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独楽  作者: 蛙
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詩篇 Ⅰ

 太陽と月が照らす前、世は黒と白、そして青と緑だった。赤と黄は神々に好まれていなかったのでまだなかった。始まりとともに開いた穴に塵が吸い込まれ、しだいに澱が溜まった。澱はやがて泥に変わり、神々は地をこね上げた。天の神アハルガナーの長女イシュタフは泥を重ねて山を、長子アヴィリシュは濾して泉を拵えた。山と泉から輝く石と曇った石が新たに生まれ、神々は話し合いと考えを重ねた。

「この輝く石と曇った石をどうしよう」

「これは余り物です。そのままにしましょう」

 イシュタフとアヴィリシュは石がなければ泥はもっと軽いだろうにと思っていたので穴に置いたままにしようと言った。

「これは貴い物。きっと山と泉よりも役立つでしょう」

 イスタニールとアクチケールは石を使って姉と兄よりも立派なものを作ってみせようとして言った。神々は話し合いと考えを重ねたが天の神アハルガナーも答えを出せずにいた。輝く石は黒よりも白よりも青よりも緑よりも美しく、曇った石は泥よりも固くどのような姿形にも変わったからである。そこで神々は賢い者であり予言者のエウアヴァールに輝く石と曇った石をどのように取り扱ったらよいかを聞きに行った。

「エウアヴァールよ、賢い者よ、指し示すものよ、この石はイシュタフとアヴィリシュが拵えた山と泉から生まれる余計物である。この石は黒よりも白よりも青よりも緑よりも美しく、泥よりも固くどのような姿形にも変わるものである。どのように用いるべきか教えてほしい」

「輝く石を巡って争いが起き、曇った石を通して争いが起こる。石の捨て場はなく用いれば不幸を招くであろう」

 エウアヴァールの予言を知ってしまった神々は、これまでの諍いが仲直りできない争いに陥るのを嘆いて涙を流して苦しんだ。

「おお、エウアヴァールよ、我らは何というものを生み出してしまっただろう。捨てることも用いることもできず災いの種にしかならない余計物など生み出してどうするだろう。エウアヴァールよ、賢き者、指し示すものよ、どうか知恵を授けてほしい。輝く石と曇った石に災いされないには、我らと天の神アハルガナーをやすむにはどうすればよいだろう」

 エウアヴァールは神々の座に交わって考えに考えを重ねた。そしてようやく考えはまとまり、神々に代わって輝く石と曇った石を取り扱うロルメット、すなわち人間を作り出すことに決めたのである。


 最初のロルメットは輝く石で作られたまことに貴いものたちであった。頭は黄金であり、胴体は翡翠であり、腕は翠玉エメラルドであり、足は青玉サファイアであった。しかしロルメットは貴い色に輝く自らに満足して他の何物も求めなかったので天の神アハルガナーによって滅ぼされた。

 二つ目のロルメットは曇った石で作られた卑しいものたちであった。頭は銅であり、胴体は鉛であり、腕は黒曜石であり、足は玄武岩であった。しかしロルメットは自らの卑しさを不満に思い、神々に似せた姿形に化けてしまったので、天の神アハルガナーによって滅ぼされた。

 三つ目のロルメットは輝く石と曇った石でつくられた両備なるものたちであった。しかしロルメットは曇った石を棍棒に変え、争って輝く石を奪い合ったので天の神アハルガナーによって滅ぼされた。

 四つ目から六つ目のロルメットは山と輝く石、山と曇った石、山と輝く石と曇った石とで作られた。しかしロルメットは喋ることも、父と母を称えることも、神々を崇めることもしなかったのでイシュタフによって滅ぼされた。

 七つ目から九つ目までのロルメットは泉と輝く石、泉と曇った石、泉と輝く石と曇った石とで作られた。しかしロルメットは柔らすぎてすぐに崩れてしまい、自らを持ち上げる力もなく、どちらが前でどちらが後ろかも分からなかったのでアヴィリシュによって滅ぼされた。

 天の神アハルガナーとイシュタフ、アヴィリシュが人間を作ることを諦めてしまうとイスタニールとアクチケールに代わった。

 イスタニールは泥ではなく自らの涎と輝く石でロルメットを作り出した。ロルメットが器用なのは口先ばかりで、正しいものを邪なものにすることをやめなかった。しかしイスタニールには彼らを滅ぼす力がなかったので野放しになってしまった。それが黄の星になったという。

 アクチケールは泥ではなく自らの血と曇った石でロルメットを作り出した。ロルメットは自らも神になろうとする粗野な心に従いアクチケールの血を求め合って争いを繰り返した。しかしアクチケールには彼らを滅ぼす力がなかったので野放しになってしまった。それが赤の星になったという。

 天の神アハルガナーに黄と赤があらわれると神々はまるで凍りついたようになってしまった。イスタニールとアクチケールはすぐに白状したがもう手だてもなかった。天の神アハルガナーはイスタニールとアクチケールに自らの涎と血を追いかけて拭うよう言い定めた。それがイスタニール太陽アクチケールになったのである。こうして、ロルメットが動き回れる昼と、動き回れない夜が生まれたのであった。

 輝く石と曇った石を取り扱わせる人間の創造にゆき詰まった神々に、賢い者エウアヴァールが代わった。エウアヴァールは最善の計画を立てていた。そして、山と泉と月、太陽の光で作られたロルメットはたいへんに聡明であった。見ようと思えば身動きもせず地平の彼方まで見渡すことができ、いながらにしてどんな遠くの物事でも聞くことができた。彼らはあっという間に見れるものを見尽くしてしまい、聞けるものも聞き尽くしてしまった。天の神アハルガナーの神秘、イシュタフとアヴィリシュの秘儀、エウアヴァールの叡智を備えてイスタニールとアクチケールに照らされるロルメットを見た神々は、しかし創造物が神と同様であることを喜ばなかった。天の神アハルガナーはロルメットの目と耳と口を靄で覆ってしまった。そこにイスタニールとアクチケールのロルメットが手を引いて連れていってしまった。今やそれは衰えきってしまっている。我々が猿と呼ぶ生き物はその子孫である。

 賢い者エウアヴァールは神々の座から去り、始まりとともに開いた穴に隠れた。輝く石と曇った石は山と泉と光とともにどんどんと増えてしまい、次第に澱の中にも混ざり始めた。人間はその中から独りでに生まれたので、父も母もなかった。そのロルメットはエウアヴァールを象って生まれた。親から生まれたのでもなく、神々に孕まされたのでもない。喜ばれもせず憎まれもせず祈られもせず呪われてもいない独りで空虚のロルメットを満たしてやろうとエウアヴァールは泥をこねて女を授けた。我らは神々の手によらない十三番目のロルメットの子孫だということである。これらは我々が夢を見ている間に起きた出来事である。


【石碑に刻まれたアフラグ・ラス創世神話】 

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