第二話
あら、てっきり追いかけてくると思ったのに来なかったわ
うふふふ、ちゃんと仕事しないと後でお仕置きしようとしてたことが分かったのかしらぁ
さて寮にあるお庭でも眺めに行こうかしらね
そう思い寮の庭がある方に歩みを進める
ルヴィアスはその数十歩後ろを気配を消しながら優雅に歩いている
どうやら挨拶をしようとしたらしいが魔人と気付かれないため(飛ぶことや影に潜むこと)の配慮らしい
(下駄の為走ることはない)
そう遠くない場所にある庭に辿り着き、見渡すと誰かが倒れていた
庭の真ん中で
「あら…誰かしら?」
気にせず踵を返し去ろうとしたがつい声に出して空に尋ねてしまった
「リリィ様ッッ」
兄の言った通り完璧にフラグを建ててしまわれた兄の主の前に庇うようにして立つ
声に反応したのか倒れている人物ー俗にいう不審者ーはムクリと起き上がった
人相の分からない程鬱陶しそうな地面に届く位の長い紫紺の髪に体の線が分からないようなダボッとした服を着ている
あら、ルヴィアスじゃない
「はい、お久しぶりです」
1500年位会わなかったんじゃなくって?
「えぇ、そうです…が
今はこちらの方についてです」
「んー…?」
不審者は首をゆるゆると振って辺りを見渡す
まぁ、声は随分若いみたいね
そういえば、ルーヴィもそうだけれど
私と話すとき一々声に出して反応していると独り言みたいだからやめた方がよろしいわよ?
「あ…」
そ、そういうことはもう少し早く言ってくださると助かりますっ!
一方通行な念話に馴れてまして…、つい
いや、言い訳ですね
以後気を付けます…
「あんた達誰?」
不審者の声は明らかに男でリリィ達の今いる庭は女子寮の庭である
「…」
無言で目付きを鋭くするルヴィアス
それを手で制し優雅にルヴィアスの前に立つ
「あらぁ、いきなりレディの名前を聞くなんて失礼じゃなくって?
貴方から名前をお聞かせ願えて?」
目の色を本来の赤に変えて一歩一歩ゆっくり不審者の方へ歩みを進める
"拘束"
不審者は"見えない何か"に押し潰され地面に伏す
「もう一度言うわ
名前、お聞かせ願える?」
「うぐっ…
き、菊池ユリウス」
「そう、私はガートンよ
それで?ユリウス君、貴方は何でここで倒れていたのかしら?
分かっていないようですけれど、ここは女子寮のお庭ですわよ」
「……」
女子寮と聞いて声を失う不審者の少年
何も話さない少年をリリィが許すはずもなく
「黙りは好きではないわ」
ダンッ!
と音と共に不審者の腰を容赦なく踏む
リリーの背後には蛇の化身のようなものが浮かんでいる
リリィのすぐ後ろにいるルヴィアスは悲鳴を漏らさないように口を押さえてプルプルと震え首を横に振っている
どうやらルヴィアスにはリリィを止めることはできないようだ
あ…兄さん、リリィ様を止めてくださあああああい!!
兄の前で使っていたような花魁言葉も出来ないほど焦り、兄のルヴィアスに出来るだけ強い念話を送る
実はもうすぐ近くまで来ていたらしいルーヴィは、素早くリリィの後ろにつき膝裏を掬う
「はいはい、止める止める
リリィさん、その人多分殺しちゃマズイ系の人間ですよ
ルヴィアスも怖がっていることだし取りあえず彼に事情を伺いましょう」
殺しちゃ不味くない人間はいないと思うのだが、例で挙げさせて貰えば面倒くさい貴族や人間界の
「その前に下ろしなさい、顔が近いわ」
目を閉じてそっぽを向いているリリィはまだ気が立っているようで若干声が低い
「あー…ルヴィアス、パス」
と弟にリリィを渡し少年の方に向き直る
「君が何でここにいるか答えてもらえません…か?」
人好きの良さそうな笑みを浮かべ菊池に問う
「実は、俺にも分からない……です」
とってつけたような敬語を使い、ルーヴィに返す
「「「は?」」」
「俺、今まで山に籠って修業…みたいなことしてて
目が覚めたらここに…えっと、ここって学園、なんですよね?」
「あー、リリィさん」
「彼、嘘ついてないですよ」
少し眉を寄せて申し訳なさそうな顔をする
「…………それは申し訳ないことをしたわ
お詫びにその鬱陶しい髪の毛、切って差し上げます鬱陶しい」
「え?いや、あの???」(2回も言った)
「リリィさん、お詫びで散髪っていうのは…」(2回も言った)
「き、菊池様、リリィ様は切るのがお上手なのですよ」(…2回も言った)