外湯全制覇だ!イェーイ!
やっと城崎温泉につきましたが・・
誤字訂正
カフェテリアプランの半額決裁を使って、城崎温泉のつたや旅館に来ました。宿帳には主人の名前を日下部美希、私の姉と書きました。ところが、カード名義の日下部拓也の一親等以内でないため、半額決裁が使えないというのです。
えらいことになりました。今は宿の外でひそひそ話をしています。
「ねぇ、あなたどうする。」
じっと考え込んでいましたが、意を決して中に入っていきました。
「うーん。仕方がないなあ。大丈夫だよ。」
「え?どうするの・・」
こうなると主人に任せるしかありません。
「すみません。日下部美希というのはウソです。」
「えー?!どういうことなんですか。」
女将さんはなんのことなのか理解できません。
「僕が日下部拓也なんです。ほら、この運転免許証を見てください。」
ついに、伝家の宝刀を取り出しました。綺麗な女性の写真の運転免許証の性別は男です。警察が認めているのです。まちがいありません。
「えーー。」
実物と写真を見比べて目をパチパチしています。
「ホントだわ。おとこなんですか・・」と言う女将さんです。
「千香、宿帳にはちゃんと本名をかかないとだめじゃないか。」
主人は自分が男であること、女の体へ変身した経緯を説明し始めました。
「・・・と言う訳で、あれよあれと今の姿になりました。」
そう言って笑って頭をかいています。
何とか納得して部屋に案内してもらうことになりました。女将さんと主人は階段を上がります。
「わかりました。ともかく、お部屋に案内しましょう。」
「すみませんねぇ。」という主人です。
「お仕事は何をなさっているのですか。」
「会社で初潮による出血騒ぎを起こしたんでねぇ。会社も仕方がないとすんなり認めてくれて、仕事も変わりなくやらせてもらっています。開発の仕事で、表向きは女子社員ですけど。」
「へぇー、そうですか。」
「こんな体ですが、実は男としてあるものはあるんです。妻ともナニをすることもできますし・・ほら、ここを見てください。」
そう言って、スカートとパンツをひょいと引っ張り、股間を見せました。女将さんも思わずのぞき込みます。
「あら、ホントだ。これは・・」
「なんでしたら、どうです?今夜、お相手しましょうか。」
「何を言うんですか!」とちょっと顔を赤めてわらいました。
さて、なんのことでしょう?
その頃私はまだ1階にいました。
「へぇー、スゴイ!これは『木戸公』の書簡じゃないですか。」
「はい、これはですね。京都の木戸孝允様が長州の・・・」
先ほどのベストを着こなしたおじさんが説明してくれました。
「ひぇー、はぁ、はぁ・・これがあの・・・」
(書簡でこんなに興奮するなんて、大丈夫かいな・・・)と思うおじさんです。
「ママ、パパはどこ?」と実が聞いてきました。
「女将さんと階段上がっていったでぇ。」という由縁です。
「ええんか。部屋はどこや。」と智勇が聞きます。
「あっ、大変!部屋がわかんなくなるわ。さあ、みんなも上に行って!」と私がはっとしていいました。
「おっ。階段や。きたなぁ!」と実が言っています。
「旧いとか、趣のあると言いなさい!」と私がしかりつけます。
「音がなる床やスゴイ!」
「わぉ!すべるでぇ!」
例によって騒がしいです。
ようやく、部屋につきました。
「お食事は何時にしますか。」と女将さんが聞きました。
「そうですね。6時がいいかな。」と主人が答えます。
「わかりました。」
「その時間にお部屋にお持ちしますので、それまでは外湯巡りでもなさってください。入浴券は入り口のカウンターもらえます。」
「外湯巡り??」と主人が首をひねります。
「ご存知ないのですか?」
「ご存知も何も、温泉巡りが未経験で・・」と主人が笑います。
「城之崎は、7つの外湯がありまして、それぞれ特徴ある外観と内装をしています。内湯もありますが、順に外湯巡りをして、楽しんでもらうようになっているのです。各外湯はこのパンフレットに詳しく書いてあります。また、スタンプを押して頂けますので、ぜひ、7湯を踏破してください。」
「へえ、すごいや。知らなかった。美人の湯とか、開運・招福風呂、洞窟風呂なんてのがあるぞ。」とパンフレットをみて驚く主人です。
「へえ、美人の湯につかると美人になれるのかしら。」と私も言います。
「パパ、洞窟風呂行きたい。」と言う智勇です。
「よしよし、外湯全制覇だ!イェーイ!」
「イェーイ!」
「イェーイ!」
「イェーイ!」
そう言って、主人は腕を振り上げ気勢を上げますが・・・
「あ!・・・・・」
何かを思い出して、元気なく座り込みました。
「どうしたの?」と私が聞きます。
「忘れていた。僕は共同浴室の風呂は入れないんだ・・・・みんなで楽しんでおいで、写真でも撮ってまっているからね。」
「エー、急に何を言い出すの。どういうことなのよ。」と私はびっくりです。
「病気ですか?どこかケガでも?」と女将さんが聞きます。
「違うんですよ。僕はオッパイとおチンチンのあるこんな体なんで、裸になれないんですよ。」
「あっ、そうか。パパにはそれがあったけ・・問題だわ。」と納得する私です。
「あら、大丈夫ですよ。水着をきれば良いじゃありませんか。」と女将さんが言ってくれました。
「水着?」と主人が驚いて聞きます。
「原則水着は禁止ですが、外国人の中にはどうしてもだめだと言う人がいましてね。外湯は大丈夫ですよ。」
「え?本当なんですか!」
「水着も土産物屋で売っていますよ。」
こうして、主人と宿から近い土産物屋さん行きました。大きな布を日よけにしているお店です。主人のまだ真っ赤なあの衣装です。
「ここね。あるかしら・・」
「無いところもあると言っていたからな。」
主人は土産物屋さんで声をかけます。
「すみません。」
「いらっしゃいませ。」とお店のおばさんが答えました。
「水着ありますか?」と主人がききます。
「水着ですか。ありますよ。ちょっとお待ちください。」
「あるってよ。」と私がいいます。
「バンザイ!これではいれるぞ。」
子供達はちゃっかりしています。笑顔になったのを見てすかさず聞きました。このあたりは抜け目がないです。
「パパ、なんか買っていい?」
「ただ、待っているの暇やねん。」
「いいよ。但し、百円以下だぞ。」と笑顔で答えます。
「わかった!」
「ラッキー!」
出された水着を見て主人がうなります。なかなか派手で素敵な水着ばかりなんですが・・
「う、これですか・・・」
「すみませんねえ。外人向けなんで・・」とおばさんは気の毒そうにいいます。
「仕方ないなあ。」と主人は不機嫌です。
「無いよりましよ。」と私がいいます。
「頂きます。いくらですか。」
水着を袋にいれて、主人がぽつりと言いました。
「温泉行くのやめようかな。」
「何を言っているのよ。みんな楽しみにしているのに。」
主人の元気が無いのに気がつかないで子供達は無邪気に喜んでいます。
「ラッキーやったな」と言う智勇です。
「もうけ、もうけ」と言う由縁です。
「パパ、こんなのかったでぇ。」と実が主人に買った物を見せました。
それを見てニコニコして言いました。
「おお、そうか。良かったな。おまえら、明日の小遣いを先食いしていることを忘れるなよ。」
「え?!うそやん。話がちゃうで・・」
「えげつな。そんなのサギや。」
「あほか。だれが別に小遣いをやるといった。」と言う主人です。
「えーえ!」
「わぁ、よう考えて買うたら良かった。」
「それやったら、こんなの買えへんでぇ。」
「どういうことや。さっきとちがうでぇ。」
「きっと、ロクな水着がなかったんや。」と言う智勇です。
「ひぇー、とんだとばっちりや。」と嘆く由縁です。
「パパ、なんか機嫌悪いなあ。オンスか。」と実か言います。もちろん、オンスと何か解っているわけがありません。
「あほか!」と智勇です。
「なんとか、機嫌を直さんとヤバイでぇ。」と由縁がつぶやきます。
さて、部屋に帰って水着を着けますが・・
「ひゃはははは・・確かにこれはスゴイわ。」
なるべくおとなしいものを選んだのですが、黒いパンティーのお尻にでっかい日本国旗がついています。
「外国人向けだからなあ。履くのやめようかな。」
「まあまあ、いまさら・・タオルではなかなか隠しきれないわよ。」
「げっ・・こらあかんわ。」という智勇です。
「でも、パパ、似合っているよ。」と励ます由縁です。
「す、素敵だよ。」と智勇もなんとか取り直そうとします。
「おもろいで、うけるわ。」と実は無邪気です。
「おまえら、無理してほめてないか。」と主人は渋顔です。
さて、それはさておき、全員が浴衣に着替えます。秘書時代に花嫁修業、もとい女修行をさされた主人は着付けもできます。私よりずっと上手に着こなします。アップにまとめられた髪はうなじも綺麗です。
「わあ、浴衣はカッコイイでぇ。」と思わず由縁もいいます。
「へえ、きれいね。」と子供の着付けをしていた私もいいます。
(チャンスや。ほめとかな。)と思う由縁です。
「いょ!浴衣美人!」
「日本一!きれいでぇ。」
「あの・・ママは?」と私がいいますが、無視されました。
「そうかな・・」と主人もまんざらでも無いようです。
「ほんとうに綺麗や。」
「見違えたでぇ。」
「女らしい色気があふれとるでぇ。」
「パパは男だから女らしいといわれもうれしくないよ。ほめても何もでないからね。」
「そう・・でも、綺麗や・・」
「あかんがな。」と実がぼやきます。
「あほ、女らしいとかいうからや。」と由縁が実をたたきます。
「パパは男女でほんまにめんどくさい。」と小声でぼやく由縁です。
「まったく、ほめてほしいんかほしないんか。どっちやねん。」と愚痴る智勇です。
1階に降りてきました。みんなが出ようとすると女将さんが声をかけます。
「あら、お出かけですか。良い水着がありましたか。」
「うーんと言ったところです。仕方がないんで我慢します。」
「そうですか。なるべくタオルで隠すようにすれば良いですよ。」
「ありがとうございます。」と軽く会釈して出かけました。
我々が出かけた後ろ姿を見送りつつ、女将さんがいいました。
「あれで、男だなんてもったいないねぇ」
「ああ、ホントに綺麗だね。あんな子持ちにはみえないよ。」
「うちにスカウトしたいもんだね。」
「ははは」
カランコロンと下駄の音を響かせつつ、夜道を歩きます。
「幸せを招く湯、鴻の湯というがあるぞ。」という主人です。
「一番近いみたいだしそこから行きましょうか。」と私が答えます。
そのとき、子供達は数メートル離れて歩いていました。ところが、実がすっ転びます。
「あっ、転んだ!」という私です。
「下駄はなれないからなあ。」と主人はのんきに答えます。
「怪我はない?!」
そう言って私は思わず助けようとしますが、主人は羽織を広げて通せんぼうをしました。そして、離れて声を掛けます。
「大丈夫か?痛いとこはないか?自分でおきてみろ!」
主人の躾は厳しいです。何事もまずは3人で解決するように言っています。それ故、手をだしません。
「パパ、ちょっと、待ってぇな。」
「実、どうや。」と智勇が下駄を持って声をかけています。
「うん、たいしたことない。」
「そうか。」
そのときです。まぶしい光が注ぎまた。車が来ました。旅館街はそう広くはありません。危ないです!
主人は浴衣をまくり上げて駆け出しました。太股が丸出して駆けます。下駄が片一方抜けても気にしません。片膝をついてしゃがむと羽織で3人をかこみました。
主人の側を車かゆっくりと通り過ぎてゆきます。よかった!大丈夫です。
「おまえら大丈夫か!」とニコリと笑いました。
私は下駄を拾って主人に渡します。
「パパ、下駄が・・」
「ママ、ありがとう。」
乾いたアスファルトです。足袋が少し汚れましたが払えば大丈夫です。
「実、はやくしろよ。」
主人は何事も無かったかのように、笑いながら先に外湯へ進みます。これが主人です。厳しく突き放したようでありながら、いざと言うときはちゃんとしてくれます。家族を守る父親です。
鴻の湯につきました。和風の造りもモダンな外湯です。下駄を脱ぐとさっと向きを変えて整えてくれます。下駄には宿の名前が書かれいるので自分ものとわかります。
「へえ、ちゃんと整えてくれるのね。」
そう言って主人の方を見ると、主人は「女」と書かれたのれんの前でたたずんでいます。どうしたのでしょうか?
「どうしたの。中に入らないの。」
「僕、女湯は初めてなんだ。」
「えーーえ?!」
「女性更衣室や女性トイレは入ったことあるけどね。」
私より立派なおっぱいをして何を言っていっているやら。まったく、めんどくさいヤツです。子供達は何の躊躇もなく入っていきます。
「あいつら、どうして、平気なんだ。」
「いつもは、私と入っているからね。パパは個室浴かシャワーだけど。」
「しかし、女風呂だろう。」
「何言っているのよ。みんなが変に思うわよ。さっさと入って!」
そう言って、押し込みました。
「わぁわぁ・・」と目をつむっています。意外とシャイなヤツです。
独り恥ずかしそうにしている主人でした。まあ、これだけ恥ずかしがれば、海パン姿でお風呂も納得でしょう。
「ワオ、女だらけだ。しかも裸だ。どうしてみんな平気なんだ。」
当たり前でしょ。自分も女なんだから・・初めての女風呂に興奮しています。タオルで胸を隠し、恥ずかしそうに洗い場に行きます。子供達はいつもと様子の違うパパに不思議がっています。
ごろごろ大根足、ゴボウ腕が並び、メロンやナシのカップが並びます。当たり前のことながらみんな恥じらいもなくむき出しです。子供が広い風呂に喜び駆け回る姿をほほえましく見ています。
「パパ、ぼっとしていなで、早く洗いなさいよ。子供に示しがつかないでしょ。」
「おお、わかった・・」
主人はやっと自分の体を洗い始めました。私は智勇の背中をタオルで洗います。
「パパ、あのね。」と実が主人に話しかけます。
そこを智勇がいいました。
「あほ!おばさんや。」
「実またパパと言うとるでぇ。」
「あはは、ほんとだねぇ。」と苦笑いするしかありません。
(やっぱり、ちょっと無理だったかな。幸いなことにだれも男だとは思っていない様子だけど・・)
「パパ、あれなあに。」
「露天風呂じゃないか。」
「ロテンブロって何?」
「屋根のない。青空風呂だよ。気持ちいいよ。行ってみるかい。」
「うん、いこいこ!」
「わーい。ロテン、ロテン」
そう言って、子供に引き連れられて主人は出て行きました。
主人と子供達をほほえましくみていると、湯船のなかの中年のおばさんが聞きました。
「すまません。ちょっと聞きたいんですけど。あの子達どうして、あの女のひとをパパと呼ぶんですか?」
「さあ、私の義理の姉なんですが、男言葉を使う変わった人なんです。それに夫の代わりにいろいろやってもらっているからかな。」
「へぇ、あんな綺麗なおばさんをねぇ。変わっていますね。まあ、子供のことだから・・」
そこに髪の長いお姉さんがやってきました。どうも中年のおばさんの娘らしいです。
「今晩は?かわいいお子さんですね。」
「ねぇ、聞いた。あの綺麗なおばさんがあの子達の父親代わりなんですって。」
「それで、あの人をパパと呼んでいるんですね。」
「そうらしいのよ。かわいそうにねぇ。小さいのにお父さんを亡くして・・」
「え・・その、ちが・・・」と私は否定しようとしますが・・
ここはロビーです。主人と浴衣姿で安楽椅子にすわっています。
「パパ、ここにも鳥がおるで。」
「本当だ。コウノトリの置物だね。」
「そうそう、さっきね。みんながパパと呼ぶのをどうしてかと聞くのよ。」
「ふんふん。それで・・」
「家で父親代わりみたいなことをしていると言ったら、夫を亡くしたと勘違いされてねぇ。」
「ははは、未亡人にされちまったか!そりゃいいや。当面、それでいこう!」
のんきな主人です。
まだ、1日が終わっていません。続きます。