忠誠
戦火……巻き込んだのは、彼。そして、ワタシ。準備された物語。願ったのは、ほんの少しの幸せ。
ロスト、あなたも……同じだった?
忠誠
ロストの足は、城に向いていた。
その歩みは、確実に、走ることもなく。未来を予告するかのように。
時間の流れは、ゆっくり、確実に進んでいく。
城の門は、大きく立ちはだかるかのように見える。
しかし、ロストには確信があった。門番は、ロストに尋ねる。
「名は?」
「……ロスト。」
彼の声は、人知の及ばぬ声音。門番は、何を思っただろうか?
きっと、後に思い出す。預言者の声だったと……
「入れ!」
ワタシは疑問に思う。
だって、彼は話したことがなかった。
門番はロストの名を尋ね、耳で聞き、確認して城へと入れた。紙に名を書いたロストではなく……
“彼”も、確信があったのだろう。自分の行為が、きっと声になると。
ロストは、ワタシの近くに来た。その距離は、心は……
今は、ワタシの知らないこと。
ロスト、知って欲しい。あなたの願うのが、死だとしても……あなたを愛した女がいたことを。
この心は、あなたのために、命も懸けるの。愛しているわ。愛玩の舞姫に喜んでなる。それ程なのよ……
「よく来たね、ロスト。願いは何かな?王として、君の願いを叶えてあげよう。」
ロストが行き着いたのは、王の目の前。
王座に座すカイディールは、ニヤニヤと不敵な笑みをしていた。
「王よ。あなたこそ、何を望みますか?」
彼の声に驚いたのは、その光景を見守っていた者たちすべて。
「約束は、覚えているか?」
「約束をした覚えがありません。」
「ふっ。俺に逆らうのか?」
「王よ、あなたは知っている。私が望むものを……」
「だから、君から大切なモノを預かることにしたんだ。」
沈黙が重く、その部屋を包むほどの緊張。時間の流れが、とても長く感じる一瞬。
「ロスト。忠誠を、誓ってほしい。人質と引き換えの忠誠。『舞姫』と対等の……それが、俺の心の支え。」
「誓いましょう。“彼女の為”だと……引き換えの忠誠。あなたに、この知識すべてを捧げます。一生を……」
「……そう、一生。俺の命の限り……」
彼は、預言者ではない。
望みは命を絶つこと。それを、カイディールは知っていた。
「王よ、一つだけ条件を。」
「何だ?」
「……戦に、参加します。」
「…………。ロスト、お前は……いや、いい。俺が、一番よく知っている。では、こちらも条件を。」
部屋に通されたのは、年齢の近い戦士。
「王よ、それは!」
「条件だ。知っているから……聞いてくれ。大国は、お前の存在を調べ始めた。俺が知りえた情報。すぐに、手に入れるだろう。一つの未来のために……」
王は、若い戦士をロストの横に立たせた。
「セイラッド。今日から、お前の主だ。」
「俺は、誰の下僕でもない。自分のために生きる。」
強い目の輝きを持った青年。
「だから、ロストにふさわしい。ロスト、生きろ……願え。小さな幸せ……それは、とても貴重だ。俺が欲しいのは、それだけ。その一つ、そのために……」
「王よ、ブレシニーをブラウンドに返せ。俺は、忠誠を誓った。」
「無理だ。会わせることは出来るが、返せない。ブラウンドからも、理解を得るだろう。自分の存在の大きさ、ロスト……君が……いや、俺が追い込んだ。」
「王よ、事態の緊迫が城を包んでおります。何事……戦火の匂い。敵は、大国タイドフ。急な戴冠式……」
ロストは、口を閉ざし周りを見渡した。
「自信を持て。ここには、お前の言葉を待つ者たちだけ。希望の光……預言者よ。その知識は、どこへ導く?」
「分からない。望みは、行く道を見えなくする。盲目……」
静かな時間。
部屋の者たちの中には、平安があった。一時でも、大切の者との時間を願って……
王は、ロストを案内するようにセイラッドを促す。
部屋を出たところで、ロストは王妃に出逢った。
「ロスト、戦に出るって……」
「カイディールは、良い奴だよ。心配は、いらない。ブレシニーを支えてやって欲しい。」
「会って行かないの?」
「……一生、会わない方が良い。ごめんと、伝えて……」
ロストの心は、見えない。
カイディールが望んだのは、王妃ミラ二ーとの幸せな時間だった。
ロストの望んだものが、同じように幸せな時間だったのか……ワタシは知らない。
ただ、想いは尊く……時間は待ってくれない。
大国の情勢が揺れる。その波紋が津波となって、小さな国ミャーダを呑み込み始めていた。
願うのは、身近な者との幸せな時間…………