深紅蒼炎の覇王外伝 ~青春と結晶~
初めての短編小説投稿となります!
いろいろおかしいかもしれませんが、これから改稿していくので温かい目でお願いいたします。
ラブコメをかくのも初めてなので、初々しい作品をどうぞ!!
合わせて本編である「深紅蒼炎の覇王碧眼」を読んでみて下さい!!
人は生まれてからずっと平等なのだろうか。
僕――夷塚島月矢は何度もそう考えてきた。
いつの時代にも上に存在するものが偉くて、下にいる者は醜い。
この世界でもそうだった。
周りには僕とは違って眼の色が違う、《碧眼者》と呼ばれている人たちがいて。
その人たちは僕を毎日虐めてきて。
いつしか、僕はこの世界に絶望を感じていた。
「おらぁ、死ねよ! この役立たずの《黒眼者》が!!」
かけられる言葉はいつもこれ。
学校に行くたびに、顔を合わせるたびにかけられる言葉。
親や先生は味方してくれた。けど、そんなんじゃ足りなかった。誰かを守るという事は。
そんな時だったんだ。僕の前にあの子が現れたのは。
「……大丈夫? なんでそんなに怪我をしているの?」
傷ついた僕を癒してくれたその子の事を。
僕は一瞬で、好きになった。
うなだれる暑さが残っている九月。
その暑さに耐え切れず僕は目を覚ました。
「……今日から二学期か。憂鬱だな」
動きたくないと体は叫んでいたけどそうもいかない。
僕は自分の体に鞭を打つように頬を叩くと寝台から体を起こした。
一階に降りて、顔を洗うために洗面台に行く。
そこに映っていたのは生きる気力をなくしたような顔と、憎たらしい黒眼だった。
「この眼のせいで僕は……!!」
実をいうと僕はいじめを受けていた。理由は簡単、この黒眼のせいである。
力を持った人間こそ、それを理由に人々の上に立とうとする気持ちが強くなる。
そして、僕みたいなものはその力を行使する対象にされる。
「だけど、学校を休むわけにはいかないんだ……!!」
心の中にある弱い気持ちを押し殺すように気合を込めると僕は朝食の準備に取り掛かった。
親は数年前、街を襲った害悪に殺された。だから家にいるのは僕一人だった。
慣れた手つきで朝食とお弁当を作り上げると僕は食べ始めた。
「……今日もおいしいな」
何故か料理の腕前だけは良かったので、大体のものは美味しく作ることができた。
朝のほんのひと時の時間を終えた僕は制服に着替え学校に向かった。
僕の家と学校まではそう遠くはない。
しかしいじめを受けていたから、人と会うのが怖かった。
だからこの、ほとんど人がいない時間帯を選んで僕は登校していた。……はずなのに、
「ちょっと、月矢君待ってよ!!」
後ろからよく知った声がかかる。
「なんだよ彩華。僕に構わないでっていつも言ってるだろ」
「そんなこと言わないでよ。私たち幼馴染みでしょ?」
「そうはいってもだな……」
セミロングの茶髪と黄色の眼の色が特徴的な椎平彩華は僕の幼馴染みで、好きな人だった。
彩華はその事を知っているのか知らないけど、とにかく距離が近い。
今だって、彩華の大きな胸が少し当たっているのだ。無防備な事この上ない。
「ほら、早く学校に行こ? 二学期から遅刻なんてしたくないし」
「この時間帯から行って遅刻する方がおかしいだろうが……」
彩華はにっこりと笑うと僕の手を取って学校までの道のりを走り出した。
学校に着くころにはかかなくていい汗を二人共流していた。
「おい、誰もいないんだからこんなに焦る必要はなかったろ」
「そうもいかないよ? だって今日は普段より三十分早く始まるんだから」
「そういう事は最初に言えよ!!」
普段より三十分早くなるという事は今の時間帯だと生徒でこの昇降口が賑わうのだ。
それは流石にまずい。
「いつもクラスの皆と会わないようにしてる事、知ってるからね?」
「うぐっ……」
教室に行く途中彩華は僕の顔を覗き込んできた。
「だから、顔が近いって言ってるだろ」
「いいじゃない、そんなこと。幼馴染みなんだから」
その言葉は僕には通用しても、周りの皆には通用することは今後ないだろう。
なにあのリア充、マジで爆ぜろとしか思われない事に間違いない。
「でも、なんで避けるの? もしかして小さいころのいじめが……?」
「……違うよ。ただ、人と接するのがうまくないだけなんだ」
僕の言う事も正しいが、彩華が言う事の方がもっと強いだろう。
小学校に受けていたいじめ。今、虐めていた奴らは高い魔力のおかげで軍人学校にいっていたはずだ。
従って今僕を虐めているものはいないけど、その恐怖はしっかり僕の心に植え付けられていた。
「そうなの? でも、人と接しないと学校生活が楽しくなくなるよ」
「別に一人でもいいさ。勉強ができればいいだけだし」
そう言いつつ僕たちは教室に着いたので扉を開けた。
「おっはよーってあれ? 人がいるよ」
「えっ!?」
彩華の後に入った僕は驚きの声を上げた。
クラスに一人二人がいることは珍しいことではない。朝早く起きたり、朝練がなくなった人がたまにいるからだ。
しかし、今日はクラスの全員がいた。
「おはようございます、二人共。席についてくれますか?」
教壇の上に立っていた女生徒が優しく言いかけてきた。
僕は言われるがままに席に座った。座るまでの皆の視線がとても辛かったのだが。
「皆さん揃いましたね。それでは、文化祭について少しお話があるんです」
そういえばそんな時期だった。
僕たちの学校、月野宮学園はそんなに大きな学校ではなかったが、とある事で少し名が知れていた学校だった。
クラスがそれぞれ教室でカフェやお化け屋敷などを催すのがこの学校の文化祭。
確か僕たちがやるものは……。
「私たちがやるメイド喫茶なのですが、一つ重要な問題が発覚しました」
僕の記憶が正しければ文化祭は明後日からのはず。
そんな時に重要な問題が発生したとなればクラス中の動揺も仕方がないだろう。
「こちらにいる東矢さんのおかげで衣装は創り終わりました。そして、私、天橋彩芽や他 のみなさんの助力を得ながら、設営の準備の方も完了いたしました」
何故か、とてつもなく嫌な予感がする。
「ですが、肝心のメニューの方がまだ完成してないのです!!」
再び走るクラスのざわめき。
「大まかに何を作るのかは決めているのは存じておられるはずでしょう」
存じ上げていませんが。
「しかしなかなか他のクラスに負けないようなメニューが思いつかないのです!」
「そこで、だ。誰か、この中で創作料理とかできる奴いないか? 基本的なことは手伝うから」
東矢と呼ばれた男子生徒が皆に聞くものの、誰も手を挙げなかった。
料理はしたことはあるけど、創作なんて普通ならやろうとは思わないだろう。
……したことはないとは言わないけど。
「誰か……頼む!!」
東矢がそう叫んだ時、不意に彩華が立ち上がり僕の方を指さした。
「私は、月矢君を推薦します。彼は料理がとても上手なんです」
「でも、そいつは《黒眼者》だぜ? 他のクラスに笑われちまう……」
彩華の言葉に対しクラスの誰かがそうこぼした。
その言葉は、彩華を怒らせた。
「何なの!? 《黒眼者》だからって、文化祭に参加することが駄目なの!? 一学期だって皆月矢君を」
「いいんだ、彩華」
僕の為に怒ってくれたのに、何故か僕はそれを制していた。
「僕みたいなやつが、皆に混ざって楽しもうとか、ダメだったんだよ」
「でも……!!」
何かを言いだそうとする前に僕は鞄を片手に、教室を出た。
「夷塚島? どうしたんだ」
昇降口に向かう途中、担任の先生に会った。
「もうすぐホームルームが始まるぞ。早く教室に」
「すみません、今日は体調がよくなかったみたいで」
そう言い残すと僕は先生を後にした。
家までの道を歩いている時、不思議にも僕の目から涙がこぼれていた。
悲しくはなかった、ただ、自分の不甲斐なさと消せない弱気に、
「くそがぁあ!!」
近くにあった電信柱に拳を叩きつけた。
血がにじみ出て流れだしたけど、そんなものは気にならない。
「くそがくそがくそがくそがくそがぁああ!!」
「もうその辺にしときなよ」
血だらけの拳を通りすがりの人だろうか、優しく受け止めていた。
「邪魔しないでくれ! 僕は、僕は……!!」
「何があったのかは知らない。けど、同じ《黒眼者》としてこれ以上は見過ごせない」
「……え?」
恐る恐るその人の顔を見て見るとその人の眼の色は確かに黒だった。
「少し、僕とお話しないか」
その人はにっこりとほほ笑んできた。
「月矢君……だっけ? それで、なんであんなことを?」
公園のベンチにやってきた僕はまず名前を聞かれた。
最初は言わなかったけど、僕と同じ高校だと言われたので答えることにした。
「それは、昔嫌なことがあったんです。それがフラッシュバックしてしまって……」
「そうだったのか。……あっ、僕は優翔っていうんだ」
優翔さんは自己紹介したあと、言葉を続けた。
「僕も似たようなことがあったよ。《黒眼者》として生きていくのが正直辛かった。けね、諦めなかった」
「どうしてですか」
「人が生まれるという事はなんかしら意味があると僕は思うんだ。今の世界は逆かもしれないけど」
「僕が《黒眼者》として生まれてきた意味……」
優翔さんは僕の頭を優しくなでた。
「その答えが、君が今やるべきこと。そうやって僕は道を切り開いていったんだ」
「……なんかこんなことしている場合じゃないような気がしてきました」
僕はいてもたってもいられずに立ち上がった。
「今一番しなくちゃいけない事を成し遂げに、行ってきます!」
「あぁ、気をつけてね」
優翔さんと別れを告げ、僕は学校に向かって全力で走った。
「頑張って。僕はいつでも見守ってるから……」
そんな声がして一度振り返った時には優翔さんの姿はそこにはなかった。
学校について、教室の前まで来た時、僕は少し緊張してしまった。
みんなが逃げた自分を許してくれるだろうか、と考えると不安という重圧が体を押しつぶしそうだった。
「それでも、僕は……!!」
心の中で決心し、僕は勢いよく扉を開けた。
「みんな、黙って抜け出してごめん……って何この焦げ臭いにおい!?」
僕を迎えたのは罵声でもなく暴力でもなく、何かが焦げたようなにおいだった。
「月矢君? お願いが……これを何とかしてぇ!!」
彩華が焦げたパンケーキを見せてくる。
「わかったから、とりあえず喚起してくれ!!」
料理のおかげで少し汚くなった教室を僕たちは綺麗にしてから本題へと入った。
「その、あの時は飛び出してごめん」
「いや、こっちが気を使わなかったのが悪かったんだ」
「月矢君がいなくなったから、みんなでやろうって話になったんだけど……」
「なんでパンケーキ作った人全員で焦がせるんだよ、奇跡か!」
メニューはサンドイッチとオムライス、そしてパンケーキだった。
オムライスやサンドイッチはクラス内の料理経験者が作っていたので味もよくしっかりしていたのだが。
「わかったよ、今からいくつか作ってみるから、感想を聞かせてくれ」
全員が固唾をのんで見守る中、僕のパンケーキ作りが始まった。
とはいえ、残った材料も少なく、トッピングの材料もお世辞にでも豪華とはいえなかった。
「これと、これをああして……。こんな感じでいいかな」
僕は慣れた手つきで三つのパンケーキを作り上げた。
「凄い、美味しそうなんだけど……!」
「まぁ、食べてみてよ。気に入らなかったなら作り直してみるから」
「それでは、いただきますわ」
彩芽を筆頭に数人がパンケーキを口に運ぶ。
「……味、どうかな」
「いいよ……全然いいよ、月矢君!!」
「えぇ、これは即採用ですわ!」
彩芽や彩華だけではなく食べたみんなが僕をほめてくれた。
僕はこの時、優翔さんがあの時何を言いたいのかがようやく理解できた。
「優翔さん、僕、やりましたよ……!!」
「よぉし、文化祭に向けて、準備するぞ!!」
「「「おぉーーーーーーーーー!!!」」
それから教室の設営、衣服の最終確認、材料の確保と色々忙しかったため、気付けば文化祭当日となっていた。
僕は朝起きるとそれまで見なかった親の写真を眺めた。
「お父さん、お母さん……行ってくるよ!!」
写真にそう告げると僕は今まで封印していた笑顔を見せて学校へと向かった。
学校に着くとどのクラスも自分たちのクラスの設営や最終確認をしていた。
僕はそれを横目で見届けながら自分のクラスに入った。
「あっ、月矢君! おはよう」
クラスに入って迎えてくれたのはメイド姿の彩華だった。
「おはよう、彩華。そのメイド服凄く似合っているよ」
「ほんと!? 少し心配だったから、うれしい!!」
その場でくるりと開店する彩華はとてもかわいかった。
「月矢君も準備大丈夫?」
「あぁ、あとは軽く下ごしらえを済ませるだけだよ」
和やかに会話していたら、突然廊下の方が騒がしくなった。
「なんだろう? 誰か有名人でもきたのかな」
「さぁな。でもなんでこんな時間帯に……」
次の声を聞いた時僕は誰が来たのか理解した。
「ごめんね、会いたい奴がいるんだ……っといたいた。おーい、月矢君」
「優翔さん!? なんでここに?」
数日前に会った時は私服だったのに、今の優翔さんは戦闘服みたいな、……巫女服を着ていた。
「おいおい、服装で幻滅するなよ」
ばれていたらしい。なら、そんな恰好をやめてほしいぐらいだ。
「今から任務でここを離れるからその前に、と思って。どうやらみつけたみたいだね」
「はいっ! これが、今僕が一番やるべきことだと思ったんです」
「そうか。この先まだまだ悩むべき選択肢があると思うけど、君なら大丈夫そうだね」
優翔さんは優しく笑うと彩華の方を向いた。
「月矢君の事、これからも見守っていてあげてね」
「……ふぇ!? それって、どういう意味で……」
「あはは。青春っていいね。……汝らに月神の加護あらんことを」
優翔さんはそう呟くと姿を消してしまった。まるで通り過ぎる風のように。
「そ、それにしても驚いたよ! 《深紅蒼炎の覇王碧眼》の優翔さんと知り合いなんて」
「えぇ!? そうだったのか!?」
まさかあの人が……、と思うとサインぐらい貰っておけばよかったと思ってしまった。
少し雑念が入ったため、僕は自分の頬を叩き喝をいれた。
「それではみなさん、開店準備に取り掛かりましょう」
「「おぉーーーーー!!」」
彩芽の掛け声にあわせて他のみんなが持ち場の確認や清掃を始める。
「そういえば夷塚島さん」
僕も準備をしようとした時不意に彩芽に声をかけられた。
「はい? なんですか」
「実はまだこのカフェの名前を決めてないのだけれども、決めてくれませんか」
「えっ!? 僕なんかが決めていいんですか!?」
「そうだな。実質お前が店長みたいなものだからな!!」
クラス中の視線が僕に集まった。どうしよう。
「ほら、こういうのは早く決めたほうがいいものなんだよ?」
「そうなのかな。……じゃあ」
僕の提案にみんなが賛成してくれた。
そんなこともあり、いよいよ文化祭開始の時間となった。
「いらっしゃいませ! サンムーンシンフォニーにようこそ!!」
彩華の可愛らしい声とともに僕たちの文化祭が始まった。
「サンドイッチ一つとオムライス二つですね。少しお待ちを」
「お待たせしました、こちらいちごとラズベリーのパンケーキとなります」
「次のお客様は、あちらにどうぞ!!」
開店当初はぼちぼちといった感じだった客足は、今は行列を作るほどとなっていた。
外の噂を聞いてきた男子によると、なんでも《黒眼者》がつくるパンケーキが絶品というものでもちきりらしい。
実際、オムライスやサンドイッチよりパンケーキのほうが注文数が圧倒的に多かった。
「そろそろ材料が切れる!」
「今買い出し班が急いでるから、もう少し持ちこたえてくれ!!」
開店二時間にして常時満席、材料枯渇といった感じだった。
よく見ると列の中には同じ高校の生徒が何人か見受けられた。
「今到着したぞ!! はやくこっちに!!」
「こんなに忙しくなるとはな……。他にすることはないか!?」
他のクラスより何十倍も大変のはずなのにみんな楽しそうな顔をしていた。
もし、僕があの時の選択を間違っていたらこんなにうれしい気持ちは感じることがなかっただろう。
何度も心の中で優翔さんに感謝した。
「次で最後のお客様よ!!」
彩華がそう告げるとみんなのやる気がさらに上がった。
しかし、噂を聞きつけたらしい人々がその後に押しかけてきた。
結局、僕たちは時間ぎりぎりまでカフェを頑張り続けることになった。
「……はぁ、はぁ。もう、限界……!!」
彩華だけではなくみんなや僕でさえ床に倒れこんだ。
あの後、時間制限があったため、沢山のお客さんに帰ってもらったのだ。
「けどよ、疲れているのになんかとっても楽しかったぜ」
「そうね、私も楽しかった!!」
次々と上がる『楽しかった』という声。
その声を聞いていると僕はとてもうれしい気分になった。
「優翔さん、僕、ちゃんと成し遂げましたよ……!!」
多分聞こえていないであろうその声を僕は空に向かって叫んだ。
片付けが終わったぐらいに校内放送でグラウンドで後夜祭が開かれると流れた。
全クラス疲れているであろうに、後夜祭を休んだものは一人としていなかった。
グラウンドの中心に丸太を組み合わせ、火の魔法を使える何人かの《碧眼者》が火をつけ。
「「「「「うぉおおおおおおおおお!!!」」」」
後夜祭開始の幕開けとなった。
最初はただ燃え上がる火を眺めているだけだった。
しかし音楽が流れ始めるとカップルやノリのいい生徒が踊り始めた。
それをみて殺意をかもしだすもの、はやしたてるもの。
とにかくお祭り騒ぎだった。
「《黒眼者》として生まれてきた意味、か……」
僕は受け取った紙コップの中に入っているジュースを軽く飲む。
僕は生まれて、いじめられて、中学校を少し引きこもっていた時料理をし始めるようになっていた。
理由は至極簡単で、親がいなかったから、である。
「あの時のことがこうして活用されるなんてな……」
この学校に入学した時は不安だった。またいじめがあるのではないかと。
だから一学期はクラスメートと疎遠になっていた。
けど、沢山話しているうちに僕は気が付いた。
「夷塚島さん」
声をかけられたので振り向いてみる。
そこにいたのは彩芽だけではなく、クラスのみんながいた。
今なら優翔さんがこう言ってくれるだろう。
『大丈夫、君はもう一人じゃないから。君のクラスメートは君を傷つけることは絶対しないよ』と。
「なんですか?」
「もしよろしければ、踊っていただきたい方がいるのですが」
「……えっ?」
僕が驚いている中彩芽はそっとその場から一歩右にずれた。
その後ろにいたのは。
「あ、あの、月矢君!」
どこから持ってきたかは分からなかったけど、綺麗なドレスを着た彩華が、
「よかったら、一緒に踊ってくれませんか……!」
右手を差し伸べながらうつむいていた。
「あの、月矢君。感動して言葉がでないのはいいけど、返事」
「……はっ!!」
東矢の声で我に返った。
……危ない、危ない。あともう少しで気持ちが天に召されるところだった。
「あぁ、僕なんかでよければ……」
差し伸べられた右手を優しく握り、僕は彩華と共に踊りの輪の中に入った。
「でも、僕フォークダンスなんてやった事無いんだけど……」
「そうなの? だったら私がリードしてあげる」
彩華が華麗に踊るので見様見真似で僕もやってみることに。
「……あ、あれっ?」
「ふふふっ、なにその動き。ここはこうするんだよ」
「う、うん」
物凄いからだが密着していたが今の僕はそんなことはドキドキでツッコむことができなかった。
「こ、これでいいのかな」
「うん! さっきよりかはだいぶましだね」
彩華に褒められることがとてもうれしい。
彩華と一緒の時間を過ごせているのがとてもうれしい。
なにより、彩華の事を考えると心臓の鼓動がとまらなくなる。
こんな気持ち、確かどこかで……。
「そうか、あの時だ……!」
「……?」
初めて彩華と出会った時。
それまで親以外僕の事を普通の、みんなと同じ存在としていてくれたことに。
僕は一瞬で彩華の事が好きになった。
けど臆病な僕はその気持ちを伝えられなくて。
小学校は一緒だったけど、中学校で違うという事が分かって絶望して。
そして今年の春に高校が一緒でクラスメートという事がわかったとき。
僕は忘れていたんだ。いつも守ってくれていた、そんな人に感じていた感情を。
……『大好き』っていう気持ちを。
「彩華!!」
僕はいてもたってもいられず愛しいひとの名前を叫んだ。
「ひゃい! なんでしょう」
突然呼ばれたことに驚いたのか変な感じで彩華が振り返った。
しかも僕の声が聞こえたのかクラスのみんながこっちをむいていた。
物凄く恥ずかしいけど、そんなもの構うものか。
「君の事が、好きだ。初めてあったあの時から、ずっと……! だから!!」
僕は大きくなる心臓の鼓動を抑えながら。
「僕と付き合ってください!!」
一番伝えたいことを伝えた。
フラれてもかまわない、でも伝えなくちゃいけないこと。
彩華は少しの沈黙をながしたあと、僕の手をとった。
「そんなの、いいに決まってるでしょ!」
その瞬間、四方八方から祝福の声が上がった。
よくみると場所が誰もがその現場を見れるような位置で僕が告白したという事がわかった。
「やっと、告白してくれたね。ずっと待ってたんだから……」
彩華はそんなことを知っているのか知らないのか涙を流しながら僕に抱き着いてきた。
僕はその体を抱きしめながら、
「そうだったんだ……。待たせてごめんね」
「うん……。いいよ」
その風景をけなすものはいなく、ただ歓喜と祝福の歌が流れていた。
「……月矢君、なかなかやるね!」
その風景を優翔は学校の屋上から眺めていた。
「任務が思ったより早く終わったからもう一度会いにきたらなんか凄いことに」
自分の教えを守った可愛い生徒と楽しく会談でもしようかと考えた優翔であったが、今はいったらただのお邪魔虫だろう。
優翔は愉快そうに笑いながらその場を去ろうとした。
「来ているのなら教えてください、月神優翔」
そんな優翔を引き留める声があった。
「校長先生ですか、お久しぶりです」
「全くですよ。朝学校にきたと聞いた時は驚きましたからね」
「あはは、それについては申し訳ありませんでした」
優翔は笑いながら肩をすくめた。
「それより全校生徒の前にでなくていいのですか? みんな会いたがっているでしょうに」
「最初はそうしようかと思ったんですけどね。今日はもう主役がいるじゃないですか」
優翔がグラウンドを指さすと校長先生は愉快そうに、
「そうですね。長年やってはいますがこのようなことは初めてです」
「でしょう? だったらなおさら僕は静かに帰りますよ。……でも、そうですね。このぐらいなら」
優翔は優しく両手を包み込むと一つの雪の塊を作り上げた。
「これ以上私を楽しませてどうするんです」
「これは餞別といってもいいかもしれません。今後の彼らの為に」
その雪の塊を優翔は空に投げて、
「純祝結晶」
はじけさせた。
無数のキラキラした結晶が地面に降り注ぐ。
「はぁ……。貴方という人は」
校長先生が呆れている頃には優翔の姿はもう、存在していなかった。
そこに残っていたのは『彼らと貴殿に月神の加護あらんことを』と書かれた紙だけが空を舞っていた。
「……なんだ、この雪みたいなやつ」
「もしかしてダイヤモンドダスト? そうじゃなくても凄くキレイ……」
僕たちを祝うかのように降り注ぐ季節外れの結晶にグラウンドにいた人全員が踊り出した。
彩華もそれにつられて踊っているなか僕は再び優翔さんに感謝した。
この結晶は間違いない、きっと優翔さんの祝福のものだろうと。
「ほら、月矢君も一緒に!!」
「あぁ、踊ろう!」
心の中で優翔さんに「ありがとう」と言ってから、僕は彩華と踊り始めた。
僕たちを止める者はいない。先生たちも一緒になって。
ここにあるのは祝福だけなのだから。
それから数年後、僕と彩華は結婚した。
結婚式にはクラスメートや親戚だけではなく、学校の知らない人たちや先生までもが来てくれた。
よって結婚式は盛大なものになった。
けど、優翔さんの姿はそこにはなかった。
そして僕と彩華が二十三歳になる二千三十年、一人目の子どもが生まれる予定だった。
男の子ということだったけど、僕たちは名前を決めるのに時間は使わなかった。
初めて男の子と聞いた時から、二人で決めていたのだ。
「それじゃ、行ってくるね」
窓越しにそう目線で語ってきた彩華に、僕は笑顔を返した。
もしかしたら今日生まれるかもしれない。お医者さんは今月中だろうと言っていたから。
あれから《深紅蒼炎の覇王碧眼》についても調べた。
あの人が何をしていたのか。だから僕は守りたい、この家族を、あの人のように。
「おぎゃあああああ、おぎゃああああ」
聞こえてきた産声に僕は言葉をこぼしてしまった。
「生まれて来てくれてありがとう、『優翔』……!」
すぐに検査等を受けていたので僕のその言葉は、どこかで開いていた窓から吹き込んだ風に乗って遠くへ飛んで行った。
何処かで生きているであろう、月神優翔さんに届くように。
同じころ、卯月街という街にむけて、ゆっくりと、でも何かの意志があるのか的確に落ちていく人影があった。
そのとき、人々はそれを観測することはなかったという。
淡い青春をただ眺めるかのように、二つの出来事は静かに始まりと終わりを迎えていた。
また「深紅蒼炎の覇王碧眼」の短編を書きたいと思います!