第21章 魔女達の愛 138.愛の園
取り返しのつかない言葉を吐き出してしまった。
パメラは自分の、いや、ロザリーと二人の寝室で一人泣いていた。枕はあの人の匂いで溢れている。吸い込めば吸い込むほど、すでに懐かしく、遠い香り。
初めての恋、初めてのキス、初めての愛の言葉。そして、初めての別れ。
もう、あの頃へは二度と戻らないのだろうか。多くを求めすぎたのだろうか。
「う……ひぐ……」
キィ、という扉の音。
ロザリーが追いかけて来てくれた、そんな期待と共に枕から顔を上げる。
「聖女さま、やっぱりここにいましたか」
「メーデン……」
パメラはがっかりして枕に顔を埋めた。
ボフッ、とベッドにメーデンの体重がかかる。なにやらいつもとは彼女の様子が違う。普段なら服を脱ぎ散らかして飛び込んで来そうなものだが、珍しく無言なのだ。威圧的なまでのその存在感に、パメラはちら、とそちらの方を見た。
メーデンはパメラを一瞥する事もなく、遠くを眺めている。
「まるで、昔の聖女さまみたいですね」
「……どういう事?」
「自分の殻に閉じこもっていた、あの頃のよう」
確かに教会にいた頃、辛い事や悲しい事があると、いつも自室に籠もっては一人で過ごしていた。メーデン以外はその状態の聖女と接触する事は許されていなかったため、そんな時は彼女がただひたすら絵本を読んでくれたり、甘やかしてくれたり、ご機嫌をとってくれていた事を思い出す。
「うるさい! いいでしょ、別に!」
「私にすら、甘い言葉を期待しましたか?」
「しないよ……! もう、いいからどこかへ行って!」
少し乱暴に、枕をメーデンへとぶつける。昔の自分を知る彼女が、うっとうしかった。彼女がいると、退行現象を起こしたかのような自分をより意識してしまう。
しかし、メーデンはビクともしない。どっしりとその場に根を下ろして答える。
「行きません。もう、どこへも、行きません。これは、私のわがままです。だから、聖女さまももう少しわがままになって下さい。あなたはいつも、誰かのために自分が傷ついているじゃないですか。今回も、ロザリーさまの重荷になりそうだと、自分から身を引いたんですよね?」
「違うよ、私は、逃げただけ……。ロザリーが私に本気になれない理由は、きっと優しいから。みんながロザリーの事を好きなんだもん、私も気を遣うくらいに」
自分に魅力がないと考えた事もあったが、そうじゃない。口癖のようにロザリーは言っていた。マレフィカみんなが好きだと。本当の意味で選ぶという事は、他を捨てるということ。それは彼女にとってあまりに残酷な行為。
メーデンはなるほど、と、二人の関係性に理解を示した。
「みんながみんな、好きな人を好きでいて、無責任に全部受け取るだけ受け取り、特定の相手を決めず、ただれた関係を維持する。これを、私達の世界ではハーレムといいます。このままだとロザリーさまの愛の園、恋人第一号ですね。おめでとうございます。第一号様には、ある種の特権が約束されます。最終的にグッドエンディングの確率が高く、恋愛イベントも多めです。しかし、ルート分岐により、思いも寄らぬ対抗馬が相手を射止め、負けヒロインとなる事も近年では多くなって参りました」
「何の話? ふざけないで」
「ふざけてません。ハーレム。それはそれで、一つの答えなのです。それでは、私が聖女さまを愛するこの気持ちは、どうなってしまうのですか? アリアさんだってそうです。聖女さまはちゃんと、受け取ってくれるんですか? 私は今のままでも幸せです。ですが答えを出してしまえば、諦めるしかないじゃないですか」
ハーレムなんて、面白くない。でも、みんなにそれぞれ育てた愛を、諦めろだなんて言えない。でももし、それを認めたら、自分もアリアと浮気してもいい事になる。
ふと浮かんだそんな考えを、パメラは必死に否定した。
「好きって気持ちは自由だから、私がどうこう言う事じゃないよ……」
「男女の関係だと、勝ち負けはハッキリとするんですけどね。私にも、心のおち○ぽはあるのですが……」
「ばか」
「ああっ、今、キました! アレがおっきくなるのが分かります、ふひひ……」
パメラは再び枕を持ってメーデンをバシバシと叩きつけた。しかしこの侍女、防御力がおかしい。全力で叩いてもまるでひるまないのだ。結局、彼女の頭のフケが舞うだけの結果に終わった。
「はあ、はあ、セクハラって言うんだよ、そういうの」
「冗談ですよぉ……。でも一つ忠告しておきます。今はいいですが、女の世界は、もっとドロドロとしてくるものです。ハーレムなんて、成立するとは思えませんけどね」
それにはパメラも頷ける。もしロザリーが誰かと……なんて事になれば、その子と仲良くなんてできるだろうか。
「今回は、私がちょっとだけ悪いと思う。浮気したんだし……。だから、謝って、もう一回やり直すことにする……。そして、ロザリーの浮気も、ちょっとだけ我慢する」
「いえ、100パー聖女さまが悪いですが、それでこそです。応援していますよ!」
「うん……!」
何だか元気が湧いてきた。メーデンといると、不思議といつもの自分に戻れる気がする。なんだかんだで、やっぱり一枚上手なのかもしれない。
「でも、さすが二十歳だね。恋愛経験では敵わないよ」
「ふ、もう何人もの女性が、私の股を通り過ぎました。毎期、嫁が変わるんですよ。相手は小説のヒロインだったり、舞台のアイドルだったり。今の推しは、オペラ女優のペトラ=ミューズちゃんですね。メイドアイドルという、親近感を覚える少し地味な子で。こういった子達と、妄想で色んな事をするんです。あ、もちろん、聖女さまはリアル嫁ですよ、安心して下さい! ちなみに、私のような女子を夢女子といいます」
「知らないよ……もう」
相談して損したかもしれない。アリアの言っていた夢の世界というのは、もしかするとこの事であろうか。だとすると、確かに帰って来られないかも。
現にまた妄想に耽り始めたメーデンを尻目に、パメラは立ち上がった。そろそろ移住の準備が整ったかもしれない。出発までには仲直りして、いっしょにリユニオンでデートする妄想に浸る。少し夢女子が伝染ってしまったようだ。
「あ、今度はついてこないでね! ずっと見てたんでしょ、まったく……でも、ありがと、メーデン」
「えへへ、バレましたか。信じていますから、ここで待っていますね」
べーっ、と舌を出してパメラは出かけていった。
いつからか聖女さまに宿った子供っぽい人格。彼女のひたむきさとたくましさに、メーデンは望みをかける。
「ですが、聖女さまを取り巻く何か……一体、何なんでしょう……。ああ、気になって妄想にも浸れません! 仕方ありません、ストーキングモード、発動!」
メーデンはドロリと姿を消し、パメラの後を追った。
本人は気づいていないが、これこそ彼女の進化異能、喪失。世界から忘れられたかのように、その身を隠す事が可能となる。しかしお風呂を覗いたり、トイレを覗いたりという我欲にしか使われる事のない、まったく過ぎたシロモノである。
「必ず私が守って見せますからね、聖女さま……!」
ロザリーとヴァレリア。
二人はまるで互いの欠けた部分を補い合うかのように、強く惹かれ合った。それぞれのカオスすらもそれを後押しするかのように。
そんな現場を目撃したアリアとノーラであったが、共通して、ある違和感を覚えていた。
「ある意味パメラは、恋敵を救ったのかもしれないわね……。なんて不憫な子」
「変だよ! ロザリーさんは、死んでも私に愛を誓わなかった。パメラお姉ちゃんとの愛を守り通したの。きっとこれは、間違った未来」
「そうね。あなたの言う、大きな力のせいかもしれないわ。だとしたら、お手上げね……」
未来を視るだけの性愛の魔女と、力を失った運命の魔女。二人に何が出来る訳でもなく、得体の知れない力を相手取るにはあまりに無力であった。
「そうだ、グリエルマ先生に相談してみよう! ああ見えて、恋愛の大先生なんだよ」
「あ、あの人に? しょうもない下ネタを聞いただけで倒れたのよ? 大丈夫かしら……」
まあ何もしないよりはマシだと、二人はグリエルマへと相談に走った。
「はぁっ、あー、ダメだダメだ、もうダメだ」
大の大人が病人用のベッドに大げさに横たわり、弱音を吐いている。アリアは未来への選択を初手からミスした気しかしなかった。
「アリア、我を放っておいてどこへ行っていた。ほら、男とのアレを想像してしまって、じんましんが出ている。もう我はダメかもしれん……」
見るとポツポツと赤い吹き出物が腕に出来ていた。確かにこの筋金入りの同性愛者ならば信頼できる。二人はグリエルマのたわごとを一蹴し、本題へと入った。
「そんな事はどうでもいいわ。一大事なのよ」
「グリエルマ先生! ロザリーさんと、パメラお姉ちゃんの恋が、破局しそうなの! でも、ヴァレリアさんの気持ちも本当だし、どうしよう!?」
「待て待て、いっぺんに言われても……、と言いたいところだが、同性間恋愛強者の我ならば何が起きたのか、おおよそ見当が付く。おそらく、浮気からのもつれだな? 浮気されちゃった、じゃあ、あの子の気を引くために、私も……。というやつだろう」
「恋愛の大先生としては、思ったよりレベル低いわね……」
「なっ……!」
なんか違うらしい。真っ赤になる大先生。
「ここはもう手っ取り早くノーラの中のカオスを呼び寄せてもらって、未来を変えるしかないと思うわ」
「な、パメラに対してやったアレを、ノーラにやるのか? しかし、ノーラはまだカオスの力に耐えうる肉体を持ち合わせてはいない。カオスが自然と現れない内は、基礎が出来ていない証拠。賛成しかねる」
ノーラも今の体でカオスを操れる自信はなかった。その意見に賛同するように、アリアに対して首を振る。
「そもそも、部外者が純愛に口を出そうというのが間違っているのではないか? ロザリーとパメラにある愛も、ロザリーとヴァレリアに芽生えた愛も、同じ愛であろう。それでは君は恋人との愛に、介入されたいと思うか?」
「それは……」
グリエルマは立ち上がる。段々と本来の姿を取り戻し、見ればじんましんもすっかり引っ込んでいた。
「私はもっと、自由に恋愛を楽しむべきだと思っている。もちろん女性間での話だが、どうせ妊娠などはしないのだし、ならば責任など発生しないものであろう。古代の話になるが、かつて、同性愛者のみで構成された軍隊があったという。それはもう、互いが互いを守るため、あるいは力を誇示するため、鬼のような強さであったと言われている。ヘクセンナハトも自由恋愛を推奨すればもっと、無敵の軍となれるはずなのだ。まあ、何処を見ても百合の花が咲いている風景を、我が見たいという話であるが……」
力のこもる演説。一理ある所の話ではない。アリアも頷きたかった。しかし、それは子を宿さない場合の話である。子供にとって必要なものは、愛を誓い合った両親なのだ。
「実は、私には予知の力があるらしくて、その一つに、将来私が子供を産むという未来があるの。私は男と寝るつもりはない。そもそも、私の中の悪魔が近づく男を排除するはず。では何故? 可能性は悪魔との子であるか、パメラとの子であるか。二つに一つ。でも、その子はとても美しい女の子だった」
「なんだと……。君は、本気で同性間で子供が出来ると信じているのか? しかし、確かに……。悪魔との間に出来る子はハーフデーモンといい、前大戦の際に多く生み出されたという。しかし、その姿は異形。普通の子ではない。後の世の混乱となると考えられ、教会によって全て闇に葬られた。魔物でも処分するかのようにな。その後に現れた魔女も同じように弾圧、管理されたのは知っての通りだ。魔女の道の先に人類の禁忌となる秘密があるのだとしたら、奴らの行動も理解できるが……」
願望や恐怖が妊娠症状を促す想像妊娠というものもあるが、相手は無限とも呼べる魔力を持つ魔女。予知に関する力を持っていたとしても不思議ではない。しかし、医師でもあるグリエルマにとって、それはとても信じがたい話であった。
「先生、私はどうなるの? 私は、パメラお姉ちゃんと、コレットお姉ちゃんとの間に生まれた子供だよ? 私達は魔女。普通じゃ出来ないことも、出来るんじゃないの?」
そう語るノーラという存在そのものが、説得材料としては申し分ない献体である。あの奇跡をしかとこの目で見届けたのだから。
「……なるほど……そうであった、可能性を初めから諦めていたのは我であったのかもしれないな」
グリエルマは、脳内の状況を整理するために黒板へと情報を書き殴る。
「つまり、魔女の間に子を作る何かしらの手段が生まれたとして、このままの未来では、アリアとパメラが結ばれる事になるという事か。ならば、その未来を変えては、その子の消滅は免れないのではないか? 君は、それでもいいと言うのか?」
「いいえ、未来は変わらない。私はもう、それを宿しているのだから……」
「確信が、あるのだな?」
アリアは頷く。たった一度の交わり。だが何よりも濃厚な時間であった。
おそらく、男女間なら得られるであろう確実に妊娠したという手応えに近いものを感じたのだ。
ふうーっという長いため息の後、グリエルマはある秘密を語り出した。黒板に様々な図解や用語を織り交ぜながら。
「実はな、我も人の創造という、禁忌とも呼べる研究を行った事がある。専門的な話になるが、我々人類の性染色体は雄ヘテロXY型。このグループでは雌はXX個体であり、雄はXY個体となる。我の理想でもある雌の染色体同士を組み合わせ、子供もXXとなるようにすれば全ては事足りるかのように見えるが、それらを掛け合わせても必要な情報量に届かず、子供は出来ない。やはり鍵となるのは精子の持つ情報であるため、我は精子の研究を行い、人工的に擬似精子を作り出した。動物実験では成功したが、人については断念し、研究を凍結した。結局これでは、輪廻から外れた行為であるために魂が宿らないのだ。神々のシステムに介入するなど、あまりに恐れ多い行為。やはり、真の生命の放つ精こそが必要なのだ。神の許しを得て、完全な生命は産み出される……それに気づいただけであったよ」
神のシステム。大層な事だが、アリアはその話を聞いて逆に確信した。神は、自身の中にいるのだから。
「神は許してくれたわ。難しい話は分からないけど、つまり、パメラの愛が私の子宮に届いたという事でしょう。心の射生と共に、あの子の再生の力、いえ、再誕の力がカオスの力を借りて体外に生命を作り出した。つまりは処女懐胎よ、簡単じゃない」
「私の体を作ったのもその力だよきっと。ねえ、アリア」
「そうね。あなたも、この子も、祝福されて生まれた子供よ。誰が何と言おうとね」
「心の……射生……」
グリエルマは呆気にとられた。変に頭が硬く凝り固まった自分よりも、カオスの力、そして泥臭い生命の力強さを信じる彼女のほうが、この奇跡を受け入れてしまえるのかもしれない。だから、当たり前のようにそれを受け取り、着床した。
「それが本当なら、君は人類初の二母性児の母という事になる。ハハ……これは一大事だぞ! 凍結していた研究を再開する必要がありそうだ……!」
「それで話が逸れたけど、パメラ達の事よ、協力してくれるの?」
「ああ、気が変わった。私とて、愛が壊れる姿を見たくはない。魔女達の愛の園、守ってみせよう」
顔を上げ、グリエルマは行方不明のディーヴァを想う。同じ思いなど、年端もいかぬ子にさせる訳にはいかない。
「それでね、先生、ずっとおかしな力が私達に取り巻いているの。気づいてる?」
「そう、まるで私達を不幸に陥れるような……不和をばらまくような」
「何? 確かに、我がカオスも何かを感じているな。体調を崩し見逃していたが……、くっ、我とした事が!」
そう、おち○ちんにだけは負ける事は許されない。そう息巻く30代を二人は冷ややかに見つめる。
「これは、私の力に似てる。運命を操作する力だよ。きっと、誰かに呪いがかかっていて、周りの人は、無意識に操られる……。それが、破滅へと導くまで続くの」
「誰かって、もしかして……パメラ?」
確かにそうとしか考えられない。なぜこんな事になるまで気づかなかったのか。ずっとパメラを見ていたアリアは、ある事に気づく。
「そういえばあの子、ずっとメーデンと一緒にいたわ。だから一人になった時にしか、力が発動しなかった」
「そうか、それで我の目からも逃れていたと……」
これが間違った未来であるならば、正す必要がある。それが出来るのは、やはりこの三人だけ。
「だからね、先生の力で、私とアリアお姉ちゃんの力を繋げて! きっとお姉ちゃんなら、未来を変えられるから」
「なるほど、ノーラが無理なら、アリアに因果律操作を託すという事か……」
やっと二人がここへ来た合点がいったと、グリエルマはアリアを見つめる。
「任せられるか? 破滅の魔女よ」
「ええ、今の私は愛の魔女。パメラも、ヴァレリアも、救ってみせる」
この結果で、ヴァレリアには失恋が訪れるのであろう。アリアは自分と同じような立場の彼女に対しても、救われる道を見つけたかった。
早速、世にも奇妙な凸凹コンビはベッドへと横たわる。
「では、これよりカオスコネクトを行う。同時に、ノーラに眠るカオスを半覚醒させる必要がある。消耗は大きいだろうが、ノーラ、頑張るんだぞ」
「大丈夫。私の魔力をあなた達へ送るから」
「未来を変えつつ、全ての負担を一人でまかなうというのか……。確かにそれしかなかろう、頼む、アリア」
アリアは微笑み、小さなノーラの手を握る。
未来予知と運命操作。二つの力が少しずつ融合していく。
あまりに膨大な魔力が消費されていき、アリアは気を失うようにゆっくりと目を閉じた。
――アリア。
「……!」
何者かに呼ばれ、飛び起きる。隣を見ると、可愛らしく眠るノーラと、目を閉じ、儀式に集中するグリエルマの姿があった。しかし、こちらには気づかない。つまり、今の自分は未来を変えに来た精神体であろう。
「急がないと……!」
外から漏れる光が、やけに赤い。すでに時刻は夕刻であろうか。
アリアはコテージを飛び出し、空を見上げた。
「なに……これ……」
そこには、まるで火のように赤い空があった。
終末を思わせる地獄のような緋に照らされ、集落もパニックに陥っている。
アリアはそれを知っている。
忘れたくても忘れられない、かつての、灰の記憶。
「破滅……が、起きる」
小さくつぶやく唇。
つまり、ここは、自分の中の悪魔が目覚めた未来。
――アリア。やっと会えたね。
そこに降り立つ、少女のような姿をした世にも美しい悪魔。彼女は漆黒の翼を広げ、アリアを抱きしめた。
「うそ……嘘……」
結局、自分は破滅の魔女でしかなかった。ここには、愛する者達がいる。それらを全て、これから失う絶望。怯える彼女にむけ、悪魔は囁く。
――愛してるよ、ママ。産んでくれて、ありがとう。
「あなたが、私の……子……なの?」
微笑んだ悪魔はどことなく、パメラに似ていた。
――私はベリア。世界を救う、マレフィセント。
刹那、空が割れ、雲が一瞬にして消し飛んだ。景色は一瞬にして赤一色となる。人々は断末魔の叫びをあげる事も出来ずに蒸発した。
気がつくと砂漠地帯は大きく形を変え、全てが消え失せていた。そこに、一人立つアリア。
「いや、いやぁ……! いやあああ!!」
絶望の独唱曲が響く。
彼女は愛する者達の灰に包まれ、自身の運命を呪った。
―次回予告―
終末の鐘は鳴る。
破滅へと向かう世界で愛を確かめ合う少女達。
誰かの思惑など、知る由も無く。
第139話「ワルプルギスの夜」