第29話 『自由都市』
晴れ渡る空と眩しい太陽。
ロザリーは人々で賑わう通りを見つめ、あらためて身を隠す必要のない事に久々の開放感を覚えた。
ここは自由都市デュオロン。現在、隆盛を極めるロンデニオンの下で自然発生した都市の一つであり、中でも異国の民がその多くを占める貿易街である。その名の通り自由競争による商売が盛んで、その中心部には富豪も多く住む高級住宅地がある一方、薄暗い森に近い辺境は参政権すら持たない居留民が住む、いわゆる貧民街も立ち並ぶ。
そんな街並みで所々目に付くのは、我が物顔で練り歩く黒胴着の男達。彼らは商売人達へ怒鳴りつけながら何かを奪い取ると、次は貧民街の方へと練り歩いて行った。
「わあー、人がいっぱいだね。でも何だかみんな忙しそう」
「そうね、ここは自由な分あまり治安は良くないみたいだけど、今のローランドよりはマシなはずよ」
少し不安はあるが、連れてきたローランドの難民達もひとまずここへと移住してもらう事になった。もちろん彼らもタダで住めるわけではなく、納税や兵役の義務が課せられる。結局ロザリーの助けた人々や兵士達は全て大国ロンデニオンへと取り込まれた形となり、ままならない思いも芽生えずにはいられない。
この国には難民をも受け入れ、国力や経済に取り込もうとする貪欲さがある。それこそが短期間で強大な国へと成長を遂げた秘訣かもしれない。
「とりあえず、領主様やアニエス達は国賓という事でしばらく王宮にお世話になるそうよ。私達はガーディアナと対立している立場上、この街からのスタートね」
「アンタ達はいいとして、アタシまでこの扱いは納得いかないんだけど」
「イヅモで一番罪が重い犯罪は、火付けです。つまり、ティセさんは市中引き回しの上、死罪でもおかしくないんです。ひとまずお咎め無しなだけでもありがたい事だと……」
「あんだって? その火付けに助けられたのは、どこの誰だったっけ」
「ひんっ」
やはり皆、罪の意識を完全にぬぐい去る事は出来ないようだ。再出発に際してこれではいけないと、ロザリーは不満そうなティセをなだめる。
「まあ、裁判の結果はどうあれ無理強いしたのは私よ、あなた達に罪はないわ。今はひとまず全て忘れて、ボルガード王の言うとおり羽を伸ばしましょう。それじゃ、早速ここで暮らす手続きをしてこなきゃね」
「うん、早く冒険者になろ! たくさん頑張って良い事をして、みんなに認めてもらうの」
「ええ、罪を償うにはそれが一番ね」
パメラが目を輝かせる。前に話した冒険者というものにすっかり興味津々のようだ。
そう、この街には流れ者でも仕事が得られる冒険者ギルドがある。ここならば、切羽詰まった財政事情もようやく解決することができるだろう。
「まずは住むところね。住所不定だと仕事は得られないから」
「そうなの? しごとって、難しいんだね」
「じゃ、ロイヤルスイートルームお願いね。アタシ達は休憩所で休んでるから」
「もう……そんなお金ないでしょ。じゃあ、登録に行ってくるわね」
「あっ、私もお供します!」
サクラコは都会が珍しいのか、意気揚々としてついて来た。旅の荷物はロザリーとサクラコの二人で分け持っていたのだが、それでも彼女は少しも疲れを見せる様子はない。
「ずっとザクロさんに追われてたので、大きな宿場町は避けてきたんですよ。なんだか、わくわくしますね」
「ふふっ、そうね。あ、走っちゃだめよ!」
子供のようにはしゃぐ……いや、実際子供だが、そんなサクラコを見て、ロザリーはほのぼのとしてしまった。
ちなみに後から聞いた話だが、サクラコの年齢が十四歳と聞いた時はロザリーも驚いた。信じられない事に自分とは三つしか違わないのだ。東洋人は若く見えて羨ましいと、逆に老けて見られがちなロザリーはつくづく思う。
「へえー、武器屋、防具屋、よろず屋……。いろんなお店があるんですね」
「あ、そうだ! 実は前の戦いで防具が壊れてしまったの。まずは防具屋に寄っていいかしら?」
「はいっ、私、お買い物大好き!」
サクラコは飛び上がって喜んだ。早速防具屋に並ぶ様々な服に目を奪われ、あれこれと機能性を吟味しはじめたようだ。
「とりあえず、自由に使えるお金はこれだけね……」
掌には金貨が一枚。実はビアドに貰ったお金も、あれこれと使う内いよいよ残り少なくなっていた。ロザリーはとりあえずいつもの恰好ができればそれでいいと、安い鎧もののコーナーを物色する。
「あの、女性用のハーフプレートはあるかしら? 出来れば、その、胸が窮屈ではないのがいいのだけれど」
「いらっしゃい、女性ものね、あまり数が出ないから少し根が張るけどいいかい?」
「女性の冒険者はそんなに少ないの?」
「そりゃそうさ。たまに見掛けはするけど、すぐ辞めちゃうね。魔法使いならまだ分かるけど、お姉さんみたいな剣士なんて実際、女性には向いてないよ。怪我しないうちにやめといた方が良いと思うけどね」
どこに行っても言われる事である。少し腹も立つが、ロザリーも今ならそうだと思える。司祭オーガストとの死闘を経て確信した。筋肉という鎧をその身に纏う男は、確かにそれだけで立つ場所が違った。
だからといって、それを弱さの言い訳にはしたくはない。あの力は男女を超えた異形の力。自分が到達すべきは、その先にあるのだから。
「ふ、すぐにでも名のある冒険者になるから、今の言葉忘れないようにね」
「そりゃ、お得意様になってくれるなら有り難いんですけどねえ。ま、命だけはお大事に」
「ご忠告どうも」
魔女であるがゆえ戦う宿命にでもないのなら、確かに自分のように死にかけながら戦うのは到底おすすめできる事ではない。ならばその分、女性の名誉は自分が背負えばいいのだ。こういう事がある度に、必ず見返してみせると強くなるのである。
「それじゃあ、こんなのはどうだい? とある女性騎士が使っていたものらしい。出所は確かなはずだ」
「ええ、良いわね……」
ロザリーは以前よりも装飾の細かい、流線型の鎧を手に取った。ベルト部分もしっかりとしていて丁寧な造りだ。さらには鋼鉄製。これならば並みの飛び道具も跳ね返すだろう。幸い、残る金貨一枚で足りるようだ。
「じゃあこれ、いただくわね。はい、お代」
「あの、お客さん、これでは足りないんですが……」
「えっ? どうして? 値札の分には足りるはずよ」
「ここでは商品価格に対し、さらに3割ほどの租税がかかるんですよ。ほら、ずっと睨みを利かせている黒胴着がいるでしょう。、ここを仕切る彼らの取り分なんです」
なるほど、みかじめ料というものだろうが、高い。あまりにも高い。
「う、あとは宿代に使う分……。こうなったら装備のグレードを落とすしか……」
「ロザリーさん、良かったらこれを使ってください」
サクラコはいくつか見繕った自分用の防具をしぶしぶ諦め、代わりに自分の小銭を出してくれた。
「サクラコ……」
「よく考えたら、大ざっぱな西洋の装備は私には合わないようです。防御力と引き替えに、機動力が失われてしまいますから。ザクロさんみたいな人が相手だと一撃でも受けると致命傷なので、どうせなら全てをかわす方に特性を伸ばす事にしました」
「うう、ありがとう、こんなリーダーでごめんね……。いっぱい、稼ぐからね……」
「どのみち私の全財産では何も買えませんでしたし、大丈夫です!」
店主はサクラコの差し出した巾着袋を広げて見せ、おお、と声を上げた。
貨幣制度はおおよそ世界共通となっており、ほぼ同じ価値を持つ金貨、銀貨、銅貨が国々によって競うように造られている。これは人類で団結した魔王時代、その方が何かと都合がよかったからというのもあるが、最近ではその流通量から価値が上下する事も出てきた。中でもイヅモの貨幣は不純物も少なく、精度も高い事で有名であり、価値が高いと商人の間では特に人気であった。まあ、サクラコの所持していた物はわずかな銀銭と、残りは銅銭ばかりであったが。
「ほう、この四角に開いた穴……。これは珍しいイヅモの貨幣だね。これで約二割……足りない分はそのお古の鎧で負けといてあげるよ。どうやらボロボロみたいだし」
「えっ、これはその、ちょっとした思い入れがあって……」
「そんなに大事なら、直しておいてあげよう。あんたの言うとおり有名になってまた、買い戻せばいい。それまでは売らないで取っておくから」
「ええ、それなら……旅には持って行けないし、仕方ないわね」
「まいどありー」
店主はピカピカのスチールプレートアーマーを担ぎ上げ、ロザリーへと渡す。これまでの装備に泣く泣く別れを告げると、ロザリーはそれを身につけてみた。
「サクラコ、どうかしら? 前よりも少し重いけれど、むしろ鍛錬になりそう」
「はい、とってもお似合いです!」
「ふふ、これ着て安宿取ってきたら、ティセにまた文句言われそうだけどね」
女冒険者が必ずぶち当たる、切ない懐事情。店主はそれを見送りながら、近くにいる黒胴着に聞こえないよう本音を漏らす。
「うーむ、女性が冒険者を辞めるのにはもう一つ理由があるんだが……。容姿が容姿だけに、あの子達も無事だと良いんだけど」
そんな彼の心配もよそに、二人はご機嫌で商店街を練り歩く。時折すれ違う黒胴着達の怪しげな視線に気づく事もなく……。
「わあー、ここはお土産屋さんが盛況ですね!」
「そうね。ただ商品はたくさんあるけれど、どれもこれも買えそうにないわね。こんな物価の都会で、私達上手くやっていけるのかしら。前途多難だわ」
「うーん……これは都会だからというより、もっと裏にある問題な気がします。ザクロさんもよく手下を率いては、村々からみかじめ料を取っていたそうですし、ここでもそんな組織が手を引いているんでしょう」
「それってほとんどマフィアじゃない……。あの女、懲らしめておいて良かったわね。よくやったわ、サクラコ」
「えへへ、頑張りました」
禍忌ザクロ。そう言えば彼女も戦う女性であった。存在としては相容れないが、ロザリーにとってあの質実剛健さは見習うべき所も多い。
「私も次に会ったら負けないんだから。それには良いトレーニングと良い食事……、なんて言ってたらお腹がすいてきたわね」
続いて広がるのは賑やかな飲食街。揚げ物や焼き物の香ばしい匂いが辺りを包む。
「あれはフィッシュ&チップスね。あ、あっちはシェパーズパイだわ。そうそう、ロンデ料理といえばイモを使った料理が多いけれど、これは昔、作物があまり取れないこの地方に難民が押し寄せたため、長い食糧不足に陥った事があったの。でもイモは大量に生産できて、ここの気候にも合っていたこともあって飢えをしのぐ作物として親しまれてきたわ。もともと、ロンデニオンというのは、“荒れた土地”という意味があって、ここでの開墾は想像以上に大変な事だったと思うの。それは、人々の並々ならぬ努力と、何としてでも生き抜こうという鉄の意思があっての事だと思うわ。それでね……うんぬん」
食オタクの悪い癖である長い薀蓄を話し終えたロザリーは、少し得意になってサクラコの方を見る。
「良く知ってるじゃねえか姉ちゃん。人間死ぬ気になれば何だって出来るってこった。俺も若い頃は開拓団にいてねえ、この辺の魔物退治から何から、日夜血ヘドを吐きながら頑張ったもんさ。けれど最近は嘆かわしい事に、俺等の上前をはねて私腹を肥やす悪党が居座っちまったと来たもんだ。おっと、こんな事奴らに聞かれたら連れ去られちまう。聞かなかった事にしてくれよ」
そこにサクラコの姿はなく、ただくたびれた中年の男が長々と愚痴る姿があった。
「誰……というか、サクラコはどこ?」
ロザリーはその一瞬で、サクラコを見失ってしまう。しばらくその場で待ってみても、周辺を探してみても、人混みの中にそれらしい影は見当たらない。自分の話がつまらなすぎてティセ達の所へ帰ったのだろうかと、たかをくくって捜索を怠ってしまったのが今回の悲劇の始まりであった。
役所にて居住の手続きを済ませたロザリーであったが、そこにもサクラコの姿はなかった。なにも頭の痛い問題はそれだけではない。現在の財政事情ではやはり街外れにある貧民街の安宿くらいしかとれず、残りは街の中心部にある法外な値段の高級宿。ここに住むには継続的な高い所得が求められるのだ。
しかし今はローランドの難民が押し寄せたため、その貧民街ですらいっぱいである。味を占めたのか値段をやや吊り上げているように思えるが、文句など言える立場ではない。諦めたロザリーは最安宿の予約を済ませ、気分だけでもとロイヤルミルクティーを飲みながら待っていたパメラ達と合流した。
「宿、取ってきたわ。それより、サクラコは戻ってない?」
「ううん、見てないよ。ロザリーと一緒だったんじゃないの?」
「ごめんなさい、途中で見失ってしまったのよ。この人の多さだから、とても見つけられなくて」
「何やってんのよあのバカ……。アンタもさっそく装備なんか新調して、浮かれてんじゃないわよ」
「うっ……」
ごもっともである。どうやらこれで本格的に行方が分からなくなってしまった。
先程の中年男が語っていたように、悪党にでも誘拐なんてされでもしたら、とロザリーは頭をかきむしる。
「ああ、なんだか情けなくなってきたわ! 何がリーダーよ! なにがイモ料理よ!!」
「さがそ? まだそんなに経ってないし、すぐ見つかるよ」
「そうね、レストラン街でいなくなったわ、行きましょう!」
「ああ、めんどくさ。アタシは先に宿で休んでるから。歩きすぎてもうヘトヘト」
今はティセのわがままも構ってはいられない。帰ってから叱ろうとロザリーは宿の場所を伝え、パメラと二人でサクラコを探しに行くのであった。
「パメラ、いた?」
「ううん……」
歩き疲れているだろうパメラは、それでも懸命にサクラコを探している。ロザリーは己の不甲斐なさを改めて悔いた。
これだけ探していないということは……。ロザリーの脳裏に、心ない暴漢に襲われるサクラコのビジョンがちらつく。純情な彼女にはこれ以上の事はとても想像できない。ロザリーは涙目になりながら必死でその名を叫んだ。
「サクラコぉー!!」
「む? サクラコがどうかしたか」
帰ってきたのは、やたらハスキーな女の声。意表を突かれ振り向くと、そこにいたのはなんと先日サクラコと対峙していた女忍者ザクロであった。噂をすればなんとやら。この女にはずいぶんと酷い目にあったと、とっさにロザリーは剣にを手を掛ける。
「もしかして……あなたがサクラコを? どうやらまだ懲りてないようね」
「まあ待て。今争う気は毛頭ない、その手を離せ」
「な、なにを勝手な事を……」
確かにあれほどだだ漏れていた殺気も、今は感じられない。それどころか背中に子犬を乗せた大きな白い犬を連れ、ほほえみながら度々その頭を撫でている程だ。
「ふふ、もう奴を追う必要はなくなったのでな。私はこれから里へ帰るところだ。だがその前に土産の一つも買って帰らんと同胞がうるさくてな」
「わー、かわいい! これ、何?」
「犬だ。そんな事も知らんのか、小娘」
「いぬー!」
「喉をさすってやると喜ぶぞ」
「わーい、わしゃわしゃー」
ピリピリしたロザリーをよそに、パメラとザクロはすっかり打ち解けていた。それにここは人も多い街の往来、とりあえず警戒を解くしかないようだ。
「それよりあなた、ケガはもういいの?」
「ああ、すっかり良くなった。イヅモに伝わるガマ油と、こいつのおかげだ」
白い犬はワン、と一声吼える。あれから、その背中に乗せてここまで運んでくれたのだという。かなり賢い犬のようだ。
「そうそう、土産の話だったな。何かおすすめがあれば助言願おう」
「お土産……。そうね、ここはイモを使ったお菓子なんかもおいしいけど」
「そうか、かたじけない。日持ちは大丈夫だろうか」
「そうね、乾物なんかもあるから、いいんじゃないの?」
「芋剣秘か? いいな」
ロザリーは殺し合いをした相手と何故か世間話をしていることに違和感を覚え、話題を戻した。
「じゃなくて、なぜ急にサクラコから手を引いたの……? あんなに憎んでいたのに」
ザクロは目をギラリと輝かせ、言い放った。
「奴が稀妃禍だと知ったからだ。闇の芽を持っているとすれば、やがてこちら側に引き入れることもできよう。奴は殺すにはちと惜しいのでな」
「闇の芽……マレフィカはそんな存在ではないわ!」
「金切り声を上げるな。まあ見ていろ、いつか分かるときが来る」
彼女の表情には得体の知れない自信が満ちている。しばし不穏な空気が流れるが、ザクロは少しはぐらかすように話を移した。
「で、そのサクラコがどうかしたか」
「えっと、それが……」
一応危険はないと判断したロザリーは、事の次第を彼女に告げる。
「なるほど、それは難儀な事だ。ククク」
「笑い事じゃないのよ! こっちはどれだけ……」
「あいや、済まぬ。いや、奴も変わってないな。おそらく悪い癖が出たのだろう」
「悪い癖?」
「心配せずとも良い、すぐに戻ってくるだろう。奴の鼻は犬並みに良いからな。ただ……奴は少し世間知らずな所がある。もしかすると……いや、これは言わないでおこうか。貴様の一撃があの勝負の敗因になったのでな」
ひとまず安心した。ひっかかる言い方なのは気になるが、とりあえずサクラコの無事は保障するらしい。
「では、今度会うときは個人的に貴様と決着をつけたく思う。いかがか」
「望むところよ。人格はどうあれ、あなたの実力は尊敬できるわ」
「楽しみにしている。それと、この街は少々キナ臭い。裏の顔に気を付けるんだな。例えばその鎧……ここで新調したようだが、商人にふっかけられただろう」
「え、ええ。そう言えばサクラコもそんな事を言っていたわね……。でも移民を受け入れてくれた街よ? まさか……」
「ふ、こればかりは裏の世界の人間にしか分からんよ。ほら、私がおしゃかにした鎧の代金だ。受け取れ」
ザクロは照れくさそうに手を差し出し、ロザリーへとイヅモ製の金貨を渡した。受け取るべきか迷ったが、内心ちょっと嬉しい。
「これで貸し借りは無しだ、ではさらば」
それだけを言うとザクロはパメラへと爽やかな笑顔を見せ、颯爽と去っていった。
「ばいばーい!」
白い犬に向けて、パメラが手を振る。大きな犬はそれに振り向き、ワン! と吼えて見せた。
パメラが懐くという事は、どうやら完全な悪人というわけではないようだ。とはいえ、そのまま彼女の言う事を鵜呑みにするわけにもいかない。ロザリー達は再びサクラコの捜索に戻る事にした。
一方、ロザリー達と別れ、一人不敵な笑みを浮かべるザクロ。
「なるほど、サクラコが……。ふふ、これはいつかの礼をせねばなるまい」
故郷へと持ち帰る土産は、何も一つでなくてもよい。
その鼻は、再びあのかぐわしい小娘の匂いを辿るのであった。
―次回予告―
新たな地にて早速魔女達へとふりかかる受難。
未だ無垢なサクラコを襲うのは、めくるめく大人達の世界。
闇に生きる女だけが、その匂いを知っていた。
第30話「堕龍」