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廻る魂の世界航路  作者: ジョブレスマン
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潜入

 月明かりをたよりに川沿いを歩いていくと、遺跡が現れる。

 いくつも重なった、風化したレンガが、区画を仕切っている。所々に四角い建物が残っており、その影に隠れながら、少しずつ進んで行く。ドームにつづく緩い傾斜を登る。ドームには幅があり、さらに、思ったよりも高い。ミアが三階はあると言っていたが、たしかにそのぐらいの高さがある。側面から右周りに辿って行くと、いくつもの四角柱からなる立派な門が現れた。中央にある二つの柱が、大きなアーチ状の門を作り出している。


「明かりは、ありませんね。先ほどは二階部分の小窓が明るくなっていたのですが。あの柱のそばでサングラスの変な男とスーツの特徴なし男を見ました」


 エンリーが中央の柱を指差した。


「門の中に入り口があるのは確実ね」


 中央の柱までやってくると、ナツメは、刑事ドラマのように柱の影から顔を覗かせ中の様子を伺う。


「扉のところに松明があるわね」


 俺も柱から顔を出して中を伺う。10メートルほどさきに、二つの炎に照らされた大きな扉があった。


「私が様子を見てきましょうか」


 ごくりと、ナツメがつばを飲み込んだ。そうだ、扉のすぐ向こうに敵がいるかもしれないのだ。しかしここはやはり、エンリーに頼むほかない。


「頼む、エンリー。扉が開いても、落ち着いていけ。精神を安定させろ。敵がいても、透明化さえ解除しなければやり過ごせる可能性は高い」


 俺が言うと、エンリーは力強く頷いた。


「がんばて、エンリー」 


 ミアがエンリーの手を握った。

 もとより覚悟を決めていたのか、エンリーの顔に不安はなく、いってきます、と言い、すうっと消えていった。一方で、ナツメは不安げであった。エンリーが偵察、索敵し、俺とナツメが敵の不意をつく。ナツメの作戦ではあるが、やはりエンリーに託す部分が大きい。ナツメは、手に持っていた太い枝を握り直した。俺も、自分の手汗がひどいことに気がつき、両の手を擦り合わせた。

 柱の影から様子を伺っていると、ごとりと、扉の方から音がした。だが、扉は松明の火の下で微動だにしない。


「鍵がかかってますね」


 突如目の前に現れたエンリーに、俺は驚きの声を上げるとナツメに小突かれた。


「あ、すいません。でへへ」 


 何が面白いのか笑うエンリー。緊張感のかけらもない。

 エンリーによると、大扉の脇にもう一つ扉があったが、そちらも閉まっていたらしい。

 これでは埒が明かないと、周囲を探索することになった。

 遠くから見るとキレイなドームに見えたが、近くまで来て見ると、所々にでこぼこがある。石の風化がひどく、亀裂の走っているものもある。

 ドームの正面、遺跡を一望できる場所までやってくると、足を止める。

 風の音がやたらと大きく聞こえる。


「そういえば、あんた地下がとうだらと言ってたわね」


「え、ああ。地下に、たしか地下牢がどうとか」


「誰から聞いたのよ」


 お前の妹だよ、とは言えないのである。苦しいが、「空耳か、ドスがそんなことを言ってたような」と言って誤摩化す。ナツメは疑いの目を俺に向けるが、まあいいわ、と言って、なにやら考え始める。


「地下に部屋があるなら、外から地下に入れる道があるんじゃないか?」


「地下は地下でも地下牢でしょ?なら外へ続く道をつくるとは考えづらいわね」


「そうですね。普通の地下なら入り口を用意するでしょうけど、地下牢となるとやはり中からのみ入れるようになっているはずです」


 などと俺の意見を二人で否定しながら歩き始める。

 川とは反対の側面に出る。果てしなく砂漠が広がっている。

 空が白んできている。時間がない。


「あ」


 ナツメが素っ頓狂な声を上げた。

 なんだなんだとみんなでナツメの方へ寄って行く。

 ドームから少し離れた場所に、下へ向かう階段があった。


「これは地下へ繋がっているんじゃないでしょか」


 エンリーは、誰しもが思ったであろうことを口にした。


「あったじゃねえか、階段」


「地下ができて、そして牢ができた。そういうことよ」


 ナツメが言うと、「そういうことです」とエンリーも続いた。まあいいや。

 階段を下りていくと、古びた木製の扉があった。ナツメが開けようとするが、鍵がかかっているようで、開かない。


「ここは強行突破ね」


 地下の方が敵が少ないだろうし、あの大層な正面扉を無理矢理開ける自信はない。みなが頷くのを見て、ナツメは、「アイスブレイド」と小声で呟いた。言う必要はあるのだろうか。とにかく太い枝に、氷が纏う。

 ナツメは、アイスブレイドを扉の取っ手部分に突き刺した。木は随分もろくなっていたようで、簡単に突き刺さる。二度三度と突き刺すと、取っ手と扉部分が分離され、ナツメが押すと、そのまま扉は開いた。

 暗闇でよく見えないが、二人幅ほどの狭い道が続いているのがわかった。

 ナツメは足下に落ちた木片を拾うと、俺に渡した。俺は右手から小さな火を出し、木片にそれを点けた。

 ナツメと俺が並んで歩き、エンリーとミアが後ろに続く。足下を照らしながら、音をださないよう慎重に、進んで行く。

 うっすらと、青い光が見えた。しかし、音も、人のいる気配もない。ナツメと俺は顔を見合わせ、頷き合うと、ゆっくりと進んでいき、狭い道を抜け、その光のある部屋へと入っていった。

 青い光は、全体を薄く照らしていた。ありありと、とは言えないが、中の様子がだいたい分かった。

 奥には道があり、その手前に牢の付いた部屋が、三つ並んでいた。その真ん中の牢屋には


「ひ、ひゃあ」


 エンリーが腰を抜かす。

 ミアが、俺の手をぎゅっと握った。

 青い光は、牢屋の一つから発生していた。地面に大層な模様が描かれており、円で囲われている。その模様と円が、不気味なほど青く光っているのだ。その円の中心に、骸骨が横たわっている。煌煌とおぞましく、優雅に横たわっているようで、激しい怨嗟を発しているような。光の模様と相まって、見とれるほどに美しいが、取り込まれるようなもの恐ろしさがある。


「術式ね」


 ナツメが、淡白に言う。


「こ、この術式は教科書にのっているものではありません。いくつか組み合わせているのか、自分で作ったものか。どちらにせよかなり高度なものです。しかし、なぜ骸骨に」


 声は震えていたが、いつものエンリーであった。


ーーーあける隙もなく守らす、よ


「あける隙もなく?は?」


「どうしたの、クロウ?」


 ナツメが俺を見る。


「いや、誰かの声が聞こえて」


ーーー馬鹿か!あける隙もなく守らす、だっての!


「あける隙もなく守らす?」


 青い光が、ぶわっと消える。

 再び、木片に点いた火のみが明かりとなる。


「なにごとよ?あんたなにかしたの?」


「いや、え?」


 半分は口が勝手に動いたような。いや、俺が言ったのではあるが。


「まあいいわ。さっさと進みましょ」


 ナツメに促され、奥の道へと進んで行く。


ーーーありがと、割と楽しかったわ


「ん?また声が」


「クロウさん、なんか変なものでも食べたんじゃ」


「いや、たべてねえよ。たぶん」


 それにしてもなにか忘れているような。


「みんな、静かに」


 ナツメの声に、緊迫感がこもる。

 一階から漏れた光が、階段を照らしていた。

 ゆっくりと、慎重に、階段のところまでやってくると、上を見る。

 扉はない。そのまま一階へと上がることができる。

 音もない。上には誰もいないのか?いや、しかし明かりがあるということは。


「エンリー。お願い」


 ナツメのことばをうけて「合点承知です!」とエンリーは消えていった。


「一階を確認するだけでいいのよ。あまり無茶はしないで」


 小声でナツメは捲し立てたが、エンリーの返事はなかった。

 上階から音は漏れてこない。

 木片の火が消えた。木片からは、嫌な匂いがした。煙が立たないように脇に捨てると、踏んづけた。


「遅いな」


 しびれを切らして俺が言うと「そうね」とナツメが同調した。不用意に出て敵に遭遇してしまっては、エンリーの動きが無駄になってしまう。しかし、捕まってしまっているかもしれない。 


「ゆっくり、顔を覗かせましょう」


 ナツメと俺は、慎重に階段を上がって行く。後ろから、ミアが続く。

 途中まで昇ったところで、俺とナツメは立ち止まった。


「エンリー?」


 俺が声をかけた。階段の入り口で、にこにこと笑ったエンリーが立っていた。エンリーだ。


「大丈夫、誰もいないよ」


 そう言って、一直線に俺に近づいてくる。

 エンリーだ。姿形声、全てが。しかし、なんだろうこの。

 違和感を覚えたときには、すでに遅かった。

 ナイフ、エンリーは隠し持っていたナイフを出す。にやりと、エンリーの顔が歪む。

 ぞわりと背筋が凍る。

 刺さる。死ぬ。

 やたらと辺りが明るくなる。


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