漫才脚本「心霊体験」
A……ボケ担当。B……ツッコミ担当。
コンビ名は考えていないので☓☓としました。
A・B、ステージに上がる。
A「どうも~☓☓です!」
B「よろしくお願いしま~す!」
A・B、観客に向かって軽く頭を下げる。
B「いやあ実は僕、最近心霊体験をしたんですよ」
A「はあ。そうですか」
B「この間突然訪ねてきた友達と、夜中に僕の家で遊んでたら」
A「(目玉をひんむいて)ぎいぃ~やぁああああ~!」
B「まだ驚くところじゃねえだろ!」
A「B君に、友達いたんだ……」
B「友達くらいいるに決まってるだろ! 失礼な奴だな。で、その友達が急に肝試しをしようって言い出したもんですから、渋々ながらすることになったんですよ」
A「俺の家で?」
B「何でお前の家で肝試ししなきゃいけないんだよ!」
A「いやあ、実は俺にも出るもんでね。髪の長い女が、夜な夜な俺の家のドアを叩きながら……」
B「(身震いしながら)えっ。なになに?」
A「Aさーん! 先月の家賃まだなんですけどーっ!」
B「それ、絶対大家さんですね。家賃をきちんとお支払いすれば、きっと声はやみますよ」
A「はい。次回からは、滞納しないよう気をつけます」
B「で、僕の家の近くに、かなり昔に潰れた廃校があるんですね。そこに行こうということになったんです」
A「なるほど、なるほど」
B「まず、玄関に入るなり、ゾクゾクッと背筋に悪寒が走ったんですよ」
A「冷房の効き過ぎかな?」
B「潰れた学校に冷房が効いてるわけねえだろ。で、ちょっとやばいかなーって思いながらも友達と先に進んでいったんですよ」
A「はいはい」
B「シーンとしてる中で、廊下を歩くたびに床がギシギシ鳴り響くものですから、怖さ倍増ですよ」
A「B君って、案外重いんですね」
B「古いから床が鳴るんだよ! で、まずは音楽室に行ってみたんです」
A「まあ。音楽室は怖い話の定番ですからね」
B「廃校ですから、イスや机が散乱していて、とても歩きづらいわけですよ。ピアノなんかもボロボロで、友達と」
A「元はお高かったグランドピアノも、この有様か。や~いざまぁなどと言いながら……」
B「言わねえよ、んなこと! お前、ピアノに何の恨みがあるんだよ。で、友達と『ここ、本当にやばそうだなあ』とか言いながら、壁にかかってる肖像画の方に目を向けたんですね。すると、ベートベンの肖像画が」
A「落書きされて、鼻毛が出ていた」
B「それ、全然怖くないね。いや、むしろチャーミング。えっと、実際はなんと、ベートーベンの目がこちらにギョロリと向いたんですよ」
A「今時のだまし絵はレベルが高いなあ」
B「だまし絵じゃねえよ! 廃校の音楽室に、そんな技巧を凝らした肖像画があるか。で、次はトイレに行ったんですね」
A「あ、さっきの一件で漏らしたんだね」
B「違うわ! トイレと言えば、花子さんだろ。ドアを三回ノックして、『は~なこさ~ん』って声をかけたら返事をされるって奴」
A「なるほど。それを口実として、女子トイレに入ろうというアコギな寸法で?」
B「誰もいない廃校で、アコギもへったくれもないだろ。で、友達がコンコンコンってトイレのドアを叩いて『は~なこさ~ん』って声をかけたんですよ。そうしたら」
A「(女口調で)花子って誰? 私の名前は、ユミなんだけど?」
B「誰だよユミって! 何だ、突然変な奴出しやがって」
A、腕を組みながらBを睨む。
A「ははん。前々から怪しいとは思ってたけど、あんた他に女がいるのね? 私に隠れて行った合コンで……」
B「違う違う違う! そういう男女のしがらみとかじゃなくってさあ。で、友達が声をかけたら、ドアから返事が聞こえたんですよ」
A「あ、うち朝刊はもう間に合ってますんで」
B「新聞の勧誘なんてしてねえわ!」
A「私もう、三社くらいと契約してるんで……」
B「いやそれ、勧誘断れな過ぎだから。花子さん、そんな気弱じゃないでしょうしね。で、次は理科室に向かったわけですよ」
A「はいはい」
B「理科室もまたボロボロで、フラスコとかが割れて床に散らばってるわけですよ。靴履いてるからまだいいですけど、それでも危なっかしいのなんの」
A「B君、靴買うお金あったんだ」
B「そこまで生活困窮してませんよ? というか、家賃を滞納しているA君の方が僕は心配ですがね。で、周囲を見渡してみると、人体模型があったんですね。こっちを見ているように、真っ直ぐ僕と友達の方を向いていて」
A「そして、ここから始まる運命の恋」
B「何で人体模型と恋に落ちなきゃいけないんだよ! で、『今、目が合ったよな』って二人で確認し合ってたわけ。そうしたら、人体模型がガタガタって動き出して……」
A「貧乏ゆすりかな?」
B「いや、怖いけど。人体模型が貧乏ゆすりしたら、それはそれで怖いけど。この場合はもっと怖い奴で、ガタガタって動いたと思ったらなんと、こっちに向かって走ってきたんです!」
A「おおっ」
B「で、やばいぞってなって、廊下に飛び出して友達と二人で走って逃げたんですね。追って来る人体模型。必死に逃げる僕と友達。そんな時、友達が転んでしまったんですよ」
A「で?」
B「僕は立ち止まり、友達の方を向きました。友達は足を痛めたらしく、もう走れないみたいでした。人体模型が迫る中、友達は僕に『早く逃げろ』って言うわけですよ」
A「そして、言われた通り逃げ出したB君は、友達を見捨てたクズ野郎として未来永劫語り継がれましたとさ。ちゃんちゃん」
B「勝手に終わらすな! 友達置いて、逃げ出すわけないだろうが。で、友達を助けなきゃって思って、あれこれ考えたわけですね。そうしたら、思い出したんですよ。廃校に来る前に、もしもの時にと思って家から持ってきたお札が、ポケットに入っていることを」
A「お札を持ち歩いてるとか、とんだヘタレ野郎ですね」
B「何とでも言え。で、一か八かお札を握りしめて、友達を襲おうとしてる人体模型に向かってかざしたんですよ」
A「うんうん」
B「すると、お札からピカーッと光が放たれて、気がつくと人体模型の姿はなかった」
A「百均で買ったわりには、よく効くなあ」
B「何でお札の値段知ってるんだよ! ……あ。さては、お前も持ってるんだな?」
A「いやいやいや。俺は持ってませんよ? 何かわけのわかんない字が書かれた、赤いお札なんて持ってませんよ?」
B「はい、完全に黒ですね。今後、俺のことをヘタレと呼んだらぶっ飛ばしますからね。まあ、それは置いといて。で、そこまではよかったんですよ。だけど、人体模型が消えたはいいんですけど、いつの間にか友達の姿も見当たらないんです」
A「ははん。見捨てられたんですね」
B「僕もそう思いまして、せっかく助けてやったのにってブツブツ言いながら家に帰って、恨み言の一つでも言ってやろうと友達に電話をかけたんですね。すると、友達がとんでもないことを言ってきたんですよ」
A「俺、お前の母ちゃんに惚れちまったんだ」
B「何そのカミングアウト! 確かにとんでもないけど、絶対ないから! で、友達に『何で俺を置いて先に帰ったりしたんだよ』って聞いたら、そいつ『はあ? 今日、お前となんて遊んでないけど』って言うんですよ。イラッとして問い詰めてみると、そいつは別の友達のところに居て、そこで今までずっと遊んでたって言うんです。その、他の友達って奴に確認してみたら本当の話で」
A「(身震いしながら)うわうわうわっ」
B「つまり、僕と一緒に肝試しに行ったのは……」
A「(哀れむように)友達がいなさ過ぎて寂しかった、B君の幻覚だったのか」
B「違うから! 俺、結構友達いるからな?」
A「強がらなくても大丈夫。B君には、俺がついてるよ」
B「A、お前……」
数秒間、見つめ合うAとB。
A「……そして、ここから始まる運命の恋」
B「絶対始まんねえわ! もういいよ」
A・B「どうも、ありがとうございました~!」