子猫ちゃん救出大作戦!!
※このお話は本当にあったお話を元に、1割位の空想で構成されています。
起きているのか寝ているのかよく判らない微睡の中で、俺が
惰眠をむさぼっていると、いきなり部屋の戸がガタガタと
大きな音と同時に開く。
母親が朝の挨拶もなしに、困った様な神妙な顔で俺を怒鳴りつけた。
「 ちょっとアンタ 猫が網に引っ掛かってるわよ どうにかしなさいよ! 」
母親は朝から、全く要領の得ない日本語で俺の貴重な眠りを妨げ、
訳の判らない注文をする。
俺は、寝ぼけ眼で母親を見返すと同時に、寝落ちするまで使っていたノートPCで
時間を確認する。時間はまだ朝の6時前だ。
「 なに猫って? 」だるそうな顔で俺は、お袋に事の真相を確かめる。
「 猫よ 猫が網に引っ掛かってるの! 」お袋は、ヤッパリ要領の得ない
回答を俺に返す。もうこれ以上は、聞いても無駄だ。そう判断した俺は
半分寝とぼけた状態で、ノロノロとショートパンツを履き、だるそうに
足を玄関に運ぶ。
俺は鍵をカチャリと開けると、正面玄関を開く。
冷気と湿り気を帯びた夏の朝の独特の空気が、俺を全開で歓迎する。
『 どこだ猫? 』 俺は玄関の辺りをキョロキョロと見回しながら猫を探す。
しかしどこにも救助を求めてるような猫の姿は見当たらない。
『 どこにいるんだ? 』 周囲を見渡していると、納屋の壁の向こうで
ニャーニャーと甲高い猫の鳴き声がする。
『 壁の向うか? 』 俺はそう思うと同時に、足を納屋の方に向ける。
猫の鳴き声はどんどんと近く、大きくなる。
朝から悲惨な場面だけは勘弁願いたい。俺はそう思いながら、納屋の
裏を半身の態勢で恐々と覗き込む。
するとお目当ての猫が俺の目に入った。子猫と猫が一匹づつ、合計二匹だ。
白い子猫がお袋の申告通り、釣り用の網に引っ掛かってる。
もう一匹は親猫だろうか、茶虎で大きな猫だ。母親か父親かは
俺には全然判らない。
親猫は子猫が心配で仕方ないのか、微妙な距離で子猫を見守っている。
子猫を助けたいが、方法が判らずオロオロしている。そんな感じだ。
俺が急に現れたせいだろうか、親猫が子猫からサッと離れ距離を取る。
俺が子猫に危害を加えると思ったのだろう。親猫は、瞬時に俺に
対して臨戦態勢の構えを取った。
俺は親猫に襲われないように気をつけながら、子猫の方に視線を向ける。
右後ろ足が、釣り用の網に引っ掛かって、抜けないで泣いている。
『 たぶん親子だろうけど、似てないなぁ 』 俺はそんなどうでもいい
事を考えながら子猫に近づく。
子猫の足から網を取ろうと手を伸ばしたその瞬間、親猫が
「 シャアーシャアーー!! 」 物凄い声で俺に威嚇を始めた。
もの凄い鳴き声に俺はたじろぎ、後退りする。
『 ……猫って、こんなに怖かったっけ?…… 』 親猫の猛烈な威嚇に
本気でびびってると今度は子猫が
「 シャアー!! 」 と俺に同時に威嚇を始める。俺は更に驚いて子猫から
身を引く。
『 参ったなぁ これじゃあ近づけないよ… 』 俺はビビリながら子猫を
に引っ掛かっている網を見る。暴れたのか、足一杯に網が絡まっている。
これを全部手で外すのは、結構骨の折れる作業だ。
俺は意を決して、再度子猫に近づく。すると怒った親猫が威嚇を始める。
それと同時に子猫もまた俺に威嚇を始める。
これじゃあ近づけないし、人助け嫌、猫助けをして怪我するなんて笑い話にも
ならない。猫はナンチャラ菌を持っていて、深く噛まれたら大変な事に
なるとネットで見たのを思い出す。
早く縄を外してやりたいが、こう威嚇されると一筋縄ではいかない。俺は
縄を切る事を決意をした。
俺は納屋に入り、網を切るための道具を探す。
『 確か鋏が置いてあったはずだ 』 納屋の中を探していると
青い道具箱の中に、古い鋏が入っているのを見つける。
俺は鋏をすぐさま手に取ると、猫が待つ場所に速足で戻った。現場に戻ると
二匹の猫はさっきの状態のまま、俺を待っていた。
俺が再度現れたせいだろうか、親猫がまた「 シャアー! 」 と威嚇を
始める。何度聞いても慣れない。恐ろしい鳴き声だ。
俺が子猫に近づくと、子猫は俺が怖いのか、網が引っ掛かったままの状態で、
俺から逃げようとモガキ始める。
俺は2匹の猫に噛みつかれない様に距離を取りながら、鋏で網を一本一本切っていく。
2本 3本と網がどんどん切られていく。子猫は網を切る音が怖いのか
グイグイと体を前のめりにして、俺から少しづつ離れていく。
5本目の網を切った時、いきなり子猫が凄いスピードで逃げ出した。足から
網が取れたのだ。子猫が逃げると同時に、親猫もモノ凄いスピードで逃げていく。
二匹は一度も振り返る事なく、その場を嵐の様に去っていった。
俺は二匹のあまりの逃げ足に呆気にとられ
『 猫ってあんなにはえーの? 』と呆然と猫を見送った。
俺は、お礼も言わずに立ち去った猫に薄情さと理不尽さを感じながら、
切った網と使った鋏を片付ける。
『 あれだけ元気なら大した怪我はしてないだろう 』 と俺はそんな
変な安堵感を覚えながら家に戻り、お袋に猫を逃がした事を告げ、自室で
また眠りについた。
その日の夕方、俺はスーパーで猫用の高級缶詰を1個購入し、皿に開けると
猫達が元居た場所にそれを置いた。網は元々は親父が放置しておいたものだが、
自分なりのせめてものお詫びの印だ。
そして翌朝、皿を確認すると猫達へのお詫びの印は、綺麗になくなっていたので
あった。