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第一話 野に放たれた破戒僧

第一話 野に放たれた破戒僧

――アーラムの街ガルミ寺院


「ウォールナット大僧正、ウォルフラムの奴はその・・・どうなんですか?」

「どうとは何がじゃ」


「度重なる蛮行もう勘弁ならんぞウォルフラム!」


青筋を立てて言い放つのは他より立派な法衣を纏った僧侶――

ここガルミ寺院の大僧正ウォールナットだ。齢七十にもなろうか、頭は綺麗に剃られ白いひげを蓄え年の割に身体はがっしりと鍛えられており目つきは鋭く意志の強さが窺える。


怒りの対象はこの俺――

とある理由で幼少の頃から寺院の世話になっているやはり禿げ頭で見事な逆三角形のボディで酒と賭け事と女が大好物の三十男のウォルフラム。

大層お怒りなのはわかるが何に怒っているかは心当たりが多すぎて見当がつかない。

「すまねえ大僧正、どれの事だか見当がつかねえ」


俺の言葉に怒りのボルテージが上がり血圧と血管がやばそうな感じのウォールナット。

心配だが怒りの原因が気遣っても火に油を注ぐだけだろうと黙っておく。

「人助けを引き受けるのはいいが理由も聞かずに誰かれ殴るんじゃない!喧嘩の仲裁にどちらとも気絶させて両成敗は無いじゃろ!昼間から堂々と酒を飲んでたという報告も上がっとる!お前一人で苦情が殺到しとるわ!」


言葉遣いに関しては諦められているのか特に何も言われないようだ。

それにしても我ながら酷い事になっている。失敗した経験を踏まえて試行錯誤した結果がこれではウォールナットでなくともお怒りになろうというものだ。

「ついかっとなって手が上がっちまってよ・・・酒は勘弁してくれねえか・・・賭け事と女遊びはやってないし・・・」


「言い訳するでない!寺院や街の者への誠意はお前なりに感じられるし儂の教えも普段はしっかり聞いておるのに酒に溺れて感情に流されてすぐ熱くなるのがいかん!・・・寺院では真面目に修行しとる正直者のお前に言いたくはないがこのままでは破門じゃぞ」


怒りながらも評価をして心配までしてくれる懐の深さに感じ入りつつ酌量の余地がないか控えめに聞く。

「申し訳ねえけどどうにかならねえかな?こんなんでも大僧正を尊敬してるし教えを守りたいとは思ってるんだ」


腕を組み難しい顔をしつつウォールナットは言った。

「寺の者と世間の目があるのでな・・・街の出入りをする者から近頃魔物が増えていると話が出ておる。腕試しも兼ねてしばらく魔物退治に行って来い。お前にはきっと荒事が合っとるし口より先に手が出る性格も少しは落ち着くかもしれん」


俺を見捨てずに見守っていてくれる懐の深さがあるが何度もやらかしてしまうのを捨て置いては周りに示しがつかないという事だろう。

「わかった・・・いえ、わかりました大僧正。魔物を倒し苦しめられている者達を自分なりに救ってきます」

姿勢を正し宣言する。俺の感性は周りとずれているところがあるとなんとなく気づいてはいるがそんな俺だから出来る事がきっとあるはずだ。


ウォールナットは頷いた。

「うむ、お前は個性が強いからきっと評判になるだろうが良い評判で周りの目が変わるように励むんじゃぞ。危ないから寺院から出すなという声もあるが物騒になってきた今の世の中ではきっとお前の存在は求められると信じておる」



                ***



――――大僧正とのやりとりを経て現在はアーラムの街を出て街道を歩いている。


荷物は幾らかの路銀と小刀と何種類かの薬草を練り合わせた傷薬を風呂敷に背負った。

この傷薬はガルミ寺院秘伝の物で材料さえあれば俺にも作れる。

俺も含め寺院の者は街の者に人助けやちょっとした護身術を教える以外にもこの傷薬を与えて代わりに食糧や幾らかの心付けを貰う等して関わっていた。


考えてみればちょっとした用事で寺や街から離れることはあっても長期間離れるのは初めてだ。それも武者修行のような魔物退治の旅とは心躍る物がある。

自分でも衝動的に行動してしまうのを抑えているのは――抑えられていないが――

息苦しいと思っていた。


寺で学んだ弱き者を助け身を守るための武術は天賦の才があると褒められたものだが活かせる機会がないのもいささか退屈だと感じていたところだ。

当初は厄介払いされて少々気持ちが沈んだが久々に味わった新鮮な解放感に今は気分がさっぱりとしている。


しかし魔物が増えてきたのは気になるところだ。

酒場に入り浸っているので自然と情報通になるが魔王がすげ替わって善なるものを本格的に攻めようとしているという噂は本当だろうか。


魔の神と敵対する聖なる神フィリアとそれを信仰する人間やドワーフやエルフといった善なるもの達。

魔の神グラッジを崇拝し聖なる神に与する者達を物理的に精神的に破滅させようとする魔王という存在と魔王に従う異形の者達。

両者はこの世界が出来てから神と信奉者を交えてずっと戦い続けているという。


考えながら街道を歩いていると何となく視線を感じるような・・・背の高い草むらに何かが潜んでいるようだ。


「・・・・・・・」


耳を澄まし草むらを注視する。

敵意のような害をなそうとする意思は感じないが・・・


そっと石を拾い視線を感じる方に軽く放ってみる――*ガサガサ*

すると草むらから飛び出したのは半透明の暗い青色の不定形の物体――

スライムだ。ぶよんぶよんとアグレッシブに跳ね回っている。

実はこれだけ生きてきて魔物と遭遇するのは初めてだ。


「魔物との初遭遇か」

自分の行動範囲の制限に軽くショックを受けつつスライムを観察する。

観察しているとスライムの内部には獣の・・・いや、子供の人骨か?骨が綺麗な形で収まっている事に気づいた。

まるで女性の胎内で成長する胎児を思わせるが俺の同族を死に追いやるその性質に生理的な嫌悪感を覚える。


方針を決めるためにポーズをとって筋肉に力を入れつつ状況を口にしてみるか。

「なるほど、こいつは雑食で人間も食っちまうが今は肉を食い終って満腹で戦意は無いってわけか」

だが襲ってこないとはいえ人を食う怪物を放ってはおけまい。


しかし安易に拳で殴りつけても逆に手が溶かされそうだしな・・・ここは飛び道具でいくか。

少し大きめの石を拾い集中する・・・寺院に伝わる武術――

断魔拳(だんまけん)が一つ、石礫(いしつぶて)


この世界では信仰とそれによって己の身から発生する力への理解によってさまざまな奇跡を我が物にできる。

断魔拳はガルミ寺院の創始者ダンマが魔物に対抗するために生み出した技術の体系だ。

心身を石や金属や黄金のように硬く力強く輝かせ研ぎ澄ますことを目標としている。

ガルミ寺院への信仰と僧侶としての独自の修行により鋼気(こうき)という力を全身から立ち上らせ身に纏ったり道具に纏わせて驚異的な破壊力を生み出す攻防一体の力。

石礫はその応用だ。


「覇ッ!!」

*ヒュンッ*鋼気を纏わせた石を狙い澄ましスライムに投げつける。

体内に石が抵抗なくめりこみ一瞬身震いしたのち*ぱぁんっ*と弾けた。

辺りにスライムの破片が飛び散る。

この飛び散りようを見るにやっぱり飛び道具で狙ってよかった。

危うくスライムまみれになるところだ。


後にはスライムまみれの骨――

やはり人間の子供のようだな・・・

さて、スライムから出したはいいが粘液にまみれたこの子をどうしようかと顔を顰めつつ思案するのだった。

初投稿です。

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