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残り6湯制覇するぞ

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 その後,旅館に帰ってきました。

「お帰りなさい。どうでした。」と女将さんが迎えてくれました。

「鴻の湯に行ってきました。すごっいですね。」

「お料理はお部屋に準備してます。お飲み物はどうしますか?」

「そうですね。瓶ビールをお願いします。足らなかったら後でいいますから。」

 部屋には豪華な料理が並んでいます。カフェリアプランの値引きが無ければあり得ない料理です。日本海の海の幸の造りに但馬牛の肉がずらりと並んでいます。子供向けは、ハンバークのお子様ランチですが・・

「テキは後でいいでしょうか。」

「はい。」

「いやあ。部屋に戻ると用意されているというのがいいな。」

「上げ膳、据え膳の幸せね。」

 私は綺麗なお姉様・・・もとい、主人に、ビールをつぎます。主人はにこりとしてコップを出しています。

「はい、あなた。今日は運転、ご苦労様でした。」

「うん。ありがとう。落ち着いて食べれるのがいいな。」


 そのときです。ミノルがスープのカップを倒しました。

「あちゃー」

 ビールを注いでいたのですが、思わずそっちに注意が向きます。

「あら、ミノルが!」

 瓶の先がコップから外れました。テープルへビールを注いでしまいました。

「千香、ビールがこぼれているぞ!」

「わあ、大変、こぼしちゃった!」

「あっ、取った!。」

智勇サトル、どうしたの。」

「ねぇちゃんが、にんじん取った!」

「コラ!由縁ユカリ取ったらだめでしょ!」

「千香、それよりぞうきんだろ!」

「あっそうだ。ここに布巾があるわ。」

「パパ、これ残していい。」

「今の状況わかっているのか。後にしろ!」

 やっぱり、落ち着いて食べられるものではありません。ちなみに、ウチの子供達はピーマンやニンジンという世間の子供が嫌う野菜が大好きな変な子供達です。主人が野菜をうまそうに食べるので影響されたみたいです。美人になれると信じているようです。由縁ユカリはともかく、後の2人は美人になってどうするんだという気がしますが・・


 さて、食後です。主人が丹前の袖からから握り拳をあげて叫びます。細く白い腕でガッツポーズです。

「それでは、残り6湯制覇するぞ!」

「おー」

「イェイー」

「わーい」


 まんだら湯です。行者像にミノルが怯えて、姉の後ろに隠れています。勝ち気な由縁ユカリはぺちぺちとたたいています。かわいいです。


 一の湯です。洞窟風呂があるのですが、子供がやたらと岩に登りたがります。危ないので止めるが大変です。洞窟と言っても大したことはないのですが、家風呂しか知らない子供達にとっては新鮮みたいです。


 柳湯です。檜風呂です。ここを終わるとちょいと離れて地蔵湯なのですが、少し遠いです。子供達があくびをし始めました。橋もはじめは珍しがって行ったり来たりしていましが、飽きてきたようです。疲れたのか座り込むこともあります。ここで「抱っこ」と言われたらたまりません。

「こいつらそろそろ限界だな。この辺で帰るか。」

「そうね。」

 

「はあい。今日はこれまで、宿に帰ります!」と主人が笑っていいました。

「えーえ、まだ、2つ残っとるでぇ。」

「いいのか。ここから遠いぞ。」

「それに、外湯めぐりは、明日の朝があるから、大丈夫よ。」

「遠いって、どのくらいあるの。」

「うーん、ここから旅館までぐらいかな。」

「うぇー。」

「宿のそばの土産物屋で、サイダー買ってやるから帰ろう!」

「うん!帰る。」

 チョロいものです。ぐずっていましたが、サイダーを飲ませると宿へ帰りました。


 宿に帰ると布団が既に敷かれています。

「おっ、ふとんが敷かれているでぇ。」

「すごい!」

「仲居さんがしてくれたのよ。」

「毎度ながら、便利よねぇ。」

「さてと、おまえらはここで寝るように!僕らはこれから夫婦で大人の時間だからね。」

「えーえ!そんな殺生な。」

「すぐに寝なくてもいいぞ。宿を自由に探検いい。必ず、宿の人に挨拶して入るように。但し外出は禁止!宿からはでてはだめだぞ!」

「しゃないなあ。ちょっと、譲ったらなあかんでぇ。」

「うん、そっと、しといたろか。」

「あれが楽しみで生きとるんやし。」

  ・・・などと変なことを言っていますが、聞こえない、聞こえない。


 柳の影におぼろ月が綺麗です。石橋のアーチに下駄のカランコロンという音が響きます。主人はそっと肩をつかんで引き寄せてくれました。川音が涼しげでした。月がきらきらと川面でまたたき綺麗です。ああ、来て良かった。

 その頃、子供達はガラス越しの刀を見ていました。おじさんはいろいろ説明してくれるのですが、あくびが出るばかりです。もったいない・・


 たっぷりと、そぞろ歩きを楽しんで、地蔵湯へ行きます。六角形の窓のあるモダンなたてものです。でっかい石灯籠があるところです。そこで主人は打たせ湯をして喜んでいました。滝業のように壁から流れ出るお湯を背中に浴びるだけですが、手を合わせて何か念仏みないものを行じていました。まるで子供です。

 湯船は二人一緒に初めて入れました。極楽、極楽・・あら、もう、出るの?!主人の入浴はいつも早いです・・・。

 その頃、3匹は・・・・寝ています。


 朝食です。テーブルでごはんを食べつつ主人がいいました。

「今日は残り2湯、制覇するぞう!」

「いぇーい!」

「おぅ」

「えーい!」

 まずは地蔵湯です。昨日、既に行きましたが、子供達ははじめてです。

「地蔵があるでぇ」

「遠いなあ。」

「つかれたでぇ。」

(意外と時間がかかったなあ。大人の足だと大したことないけど・・)

 打たせ湯は結構受けました。ホントは小さい子供は禁止ですが、主人に抱っこしてもらって浴びてました。

「あの、石橋すごい!曲がっているで」

「この緑な何や」

「ああ、苔じゃないかな。」

「あれは魚や!」

「ずこいなあ。」

 柳にアーチの掛かった石橋があります。子供達は橋の桟から川を覗いていました。

「どう考えも無理だな・・」

 主人は時計と地図を見ながらブツブツ言っています。


「よし!みんな帰るぞ!」

「えー、あと一つやでぇ」

「どうしてなの。かわいそうよ。」

「千香、時計をみてみろ。ここまで、歩くだけで30分は掛かっている。さとの湯は、ここから、同じくらい掛かるんだ。風呂に入って、チェックアウトの時間に間に合うか?」「確かにそうやねぇ。」

「まあ、帰り道に車でそばを通るから、そのとき入ろう。」

「絶対やで」

 みんなぶづふつと言いつつ宿に帰ってきました。


 宿に着くなり子供達は渋顔でいいます。

「ああ、行くゆうたのに!」

「これやから大人は信用でけへんのや。」

「あらあら、ご機嫌斜めですね。どうしたんですか。」と女将さんが笑いながらききました。

「最後に、さとの湯が残りましてねぇ。チェックアウトにとても間に合わないので帰ってきました。」と私が説明します。

「いやぁ、帰りに車で寄るからと言ったんですがねぇ。」という主人です。

「そうですよね。駅の近くですから・・・ん?さとの湯、さとの湯・・」とっいって女将さんはなにやら紙切れを見ています。

「あっ!今日は休みですね。部屋にこの休日表がありませんでしたか?」

「休み?!」

「済みません。よく説明しなかった私が悪いんです。外湯は1週に1回ずつメンテナンスのために休むんですよ。1泊すると翌日には入れるようになっているんですが、昨日のうちに勧めとけば良かったですね。申し訳ありません。」

「えーえ!休み?じゃあ、入られへんの。」

「そういうことだな。」

「ワーン!」

「パパのウソツキ!」

「ごめんなあ。パパが悪かったよ。」

 まあ、主人が悪いわけではないのですが、ここは悪者になってもらわないと・・

「今度は、さとの湯だけに来ような。そしたら、7湯制覇だ!」

「そんな約束して大丈夫?」

「駅の近くだ。鉄道もあるし、日帰りでくればいいだろう。」

「絶対やでぇ!」

「絶対だ!」と主人が強く言うと黙りました。泣くのもやめました。


 さて、出発です。主人は昨日の赤一色から今日は黒一色です。こぼれんばかりの胸を強調したボディコンシャスな服に、ミニカーと足は黒のストライプの柄タイツです。色っぽいです。女と言われるのが嫌がっている癖に、旅先では男性の気を引くファションをする困ったヤツです。今日はイケイケギャル風です。

「ガキども車に乗れ!行くぞ!」

「はあい。」

「お世話になりました。」と普通に挨拶する私です。

「ひゃー、ずごいなあ。」と目をパチクチする番頭さんです。

「さっきまで、浴衣姿と大違いですね。」と笑う女将さんでした。


 車で円山川沿いを走ります。橋を渡って玄武洞公園へ行くはずだったのですが、うっかりと、橋を渡り損ねました。橋が小さかったので躊躇したのです。ええい、行ってしまえとばかりに、川沿いを走り、戻ることにしました。当時、カーナビはまだもってません。玄武洞駅をとおり過ぎます。列車の場合はここから渡船で円山川を渡って玄武洞へいくそうです。

 そして、今は、橋を渡り対岸の細道を戻っています。

「大丈夫なの。」

「どこにも、標識がないなあ。でも、大丈夫だろう。」

「どう見ても、住宅街よ。こんなところにあるの。」

 大変不安です。主人はいつも前向きで呑気なのはいいんですが・・・

 住宅街を抜けて、緑の多いところにつきました。

「あった!玄武洞ミュージアムは、あれだ。」

「ここなの。」

「ほんまかいな。」

「道を間違ごうたんとちゃうか。」

 みんな信じていません。そこは後でインターネットで調べたら地図では豊岡杞柳細工ミュージアムとでていました。どう見ても、田舎町の雑貨屋さんです。レストハウスが近いかもしれません。古代の地層と玄武洞の成り立ちを示しているそうですが・・私にすればこんなのどこがおもしろいというのでしょう。「木戸公」とも関係ないしなあ。


 少し歩くと玄武洞公園という白い立て看板がありました。

「さぁ、登るぞう!」

 見れば緑の中を階段が続いています。さすがに、私も子供達も気勢をあげません。主人はいたって元気でカメラをもって階段に向かいました。その足を見てびっくり!

「ちょっとまった!あんた、その足でここを登るの?」

「え?何か・・・・・あっ、ハイヒールだ。」

 主人はあわてて、車に駆け戻ります。そして、主人はハイヒールをスニーカーに履き替えています。

「ふう・・運転中はスニーカーなんだから、履き替えなきゃいいのに」

 主人は車から降りるといつもハイヒールに履き替えるのです。山登りだというのに・・・


 主人は階段や上り坂を見ると足が速くなるという変なヤツです。とても、ついてはいけません。

「はや!もうあんなところ登っとるで。」

「まるで、犬ころみたいやな。」

「ホントねえ。」

 さすがに主人は玉のような汗をかいて、タオルで押さえてます。玄武洞というは鍾乳洞ではありません。玄武岩の柱状節理が放射状に見えるという珍しい地形なんです。洞窟というより壁にできた窪地です。窪地には、玄武の他に、青龍、白虎、朱雀の洞の名前がつけられてます。玄武岩の洞窟だから玄武洞、残りの4方位の四神にちなんで名前が付けられたようです。確かに見応えがあるといえばありますが、こんなので興奮するのは主人ぐらいのものでしょう。


「やっと、着いたみたいね。」

「もう、写真撮っとるでぇ」

「わぁ、ずごいや。」と言いながら写真を撮る主人です。それは、良いんですが・・


 見れば立て膝ついて、岩の間から見上げる構図の写真を撮っています。しかも、あのミニスカートで!

「おい、彼女を見ろよ。」

「おっ、すげぇ!」

 男どもの目が釘付けです。

「パパ!見えているわよ。」

「え?何が・」

「スカート!」

「ああ、これ?大丈夫だよ。ほら、下は昨日の水着だよ。」

 そう、笑いながら、堂々とめくりあげたスカートの下から、昨日の日の丸が・・・バカ!


まだ、まだ、続きます。

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