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愛玩の舞姫  作者: 邑 紫貴
戦人
7/24

忠誠

戦火……巻き込んだのは、彼。そして、ワタシ。準備された物語。願ったのは、ほんの少しの幸せ。

ロスト、あなたも……同じだった?

忠誠


ロストの足は、城に向いていた。

その歩みは、確実に、走ることもなく。未来を予告するかのように。

時間の流れは、ゆっくり、確実に進んでいく。


城の門は、大きく立ちはだかるかのように見える。

しかし、ロストには確信があった。門番は、ロストに尋ねる。

「名は?」

「……ロスト。」

彼の声は、人知の及ばぬ声音。門番は、何を思っただろうか?

きっと、後に思い出す。預言者の声だったと……

「入れ!」


ワタシは疑問に思う。

だって、彼は話したことがなかった。

門番はロストの名を尋ね、耳で聞き、確認して城へと入れた。紙に名を書いたロストではなく……

“彼”も、確信があったのだろう。自分の行為が、きっと声になると。


ロストは、ワタシの近くに来た。その距離は、心は……

今は、ワタシの知らないこと。

ロスト、知って欲しい。あなたの願うのが、死だとしても……あなたを愛した女がいたことを。

この心は、あなたのために、命も懸けるの。愛しているわ。愛玩の舞姫に喜んでなる。それ程なのよ……


「よく来たね、ロスト。願いは何かな?王として、君の願いを叶えてあげよう。」

ロストが行き着いたのは、王の目の前。

王座に座すカイディールは、ニヤニヤと不敵な笑みをしていた。

「王よ。あなたこそ、何を望みますか?」

彼の声に驚いたのは、その光景を見守っていた者たちすべて。

「約束は、覚えているか?」

「約束をした覚えがありません。」

「ふっ。俺に逆らうのか?」

「王よ、あなたは知っている。私が望むものを……」

「だから、君から大切なモノを預かることにしたんだ。」

沈黙が重く、その部屋を包むほどの緊張。時間の流れが、とても長く感じる一瞬。

「ロスト。忠誠を、誓ってほしい。人質と引き換えの忠誠。『舞姫』と対等の……それが、俺の心の支え。」

「誓いましょう。“彼女の為”だと……引き換えの忠誠。あなたに、この知識すべてを捧げます。一生を……」


「……そう、一生。俺の命の限り……」

彼は、預言者ではない。

望みは命を絶つこと。それを、カイディールは知っていた。

「王よ、一つだけ条件を。」

「何だ?」

「……戦に、参加します。」

「…………。ロスト、お前は……いや、いい。俺が、一番よく知っている。では、こちらも条件を。」

部屋に通されたのは、年齢の近い戦士。

「王よ、それは!」

「条件だ。知っているから……聞いてくれ。大国は、お前の存在を調べ始めた。俺が知りえた情報。すぐに、手に入れるだろう。一つの未来のために……」


王は、若い戦士をロストの横に立たせた。

「セイラッド。今日から、お前の主だ。」

「俺は、誰の下僕でもない。自分のために生きる。」

強い目の輝きを持った青年。

「だから、ロストにふさわしい。ロスト、生きろ……願え。小さな幸せ……それは、とても貴重だ。俺が欲しいのは、それだけ。その一つ、そのために……」

「王よ、ブレシニーをブラウンドに返せ。俺は、忠誠を誓った。」

「無理だ。会わせることは出来るが、返せない。ブラウンドからも、理解を得るだろう。自分の存在の大きさ、ロスト……君が……いや、俺が追い込んだ。」


「王よ、事態の緊迫が城を包んでおります。何事……戦火の匂い。敵は、大国タイドフ。急な戴冠式……」

ロストは、口を閉ざし周りを見渡した。

「自信を持て。ここには、お前の言葉を待つ者たちだけ。希望の光……預言者よ。その知識は、どこへ導く?」

「分からない。望みは、行く道を見えなくする。盲目……」

静かな時間。

部屋の者たちの中には、平安があった。一時でも、大切の者との時間を願って……


王は、ロストを案内するようにセイラッドを促す。

部屋を出たところで、ロストは王妃に出逢った。

「ロスト、戦に出るって……」

「カイディールは、良い奴だよ。心配は、いらない。ブレシニーを支えてやって欲しい。」

「会って行かないの?」

「……一生、会わない方が良い。ごめんと、伝えて……」


ロストの心は、見えない。

カイディールが望んだのは、王妃ミラ二ーとの幸せな時間だった。

ロストの望んだものが、同じように幸せな時間だったのか……ワタシは知らない。


ただ、想いは尊く……時間は待ってくれない。

大国の情勢が揺れる。その波紋が津波となって、小さな国ミャーダを呑み込み始めていた。


願うのは、身近な者との幸せな時間…………



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