確かに怒れる民の声を無視する訳にはいかない。ラインハルトは堕龍のこれまでの行いについて、改めて裁定する。


「彼女の言う通りだ。法の抜け道をかいくぐり、お前達がこれまでに行ってきた無法についてはまた別の話よ。ここに民からの書状が届いているが、全てがこの通りだとすると私も捨て置けん。先日、ルドルフ殿より移民へと多額の支援金が贈られたはず。ここには取り立てばかりで何の施しもないと書いてあるが……まさか、着服しようなどとは考えていまいな?」

「も、もちろんです! 実は書類の作成に時間がかかっておりまして……」

「ふむ、それも確認すれば分かる事だ。ところでロザリーよ。この状況、お前ならばどうする? ローランドの時と同じようにこいつらを断罪するか? 裁判の続きではないが、改めて聞いてみたい」


 再びロザリーを試すラインハルト。しかし、ロザリーは迷わずそれに答えた。


「そうですね……私には、断罪の意思はありません。この支配も、パメラの言うように人が心に持つ弱さのせいなら、私の出る幕ではないのでしょう。それに彼らからは、そこまで邪悪な意思を感じられない。私が裁く事ができるのは、自ら人である事を捨てた者達だけです」

「なるほど。それがお前の人を見抜くという力か。当てにしていいんだな?」

「そんな大袈裟なものではありませんが、きっと大丈夫だと思います」


 悪党達からロザリーに届くのは、心からの後悔と反省の色であった。

 ファレンは自らの心情に理解を示すロザリーへと改めてひざまずく。


「そうか、あなたがお嬢の仕えるという姫百合の騎士その人……。自ら手を下さず我らを手駒に取るとは、さすがは英雄と讃えられるだけの事はある。あなたをここに招き入れた瞬間に、全ての命運は決まっていたのかもしれません」

「ああ、俺もただの一日でこの街の問題を解決するとは思いもしなかったがな。ロザリー、この手柄、必ずや王の耳に届けよう。裁判において、おそらく決定的な判断材料となるだろう」

「え? 私は何も……」


 どうやら、知らないうちに色んな事が解決してしまったらしい。ロザリーは全て正直に話そうとした所を、パメラから口を塞がれた。


(しー、これでいいの! せっかく大人の人がそういう事にしてくれてるんだから)

(で、でも、なんだか私の二つ名、どんどん勝手に一人歩きしてるような……)

(大丈夫。しばらくは英雄の振りで良いから、ね)


 一度演じた役割ならば仕方ないと、ロザリーはただ頷いてみせる。ラインハルトもそれに頷き、国王の代わりとして今回の沙汰を言い渡した。


「最後に、ファレンよ。今後また何か問題を起こせば、議会により貴様を問責する事となる。法とは我ら国の為にあるのではなく、人々の為にこそあるのだ。俺のバルディッシュで胴体と首がおさらばしたくなければ、くれぐれも人の道を踏み外さぬようにな!」

「ははっ……! ですが、もうその心配には及びません。我々堕龍は、これよりこちら、琴吹桜子様を若頭として、この(ワン)゠ファレン一同、心を入れ替え民に尽くして参るつもりです」

「ええっ!?」


 ロザリーは思わず素っ頓狂な声をあげた。寝耳に水のサクラコも同様である。


「それではお嬢、しいては我らが首領(ドン)となる姫百合の騎士様におかれましても、今後とも我ら堕龍をご贔屓(ひいき)願いますよう、よろしくお頼み申します」

「「お頼み申します!」」

「ひいーん! そんなの聞いてませんー!」


 イヅモ流に仁義を切って見せた男達のドスの利いた声に合わせ、なんとも情けない声が響きわたる。こうして押しの弱いサクラコは、またも大人達の勝手な神輿(みこし)に担がされたのであった。




 ――若干十四歳のイヅモ人少女、新生堕龍の取締役に就任!


 そんなニュースが次の日の新聞の一面に踊った事は言うまでもない。

 禍忌ザクロ。彼女もどこかで事の顛末を見届けては、一人優しげに微笑むのだった。


―次回予告―

 一つ屋根の下、仲間とのかけがえのない日常。

 その夜、ロザリーはまた一つ決意を心に誓う。

 一人静かに、涙をこぼして。


 第33話「安らげる場所」

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