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撮りたいのは日常生活のあなたなんです

続きです。

我が家です。アポイントも取らずに突然尋ねてきたカメラマンにウチはパニックです。だって、片付けが・・

「え?スタジオ晴海のたちさん?こないだのカメラマンだよ。」

「えー、どうするのよ。ウチの中はぐちゃぐちゃよ。」

 そのように玄関で話していると、外からたちさんの声が聞こえました。

「申し訳ありません。片付けとかはいいです。撮りたいのは日常生活のあなたなんです。お願いします。飾らない日常をみせてほしいんです。」

「ああ、言っているんだ。開けちゃえ!」

「えーえ!」と言う間に主人はドアをあけちゃいました。


 ウチは玄関からドア開けて中にはいるとすぐ居間です。廊下などいうものはありません。すぐ日常です。居間の中央にはカーペットがあり、こたつがでんと鎮座しています。テーブル上には、主人の読みかけの新聞が広げられています。


「わーん。姉ちゃんがぶった!」という智勇サトルです。

 ドタドタと由縁ユカリがこたつの上を駆けていきます。

「こら、由縁ユカリ!こたつの上を走るんじゃない!」

 主人が大股でコタツを飛び越えて、由縁ユカリの襟首を捕まえます。主人の格好といえば、黒のタイツの上にホットパンツをいています。ブラウスの上にレース地の上着をきていました。

「だって、智勇サトルが・・」という由縁ユカリです。

 主人は由縁ユカリの前に仁王立ちしてしかりつけました。

「コラ!だってじゃないだろ!」

 そして、智勇サトル呼びます。

智勇サトルも来い!話してみろ。なにがあったんだ。」

「あのね。姉ちゃんが・・」と言って泣気顔の智勇サトルです。

「いいから、落ち着いて話せ。」

 智勇サトルがしゃべろうとするのを由縁ユカリがさえぎります。

「だって、智勇サトルがね・・・」

「ちょっと待て、おまえは、後だ!」と主人がとめました。

 しかし、由縁ユカリも負けていません。カメラマンのたちさんを見つけてそちらへ話を振ろうとします。

「あのおっちゃん。だれ?」

「あの人は、カメラマンだ。混ぜ返すな。」

 主人しかりつけようしますが、由縁ユカリは今度は主人の胸に異常を見つけてしまいました。

「パパ、胸にになんかついてる。ブラつけている?」

「おい、こら、パパというなといっているだろ。それに、余計なことをいうな。ママにしかられるじゃないか!」

「ええ、パパ、また、ノーブラなの。パパ・・」

 そう言いかけて、私はしまったと思いました。確か主人は義姉のはずですから、言い直しますが既に遅しです。

「いや・・その、お姉さん・・」

 ところが、たちさんは笑って言いました。

「男なんですってね。晴海淑子から聞きましたよ。」

「ご存知でしたか。」

 私はそう言った後、今度は主人を睨みます。主人は頭をかきながら言いました。

「はは、着替えてきますので・・ちょっと、お待ちください。」

 そう言って奥の部屋に消えました。


しばらくすると、化粧をちゃんとしてスウェトに着替えた主人が戻ってきました。智勇サトル由縁ユカリは主人にまとわりつきます。

「パパ」と「パッパ」と言って足に抱きつきます。主人はかがんでだっこをしてやります。

 ベビーベッドミノルまで、手をせっいっぱい伸ばして「だぁだぁ」というのです。「おう、よしよし。おまえもだっこか。」

 そういうとニコニコしてミノルを抱きました。


「ホントにあの子達たら、パパっ子なんだから。」と笑う私です。

「それって、ちょっと、意味がちがいませんか?」というたちさんです。

「え?そんなこといいませんか?」

「まあ、いいです・・撮ってもいいですか。」

 そう言うなり、カシャカシャと写真を撮り始めました。

(わかった!これなんだよ。彼女・・いや、彼に感じたオーラのようなものは!)


 主人はあぐらをかいて、ミノルを抱いたまま、智勇サトル由縁ユカリを膝にのせます。そして、にこにことした優しげな目で見ています。


「パパ、お腹空いた。お昼またぁ。」

「そうか。もう、お昼だね。千香、何かつくろうか。」

「ありがとう。うれしいわ。」

「休みは僕が作るんですよ。たちさんも食べますよね。」

「いや・・まあいいか。頂きます。」

「そうは言っても、男の料理なんでね。パスタか丼しかできませんけど。」

 確かに主人の作る料理はどこか男です。食材はばっさりとザグザクと切られて、ざっと炒められ、早いです。私だったら、葉っぱひとつ丁寧に水洗いするのですが、そかな繊細さを主人に求めるのは無理です。

(ほお、手早いなあ。)と驚くたちさんです。

 電動ポットの湯を鍋に空けて水を追加します。たっぷりのお湯でパスタをゆでます。その間に野菜を電子レンジで下ゆで状態にして、フライパンで調味料で味付けします。出来上がっものを深皿に分けておき、次の具材にとりかかります。

 そして、パスタゆであがると3等分して、3種類の調理済み具材を混ぜ合わせて、次々と大皿に盛ってゆくのです。


「さあ、できたぞ。今日はイタリアン、シーフード、エビ玉あんかけだよ。」

「わーい。イタリアンだ。」と喜ぶ由縁ユカリです。

「わあ、イカだあ。パパ、とっていい?」と智勇サトルがききます。

「いいよ。おまえねイカ好きだな。」

「えーえ!あの時間で3種類ですか」とたちさんです。

「主人はいつも何種類かをいっぺんに作るんですよ。」

 よく見るとどれにもシーフードミックス、タマネギ、キャベツとニンジンを使っており、ケチャップ、塩、卵とあんなど味をかえているだけなのです。

「おお、エビ玉あんかけは新作じゃん。」と喜ぶ私です。

「あはは、適当に作った天津飯風に作ったエビ卵とあんかけだけどね。」

「これって初めてなんでしょ。いつもながら本をみないでよく作れるわね。」

「そんなのいるか。一度食べたら適当につくれるだろう。あんかけなんて、だし汁を片栗粉でドロドロしたものをかけるだけだろ。」

「普通、それをパスタにかけますか。そこが才能なのね。とてもかなわないわ。」

 人間どこに才能が隠れているかわかりません。くれぐれも言いますが、日常の食事は私です。作っている回数は10倍以上多いのです。そんな私が新しい料理は、本と首匹でつくるのに、主人はレシピを見て素材と調味料が把握できるとそれだけで似た物を作ってしまうのです。

 主人はよく言っています。「いいか。料理はその文化培われた常識の範囲内でないとまずいゲテモノになるんだ。しかし、それだけだと新鮮さはない。だから、ぎりぎり僅かに外れたところを狙うんだ。」

 主人なりの料理哲学らしいです。確かに主人は驚くような新作をつくるですがどれもうまいです。


「ほお、これはいけますね。こっちを頂いてもいいですか。」

由縁ユカリはイタリアンがいい。」

「パパ、ああ、卵かけちょうだい。」

「いろいろ、食べろよ。どれもおいしから・・」

 そう言って、子供には皿に3種類を盛ってやってます。3種類もあるので舌先が変わってどれもおいしいのです。たちさんもすっかりカメラを忘れてパスタに夢中です。皿がほとんどなくなってから、ハタっと気がついてシャッターを押していました。


 食事が終わると居眠りでした。ミノルはあぐらをかいた主人の股間で丸くなり、由縁ユカリ智勇サトルは両膝を枕に寝ています。

「あら、あら、居眠りしたわ。」

「おお、かわいいな。」

 カシャ、カシャ という音です。


 そして、しばらくすると・・・私は主人の腕を枕に寝いてました。そして、たちさんもいつの間にかに・・クー、グウー、ゴー、スー・・。

「あれ、みんな寝ちゃっているよ。困ったなあ。トイレもいけないぞ。」

主人ひとりが困り果てていましたけど・・


 ここはスタジオ晴海です。たちさんが緊張した趣で座っています。その前にいるは社長の晴海さんです。社長は渋顔でうなっています。

「これが、おまえがわざわざ家まで押しかけて取り直した写真か!」

「ええ、そうです。」と自信をもってたちさんは返答します。

「フィルム代に交通費とウチみたいな弱小スタジオに手痛い出費を出させて取り直して写真家か。」

「たぶん、そうだと思います。」とやや自信なげにたちさんは返答します。

「うーん・・・」


 そう言って黙り込みました。

「あのう、費用は自腹でも・・・」

 あーあ、とうとう、自腹でもと言い始めました。

 そのときです。社長がにこりとしました。

「よくやった!これは良いぞ。」

「そうでしょう。男というのにまどわされました。実は父性としいより母性だったのです。母親の胸に抱かれいるよな雰囲気があるんです。なんだかとても居心地がよくてね。つい、居眠りしてしまいました。」と自慢げにいうたちさんです。

「そうだな。写真にも母親の慈愛があふれている。」

 そこには、主人がミノルを抱き、由縁ユカリ智勇サトルがそばで笑う姿が写っていました。主人の目は実に優しげです。

「ところで、今回の取材は自腹で良いと言っていたな。」

「と、とんでもない!はは・・自信作ですよ。そんなこという訳ないじゃありませんか。」 たちさんは冷や汗たらたらでした。

「よし、今回のパンフレットのテーマはこれでいけ!文章も書き直しだ。ライターに言っておけ!」

「えーえ。」

「それから、今たのまれている雑誌があっただろ。クライアントに頼み込んでくるからタイアップ原稿に変えるんだ。絶対、いいものになるぞ。」

「えーえ!いまからですか!」

「そんなの-。」

「やるんだ!どうもいまひとつなんで、悩んでいたがこれを見て吹き飛んだ。イマジネーションがわくぞ!」

 なんだかえらいことになりました。そもそもは、会社のパンフレットのモデルだけだったのですが、こうして主人は婦人雑誌のモデルもやることになったのです。


 その雑誌の発売日、私は雑誌を5冊も買って、レジに並びます。レジには石井さんがいました。私は石井さんに自慢します。

「見て!見て!これウチのパパ。」

 そこにはミノルに笑いかける主人が表紙写真として写っています。

「ほう、あんたとこの旦那さんやないか。」

「すごいやろ。」

「エー、モデルになったんか。」

「いや、今回だけよ。スタジオの社長さんが頭を下げてきてね。」

「でもいいんか。旦那が男とばれへんか。」

「他のモデルは書くけど、主人はどこの誰とも書かない。聞かれてもいわないことが条件なの。」

「ふーん。」

 もっとも、綺麗な女人が写る表紙写真のどこに、「パパ」「旦那」と呼ばれる人がいるのかわからないでしょうけど・・・


 ここは会社の地下ラウンジです。雑誌を広げて田井さんと小田さんがしゃべっています。そこに、泊さんと主人が通りかがりました。

「おぅ、おまえら何してんだ。」と泊さんがききます。

「あっ!日下部さん、すごいですね。とうとうモデルデビューですね。」と田井さんが答えます。

「なんだい。それは!」と泊さんがききました。

「うぁっと、おまえらその雑誌みたのか。バレるよな・・」と主人が嘆きます。

 そこには主人が表紙写真として写っている婦人雑誌が広げられていました。

「赤ちゃん特集か。おまえらどうして知ったんだ。」と泊さんがききます。

「だって、これはウチの会社とのコラボでしょ。会社の取材もいっぱい載っていますよ。総務人に教えてもらったんです。」という田井さんです。

「他にもおむつメーカーを始めに赤ちゃんグッズの会社が軒並み加わっていまけど。」

「でも、先輩のは表紙写真ですよ。スゴイでしょ。」

「こっちもあるんです。ここ、すごく良い雰囲気です。」

 数ページめくると、両開きページ一面に、公苑でベンチに座る3人の美女の写真が写っています。真ん中に座るのがミノルを抱いた主人です。背景には由縁ユカリ智勇サトルが走り回るが写っています。モデルさんは鳴戸さんともう一人います。主人はこれをみていいました。

「いやあ、これを撮るときときは大変だったんだぞ。」

「赤ん坊のミノルさんが泣いたの?」

「いやあ。おとなしいものだった。」

「じゃあ。なにが?」

「じつはなあ・・」

 主人は撮影時の苦労話をし始めました。


 そのシーンは、公園のベンチに主人がミノルを抱いてすわり、隣にすわる鳴戸さんがのぞくと言うシーンでした。もうひとりモデルさんがいますが少し後ろから覗いています。カメラは大型カメラでたちさんが構えています。晴海さんがレフ板を持ち風をみながら、鳴戸さんと主人に下から光をあてています。

 たちさんは、鳴戸さんの表情がどうも気に入りません。綺麗なのですがどことなく視線か冷たいのです。

「鳴戸なんだ!それでもプロか!」

 とうとう、たちさんは怒り出してしまいました。

「エー。ちゃんとやってますよ。」と鳴戸さんは不満顔です。

「それが愛情ある顔か!今回のテーマわかっているのか!」

「大体無理なのよ。私は独身だし、子供を産んだこともないのに。」

「そんなの関係あるか。プロだろ!赤ん坊はかわいくないのか。」

「できません。赤の他人の子供に愛情を示せなんて無理です。」

「バカヤロウ!・・・そんなのできないくらいなら、やめちまえ!」

「やめてやるわよ。だれがこんな弱小スタジオでなんか!」

 悔しいのか半分涙目です。


 主人がにこりとしてなだめます。

「まあまあ、鳴戸さん。大丈夫だよ。」

「え・・」

「女ひとはだれでもお母さんになれるんだよ。」

 主人が素敵な笑顔で言葉を続けます。

「子供というのは絶対依存なんだ。」

 主人はミノルの小さな手を持って差し出しながらいいました。

「この子の手に、君の指を出してごらん。」

 鳴戸さんがミノルの開いた小さな手に指を出すと、ミノルはその指をぎゅっと握りました。

「ほらね。君を信じて、すがっているのわかるかい?」

「あっ、本当だわ。じっと、握っている。かわいい!」

「鳴戸!良いぞ。その顔だ。できるじゃないか!」と叫ぶたちさんです。

 こうして無事にほほえましい写真がとれました。


 撮影が終わって、鳴戸さんが主人にお礼を言っています。

「今回はありがとうございました。」

「いやいや、たいしたことないよ。」

「日下部さんの言葉で助かりました。まるでお母様のような気がします。」

「お母さんって・・・・おいおい・・参ったなあ。」

「いえ、亡くなった母を思い出して・・亡き母のかわりにお母さんと呼んでいいですか。」

 そう言って、主人の立派な胸に顔を埋めてしまいました。

(とほほ・・・僕は男だと言っているだろ。それに母親はやめてほしいな。こんな大きな子供はいないんだけど・・・)




赤ん坊か指を握るのは単なる反射だそうです。日下部拓也はそれをうまく利用しただけです。


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