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第2章 番外編 『白百合を君に』

 時はローランド戦役の最中。まだ本格的な籠城戦が始まる前の話である。


 戦乱に揺れ動く少女達の心に、小さな思いが咲いた。散り散りになったそれは風に乗り、長い時をかけて、やがてゆっくりと一つの元へと回帰する。


 これは、そんな想いの種を、それぞれの心へと植え付けた時の出来事。



************



何故(なぜ)――」


 ローランド第一王子、ユリウス゠ローランドの訃報(ふほう)を聞いた我が姫、クリスティアの第一声である。


 それこそが、ノブレスオブリージュの精神であると答える事は簡単である。民を守るため、果敢に先陣を切ったあなたの兄上はご立派でした、と。ただ、彼女はそんな言葉がほしいわけではない。


 あれだけ高かった日はすでに(かげ)っていた。姫は食べ物も喉を通らない様子で、ずっと石畳のルーフバルコニーから城下の様子を眺めている。兄と妹、これまでを共に過ごした大切な人の死に、こうして安全な場所から想いを馳せる事しか出来ないもどかしさ。それを見つめるロザリーにも、少しは分かるつもりである。


 冷たい風に、毛艶の良い黒の巻髪が揺れる。以前は少しふくよかだったその体も、ドレスがずれ落ちてしまいそうなほどに痩せてしまっていた。見るに堪えないほど憔悴(しょうすい)しきりのその姿を見て、そのまま身を投げてしまうのではないかとロザリーは彼女を抱きしめた。力を入れると傷つけてしまいそうな儚い抱き心地に、たまらず出過ぎた言葉を放つ。


「これ以上はお体にさわります。どうか休まれて下さい……」


 葬儀にも立ち会う事すら出来ずに、彼女は明日ここを発たねばならない。ローランド王家存続のため一人、遠い地にて隠棲(いんせい)するように申しつけられているのだ。


 ロザリーは側で守る事を申し出たが、彼女には伝説級(レジェンド)である親衛隊隊長、クロウ゠デニールが就くこととなった。確かに子供に勤まるような大儀ではない。ロザリーはぐっとこらえ、少しでも姫の脱出する時間を稼ぐために、皆と共にここで戦う道を選んだ。つまり、これが実質的な別れである。


「ロザリィ……わたし……」


 涙声で姫はその名を呼ぶ。存分に甘えた声であるが、姫はその続きを紡がなかった。言った所で、ロザリーの立場ではどうする事もできないのだ。それ以上はただ困らせるだけという計らいであろう。

 その意図がロザリーには痛いほど伝わる。二人はしゃくりながら泣いた。


 ロザリーは最後に、何かを残したくなった。家臣として、いや、友人として……、違う。それ以上の存在である彼女に。


 貴金属? 相手は王族。庶民からの贈り物としてはふさわしくない。

 自分の宝物? それは姫から贈られたものばかり。返すのは失礼だ。

 言葉? それならばありったけの用意がある。手紙にしたためて贈ろう。


 しかしそれだけでは、この気持ちは……。

 ロザリーは無骨なローランド城をひたむきに飾る、白くたなびく旗に目をやった。


 フルール・ド・リスにも似た紋様、フロレンティナ・ド・リス。それはローランド王家の花である白百合、マドンナリリーを表したものである。

 その起源は、古い時代の祖国の英雄が掲げた旗であると言われている。

 この国の人間ならば誰もが知る、白百合の騎士の物語。ローランドの乙女と呼ばれたある少女は星の神による神託を受け、軍を率いこの国を魔族から解放した。しかし、やがてその強大な力に人々は恐怖し、最期は教会により魔女として葬られたという。


 ローランドの人々はそんな過去の過ちから、魔女というものに対し畏敬の念を抱いている。つまり彼女こそが、今の自分達、そしてマレフィカ達をここへと導いてくれたと言ってもいい。気高く、美しく、魔女という存在を暗示するかような花。


 白百合……。それに、私を刻みつける。


「姫、覚えていますか? 昔、一緒に山へ行った時の事を」

「どうしたのです? 急に……」

「いえ、何でもありません。少し、あの景色が懐かしくなって」

「ああ……あの、白い景色……」


 姫の黒い瞳はロザリーの目線を追い、遠くにそびえる山々を眺めた。

 二人は、この国が平和だった頃を思い出す。あの山で見た、一面の無垢な白百合と共に。


 そう、私達はいつまでも、あの頃のまま。ずっと、ずっと……。






 一夜明けて、ここは魔女達の孤児院がある宿舎。ロザリーは早朝、少し丈夫な皮靴を用意し、きつく紐を縛っていた。


「何してるの? そんな山に行くような格好……」


 しまった。厄介な子に見つかってしまった。何をするにも付いてくる、くせっ毛パメラである。誰にも知られずに入念に準備したのだが、どうも筒抜けであったらしい。さては、母の入れ知恵か。


「何でもないの、朝の鍛錬よ」

「じゃあわたしもついて行くー!」

「危ないからだめ!」

「危ないなら、絶対に行く!」


 この子の異能(マギア)は、完全治癒。確かに危険の際にあると助かる力ではあるが……。苦し紛れに放った言葉は、彼女のスイッチを完全にオンにしてしまった。鼻息荒く、ロザリーと同じような山登りの格好に着替え始める。


「どうしてそんなに用意がいいのよ……」


 えへへー、と笑うパメラ。

 そんな訳で、二人のちょっとした冒険の旅は始まった。




 目的地は、ローランドでもそこそこの標高であるオーレア山の中腹。昔、父やキル、ギュスター、そしてユリウス様も共に遠足へと向かった場所。ちょうど季節は春も終わる頃、今の時期とも符合する。きっとあの白百合は、満開の姿で待っていてくれるはずだ。


 ロザリー達は、街を抜け、雑木林を抜け、森を抜け、山のあぜ道を行く。


「はひ、はひ……」

「ほら、まだ(ふもと)じゃないの。がんばって」

「わたひ、じぶんは、なおせないから……」


 余談だが、乳酸による疲労にもパメラの力は効く。ロザリーは自分をいじめ抜いて訪れた筋肉痛をパメラに癒やしてもらうというパメラ式トレーニングにて、同年代の少女より遥かに肉体的に優れた体作りをしているのだ。

 そのお礼も兼ねて、仕方なくロザリーは腰をかがめる。


「ほら、おんぶ」

「ろざりー! やったー!」


 現金なものでケロっと元気になったパメラは、かがんだロザリーの背中に飛びついた。子供の体温は高いとは言うが、微熱でもあるのだろうか。んふー、と首の後ろに当たる鼻息が熱い。


「大丈夫? 重くない?」

「これも鍛錬よ」

「疲れたらわたしが癒やすね!」

「そうね、お願い」


 永久機関の完成である。足取りも軽く二人は麓を抜け、山の中腹へとさしかかった。そして昔の記憶を辿りながらではあったが、なんとか以前訪れた山小屋を見つける。父、ブラッドお手製のログハウス。丸太を組み上げた簡素なものであるが、さすが、堅牢な作りを見せた。


「ここ! みんなとお弁当を食べた所だわ」

「やったー! お腹すいたー! そう言えばわたし、朝からまだ何も食べてなかったんだ」

「いきなりついて来ようとするからよ……」


 力を使うとお腹がすくというパメラに、ロザリーは持参したお弁当の大半をあげた。中でもパメラは挽肉の丸っこい揚げ物がお気に入りだ。野菜も食べなさい、とロザリーの小言が飛ぶ。


「おいしい! ほんと、ロザリーはいいお嫁さんになれるよ」

「ええ? なれるかしら……」

「……あ、いや! なれないかも」

「どうして?」


 パメラはパンにかじりつきながら黙ってしまった。ロザリーがお嫁さんになるとしたら、きっとあの憧れのキルが相手だろう。それを泣きながら祝福する自分。そんな想像をしてしまったのだ。


「ロザリーなんて筋肉ばっかりだから誰もお嫁さんにはしないよ!」

「何よ、さっきと逆の事言って!」

「だから、誰も、もらってくれなかったら、わたしが……」


 パメラは赤くなって言った。ギュスターになつくお爺ちゃんっ子である彼女は、よく彼の書棚から少しエッチな展開が含まれる小説を盗み見ている。もちろんこの先想像するのは、お互いの独白。そして、甘美なやりとり。


「ふ、ふふっ! 姫にも同じ事言われたわ。あなたは私の騎士になるのですから、いつかお嫁さんにして下さいって……。いい? 普通(・・)結婚は、男と女でするものなのよ?」


 一世一代(いっせいちだい)の告白のつもりであったが、ロザリーは子供同士のふざけあいにしか捉えない。


 まったく、石頭というか筋肉頭というか。この世界、何をするにも男女でというしきたりは一体誰が決めたのだろう。小説に出てくる男女の行為なんて、自分にとってはまだ想像もつかない。結局ロザリーもそっち(・・・)なのだと、パメラは少し悲しくなった。


「……姫様、かわいそう」


 ぽつりとつぶやくパメラ。ロザリーは慌てて先程の発言を取り消した。


「ちがう、違うの、姫を否定したわけじゃ……」

「ふうん……、ずるいんだ……」


 二人は気まずい雰囲気のまま、山小屋を後にした。


(ロザリーって、姫様の事を出すとすぐに大人しくなる。無理してるの、分かってるんだから)


 しかし意図せず、同性間での恋愛を否定する事に罪悪感を植え付ける事ができた。パメラは無意識に姫という巨大な盾を利用し、ロザリーを自分の思うままに誘導したのである。


(わたし達は魔女なんだよ? ふつうって、なに?)


 普通でないのなら、異常? いや、違う。わたしは嘘をつきたくないだけ。どうしようもない、この胸の叫びに。


(好き……。ただ、それだけなのに……)




 二人は再び花畑の捜索を開始する。緑茂る山道。確かに、この辺りからかぐわしい香りが漂う。道を外れた所には、ちらちらと色んな花が咲いていた。きっと百合畑も近いはずだと二人の期待も高まる。

 お腹いっぱいのパメラは、今度は自分の脚でロザリーの先を行く。


「ロザリー、ねえ、良いにおいがする。こっちこっち!」

「ほら、そんなに急いだら危ないでしょ」


 そうだ、もう昼過ぎ。急がねばならない理由があったのだと、ロザリーはふと思い返した。


「そうよ、姫達は人目を避けるため、暗くなり始める夕刻には出発するらしいわ。何とかそれまでには帰らないと!」

「そっか、姫様、行っちゃうんだね……」


 パメラは彼女を利用した事を、少し後ろめたく感じた。でも、もしロザリーがキルを諦めて女の子と恋愛するようになったら、相手はきっと姫様だろう。自分なんて、どうせ妹くらいにしか見られていないのだから。けれどパメラは、それならそれで良いと思えた。


「お花のプレゼント、するんでしょ? まかせて、わたし、鼻が良いから」


 パメラが道なりを外れ、おもむろに花のにおいのする方へと駆けだした。ロザリーは慌てて後を追うも、プレゼントの事も花の事もパメラへは言ったつもりがない。時々この子は恐ろしいまでの勘を働かせる。


「ねえっ、どうしてその事を?」

「ロザリーの事なら、何でも分かるもーん」


 駆け出しながらそんなやりとりをしていると、前を走っているパメラが突然消えた。


「パメラっ!!」


 草の生い茂る道の先は突然切り立った崖になっていた。パメラは足を踏み外し、そこから落下してしまったのだ。下を覗くと、運良く一段低い場所に足場があり、そこでパメラが尻餅をついていた。とりあえず大事はなさそうだ。


「ふう、よかった……」

「ロザリー、見て!」


 パメラは自分の目の前に広がる光景に、感嘆の声を上げた。危険な状況など、目には映らないというように。


「すごいすごい! あったよ! 白いお花」


 落ちたらただではすまないであろう峡谷の下。そこには、かつて姫と見た一面の白百合が力強く咲き誇っていた。

 谷間を道なりに回り込めば、緩やかな斜面からそこに向かえたのだろう、だが、おそらく同時に相当の時間も掛かるはずだ。帰りの道も考慮すると、とても間に合わないだろう。


「待ってて、パメラ、すぐに行くから!」


 ロザリーは岩に手を掛けながらゆっくりと崖を下っていく。パメラの足場は二人乗れるかどうか危ういため、壁にしがみつきながら背に捕まってもらうしかない。そして今回は強硬手段として、彼女を背負いながらそのまま下へと降りることにした。ここはこの自慢の膂力(りょりょく)に全てを賭けるしかない。降りるのは登るよりも遥かに難しいが、ここは岩も硬く、問題はなさそうに見えた。


「ふぅ……、父さんとの修行がこんな所で役に立つなんてね」


 パメラの足場の隣に位置し、彼女へと手を伸ばす。


「ロザリー、大丈夫?」

「ええ」


 おそるおそるパメラがロザリーの背中へと乗り込むと、一気にクライムの難易度は跳ね上がった。震えるパメラが、その体を押しつける。ぎゅっとしがみつく手は、やっと今置かれている状況を理解したとばかりに強ばっている。


「大丈夫。大丈夫……」


 目眩をおこしそうな高さではあるが、しっかりとくぼみに足をかけ、少しずつ降りていく。しかし、やがて風化した土の層が現れた。足をかけようにもボロボロと崩れ落ちていく。ロザリーは崖の半ばで立ち往生という、最悪の状況に陥った。


「はあっ、はあっ……、これ以上は……」

「ロザリー、ごめんね……」


 背中ですすり泣くパメラ。彼女も逐一(ちくいち)力を与えてくれているが、今は安定した最後の足場にしがみつくのがやっとである。このままでは、二人とも消耗しきって落下する事は避けられないだろう。


「戻ろう? わたし達だけでも帰って、姫様をお見送りしなきゃ」

「……パメラ、私を、信じてくれる?」

「え……?」


 馬鹿げた話だが、ロザリーはあきらめてはいなかった。彼女は目がくらみそうな崖下を見る。だがその先には花畑があるくらいだ、つまり地面はそう固くない。


「ここを、飛び降りるわ」


 パメラはかぶりをふった。ロザリーの事は何でも分かる。だから必ずやるということも。そして、自分の身代わりに、落下の衝撃を全て受け止めてくれるだろうということも。


「ダメ! そんな事したらもう口聞いてあげない!」

「それは困るわね。でも、姫とはもう会えないかもしれない。だから……ごめんね……」


 謝罪の言葉。ついにフラれたのだろう。パメラは泣いた。

 そして、何も言わずにロザリーの決意に同意した。


「あなたは必ず守る。だから、信じて!」


 ロザリーは自分を信じてくれている。大けがをしても、きっと治してくれるはずだと。ならば、自分だって信じる。この大好きな人を。


「ロザリー、いいよ。姫様にお花、持って帰ってあげよ!」


 ロザリーはパメラを前に移動させ、片手でしっかりと抱きしめた。その全体重をロザリーの背中で受け、衝撃を逃がせるように。ロザリーの膨らみ始めた胸は、存分にパメラをやさしく包み込む。


「きっと白百合の騎士様が、私達を守ってくれるわ」

「うんっ……!」


 そして、ふわりと、二人は身を投げ出す。ロザリーは震えるパメラを抱きしめた。この子だけは、何があっても絶対に離さないと。






「ん……」


 気がつくと、ロザリーは一面の白百合に囲まれていた。香りの強い花であるため、まずそのにおいに起こされたのである。


「ロザリー! 良かったあ……!」


 目の前には、涙でぐしゃぐしゃのパメラ。


 もくろみ通り、自身は大けがを負ったがパメラには傷一つ無い。そこで、ロザリーは大きく安堵のため息をついた。


「ありがとう、治してくれたのね」

「……」


「パメラ……?」

「……」


 ああ、口をきかない約束はちゃんとやるつもりなのか。ロザリーは可笑(おか)しくなって笑った。


「笑い事じゃないよ! ロザリー、骨が折れて、血がいっぱい出て、大変だったんだよ!」

「ふふ、まあ、そうでしょうね」


 この人は強い。なんで人のためにそこまでできるんだろう。ひょっとして馬鹿なんだろうか。そんな事を思いながらも、パメラは一緒になって笑った。


(うん。この人になら、わたしも……全てを投げ出す事ができる)


 愛は、捧げるもの。そしてその時、初めて完遂するのだと。


「ねえ、見て。凄いわね、谷一面の白百合。まるでこちらに笑いかけてくれてるみたい」


 ロマンチックな事を言うロザリーに、無茶な私達を笑ってるんだよと返したくなったが、それはしないでおいた。パメラはそっとその一つを摘むと、恥ずかしそうにロザリーへと手渡す。


「わたしから、ロザリーに。百合……リリウムって、わたしの花なんだよ」


 ロザリーは驚いたようにそれを受け取る。確かにこの花は、白くて無垢なこの子のよう。そして、その側にいる事で自分もそうであれる気がしてくる。


「……ありがとう。じゃあ、私からも」


 二人は、白百合を贈り合った。それはまるで、純潔を誓い合う行為。


「あ、あれ……」


 パメラの瞳から、ふいに涙が流れた。あまりに美しい花々とロザリーに囲まれ、感極まり勝手に溢れてきたのだ。


「もう、おおげさね。なにも泣くことないじゃない」

「えへへ……」


 ひとしずく、聖なる涙がパメラの白百合へと落ちる。するとその花びらに、途端に一際みずみずしい輝きを与えたかのように見えた。


「これって、わたしの力が……?」

「ええ。まるで、命が吹き込まれたみたい……」


 ロザリーはその一本に、自分と姫の分の白百合を近づける。

 しずくを受け、共に光る三本の無垢な花。それは、きっと私達そのもの……。


「ロザリーも、込めるの。ここに姫様への想いを」

「でも、どうやって……?」

「想えばいいんだよ。素直に。嘘や強がりをなくして、本当の言葉で」


 そうは言うが、どうしても照れが残る。ロザリーは白百合を見つめ苦悩した。


((この、好きって気持ち、もっと簡単に、言えたらいいのに……))


「そんなの簡単だよ。……ロザリー、好き、大好き……。ね?」

「え……?」

「わたしは言ったよ。ほら、ロザリーも伝えて」


 心を読んだように、さらっと言ってのけるパメラ。そうだ、自然に生まれる感情に、嘘なんてついてはいけない。だから、今だけは……。


((……好きです、お慕いしています、姫様……))






 夕刻、姫は旅立った。

 泥だらけで姿を現わしたロザリー達に姫は驚くばかりであったが、渡された白百合を見て全てを納得した。


「ありがとう……っ」


 姫は召し物が汚れる事も(いと)わずに二人を抱き寄せる。

 そして、白百合と、ロザリーの見た景色を贈り物として、こちらを振り返らずにその道を歩んでいった。これから訪れる苦難の先、再び会える日を夢見て。


「姫……。ううん、クリスティア……またね」


 希望を失わない限り、命は続く。命が失われない限り、花は花でいられる。

 そんな誓いを込めて……白百合を、君に――。


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