第一話
カラカラカラという車輪の回る音と共に大きな門を潜り抜ける
馬車の中で優雅に紅茶を飲んでいる少女は、今回魔術師養成学園高等部イギリス本部に編入する事になった
魔界にて王位継承権第13位の魔皇女リリスフィア・サーディス・(中略)・サタン嬢だ
高等部ではリリアン・ガートンと名乗るようだ
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はぁい、読者の皆様!
私王位継承権第13位のリリスフィア・(中略)・サタンよ
リリィって呼んで頂戴ね
今年の闇栄える月に4650歳になるわ
私達王族は変幻自在に容姿や声を変えることに特化しているの
勿論攻守共に優れている方も多いわ
当たり前だけど私は今も姿を変えているわ
姿は肉付きも良く活発そうな茶色い瞳と綺麗にウェーブされたブロンドの髪の16歳の少女なのだわ
何故私が16のお嬢さんの姿になってまでこの高等部に行かなくてはいけない理由は…
ううん、そんなには長くならないとは思うけれど……よろしいかしら?
あ、前提として王位継承権9位の私の従弟は産まれて5年を過ぎた頃から行方不明なのだわ
魔界でしっかり年を取っていたら3000は超えていたんじゃないかしら?
あぁ、魔界と人間界は次元が違う訳だからもちろん進む時間も異なるのよ
王位継承権第7位までは既に死んでいるわ
7位までのお兄様たちは闘争心の塊だったから、喧嘩しては一人、二人と死んで逝ってしまわれたわ
最終的に残った2位の兄様も父の逆鱗に触れてあっけなく
8位の弟は年が離れていてまだ魔人として未熟、そして体が弱い…だから建前としているだけね
そこで白羽の矢に立ったのが父のすぐ下の弟の行方不明の長男よ
行方不明なのにまだ王位継承権があるのはなぜかって?
簡単な話、生きていれば王位継承権を認められているからよ、
たとえ魔界を放浪してようが人間界に入り浸っていようが王位継承権は生きている限る有効なの
ふふふ、自らの意思で破棄もできるんだけどね
それは一部の者しか知らない情報なの、内緒よ?
先日人間界の小国に攻め入った騎士団長が長男…まぁ従弟の事ね
その従弟の気配を感じたらしいの
すぐに気配を掴めなくなってしまったらしいのだけれど
それを聞いた王弟が慌てて自慢(笑)の情報網と魔力網を使って探りまくって早1000年
やっと見つけた一握の砂にも満たないような情報によって比較的暇で特に急ぎの用もなく嫁いでもいない王位継承権も10番台の私が従弟のいるであろう魔術師養成学校に入学することになったの
そうそう、人間の使う魔力と私達魔そのものが使う魔力は比べ物にならないほど違うの
人間は術式を描き呪文を口にして精霊の力を借りなければいけないらしいわ
そういえば精霊は妖精界在住だからまた別の次元だったわね
まぁ、とにかく魔人だってことがバレなきゃ良いんだわ
<エー、ヒメサマダイジョオブウー?>
不意にわたしの思考を読み取った何かが浮上する
球体の形を維持する何かはよく見ると小動物のような赤い目がある
あら、私を誰だと思ってるのよ
バレたら殺しちゃえばいいんでしょう?
<ヒメサマ、アウトォォォォ!!>
ふふ、冗談よ
<ヒメサマー…オイラヒメサマノゴエイナンダケドォー
ニンゲンマモルナンテヤダヨォー?>
本当に殺したりはしないわよ。
自ら記憶を忘却してしまいたくなる位に痛めつけるかもしれないけれど
球体がウゴウゴと高速回転しヒト型をとる
黒髪赤目のラフな格好をしたヤンチャそうな青年である。
今は困り果てたように眉尻が下がっている
「姫様、ガチでアウトですよー…」
リリアンは一瞬きょとんとして青年になった球体-ルーヴィ-を見る
「あら、駄目かしら
というかその姿をとるなら姫様ではなくリリーと呼びなさい。様もいらないわよ」
「はい、ひめ、リリィさ…さ、さー…さん」
「ギリギリ合格よルーヴィ
さ、扉を開けて頂戴。」
馬車からルーヴィに手を引かれて降り、宛がわれた部屋に入る
学生の為にしては少し広めのリビングとそこから繋がる二つのドアノブが見える
シャワールームやキッチンも今は影となって見えないが大したものなのだろう
本来は相部屋らしいのだけど笑顔で寮母さんに頼んだら笑顔で了承してくれたわ
「リリィさんそれは脅しって言うんっすよ…」
へぇー。
あら、意外と綺麗ねぇ…
誰か掃除でもしてるのかしら?
「特に持ち物もないっすからねぇ…リリーさんここ寝床にしますか?」
そうね、本来私達魔人には魔力さえあれば特に食事や睡眠もいらないのだけれどね…
睡眠は私にとって至高で最大級の幸せを与えてくれる素晴らしいものだわ!
睡眠大好きよ!ここ800年くらいで夢を見るようにもなったの!夢は楽しいわね…!
粗末な備え付けのモノと亜空間に入れてある寝具一式を交換しておいて頂戴
一通り部屋を見回した後ドアノブに手をかける
「少し散歩に行ってくるわね」
「いや、あのオイラ…じゃなかった
俺リリィさんの護衛なんすけど!」
別に問題起こさないわよ
「いや、それ何てフラグっすか!?
そういうこと言ってると絶対何か起こるんすよ!!
あぁ、俺の話ちゃんと聞いてくださいよっ
うぅー、でも頼まれた仕事はちゃんとしなきゃいけないし…というか後が怖いし
あぁもう!来いルヴィアスっ」
ルーヴィの足元から細長い半楕円の先程のルーヴィと同じように小動物の(以下略
黒髪赤目の花魁の恰好をした和風美人である
「兄さん何か御用?」
低めで艶のある声でルーヴィに問う
「姫様の護衛を頼む」
「あちきが?兄さんの仕事じゃないんでおすか?」
心底不思議そうに首を傾げるルーヴィの"弟"ルヴィアス
「俺は他の事頼まれたから行けないんだよ
頼まれたことやっとかないと後が怖いだろ
あ、ついでに姫様はフラグを建てて行ってしまわれたから
必ず何か起こるからそん時は頼んだ
終わり次第俺もすぐ向かうから」
「へぇ…分かりんした
では、行ってきんすね」ふらりと部屋を出て行った