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飛鳥の撮影会

いい天気です。ここは近鉄電車です。泊さんが電車に乗っていると栗木さんが乗り込んできました。

「おう、栗木か。日下部をみなかったか。」

「見ませんでした。」

「そうか。待ち合わせ時間からして、この電車以外にないのだけどな。」

「そうですね。いやあ、しかし、日下部さんって綺麗なひとですよね。本当に男ですか。」

「ホントだ。まったく、信じられねぇくらいの美人だろ。ミスユニバースにでられそうなくらいだろ。」と、泊さんは笑顔でいいます。

「いや、そこまでは行かないですが・・泊さんの好みですか。」

「そんなことあるか。タダの同僚に決まっているだろう。」

「タダの同僚ねえ。しかし、彼女なら絵になりますね。」

「そうだろ。それに、今回は黄金色の稲穂にヒガンバナだぞ。そして、あいつが花を覗くんだ。これでバッチリだ。」

「まあ、確かに・・今日の撮影会はヒガンバナのはずでしょ。日下部さんじゃないでしょ。」

「・・あはは、しかし、日下部はどこだろう。となり車両を見てくるわ。」

まるで恋人を待ちわびる彼氏のようです。泊さんが隣の車両に行きました。

そこには、スリムなミニスカートに白いブラウスの美女か座席に腰掛けていました。足は薄手の黒いタイツにスニーカーです。その美女は、膝に黄色いリュックサックと帽子を乗せて、近鉄電車のパンフレットを見ています。いつもの化粧美人の主人です。


泊さんは、主人のかわいい格好を見てニンマリとして挨拶をします。

「おはよう。日下部。」

 主人が立ち上がってにっこりと笑って言いました。

「おはようございます。いい天気ですね。すわりますか。」

「いいよ。絶好の撮影日和だな。」

「ん?泊さん。鼻の下のびていませんか?僕は男ですからね。」

「そ、そんな訳あるか。気のせいだろ。」と、神妙な顔をしています。

美人好きの泊さん、本当はうれしくてたまらないようです。そのとき、泊さんの電話がなりした。

「おう、北村さんか。どうした・・・何!橿原神宮前で降りる?」

「どうしたんですか。」

「日下部、どうしよう。北村さんが、切符と自転車レンタルをセットで買ったらしいんだ。」

「いいじゃないですか。得したんですね。」

「それが、橿原神宮駅でレンタルするようになっていたんだとよ。」

「それで、手前の橿原神宮駅でおりると言っているんですか。うーん。でも、確か、飛鳥駅までそんなに遠くないですよ。自転車ならすぐですよ。飛鳥駅で落ち合えばいいんじゃないですか。」

「帰りはどうするんだ。」

「飛鳥駅で解散ということにして、北村さんだけ橿原神宮前で返却すればいいんですよ。帰りの電車は一緒にはできませんが、問題無いです。」

「あっそうか。電話しよう。」

 泊さんは、安心して北村さんに電話します。仕事でいつも頼りにしている主人です。


 こうして、無事に飛鳥駅に到着しました。みんなで自転車を借りに行きます。そして、コンビニへ行きお弁当とビールを買います。

「おう,日下部!これ持ってくれ。」と、言って、泊さんが自転車の前かごにビニール袋を入れます。

「え?どうして・・・」

「おれのリュックに入らないんだよ。頼むぜ。」

「え?は、はい・・」

「じゃ、行くか。」と、笑顔で言います。

「泊さん、北村さんがまだですよ。」

「そうだった。もう少し待つか。」

 そう言って、泊さんはタバコに火を付けました。


そうこうしているうちに、北村さんが飛鳥駅から出てきました。

「え? 橿原神宮駅からじゃないのか。」と、泊さんが言いました。

 なんと北村さんは電車で飛鳥駅にきていたのです。

「すみませんね。ネットで申し込んだら、借りる場所が橿原神宮駅になっていたんです。」

「それでどうしたんだ。」と、泊さんが尋ねました。

「ここで借りようとおもって、レンタル券を捨てて来ました。」

「え?大胆な・・・もったいないけど。まあ、その方が早いな。」と、納得する泊さんです。

「これで帰りは同じになりましね。いいじゃないですか。」と言う主人です。

「じゃあ、行くか。」

「ちょっと、まってよ。私、お弁当まだなの。」と、北村さんが止めました。

「ちぇっ、しょうが無いなあ。ほれ、行ってこいよ。」

 そう言って、また、タバコを吸い始めました。程なく、北村さんがコンビニから出てきました。

「すみませんね。待たせちゃって。」

「じゃ、行くか。」

「泊さん、ちょっと、日下部さんがいませんが・・」と、奥山さんが泊さんを止めます。

「ホントだな。」

「トイレにいくとか言っていましたよ。」と言う栗木さんです。

「仕方が無いなあ。待つか。ふふふ。」

「泊さん、なんかうれしそうですね。」

「そ、そんなことあるものか。」

 程なく、主人がトイレから出て来ました。


 その主人の姿を見て、くわえタバコを落としています。

「はぁ・・・・おまえ、その格好は・・」

「どうかしましたか。」と言う主人です。

 なんと主人はつばひろの帽子をかぶり、サングラスに、ショールで首、肩や口を覆い、タオルで側面を隠し、手は軍手です。かわいいミニスカートも足の見えないジャージパンツに変わっています。すなわち、恥も外聞なく、日よけ対策をしているのです。

「何だ!そのかっこうは!」と、思わず怒り出す泊さんです。

「日よけ対策ですよ。僕は、色が白いんで太陽に弱いんです。」

「化粧はどうしたんだ。」

「UVクリームをベタベタに塗っていますよ。白粉とか口紅は、ショールに付くので落としていますけど。」

「その格好、恥ずかしくないのか。」

「別に、野原で写真を撮るんでしょ。格好なんて気にしていられないですよ。」

「さっきは、スカートはいてなかったか。」

「僕はつい男乗りしちゃうんで、スカートで自転車乗れないんですよ。まえに、妻と子供にメチャクチャ怒られました。」

「まあ、パンツ丸見えはいかんが、しかし・・・」

「写真を撮るのに関係ないでしょ。」

 『おまえを撮るための撮影会だ。顔を隠してどうするんだ。』とは口が裂けてもいえません。泊さんはがっかりしていました。

「じゃ、行くか。」

 最後の『じゃ、行くか』の元気の無さに、首をかしげる主人です。


 秋の稲穂は黄金色で綺麗です。その中に,ピンクのスカートを履いた美女が一人,赤い曼珠沙華の花をそっとのぞき込んでいます。そこには、アゲハチョウが1匹とまっています。

「わあ、綺麗、泊さん、チョウチョですよ。」と、笑って言いう主人です。

主人の栗色の髪が昼下がりそよ風に揺れています・・・と言うのは泊さんの空想世界です。


実際は、栗色の髪を無造作にくくり、サングラスとショールで顔を隠した得体の知れない女が、三脚で写真撮影しています。ジャージ姿で泥を足に付けてもお構いなしです。主人は、花の撮影が好きなんです。


昼ご飯はみんな並んで食べました。

「おっと、さっきの荷物、ありがとうな。お礼にこいつをやろう。」

そう言って、主人に渡したビニール袋から取りだしたのは、500mLの発泡酒です。

「ああ、それはビールだったんですか。」

「昔は飲んべぇの会員もいたんだがなあ。みんな卒業してしまって・・」

「僕だけですか。」

下戸ばかり写真クラブの中で美人の飲み友達のできた泊さんはうれしそうです。

「ほら飲め!もう一本あるぞ。」

そう言って、500mLの発泡酒を取り出す泊さんです。

食事ですからサングラスを外し、ショールも下げて、かわいい唇が見えています。軍手も外しており、マニキュアをした指が綺麗です。にんまりと主人を眺める泊さんでした。

うっかりと、食後もそのままで、大好きな花を夢中になって撮影していました。これはチャンスと、泊さんがこっそりと主人を盗撮していたのも知らずに・・・


 泊さんが主人に話しかけています。

「おい、日下部、絞りはいくらだ。」

「うーん、f13です。」

「絞り優先でもうちょい、絞ったほうがよいぞ。接写なんだろう。そのほうが写真がしまる。」

「へぇー、そうなんですか。」

「ボケの味という要素もあるがそっちの方がいいぞ。」

「ねえねえ、泊さん。この場合のどうなんですか。」と、口を挟む北村さんです。

「適当でいいんだよ。」

「適当・・て、泊さん。日下部さんに態度が違うんじゃないですか。」

「北村さん、違うよ。自動でやるほうがいいと言う意味だよ。北村さんの対象は風景だろう。機械任せのほうがいいんだよ。泊さんもちゃんと説明してよ。」

「ああ、ごめんな。ここはなあ・・・」

 でもなんだか泊さんの態度が微妙に違うようです。美人好きの泊さんに主人のようなかわいいクラブ員が現れたらこうなって当然です。しかし、相手は女扱いを嫌う主人です。普通だったらここから、女同士の気まずい関係に発展してゆくのですがどうなることやら・・

せっかくだからそば畑をバックにと集合写真を撮る泊さんでした。普段はやらないのだから、やっぱり、主人の写真を撮りたいようです。おーい、泊さん、奥さんにばれてもしらないぞー。


 その後、撮影会は続きますが、碌な格好はしませんでした。本日の撮影会の主人の格好を見て、泊さんが叫びました。

「何だ。その格好は!」

 本日は,顔はでていますがサングラスとマスクです。ショートパンツに黒タイツですが、膝当てをしています。顔をほとんど覆ってしまうバイザーをしています。

「何か?」と、言ってジト目でにらみます。

「・・・な、なんでもない。」

「あら、日下部さん。腕にしているものは何?」

「チューブとかいうものでね。腕の日焼け止めだよ。」

主人が腕にしているのは、厚手のストッキングのような筒状のものです。もちろん、手袋はしています。こんなことにやたらと詳しい主人です。

「へえ、こんなものものあるの。」

「じゃ、行くか。」

「泊さん、元気ないねぇ。どうしたの・・」と、まったく自覚が無く、栗木さんに小声で聞く主人でした。


柏原 → 橿原 に訂正

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