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京都の撮影会

 秋の京都です。紅葉がきれいです。観光客もいっぱいいます。本日は、東亜製薬写真グラブの秋の撮影会です。いつもの北村、栗木、日下部と泊の4人です。本日は奥山さん来ていません。

「おっと、日下部、人物をあんまり入れるなよ。」

「えっ、どうしてなんです。」

「最近は、肖像権というものがあって、うるさいんだよ。特にきれいな女性には気をつけろよ。」

「え?」

「とってもいいかと聞いて了承をもらってからから撮るんだ。」

「うんと言ってくれるんですか?」

「日本人では、まず、ないなあ。特に、女性はNGだ。」

「それじゃあ。撮れないじゃないですか。」

「そうだな。しかし、賞を取った作品が発表されたあと裁判沙汰になったことがある。特に男女二人連れには注意しろ。」

「どうしてなんです。」

「写真が公開されたとき、ウチの人がどうしてこんなところにいるの?この女の人はだれだ?・・・わかるだろ。」

 そう言って、泊さんはにやりと笑います。

「それって、うわき・・・」

「しかし、外国人は、わりとOKだ。旅は恥の掻き捨てというからな。国内の作品の場合、撮られた外国人が写真を見て訴えることはまず無い。世界中にばらまかれたその限りではないが、俺たち作品が国際的な賞を取るなんてまずありえないだろう。」

「なるほど。」

「それと子供も大丈夫だ。母親に聞けばまずOKがもらえる。我が子が写真に撮られるのはうれしんだ。」

「確かにねえ。うちの子かわいいから、見て見てという親がいますよねぇ。僕だって、そうかもしれない。」


 なかかな、綺麗なところがありました。後ろには、藁葺きの小屋があり、赤い布をはったちょっとした台があります。まさに、撮影にお使いくださいと言わんばかりの場所でした。タイミングがよく女性の2人連れがやってきました。しかも、その中の1人は白人で、外国人観光客のようです。外国人としては、珍しい和装の美人です。泊さんは早速声を掛けました。もちろん、日本語ですが・・・

「カメラありますか?写真を撮りましょうか。」

「お願いします。」と、一人の東洋人が日本語で答えて、カメラを渡してきました。この人は日本人らしいです。

「そこに座ってください。はい、チーズ。そうそう、綺麗ですね。もうちょっと、寄って・・」

 何語かわからない言葉で、その日本人は、和装の白人女性に声をかけています。泊さんがパチリとシャッターがおしました。

「はい、これでいいですか。」と、にっこりと笑ってカメラを返しました。

「ありがとうございます。」と日本人女性が答えました。

そこですかさず、泊さんが頼み込みます。

「ついでに、写真を撮ってもいいですか?着物姿というのはめずらしいんでね。」

「いいですよ。」

 言質をとればこっちのものです。その場所にいたクラブ員4名が一斉にシャッターをきります。

「え、え、・・・」と、驚く女性二人連れです。

泊さんが説明します。

「こいつらは、同じ写真クラブなんですよ。観光ですか。日本人ですよね。こちらの女性はどこの国から来られたんですか。」

「フィンランドのですよ。ペンフレンドでしてね。」

「ゲ・・今のはフィンランド語!」と驚く北村さんです。

「まあ、そうです。私の専門です。勉強のために文通をしていたら日本きたいと言ってきたんです。」

「なるほど。しかし、着物を綺麗に着こなしていますね。着付けをされているですか。」

「はは、レンタルです。着付けもしてくれるんです。」

「では、ありがとうございました。」と泊さんはにこにこしてお礼をいいました。

「ありがとうございました。」と言う北村さんです。


 その後、歩きながら話をするメンバーでした。

「なかなか、美人の方でよかったですね。」

「うん・・おまえも、ちゃんとすれば負けていないぞ。」

「いやあ、あの人はモデル並みの美人じゃありませんか。とてもかないませんよ。」

「おまえ、その認識は間違っているぞ・・・まあ、いいか。」

「そういえば京都だと、たまに、モデル撮影をしているを見かけますね。雑誌の取材でしょうか。」

「たぶんそうだろうな。観光地とレストランを、プロカメラマンがモデルを使って撮影をしているのだろう。当然、ただ乗りはいかん。でも、撮影会のようなイベントでのモデル撮影はOKだ。」

「そんなイベントをやっているんですか。」

「最近は、多いぞ。桜祭りとかのイベントに、舞子さん、モデルや俳優を呼ぶことがある。この人達は撮られることが前提としているからいくら撮ってもいい。」

「しかし、ななかな、大変ですね。ポーズとか指示しにくいし、撮影会なんて、そうないでしょう。」

「それはそうだな。でも、簡単で確実な方法があるぞ。」

「それって、なんなんです!?」

「仲閒の一人がモデルになることだ。」

「美人でないとだめでしょ。そんなのいますか?」

一斉にみんなの目が主人に向かいます。

「・・・・・ん?」

 主人はみんなの目が自分に向かっていることに気がつきます。

「ぼ、僕ですか。だめですよ。僕は男ですよ。」

「関係あるか!そんな化粧をして・・」

「そんなに綺麗なのに何を贅沢言っているの。」と言う北村さんです。

「おまえなら、写真も映える。だめなのか。」

「ともかく、いやです!」と、主人は強く拒否しました。

「まあ・・しかたがないか。この話はなかったことにしよう。」と言って泊さんが納めました。


京都は紅葉の名所がいっぱいあります。その京都を数キロはするカメラとその関連品を抱えて、右京や左京を行ったり来たりするのですから、大した体力です。三脚は重い方がしっかりするのだとかで、重量級のものを持っています。アルミなんて使いません鉄です!鉄製です。高倍率ズームレンズなんかそれだけで数キロもある砲弾が飛び出しそうな重量級です。それでも、泊さんは昔に比べると軽くなったなあと言っていました。昔はどんなだったのでしょうか。


 いい天気です。はらりと色とりどりの葉っぱが渦巻く中、東亜製薬の写真クラブの一行は、パシャパシャと写真を撮っています。

「おっ、天竜寺へ入ってみるか。ここの紅葉も綺麗だぞ。」と、泊さんがいいました。

「そうなんですか。いいですね。」

 ここは庭園の入場料がいる上に、方丈へ上がるのは別料金です。観光客も多いです。

「わあ、人も多いから大変だあ。きれいですね。」

「すごいだろ。」


本日の主人は、顔を隠していませんし、女らしいブラウスにかわいいスカートを履いています。但し、スカートの下は、スパッツで、膝を立てて平気で写真を撮っています。まさに残念美人です。

「おっ、日下部!そこで止まれ!上をみ上げるんだ。」

「こうですか。」

「はい、笑って!」と言う北村さんです。

「目線はカメラのほう、こっちだ。」と栗木さんが言います。

「あっ・・撮らないで!モデルはしないと言ったでしょ!」

「ははは、釣られたおまえが悪いんだ。」

 怒る主人は可愛さに、上機嫌の泊さんでした。


キシキシと音を立てて、黒のストッキングの上にスパッツを履いた足が近づいてきした。縁側でその足がそっと折りたたまれ一人の美女が正座しました。大きなカメラをコトリと脇において、黄色いリュックからペットボトルを取り出しました。緑の瓶に赤い唇をあてて、コクリと緑液体を白いのどに流し込みます。おいしそうな笑顔です。サアーと涼風が何枚かの赤い葉っぱを運んできました。栗色の髪の毛か揺れて、分け目にその1枚が留まります。赤いかんざしをしたようで綺麗です。それは、方丈に上がって、縁側に正座してお茶を飲む主人でした。

 カシャ、カシャ、カシャというシャッター音の連続の後、シャー、キュルキュルと音が鳴っています。これはフィルムの自動巻き上げの音です。当時はまだフィルムの全盛時代です。

「うあ、また、フィルムが無くなった。」と、泊さんがうなります。

「え? また、僕を撮っていたんですか。フィルム、大丈夫ですか。」

「10本パックだ。まだ、5本ある。最近、消費が激しいな。」と、にこにこして言います。

「36枚撮りでしょう。同時プリント出すんでしょう。大変じゃないですか。」

「おれの出すところは現像代込みで1本1200円だ。心配するな。おまえがいい顔をするんでついシャッターを押してしまうんだ。」

「その割には作品になっていないように思いますが・・まさか、ため込んでニマニマと眺めているんじゃないでしょうね。気持ち悪い!僕は男ですからね。」

「見てきたような事をいうな。」

「え?ホントなんですか!」

「そんな訳あるはずないだろう。冗談に決まっている。しかし・・・なんで洋服なんだ?」

「え?」

「桜の花びら、木の縁側・・・と言うと、白足袋に羽織りに決まっているだろう。」

「無茶言わないでください。ほら、あそこにいますよ。あ・・・行っちゃった。確かに、難しいですね。」

「着物姿の美人がいたら絵になるんだよなあ。」

「・・・」

「どっかにいないかな。」

「・・・」

「きっといい写真になるとおもうんだが・・どこかにいないかな。」

「・・・」

「なあ、日下部、どこかにいないかあ?」

「わかりました!次回は、着物を着ますから、それで撮影会しましょう。」

(ついに負けた・・・)

「よし!」と、小さくガッツポーズをとる泊さんでした。

 そして、カメラを片付けはじめました。どこかへ移動するのでしょうか。

「さあ、行くぞ。タクシーだ。」という泊さんです。

「え?どこへ。」と驚く主人です。

「貸衣装屋に決まっているだろう。栗木、通りでタクシーを捕まえるんだ。」

「今からですか!?」

「当たり前だ。もう、予約してある。場所は、ここだ。」

「えーー?!」


 貸衣装屋から着物美人がでて来ました。栗色髪の毛を後ろにまとめたかわわい化粧美人の主人です。錦の模様の綺麗な振り袖です。そこには、洋服姿の北村さんもいます。確か、北村さんは、『私も着物を着る!』といって貸衣装さんに入ったのですが・・

「なんだ。おまえも着物を着るんじゃなかったのか。」

「いやあ。日下部さんと並んで鏡の前にたつとみっともなくて・・やめました。」

「そうか・・まあ、賢明だな。」

 主人の方が若くてきれいです。並んで立つと視線の集まりが違います。賢明な判断です。私だって避けているのですから・・

「日下部さんって、着付けもできるんですね。一度は、私の分まで着せてくれたんですよ。」

「そうなのか。おまえ、男のくせにどうして知っているだ?」

「秘書課に配属されるときに、料理から華道までいろいろ花嫁修業さされたからですよ。なにかと着物姿でいろいろさされましたからね。しかも、正月は、毎年、1月3日に着物出勤しなんですよ。まったく、普通は、一般社員は、4日からというのに、正月早々、着物を着た上に会長の相手なんて・・」

「本社では着物出勤していたんですか。知らなかった。」

「いや、本社でも着物出勤はないよ。1月3日に社長会というのがあってな。それに出ていたんだろう。」

「うん、そうなんですよ。会長や社長が見栄張って、きれいどころに着物をきせて侍らせる会合です。おかげて、休みが1日短かった。偉いさんの会食をにこにこして立ってみて見ているだけという実にすばらしい会合だった。」

「嫌みな言い方をするやつだな。仕事始めが3日だったころからある古い習慣なんだよ。」

「その後の新年会に結構いいところへ連れて行ってくれたけど。所詮、じじぃの相手、僕たちのナイショの会ではクソミソにいわれていましたね。いやあ、それでも、レンタルとは言えすごい着物きてたよなあ。この貸衣装屋さんとは次元がちがいますよ。」

「どのくらいなの。」

「この着物のレンタル料にゼロが一つか二ついていた。」

「一日のレンタル料で?!なんという・・」

「こんな安もん着なかったなあ。ああ、せっかくモデル役するのに・・・」

「バカ野郎!そんなに出せるか!」

「ははは、さて、いきましょうか。もちろん、タクシーでしょうね。」

「と、・・当然だ。」と、財布を見つめる泊さんでした。


再び天竜寺です。ここは天竜寺の裏手の嵯峨野竹林です。主人は着物姿に和傘を持っています。その歩く姿も様になっています。枯れた葉を草履で踏み分ける音に、遠くで笹の擦れ合う音がかすかに聞こえています。そこに、カシャカシャとシャッター音が響いています。

「日下部、意外とおしとやかに歩くなあ。」と言う栗木さんです。

「そうよね。スニーカーのときと違って、内股になっているわ。」

「応接室のお茶出しと着物での外出は、『しつけ棒』のお世話になりましたからね。」

「なんだ?それは!」

「僕の黒歴史・・忘れてください。」


鉄製の大型の三脚にカメラがどっしりと備え付けられています。さすがにスタンドライトはありませんが、銀色のレフ板があります。

「木村、これを持っていろ。下から顔に光りを当てるんだ。そう・・いいぞ。」

木村さんがレフ板を持って光を当てると、手持ちで栗木さんが泊さんの背後からパチパチと写真を撮っています。泊さんの周りにいる木村さんと栗木さんはまるで泊先生の弟子です。


「ちょっと、花魁風に肩でも出しましょうか。」

 主人は男の癖に私よりずっと立派な胸を持っています。黄色人種の私と違って陶器のような白肌です。その主人が襟元を広げて見せると、ぐっと色気が出てきます。男が何興奮するかを心得ている主人です。

「あれ?ブラジャーつけてないのか。」

「和装では付けませんよ。ちなみに、パンツははいていますけど。見ますかあ。」

 そう言って、着物の裾を開いて、少し足をだして見せる主人でした。確かにスリットの用に開かれた着物から白い太股が・・。男どもは誰もがつばをごくりと飲み込みます。

「・・・馬鹿野郎!からかっていやがる。」

 

「はは・・・こんなのどうですか。」

 ほのかに笑いながらの流し目・・いろんな表情をしてみせる主人です。

「う、うう・・・いい!いいぞ!」

 その時、キュルキュル、シャー、カチとフィルムの巻き上げる音がしました。

「あ、・・・フィルムが!だれかもってないか。」

「僕のリュックに、まだ、2、3本入っていますよ。1本、千円でいかかです。」

「う・・・」と唸って、財布を見つめる泊さんです。

「フィルムを買いに行っているヒマはないですよ。どうしますか?」

「足下を見ているな!そんなにだせるか。」

「はは、ウソですよ。差し上げます。どうせ、モデルをしていると写真とれないから・・木村さん、出してあげてよ。」

「俺もなくなったんだ。1本貸してくれるか。後日、返すから。」と言う栗木さんです。

「私も・・・」

 その後、また、フィルムが無くなり、観光地の高いフィルムを買って写真をとり続ける泊さんでした。おお、主人にいくらつぎ込む気なんでしょう。

 結局、20本を超えるフィルムを撮りきり、挙げ句の果てに電車賃も乏しくなって帰宅に付く泊さんでした。


恒例の写真の例会は、主人の写真のオンパレードでした。主人はまじめに紅葉とそれ愛でる人々を撮っていましたが、泊さん主人の写真の枚数は異常です。

「こんなに写真いつ撮ったんですか!?」

「ははは、『オンナの泊』をなめるんじゃねぇぞ。」

 ちなみに、『女の泊』と『花(華)の日下部』は、写真講師の先生が言い始めた異名です。後に、どちらも、それを撮らしたら右にでるものが無いほどなっていました。なかなか、言い得て妙な言葉でした。

「いったい、いくらかかったんですか。展示用プリントだけで、40枚はありますよ。」

「ははは・・・・・」

 クラブの展示用プリントは、4つ切りと決まっていました。しかも、当時で1枚二千円から三千円でした。まったく、主人は傾国の美女じゃないぞう!



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